招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~ 作:あったかお風呂
メイメイの店を出たベルフラウとイリ、アティが報告のために集いの泉へと向かうと、既に皆集まっているようだった。
何か頭を悩ませ、話し合いをしている様子の仲間たちにベルフラウが声をかけると振り向いた仲間たちが元気になった様子のアティを見て驚愕していた。
「アティ、その顔……元気になったのね」
「よかったぁ。先生の笑顔がないとアタシたちも元気でないもん」
口々に喜びを表す仲間たちを見て、すっかり笑顔が戻ったアティは嬉しそうに告げる。
「私はもう大丈夫です。心は砕けていませんから。それに剣も……」
そう言って魔剣を解き放ったアティの右手にある蒼い魔剣は太陽の明かりを受けて煌めき、アティの心を体現したかのように透き通った刀身は剣の向こう側を見通せるほどだった。
「碧の賢帝……復活したのですか……」
「いや、違うみたいよ。アタシたちの知ってる魔剣じゃない」
ヤードの言葉を呟くように否定するスカーレルの目は新たな魔剣に釘付けだった。
他の仲間たちも輝く刀身に吸い込まれたかのように見つめ、感嘆の声を上げていた。
「綺麗……」
「これが果てしなき蒼<ウィスタリアス>です」
「果てしなき蒼……綺麗ね、本当に」
「これなら、無色の派閥の奴らにも負けねぇ!」
「そうだよね、アニキ!先生が戻ったんだし、あんな奴らケチョンケチョンだよ!」
アティの新たな魔剣は仲間たちの希望の芽にもなったようで、仲間たちは奮起し始める。
碧の賢帝が砕けた時から漂う悲壮感はもう無かった。
仲間たちの顔を見て微笑んだアティを満足そうに見ていたベルフラウだったが、少し気になっていたことがあるようで、その問いを口にする。
「そういえば、みんなで集まって何を話してたのよ?」
その問いに仲間たちは気まずそうに目を伏せる。
このままだんまりと言う訳にもいかないことを分かっているのか、カイルが口を開いた。
「先生抜きで無色の連中に挑むべきかって話し合ってたんだよ」
「しかし我々はそれで一度敗北していますからね。議論が煮詰まっていたのです」
「それに……あの時と違ってイスラが魔剣という切り札を切ったわ。同じことの繰り返し……それどころかもっと酷い結果になるでしょうね」
カイルに続いたヤードの言う通り、以前ベルフラウとアティ抜きで無色の派閥に挑み、敗北している。
そればかりか、アルディラの補足通りイスラは紅の暴君を躊躇いなく抜くだろう。
普通に挑んでも勝ち目は非常に低い。
同じ過ちを繰り返す気は無い仲間たちは頭を突き合わせて議論していたのだ。
「またあの時みたいな無茶をする気だったんですか!?」
「す、すまねぇ。そうしていたかもしれないって話だけどよ……」
「それでもだめですよ、もう!」
無茶をしようとしていた仲間たちにアティが注意をする光景は先生らしかった。
頬を膨らませて怒って見せるアティに場が少し和やかになるが、その空気を換えるためかアルディラがパンパンと手を叩いた。
「もうアティとベルフラウ、イリ以外には話したんだけど、無色の派閥が魔剣の復活をまだ知らない……あるいは知らないうちに動いたのなら、壊れた『お目当て』とは別の『お目当て』を確保するために動いているはずよ」
「……遺跡、ですか」
アティの言葉にアルディラは頷いて見せる。
無色の派閥の目的のものは魔剣と遺跡だった。
魔剣が砕けて目的の物の片方が失われたのなら、もう片方を確保しようとするのが必然。
つまり無色の派閥は遺跡に向かっているか、すでにもう遺跡にいる可能性が高い。
「それに……彼らはベルフラウとイリに手痛い目に遭わされています。遺跡の力を手に入れて二人に対抗する狙いもあるでしょう」
以前の戦いでオルドレイクたちはベルフラウの召喚術によってほぼ壊滅と言っていいほどの損害を受けた上、オルドレイク自身がイリとの戦いで大きく消耗した。
ファリエルの言う通り、強大な遺跡の力を手に入れてベルフラウとイリに対抗したいところだろう。
「ふふん、やつら私とイリに怖気づいているのね!」
「ギィイ!至極当然!戦々恐々!震エテ待ツガイイ!」
それを聞いて誇らしいのか、鼻を高くしたベルフラウはご機嫌な様子だった。
無色の派閥という強大な組織に恐れられることで、自分とイリが認められたように感じられたのだ。
「それじゃあ、怖気づいている無色のやつらをいっちょとっちめてやるか!」
「これで終わらせましょう!無色の派閥に遺跡を渡すわけにはいきません!」
決意がこもったアティの言葉に皆が頷き、決戦の覚悟を決める。
無色の派閥に島民の生活や安全が脅かされている。
無色の派閥をこの島から排除しなければ平和は訪れない。
今から、無色の派閥に挑む。
遺跡内部・現識の間。
遺跡の中でも中枢部に近いその部分まで無色の派閥は侵攻していた。
「流石は先達の作り上げた施設なだけはある。構造が複雑だ……だが、もうすぐだ。もうすぐ最奥部、核識の間へと辿り着ける」
「……間に合ったようだな」
「ウィゼル……遅いぞ。どこに行っていたのだ」
「俺には俺の都合というものがあるのだ。それに、こうして間に合ったのだから文句はあるまい?」
オルドレイクたちの後からやってきたウィゼルが合流する。
単独行動をしていたウィゼルにオルドレイクが不満を示すが、ウィゼルは取り合おうとしない。
ウィゼルがこういう人物であると知っているオルドレイクは溜め息をつきつつも、更なる探索の準備を開始する。
「ヘイゼル!探索を急がせろ!奴らが我らの目的に気付く前に遺跡を手中に収めねばならん」
「はっ!」
「オルドレイク様、どうやらもう気付かれていたようですよ」
後方を見つめて言うイスラの言葉を聞いて振り返ったオルドレイクたちは現識の間入口から姿を現したベルフラウたちに気付く。
「オルドレイク!あなたたちに遺跡を好きにはさせません!」
オルドレイクの野望を阻まんとするアティを憎々しげに睨み付け、迎撃のためにオルドレイクは号令を発した。
「どこまでも我らの邪魔をするか!良かろう……そんなに死にたいのなら、殺してやれ!」
ベルフラウたちは、迎撃のために陣形を整え始めた無色の派閥の戦力を分析し戦略を立て始める。
「やっぱりイスラの野郎、もう隠す気はねぇわけか」
カイルの視線の先にいるイスラは既に魔剣を抜いており、その髪は白くなっていた。
「イスラの相手は私が引き受けます」
「それじゃあ、私たちはオルドレイクたちを引き受ければいいのね?」
適格者であるイスラの相手は同じく適格者であるアティが。
オルドレイクたち無色の派閥の軍勢はベルフラウたちが引き受けることになった。
アティはイスラの前へと飛び出し、対峙する。
「イスラ!あなたの相手は私です!」
「へぇ。あれから立ち直ったんだ?でも、剣が折れた君なんか僕の相手になんてならないよ」
「それはこれを見てから言ってください!」
アティが果てしなき蒼を抜き、髪が白く染まる。
イスラはアティの手に握られてる蒼い剣を目を見開いて凝視し、ひどく驚いているようだった。
「な、なんでだよ!?剣は折れたはずだろ!?僕が折ったはずだ!」
アティの魔剣は確かにイスラによって折られた。
オルドレイクは折れた魔剣の修復が出来る人物に心当たりがあるようで、その人物を睨み付ける。
「ウィゼル……貴様、裏切ったのか!?」
「俺は俺の都合で魔剣を修復した。それに魔剣も貴様の目的の物の一つ。修復しなければ、手に入れられまい?」
「ぐっ……まあよい。イスラよ、今度は折るなどという失態をしてくれるなよ」
独断で動き、魔剣を折るという失態を犯したイスラだったが適格者であるイスラはまだ利用価値があることから見逃されていた。
次はないと暗に言うオルドレイクの言葉を受け、イスラが構える。
「……というわけだからさ。君たち弱者の足掻きもこれでお終いだ。もう一度君を負かして無様に這いつくばらせてあげるよ!」
「私はあなたなんかにもう絶対に負けません!」
「言うねぇ!だったら今度こそ僕を殺してごらんよ!」
蒼い剣と紅い剣が切り結び、辺りに衝撃の波動が走った。
既に戦闘を始めた適格者二人を横目に、無色の派閥の方にも動きがあったようでソノラが声を上げる。
「うん?何あれ……?あいつら、何か置いてるみたい」
無色の派閥たちが設置を始めたのは角張った水晶のような物。
それを複数、陣形の内側に置き始めたのだ。
「あれは反魔の水晶と呼ばれるものです。周囲への召喚術の効力を弱める効果があります」
「恐らくはベルフラウの召喚術への対策なんでしょうね。実際、召喚術対策としては効果的よ」
召喚術の深い知識を持つヤードとアルディラの説明通り、ベルフラウとイリの召喚術に対する策として無色の派閥が用意したのが反魔の水晶だ。
これが在る限り、召喚術の威力は大きく削がれ決定打にはならないだろう。
「つまり、召喚師には頼れねぇ。俺たちの出番ってわけだな」
「上等じゃねぇか」
この状況では召喚術の火力には期待できない。
つまりは前衛組が頼りだ。
ヤッファとカイルは自分たちが活躍できるこの状況にさらに戦意を燃やしているようだった。
「我々も負けていられませんね」
「アア、ソウダナ」
鎧の姿になったファリエルはキュウマの言葉に頷くと大剣を構える。
お互いに戦闘態勢が整ったようで、緊張感が戦場にたち込める中先に動いたのは無色の派閥だった。
散会して駆ける暗殺者たち。
それらが向かう先は――ベルフラウだ。
「なっ!?このっ!」
驚きつつも魔力を込めた矢でその内の一人を打ち抜いたベルフラウだが、既に一人が接近を始めていた。
「シッ!なんなのよこいつら!」
そのベルフラウに近づいた暗殺者をナイフで斬りつけて倒したスカーレルが毒づく。
「奴ら、ベルフラウに召喚術を使う隙を与えない気よ!」
ベルフラウに攻撃を集中させることでそもそも召喚術を発動させない。
それこそが反魔の水晶だけでは飽き足らずにオルドレイクが用意した策だった。
カイルたちは攻めるべきかベルフラウを守るべきか迷っているようで、敵陣に踏み込めずにいた。
「ベルフラウの護衛はアタシとイリに任せてちょうだい!あんたたちは攻め込んで!暗殺者の頭……あのマフラーの女を抑えれば連携が乱れるはずよ!」
マフラーをつけた女こそ、暗殺者たちに指示を出す頭。
頭さえ倒せば暗殺者たちの連携は乱れてベルフラウへの攻撃は弱まるだろう。
それまでの護衛をイリとスカーレルに頼み、他の仲間たちは敵陣に攻め込む。
ベルフラウは大変歯痒かった。
迫る暗殺者たちを打ち抜きつつも、敵陣に攻め込んだ仲間たちを見る。
無色の派閥の兵士たちをなぎ倒していく仲間たちの力になれないばかりか、スカーレルという戦力が自分の護衛のために割かれている。
そんなことばかり考えていたからだろうか、気付かなかった。
――銃を持った兵士がベルフラウを狙っていることに。
放たれた銃弾は空気を裂きながらベルフラウの眉間に吸い込まれるように突き進み――。
――その直前でまるで壁にぶつかったかのように弾かれた。
「ギシシ!我ガヤラセルトデモ思ウタカ!」
「えっ?」
弾かれて転がった鉛弾を見たベルフラウは呆けたように声を漏らす。
ようやく、自身に迫っていた死に気付いたようだった。
「もしかして私……」
「危なかったわね。イリが防いでくれたんでしょう?素敵なナイト様に感謝しなさいな」
「ごめんなさい、私が迂闊だったわ。それと、ありがと」
「ギィイ!」
name イリ
class 共界線の捕食者→世界を喰らう者
skill
全異常無効
全憑依無効
甲殻体(通常攻撃ダメージの70%を軽減する)
送還術(Bランク以下の召喚術を無効化する)
闘気
遠距離攻撃・誅殺(無属性の光で遠距離攻撃を行う)
動ケマイ(対象を行動不能にする)
不可侵防護(対象のDEF、MDFを30%上昇させる)
自己修復(HPを100回復)
不可侵防護は憑依無効の仲間にもかけられるバフスキル。
勿論自身にかけることも可。