招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~   作:あったかお風呂

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マルティーニ家会議


 空の上で輝く太陽の光とぽかぽかとした陽気に包まれるマルティーニ家の廊下を掃除している使用人が暖かい空気に眠気を誘われて欠伸をしていると、慌てた様な足音と共に当主が視界に現れた。

 使用人が欠伸を誤魔化すように口を閉じるが当主はそんなことには構っていられないのか、使用人には目もくれず廊下を走り去っていく。

 いつも娘に屋敷の中を走るなと注意しているはずの当主は一つの扉を見つけるとようやく足を止めて勢いよく扉を開いた。

 開いた扉の中の部屋にはベットや机、そして部屋の所々にぬいぐるみが置かれていてその部屋の主が少女であることが分かる。

 

「フラン! 話があるの!」

 

 扉を開いた金髪の女当主が部屋の主へと声をかけると、椅子に腰かけて本を読んでいた白い髪の少女が部屋の入口へと目を向けた。

 

「どうしたのよ、お母様。そんなに慌てて」

 

 ベルフラウは息を整えると、先ほど気が付いてしまった衝撃の真実を娘へと告げる。

 

「あのね、私気づいたの!! 私ばっかりイリにスキスキして、イリは私にスキスキしてくれてないことに!!」

 

 ベルフラウのその言葉を聞いたフランネルはまるで信じられないことを聞いたかのように目を見開いた。

 娘の表情をみたベルフラウはその反応も当たり前だと内心頷いた。

 ベルフラウとて、この事実に気が付いてしまったときは大変ショックを受けたものだ。

 今まで自分とイリは相思相愛ラブラブ夫婦でお互いが向ける愛は同程度だと信じていたベルフラウだったが、自分ばかりがイリに好きだ好きだと言ってベタベタしており逆にイリからはあまり好意を伝えられていないし、ベタベタもされていないことに気が付いてしまったのだ。

 まるで足元が崩れ去ってしまうかのような感覚を受けたベルフラウはこれを聞いた娘が受けたショックも相当大きいだろうと予想する。

 

「そんな……お母様……信じられませんわ……今まで気づいていなかったの?」

 

「え?」

 

 

 

 マルティーニ家の一室、扉の上に『会議室』と書かれた木の札が張り付けられている部屋の中には円形のテーブルと三つの椅子、そしてその椅子それぞれに座る三人の人影が存在していた。

 円卓に両肘をついて顎のあたりで手を組んでいた人影の内の一人がこの会議の主題を告げるために口を開く。

 

「さて、集まってもらったのは他でもないわ。どうすればイリが私にスキスキしてくれるのか、案を出してほしいの」

 

「はーい! 奥様、質問なんですけどー。スキスキってなんのことですか?」

 

 ベルフラウが議題を発表すると人影の内の一人である元暗殺者にして現イリの下僕兼マルティーニ家メイドを務めるパッフェルが手を上げて質問した。

 突然『スキスキ』などと言うよくわからない造語が含まれたぶっとんだ議題を聞かされたパッフェルの疑問も尤もだろう。

 

「簡単にいえば……言葉や行動で相手に好意を伝えることかしらね」

 

「へー。なんかどうでもよさそうな会議みたいなんで、仕事に戻ってもいいですか?」

 

「駄目に決まっているでしょう! 当主命令での強制召集よ!」

 

「ひどい職権乱用です! 抗議します! マルティーニ家使用人組合の長として抗議しますよ!」

 

「あなたはマルティーニ家の使用人である前にイリの下僕でしょう?」

 

「ぐぬぬ! ご主人様の奥方と言う立場を躊躇いも無く振るうとは!!」

 

 そもそもパッフェルがマルティーニ家の使用人となったことの発端は、オルドレイクに捨て駒にされたパッフェルをイリが下僕として拾ったことから始まっている。

 だからこそパッフェルはイリを『ご主人様』と呼び、ベルフラウを『奥様』と呼ぶ。

 ベルフラウはパッフェルの雇い主ではあるが、主人ではなく奥方。

 パッフェルにとっての主人は今もイリであり、今もイリに絶対服従の下僕。

 だから使用人として雇い主であるベルフラウに抗議しようとしても、主人の奥方であるベルフラウには逆らえないのだ。

 

「使用人たちの組合の長が当主に絶対服従の犬ってなかなかひどい状況よね」

 

 二人の掛け合いを聞きつつ自部屋で読んでいた本の続きの文を目で追うフランネルが呟くと、話が脱線したことにベルフラウが気付きようやく会議が進み始めた。

 

「こほん。それでね、どうすればイリが私に好意を伝えてくれるか考えてほしいんだけど」

 

「そうは言ってもご主人様ってそもそも自分からそういうことしないっていうか……。奥様が求めればちゃんと応えてくれるんでしょう? それじゃ駄目なんですか?」

 

 咳払いをしてベルフラウが会議を仕切りなおすが、最初に出た意見は議題そのものに否定的な意見だった。

 

「私からだけじゃなくて、イリからも好きって伝えてほしいの。一方的じゃなくて相互の関係がいいのよ。でも結局イリからキスしてくれたのはあの一回きりで……」

 

 ベルフラウが眼を閉じるとあの島でのことが思い出される。

 焚火に照らされる中で行われたあのプロポーズのことはベルフラウの記憶に深く焼きついていた。

 

「えっ? えええ? あのご主人様からですか!?」

 

「そうよ。びっくりしたでしょう? まあ、お母様からお願いされて……だけどね」

 

「はぁー。そんな世にも珍しいことが……。でもそれなら、もしかしたらがあるかもですねー!」

 

 世の中何があるか分からないものだと実感したパッフェルだったが、理由さえあればイリから動くという前例から可能性を導き出した。

 

「パッフェル、何か思いついたの!?」

 

 旦那の優秀な下僕へと期待の眼差しを向けたベルフラウにパッフェルが勿体付けながらも自身ありげに案を出した。

 

「ふっふっふっふ。それはですねー……ずばり嫉妬です!! ご主人様を嫉妬させるんですよ!」

 

「恋のライバルってことね!!」

 

 読んでいた本から目を離し、顔を上げたフランネルの眼はキラキラと輝いている。

 ちなみに、フランネルが読んでいた本は帝国婦女子に大人気の恋愛小説『恋する乙女は片手で龍をも殺す』である。

 彼女が会議中に小説を読んでいたのは会議に必要な情報を収集するためであり、会議より読書を優先したからではない、決して。

 

「恋のライバル、ねぇ。でもイリ以外に好きな殿方なんかいないわよ」

 

「奥様は好みの男性のタイプとかないんですか?」

 

「そうね……こう小さくて丸っこくて、でも実はとても大きくて頼りになって……」

 

「話になりませんわね」

 

 どう考えてもイリの事を指している説明を始めた母から目線を外したフランネルはパッフェルへと顔を向けた。

 

「あははは……でもどのみちライバル役を用意しても最悪殺されちゃうかもですし、架空の人物をでっち上げるのが一番じゃないですかね」

 

 ライバル役(仮)が怒ったイリに『誅殺!』される光景を思い浮かべて苦笑いするパッフェルに提案され、ベルフラウとフランネルは架空の人物の設定について考え始めた。

 

 

 

 ベルフラウたちが会議室を出るころには窓から紅い光が差し込んでふわふわとした絨毯に色彩を加えていた。

 三人はベルフラウの私室へと向かうと入り口前で一旦別れる。

 ベルフラウのみが扉を開けて中に入り、パッフェルとフランネルは部屋の外に残ってドアの隙間から中を覗き込んだ。

 

「ねぇ、イリ。あのね、この前先生のお兄さんにあったんだけど」

 

「ホウ、アティノ兄カ」

 

 部屋の中ではさっそくベルフラウがイリへと架空のライバルについての話題を振っていた。

 適当な人物をでっち上げたところでイリはきっとゴミと判断し、興味すら持たないだろう。イリがこの屋敷の人間の次に興味を持っているであろうアティの兄をでっち上げることで、まずイリの興味を引くのがこの作戦の第一手だ。

 

「レックスって名前の殿方なんだけどね。先生によく似て太陽みたいに優しく笑うのよ」

 

「想像。空想。幻視」

 

 そして二つ目の手はイリがよく知るアティとよく似ているという情報を与えることで架空の人物レックスを想像しやすくするというもの。

 同時にベルフラウ側もレックスの特徴をイメージしやすくなり、ボロが出にくくなるのだ。

 

「それに瞳も先生みたいに強い意志が篭っていて、目が合うとまるで吸い込まれそうになるの。そのまま目が離せなくなって見つめ合っているとなんだかドキドキしてくるのよ」

 

「……」

 

 あの島で暮らしていた時期にイリがベルフラウに次いで長く一緒にいたのは間違いなくアティだ。

 アティが帝国軍や無色の派閥たちとの戦いで見せた強い信念の篭った瞳を思い返したイリはなるほどと思う。

 アティの周りにはベルフラウを始め、海賊たちや護人たちなど多くの仲間たちがいた。

 あの瞳には人を惹きつける魅力があるのだろうと得心する。

 続けてベルフラウがアティの魅力を架空のレックスという男に言い換えて並び立てると、まるで完璧超人であるかのようなレックス像が出来上がってしまった。

 イリを嫉妬させなければならないために、アティの欠点となる部分はひとつも言わなかったのが原因だ。

 

 

「レックスさん、とっても素敵な殿方よね。イリもそう思うでしょう?」

 

「……欠点ノ無イ人間ノヨウニ聞コエルナ」

 

 アティから欠点を取り除いたかのようなレックスの完璧ぷりにイリが疑いを持ち始めるとドアの前で待機するパッフェルが慌てた。

 

「ど、どうしましょう。疑われてますよぅ。もし本人に会わせろって言われでもしたらばれちゃいます」

 

「ふふふ、パッフェルったら何を慌てているのよ。私を一体誰だと思っているの? お父様の娘なのよ」

 

 だがパッフェルとは対照的にドアの前で待つもう一人の人物フランネルの態度は冷静沈着そのものだ。

 

「お嬢様!? まさか……」

 

「異識体の娘である私にかかれば生命の一つや二つちょちょいと作れるわ! さあ、生まれなさい! レックス一号!」

 

 フランネルが行使するのは生命創造という奇跡の力。

 イリより受け継いだ偉大なる力はリィンバウムに新たな命を産み落とす。

 フランネルの魔力の光が収まるとそこには男が立っていた。

 

 短めの赤い髪に、強い意志を感じさせる青い瞳。

 その顔はシルターンの遊びである福笑いが失敗したかのようで、身体の輪郭は子供の落書きのようにうねうねとぶれていてパッフェルに不安を感じさせた。

 

「えっ……うわぁー……なんですかこの謎生物は」

 

「やあ」

 

 レックス(仮)はドン引きするパッフェルへと右手を上げて挨拶する。

 その手を上げる動作はなぜかカクカクしていてこれもやはりパッフェルに不安を感じさせていた。

 

「どうかしら? なかなかの出来でしょう?」

 

「いや……えええ……」

 

 フランネルは自慢げに胸を張るが、レックス(仮)は足が長い割に胴が短すぎて明らかにアンバランスだ。

 落書きがそのまま動き出したかのようなそれを生み出したフランネルに対してパッフェルは返すべき言葉を見つけられなかった。

 父親であるイリはそもそも世界を一つ作った存在だし、母であるベルフラウも絵画などをやらせればそれなり以上の作品を仕上げるだろう。

 それなのに何故娘であるフランネルにはセンスが欠けているのか。

 パッフェルにはそれを嘆くことしかできなかった。

 

 

 

 パッフェルたちがそうこうしている間にも、ベルフラウはなんとかイリの疑いを誤魔化して作戦を進行させる。

 

「一度会ってからずっと彼のことばっかり考えてるの。これが恋なのかしら」

 

 ついに計画は三手目であるイリに嫉妬させる段階までたどり着いた。

 ベルフラウはまるでレックスのことを想っている恋する乙女のようなため息をつく。

 その名演技が功を成したのか、イリに少し動揺が見られた。

 

「ギィィ……恋?」

 

「そうよ。レックスが好きになってしまったかもしれないの」

 

「ベルフラウガアティノ兄ヲ好キニ……」

 

「このままだと私、レックスに取られちゃ──」

 

 ベルフラウの言葉の途中でイリの背後の空間から、蜘蛛形態の時の脚を小さくしたようなモノが四本出現する。

 その脚の先端が素早くベルフラウの背まで伸びると、ベルフラウの身体がイリへと引き寄せられて言葉が遮られた。

 イリの顔とベルフラウの顔が触れてしまいそうな距離まで彼女の身体が引っ張られると、四本の脚がベルフラウの細身の身体を逃がさぬように強く抱きしめる。

 

「ギシッギリリリ! 我ハ簒奪者ノ頂点ナリ! 我ノモノヲ奪ウ事ナド出来ヌ! 故ニベルフラウハ永遠ニ我ノモノダト知レ!」

 

「はい……」

 

 ベルフラウがイリの宣言にしおらしく頷くと、ドアの隙間から成り行きを見守っていた二人が部屋の中を凝視する。

 

「うわぁ……お父様ったら大胆ですわ」

 

 やがてベルフラウを抱きしめていた脚が消えるが彼女はぽーっとした表情でイリを見つめる。

 心臓はバクバクと早鐘を打ち、体温が上がったかのように顔色が赤く染まる。

 頭からは会議で建てた計画の事など消し飛び、ふわふわとした浮ついた思考に支配される。

 

「奥様の顔見て下さいよー。いざご主人様から行動起こされるとああなっちゃうんですねぇ。いやーいいもの見させてもらいました」

 

「なんにせよ、作戦は成功みたいね。両親の夫婦仲を深めるだなんて、私ったらなんて孝行娘なのかしら」

 

「私たちはここらで退散しましょっか。お邪魔になっちゃいけないですし」

 

「そうね。レックス一号! ついてらっしゃい!」

 

 フランネルたちがドアの前からそそくさと立ち去り、誰もいなくなった廊下の窓から差し込む光は月明かりになっていた。

 

 

 

 イリのベルフラウは我のもの宣言から一夜明け、三人は再び会議室へと集まっていた。

 

「いやー、『ライバル登場!? 気になる恋の行方は!?』作戦は見事に成功でしたね! もう完ぺきでしたよ!」

 

「お母様もあれなら満足でしょう?」

 

「どうしましょう……私、イリのものにされちゃった……」

 

 抱きしめられた感触を確かめるかのように自身の身体を掻き抱くベルフラウは『どうしましょう』と言う口ぶりに反して嬉しそうにニヤケている。

 

「あの後はどうなったの?」

 

「もう……いわせないでちょうだい」

 

 自分たちが立ち去った後のことが気になったフランネルが聞くと、ベルフラウは火が出るような顔色で恥ずかしそうに俯く。

 

「なんというかごちそうさまですー。でもこれでようやく奥様も落ち着くんじゃないですかね」

 

「ん? どういうことよ」

 

「ほら、ご主人様があんなだから好意を示してくれないじゃないですか。だから奥様からぐいぐい行くしかなかったんですよ」

 

「お母様はお父様からの愛に飢えていたってことね」

 

 結局のところベルフラウの願望は夫から愛されたい、愛されているという実感が欲しいというごく当たり前のものだ。

 だからこそ自分からアクションを起こさない夫からの反応を引き出す為に、ベルフラウが今まで行き過ぎた言動をしていたのだとパッフェルは思う。

 

「でも今回、ご主人様から独占宣言なんてされちゃったわけですし」

 

「これで満足してお母様の色ボケが少しでも収まるといいわね」

 

 だがフランネルたちは知らない。

 自分たちの予想があまりにも浅はかであったことを。

 ベルフラウはただイチャイチャしたいからイチャイチャしていただけであり、あまり深いことは考えていないと言うことを。

 今回の件で収まるどころかベルフラウの愛はより強く燃え上がってしまったのだということを。

 

 

 

 昨日の作戦の成果確認を終えたベルフラウたちは朝食のために屋敷内の食堂へと向かう。

 長いテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、その上に置かれた三つ又の燭台には小さな火が幻想的に揺らめいている。

 そのテーブルに運ばれてきた料理は流石帝国でも有数の商家と言うべきか、お抱えのシェフたちが腕によりを振るって作った料理たちで、色彩豊かなそれらは見る者の食欲を誘う。

 食欲の大きさは父親譲りなのか、料理を次々に平らげるフランネルが舌鼓を打っていると、母親が料理に手を付けずに隣のイリにチラチラと視線を寄越しているのに気が付いた。

 

「ベル。何故餌ヲ喰ラワヌ」

 

「えっとね、なんだかココロがお腹いっぱいというか」

 

 イリもベルフラウの皿に乗せられた料理が全く減っていないことに気が付いたのか、その顔を見上げるが妻は食欲がわかないようで首を横に振る。

 

「お父様がお母様をベルって……」

 

「昨晩一体何があったんですかね」

 

 つい昨日まで父が母をベルフラウと呼んでいたのに、その呼び方がベルへと変わったことに衝撃を受けたフランネルは傍に控えるパッフェルとともに二人に一体何があったのか想像を巡らせた。

 

「意味不明。不食即チ活動停止ノ定メ。馬鹿ナコトヲ言ワズ喰ウガイイ」

 

 どうやらベルフラウが朝食を食べる気が無いらしいと理解したイリは皿の上のソーセージを咥えると彼女の口の中へと無理やり突っ込んだ。

 イリの行動を予想もしていなかったのかベルフラウは目を見開くと何度か瞬きをしつつ、夫を見つめてよく噛んだソーセージをごくりと呑みこんだ。

 

「喰エルデハナイカ。喰エルナラ喰エ」

 

「たべりゅ」

 

 夫の行動に驚いたせいか舌が回っていないベルフラウがイリに応えると始まった雛鳥と親鳥の如く光景は、娘とメイドが驚愕のあまり停止した脳を再起動させるころには終わっていた。

 

 

 

 イリがベルフラウをベルと呼んだこと、そしてイリが自分からベルフラウに口移しをしたという連続の衝撃に頭が真っ白になったフランネルとパッフェルが我に返った切っ掛けはベルフラウがイリを呼んだ声だった。

 

「ねぇ、イリ」

 

「ドウシタ、ベル」

 

「呼んだだけよ」

 

「ソウカ」

 

「なんだかとんでもない光景を見てしまったような気がするわ」

 

「お嬢様もですか? 奇遇ですねー同じ白昼夢を見るなんて……て夢じゃないですよね」

 

 パッフェルが頭を振りつつ自身の正気を確かめるが、雇い主の口元がにやけているのを見るにどうやらあの光景が現実のものであったと察して軽くため息をついた。

 

「イーリー!」

 

「ベルヨ。何カ用カ」

 

「呼んでみただけ!」

 

「ソウカ」

 

 イリとベルフラウのやりとりを見ていたフランネルだったが、見ているうちにイラついてきたのか両親に抗議の声を上げる。

 

「ちょっとお母様!? いつまでやってるのよ! お父様もお母様にわざわざ付き合わなくてもいいんだからね!」

 

「……ベルヨ」

 

「なあに、イリ」

 

「呼ンダダケダ」

 

「そう? えへへ」

 

 だが止めるどころか父親まで同じことを始めるとついにキレたのかフランネルが椅子から立ち上がった。

 

「お父様!! あなた自分が何者か分かっていますの!? 世界を喰らう者、世界の創造主、価値観の次元が違う存在でしょう!? そこは『意味不明』とか『理解不能』とか言ってお母様を適当に流すところじゃなくて!? 何よ『呼ンダダケダ』って!!」

 

「フランネルヨ。我ハベルノ夫デアル」

 

「そうね。だから?」

 

「妻ト仲ヲ深メルベキダトハ思ワヌカ」

 

「何? お母様とイチャイチャしたいってこと?」

 

「……結果的ニハソウナルナ」

 

「イリ!! 私もよ!! 私もイリとイチャイチャラブラブしたいわ!」

 

「お母様は黙ってなさい! どうしましょう、お父様まで色ボケに……」

 

 フランネルが父の変化を嘆くが、イリはベルフラウとは違い単純にイチャイチャしたいというわけではない。

 昨日の『ライバル登場!? 気になる恋の行方は!?』作戦によって簒奪者としてのプライドを刺激され、ベルフラウを奪われたくないという想いを抱いたイリは自分なりにどうすればベルフラウをレックス(架空)に奪われないかと考えた。

 対象の排除も勿論プランとして用意したが、より盤石にするために挙げた別のプランがベルフラウが喜ぶことをすることで仲を深めるというものだった。

 では、一体何をすればベルフラウは喜ぶのか? 

 イリがこれまでの経験から導き出した答えが、好意を言葉や行動にして伝えること。

 イリはベルフラウを奪われないために、喜ばせるために、結果としてイチャイチャしていると呼べる行動をとったのだ。

 勿論、フランネルたちが部屋の前から立ち去った後に起きた何がしかがイリに変化をもたらしたのも確かではあるが。

 

「フラン、前から思っていたんだけど……あなた、両親への敬意というものが欠けているんじゃないかしら」

 

 ベルフラウは娘の目上の人物に対して失礼な発言を看過できなかったのか母として注意をする。

 しかし──。

 

「はあ!? 敬意なんて消え去ったわよ!!」

 

「なっ……ど、どうして!?」

 

「自分の胸にでも聞いてみなさい!!」

 

 マルティーニ家の当主として所謂デキる女性の姿を娘に見せてきたベルフラウは自身が娘に尊敬されていると信じて疑っていなかったようで、娘の言葉に動揺した。

 ベルフラウはおもむろにイリを抱き寄せるとその小さな白い身体を自分の胸に押し当てる。

 

「イリ、聞こえる?」

 

「ベルノ心音ガ聞コエルナ」

 

「誰がお父様に聞かせろって言ったのよ!? ばっかじゃないの!?」

 

 何かとつけてイチャつこうとする母に我慢の限界に達したのかフランの口から罵倒が飛び出す。

 

「フラン!! 今お母さんに馬鹿って言ったわね!?」

 

「馬鹿よ馬鹿!! 色ボケ馬鹿夫婦よ!!」

 

 母と娘がなにやら言い合いを始めると、イリがベルフラウの腕から抜け出してパッフェルの傍まで移動する。

 その小さな体は少ししょげているように見えた。

 

「……色ボケ……? 創造主タル我ガ娘ニ敬ワレテイナイダト? 有リ得ヌ」

 

「ご主人様ちょっとショック受けてます?」

 

 マルティーニ家の一日は今日もきっと騒がしくなるのだろう。

 朝から騒ぐ主人たちの声を聞いた使用人たちは察したそうな。

 




■ベルフラウ
イリに一生独占宣言されてご満悦。

■イリ
腕が無くても抱きしめられる!そう、創造主ならね!

■フランネル
父譲りの大食い。愛読書は恋する乙女は片手で龍をも殺す。
最近両親にイライラしはじめた。

■パッフェル
なんだかんだで『ライバル登場!?気になる恋の行方は!?』作戦にのりのりで参加。

■レックス(架空)
アティから欠点を抜いて男にしたような架空の存在。
別世界のレックス氏とは別人。

■レックス一号
フランネルに創造された謎生物。
別世界のレックス氏とは別人。
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