招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~   作:あったかお風呂

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世界ヲ喰ス創造主

 遺跡から離れた森の中にある赤い建造物。

 シルターン風の内装で彩られたその店のカウンターに肘をついて頬杖をつく人物がいた。

 この店の店主であるメイメイだ。

 

「ようやく、みたいねぇ。キシシ! もう誰にも止められないわ」

 

 遺跡で起こった異変に気づいたメイメイは嗤う。

 全てが順調、それが楽しくて仕方がないのか口を裂けるほど開いて笑い声を漏らしていた。

 だが何か物を叩くような音が聞こえるとそれを中断して不機嫌そうに舌打ちをした。

 

「チッ……。今良いところだってのに!」

 

 メイメイは倉庫の扉を開くと繭の前まで突き進んで行く。

 内側から音を響かせる繭を黙らせる為に手を翳すが──。

 

「オリャアアアアアア! 至竜、舐めんじゃないわよ!!」

 

 繭を打ち破り、中から人が飛び出したのだ。

 その人物は──メイメイ。

 繭の前に立って面倒そうな顔をする人物と全く同じ姿の人物が繭の中から姿を現した。

 

「へぇ。出てこれたんだ? 流石は至竜、と言うべきかしら?」

 

「へ……? わ、私!?」

 

 繭から出てきたメイメイの目の前に立っていたのは自分と同じ姿をしたメイメイ。

 驚いて素っ頓狂な声を上げたメイメイだったが、すぐに状況を理解した。

 

「なる程ね、閉じ込めた私が居ないことに気付かれたら不信がられる。あなたはそうさせないための偽者ってところね」

 

 繭の中に閉じ込められたメイメイが店にいなかったら、アティたちや住人たちが不信に思うだろう。

 ここ最近にベルフラウたちが会っていたメイメイは偽物だったのだ。

 

「キシシ! 御名答! でもわかってる? 今私があなたを殺せば私が本物に成るのよ?」

 

「どうせこのまま逃がすつもりは無いんでしょう? さっさとあんたを倒して先生の所に行かせてもらうわ!」

 

「今更あなた如きが何をしても無駄なんだけどねぇ。まあいいわ。かかってらっしゃい、本物!」

 

「行くわよ、偽物! 異識体が何をするつもりか知らないけど、この世界を好きにはさせない!」

 

 二人のメイメイが衝突する。

 遺跡から遠く離れたこの場所で、誰も知らないもう一つの決戦が始まった。

 

 

 

 遺跡に突然現れた巨大な蜘蛛に皆が驚き、呆然とそれを見上げる。

 白い巨体を揺らして復活の産声を響かせる異識体を見上げたベルフラウはそれの正体が何であるのか気がついたようだった。

 

「あなた……イリよね? イリなのね?」

 

 仲間たちが何を言っているんだとベルフラウを訝しむが、ベルフラウは確信したかのように巨体を見つめる。

 それを聞いたアティはあの巨体な蜘蛛に見覚えがあるのを思い出した。

 あれはベルフラウと行った授業でのこと。

 召喚術に必要な創造力を養うために絵を書く授業を行ったのだ。

 

 その際ベルフラウが書いたのが蜘蛛のような姿の召喚獣だった。

 そしてその絵を見たイリがひどく驚いていたのを覚えている。

 恐らく、あの蜘蛛のような姿こそが復活を遂げたイリの姿なのだろう。

 遂に来てしまったのだ、あのデータの先である『復活』の時が。

 

『復活』によって何が齎させるとしてもベルフラウとイリの絆を守ってみせるとアティは誓った。

 だが──アレは駄目だ。

 アティの生物としての本能が、戦士としての直感が、膨大な魔力を扱う魔剣の主としての感覚が警笛を鳴らす。

 あれには勝てない、存在としての格が違うと。

 遥か高みから自身を睥睨する異識体との距離こそが格の差だと嫌でも理解させられる。

 

 かつて、サプレスの魔王たちは異識体をこう評した。

 魔王バルレル曰く、ありえない魔力。

 魔王メルギトス曰く、触れてはならない禁忌。

 ただ無知、想定が甘かった。

 機神や魔王に届き得るかもしれないなどとは今のアルディラは口が裂けても言えないだろう。

 その魔王たちですら『ありえない』『禁忌』だと言うほどの存在なのだから。

 

「肯定! 我コソガ異識体! 見ルガイイ、ベルフラウヨ! 復活ヲ遂ゲタ我ガチカラヲ!」

 

「なっ!? ムシケラが大きくなっただけだろう!? 我が核識の怒りよ! 嘆きよ! 痛みよ! 島の意志に刃向かうムシケラを滅ぼせ!!」

 

 ディエルゴは一瞬感じた恐怖を振り払い、虚勢を張ると攻撃を開始する。

 それは島の意志としての自負故か、共界線の支配者としての誇り故か。

 再び出現した球体が異識体の脚へと集まり攻撃を始める。

 それに対し異識体は煩わしそうに脚を振り上げた。

 

「愚カナ!」

 

 そのまま脚を振り下ろすと圧倒的質量に押し潰された球体は簡単に砕け散る。

 次の手としてディエルゴが生み出したのは巨体な重り。

 だがその重りの質量は異識体の質量に対してあまりにも小さ過ぎた。

 島の意志の攻撃を受けた異識体は何の痛痒も無いばかりか頭部の左右に存在する砲門のような物をディエルゴに向ける。

 その砲口が輝くと緑色の魔力が集束していき、一瞬の間の後緑色の光が強くなった。

 

「矮小! 卑小! 塵屑ガ、存在スル価値モナイ! 破滅セヨ!」

 

 左右の砲門から放たれた魔力のビームがそれぞれ共界線を制御する柱を打ち抜き、破壊していく。

 

「ぬおおおおお!? み、認めぬ! 島の意志である我に勝る存在など……認めてなるものか!!」

 

 柱を打ち砕かれる苦痛に叫びつつも、ディエルゴは異識体の存在を認めることが出来ない。

 共界線の支配者であり、島の意志であるディエルゴに勝る存在などこの島にあってはならないのだ。

 故に異識体の存在を否定するべく使用するのは、先ほどベルフラウたちを吹き飛ばしたディエルゴ最大の一撃。

 魔力の奔流が床から溢れ出して異識体に襲いかかるが、それすらも意に介さずにその脚を爪のように振るう。

 

「思イ上ガルナ! 意識体デスラ無イ貴様ニ、意志ヲ名乗ル資格ナド無イ!」

 

 振るわれた脚はディエルゴ本体を貫くと、大きな風穴を空けてしまった。

 

「ぐおおおおおお!? ぐぅうううグヲオオオオオ!?」

 

 力の源である柱を破壊され、本体に穴を空けられたディエルゴが絶叫を上げると核識の座が崩壊を始めて沈んでいく。

 

「勝ったんですか……?」

 

 そう呟くアティの目には叫びながら崩れ、沈んでいくディエルゴの姿が映る。

 

「勝ったのよ! 私たち、勝ったのよ! すごいわ、イリ! あなた本当にすごいのね!」

 

 ベルフラウが喜びの声を上げると、仲間たちも勝利を実感したのか張り詰めていた顔が笑顔に変わっていく。

 自分たちは勝ったのだと、この島を守れたのだと。

 だが。

 

「グウウウ……ま、まだだ! 島の意志たる我が力……こんなものでは無いぃぃいいい!!」

 

 未だに自身の敗北を認めようとしないディエルゴが何を仕出かしたのか、それはラトリクスの観測設備との繋がりを持つクノンの口より告げられた。

 

「地盤崩壊を感知!! 島中の水脈、火山脈が乱れていきます!!」

 

「我はこの島の共界線を束ねる存在! その我が消えれば、要を失ったこの島の共界線は崩壊して消え去るのだ!!」

 

「そんな……この島がなくなってしまうってことですか!?」

 

 そもそもこの島を守るために戦っていたというのに、ディエルゴを倒したことでこの島が無くなってしまうというのだ。

 みんなの思い出の詰まったこの島を守りたいと願うアティの顔は絶望に暮れる。

 

「我を超える存在などあってはならないのだ! この島ごと消え去るがいい!」

 

「イリ! あいつを黙らせて!!」

 

「良カロウ! 誅殺!」

 

 それが止めになったのか、誅殺の光に貫かれたディエルゴは完全に砕け散ると消滅した。

 

 

 

 ディエルゴを倒したベルフラウたちだが、肝心の島が崩壊を始めてしまった。

 遺跡の主の消滅により、遺跡そのものも崩落を始めたようで天井がパラパラと崩れ始めている。

 

「島が……これじゃあ、あいつを倒しても意味ないじゃない」

 

 ベルフラウが表情に影を落とす。

 ディエルゴとの戦いはこの島の未来を救うための戦いだったのだ。

 これでは戦いに勝っても意味がない。

 

「……ベルフラウ。コノ島ヲ守リタイカ?」

 

 上から聞こえたその質問にベルフラウは異識体を見上げて答える。

 

「当然よ! だってこの島は、あなたと出会った場所だもの」

 

「ソウカ……。我ナラバ、島ノ崩壊ヲ止メラレル」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 異識体が告げる希望。

 この島を守ることが出来る、その可能性。

 顔を伏せていたアティはそれを聞いて顔を上げると目に希望を灯す。

 

「オ前タチハ船ニ戻レ。後ハ我ニ任セルガイイ!」

 

 見れば、遺跡の崩落が激しくなってきている。

 急がなければ帰り道が無くなってしまうだろう。

 だが脱出のために動き始めた仲間たちとは違い、ベルフラウはこの場を動こうとしない。

 

「私も残るわ!」

 

「ベルフラウ……戻レ」

 

「嫌よ! 私言ったでしょ? あなたとずっと一緒にいるって」

 

「イリ、私からもお願いします! ベルフラウと一緒にいてあげてくれませんか?」

 

「……好キニスルガイイ」

 

 意地でも動こうとしないベルフラウを見たうえ、アティの懇願まで受けた異識体は説得を諦めたようで、ベルフラウが残ることを認めた。

 アティは核識の間の入り口へと走るとベルフラウたちを振り返る。

 

「ベルフラウさん、イリ。みんなの島を、この島の未来をお願いします!」

 

「任せなさい! 私とイリに不可能なんてないんだから! 先生は安心して待っていればいいのよ!」

 

「はい! 信じますよ! 絶対無事で帰って来てくださいね!」

 

 最後にそう叫んだアティは崩壊していく遺跡の通路の先に消えていった。

 それを見届けると異識体が脚を屈めてベルフラウに顔を近づける。

 自身に近づいたその顔にベルフラウは手を添えた。

 

「それで、どうするの?」

 

「共界線ヲ掌握スル。……チカラヲ貸セ」

 

 ベルフラウは異識体に手を添えたまま、自身の意識に埋没する。

 その中にある自身とイリの繋がりに魔力を流し込む。

 

「イリ……ありったけを持って行きなさい! 私とイリの大切な場所を守って!」

 

 ベルフラウの想いの篭もった力、それを流し込むとイリとベルフラウとの間にある繋がりの光が震え始めた。

 それでも構わずに力を送り続けるベルフラウは次第に理解した。

 震えているのは、繋がりではない。

 それが繋ぐベルフラウとイリの魂が共鳴しあって、響きあって。

 結果的にそれを繋ぐ光が震えているのだと。 

 

 ベルフラウとイリの魂の共鳴はより強くなっていき、より響き合う。

 魂同士を響かせあう友。

 遥か遠い未来の世界ではそれを響友<クロス>と呼んだ。

 

 




好感度足りてないなんて嘘でも言えませんよ。
というわけでカルマルート回避成功。
このまま最終話へ。
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