招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~   作:あったかお風呂

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逃レ得ヌ業

 突如齎された爆発はやがて収まり、衝撃が生んだ風を残響のように残すのみとなった。

 魔力の爆発をまともに受けた無色の派閥の軍勢たちは吹き飛ばされ、地面を転がり倒れ伏している。

 オルドレイクやツェリーヌ等、一部の力のある者たちは立ち上がることが出来た様だが、それ以外が立ち上がることはなくほぼ壊滅にも近い状態だった。

 

 無色の派閥に接近していたアティもその衝撃に巻き込まれたのか、元々いた場所から少し離れた地面に叩きつけられ上半身を起こす。

 殺意に染まった意識は痛みと衝撃によって冷め、ようやく変化した状況を把握したようだった。

 

「ベルフラウさん!? それにイリも!?」

 

「ぐっ……馬鹿な……たった一発の召喚術で……」

 

 流石のオルドレイクも受けたダメージは大きかったのか、口の端から血を流しそれを拭う。

 死屍累々とも呼べる惨状を見て目を見張った。

 

「あの小娘……いやあちらの召喚獣か。白い蟲の召喚獣……なるほど。同志イスラよ、あれが貴様の報告にあった……」

 

 オルドレイクはベルフラウへ向けた視線をすぐにイリへと向ける。

 イスラから聞いた報告にあった項目を思い出し、味深そうに笑う。

 近くで伸びているビジュとは違い、イスラは立ち上がることが出来たようでオルドレイクの問いに肯定を返した。

 

「はい。あれが何らかの手段で召喚術を無効化した召喚獣です」

 

「……なるほど。少し試してみるか」

 

 オルドレイクはサプレスの召喚獣を召喚すると、イリへと嗾ける。

 その直後に召喚獣が消えてしまったのを見るとオルドレイクは右手で額を抑え、肩を震わせ始めた。

 そのまま背を少し仰け反らせて開いた口からは笑い声が漏れだした。

 

「ククク……ハハハハハハ! 素晴らしい! 間違いない、あれこそ間違いなく送還術!! 失われた古の秘術!!」

 

 送還術は召喚術の元となり、召喚術の体系に取り込まれる形で消えていった。

 現在ではその技法をもつのは家系の秘伝として伝承するクラストフ家のみである。

 それを扱う召喚獣の存在にオルドレイクは歓喜した。

 

「アレを捕えるぞ! 送還術を我がモノとするのだ!」

 

「ギシシ! 愚カ! 誅殺スル!」

 

 残ったツェリーヌ、ウィゼル、イスラに号令を出すオルドレイクだったがイリに動きがあったことを悟り、咄嗟に魔抗の結界を展開した。

 共界線から吸い上げた魔力によって以前とは桁違いに威力の上がった光が降り注ぎ、結界を揺るがす。

 ガラスに罅が入るような音と共に結界に亀裂が広がっていく。

 

「ぐぅ……送還術だけでなくこれほどの魔力まで備えるとは……」

 

 やがて光と相殺するような形で砕けた結界を見たオルドレイクはイリへの評価を上げ、捕えることが困難であると悟る。

 

「……召喚獣よ、貴様の力は素晴らしい。その強大な力に対してその小娘では不足だろう? どうだ、我の同志とならぬか?」

 

 オルドレイクは捕獲から勧誘へと方針を変え、それを聞いたベルフラウが噛みついた。

 

「なっ!? 何勝手なことを言っているのよ!!」

 

「小娘には聞いていないぞ。貴様の矮小な力では、奴に相応しいモノを与えられまい? 我ならば何でも、望むモノを与えてやる」

 

 それを聞いてベルフラウは言葉に詰まる。

 イリの離反は自身の力不足のせいではないか、イリの望むモノを与えられなかったからではないかと考えてしまう。

 

「ギィイ……。我ノ望ムモノヲ……」

 

「そうだ! このオルドレイク・セルボルトならば唯一、貴様に釣り合うだろう! 我と共に来い! 我が同志となり、我が野望の成就のために……我に従うのだ!」

 

「ギシッ! ギシギシッ! 愚カ! 愚カ! 愚カァ! 我ガ従ウ……? 笑ワセル!」

 

 小さな体を揺らしてイリは嗤う。

 それが可笑しくて仕方が無いように。

 やがて嗤いを止めたイリの目のように見える赤い発行体がその光を強めた。

 

「我ニ従エ! 我ニ全テヲ差シ出セ! 貴様ノ全テヲ喰ラッテヤロウ!」

 

「この狂気……オルドレイクをも超えるか……!」

 

 イリの放った傲慢な言葉と共に発せられた威圧感に背筋に悪感が走り、ウィゼルは狼狽えた。

 

「我に従う気は無いか……なら」

 

「諦めろ、オルドレイク。あれは貴様の器ですら収まらぬ狂気の化生よ」

 

「あなた……流石にこれ以上は……」

 

 剣を構えようとしたオルドレイクはウィゼルによって諌められる。

 見ればツェリーヌはイリの威圧感に当てられたのか、冷や汗を流し足をガクガクと震わせていた。

 部下たちは倒れ、オルドレイクは大きく消耗しツェリーヌはもう限界。

 これ以上は危険、明らかに潮時だった。

 

「……撤退するぞ!」

 

 

 

 正気を取り戻したアティは召喚術で仲間を治療していたようで、仲間たちが立ち上がり始める。

 無色の派閥が撤退していくとイリはベルフラウたちに背を向け、遺跡の奥へと戻るべく遺跡の入り口へと向けふよふよと移動を始めた。

 ベルフラウは大切な相棒へと右手を伸ばし、その背へ声をかけようとするがそれは止まってしまう。

 イリが裏切ったあの時の光景、そしてオルドレイクの言葉がベルフラウの思考にチラつき行動を起こすことを躊躇わせていた。

 迷っている間にも次第に遠ざかっていく視線の先の白い背が揺れるベルフラウの瞳に映り、その姿が歪んでいくとその頬を滴が濡らす。

 ベルフラウは恐れている。

 イリに明確な拒絶の意志を示されるのではないかと考えると怖くてたまらないのだ。

『もしかしたら』を想像して怯え、行動を起こせずにいるベルフラウを見かねたアルディラが震える小さな肩に勇気づけるよう手を触れた。

 

「イリは私たちに重要な何かを隠しているわ」

 

 スクラップ場でのイリの暴走を治めたとき、イリはアルディラの質問には答えなかった。

 イリが語ったのは自身が周りの全てを喰らってきたことのみ。

 だがそれはアルディラの問いである、イリが送還術を扱える理由にはならない。

 アルディラはイリが何かを隠そうとしていることを確信していた。

 

「……でもね、好きでいることにそんなことは関係ないのよ。オルドレイクが言ったこともそう。好きなことにも一緒にいることにも釣り合うとかそんなことは関係ないわ」

 

「あ……」

 

「行きなさい、ベルフラウ。失ってから後悔しても遅いのよ。……私みたいに、ね」

 

「義姉さん……」

 

 アルディラが自嘲するように笑うとファリエルは目を伏せる。

 イリと過ごしたこの島での日々を思い返し自分にとってイリがどんな存在であるか、自分のイリへの想いとはどんなものであるか自身の心に問いかけ、想いを再確認するとベルフラウはイリの後ろ姿を追いかけて駆け出した。

 

 

 

 今までの人生で一番の全力で走るベルフラウはイリに追いつき──再びよぎる一瞬の迷いを想いでねじ伏せるとその背に掴みかかった。

 当然驚愕するとともに振り払おうとするイリだったが、意地でも離すまいとするベルフラウに根負けしたのか動きを止めた。

 ベルフラウはイリの前に回り込むとその顔を見つめる。

 

「ギィイ……何ノツモリダ」

 

「あなたに話があるのよ!」

 

「話? ギシシ! 話ス事等今更アルマイ」

 

「あるの! いいから聞きなさい」

 

 ベルフラウは胸に手を当て、深呼吸をすると己の想いを言葉にし始める。

 

「イリ……私はね。あなたとずっと一緒に居たいの。ずっと傍にいて離れないでほしいの。あなたと別れた後の私は酷いものだったわ……部屋にずっと引きこもって何の気力も湧かなかった。私、情けないことにあなたが居ないともう駄目みたいなのよ」

 

 ベルフラウが語った想いと願い。

 それに返ってきたのは──否定。

 

「……不可能。我ハ他ヲ喰ラウ者……喰ライ続ケル事シカデキヌ。我ハ……イズレ我慢ガ出来ナクナリ、全テヲ喰ライ始メル。故ニ、ズット一緒ニ居ル事等……出来ハシナイノダ」

 

 遺跡の封印を行えば、イリにとってのご馳走とも言える共界線と繋がる設備が利用できなくなる。

 目の前で行われようとする封印を目にしたイリの食欲は暴走を始め、封印を防いだ。

 それどころか暴走した食欲を満たすためにベルフラウたちを人質にとり、設備へと繋がる扉を開くように脅したのだ。

 

 そしていずれまた食欲による暴走を起こすことを予期したイリはベルフラウの元へ戻らなかった。

 それはきっと──喰らいたくない、そう思っていたからだろう。

 

「いつか私を食べてしまうかもしれないってこと? だから一緒にいられないの?」

 

「ソノ通リダ。今ハマダ耐エラレル。ダガ何時カ……我慢デキナクナリ、我ハベルフラウヲ喰ラウダロウ」

 

 今のイリ小さい身体ではベルフラウを喰らうことはできない上、食欲の衝動も大きくはない。

 しかしイリの魔力は過ぎる日々の中で高まり続け──元の力に近づいている。

 何時か復活を果たした時、その力と身体に見合うだけの食欲の衝動が湧いたときそれに耐えられるだろうか。

 

「そんな……そんなのっ我慢してよ!! 我慢しなさいよ!! 我慢すれば一緒に居られるんでしょ!?」

 

「ギィイ!? 論理破綻! 支離滅裂! 貴様ノ言ッテイル事ハ無茶苦茶過ギル! ソノ我慢ガ出来ナイカラ、貴様ヲ喰ラウト言ッテイルノダ!」

 

 ただイリと居たいと願うベルフラウの論理も何もない叫び。

 イリからしたら滅茶苦茶なそれに困惑したイリは駄々をこねる子供に言い聞かせるように再び答えを突きつけた。

 

「だってあなたさっきから我慢出来ない我慢できないってそればっかり! まるっきり子供じゃない!」

 

 だがベルフラウからしたら駄々をこねる子供なのは我慢出来ないとからと繰り返すイリのほうだ。

 

「コ……子供!? 我ヲ否定スル……消去! 消去! 消去ォオ!」

 

 長い時を生きてきたイリは自分より遥かに少ない年月しか生きていない、人間の少女に子供と言われ激昂し消去と口にし始める。

 

「そうやって! すぐに癇癪を起すところが子供なのよ!」

 

「ギィイ……」

 

「あなたは甘えているだけよ。我慢できないから、食べてしまうのはしょうがないって甘えているだけ。楽な方に逃げているだけよ」

 

「……我ガ我慢出来ナクナッタラドウスルツモリダ」

 

「その時は私を食べなさい」

 

「ベルフラウさん!?」

 

 ベルフラウとイリの様子を心配そうに眺めていたアティが思わず声を上げる。

 しかしベルフラウはそれに構わずイリから目を逸らさなかった。

 

「真っ先に私を食べなさい! 他のみんなには手を出さないで!」

 

「ギィイ……ナルホド。自分ノ命ヲ担保ニスルカ……」

 

 イリが我慢できなくなり、食欲の衝動に従ったときに危険にさらされるのはベルフラウだけではない。

 イリといることを周りに認めさせるために、自分自身の命を担保にしたのだ。

 

「シカシ何故ダ? 何故命ヲ賭ケテマデ我ト居ル事ヲ望ム……?」

 

「そんなの……好きだからよ! 自分の命を賭けてもいい、それくらい好きなの!」

 

「……貴様ハドウカシテイル。ダガ……嫌イデハナイ」

 

 イリが本当にベルフラウを嫌い、もしくはどうでもいいと考えていたならば……土壇場になって衝動的に裏切ったりなどしていない。

 アティたちが遺跡の封印をすることを決めた時点で、イリの操る兵隊たちを使って妨害すればいい。

 それをしなかったのはベルフラウを裏切りたくないと思っていたからに他ならない。

 スクラップ場の一件以来、密かに自覚してきた感情。

 嫌いなわけでもなく、興味が無いわけでもなく……好意を抱いていたのだ。

 

「……嫌いではないなんて、そんな言い方じゃだめよ……ちゃんと好きって言って」

 

「………………好キダ」

 

「私もよ! 私も大好き!」

 

 イリの言い方に不満があったらしいベルフラウの催促に長い沈黙の後、イリが応える。

 それを聞いたベルフラウは嬉し涙を流しながら勢いよくイリを抱きしめるのだった。

 

 

 

 ベルフラウがおんおんと泣きながらイリに顔を擦り付けはじめると、それを見た大人たちは安堵の溜息をついていた。

 

「どうやら丸く収まったようじゃな」

 

 イリを一番警戒していたミスミはいつでもベルフラウを助けられるように構えていたが、ほっと溜息をつくとその構えを解く。

 スバルという子を持つ身のミスミとしてはベルフラウがどうなるか気が気でなかった。

 

「ベルフラウ……あの年であそこまで……」

 

「あれほどの決意を見せられると我々は何も言えませんね」

 

 まだ幼い身で命を賭けると啖呵をきったベルフラウ。

 ファリエルはその度胸に驚き、キュウマは目を閉じてその決意を認めていた。

 

「さっきの戦い、イリに不甲斐無い俺らの尻拭いをさせちまったわけだしな。借りが出来ちまった」

 

「私たちは護人よ。島の子供の未来を見守るのも私たちの役目じゃない?」

 

 アルディラの言葉にファリエルとキュウマ、ヤッファが頷く。

 ベルフラウのほうを見ればアティとカイル一家たちに囲まれているようだった。

 護人たちもその輪に加わるべく歩き出した。

 

 

 

 やがて海賊船へと帰ったベルフラウはイリとアティとともに海賊船近くの砂浜に腰を掛けていた。

 夜の海を満月が照らし、海面には満月が映り込む。

 それを見ながらベルフラウとアティは言葉を交わしていた。

 

「本当に良かったですね、ベルフラウさん。イリが帰ってきて」

 

「ええ、本当によかったわ。……先生のこともね」

 

「えっ」

 

 強い口調で言われた後半の言葉にアティが固まる。

 

「聞いたわ。また随分と無茶をしてくれたそうじゃない?」

 

「え、えっとそれは……あははは……」

 

 怒りを滲ませたベルフラウにアティが笑って誤魔化そうとするが、余計に怒りを煽っただけだったようだ。

 

「聞き分けのない悪い大人にはお仕置きが必要じゃないかしら?」

 

「許してくださいー!」

 

 逃げ出したアティとそれを追いかけるベルフラウが夜の砂浜を駆けまわる。

 その二人の姿をイリは何も言わず、ただ見守っていた。

 

 




特殊ルートのツライところはイリを喚ばなかった場合、原作カルマエンドを迎えてアティを失い、イリとも離別したまま。
つまりアティとイリの両方を失うことになるわけです。
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