招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~ 作:あったかお風呂
蟻の召喚獣たちとの戦いを終えたアティたちが一息ついて周囲を見渡すと、白い召喚獣たちは何処かへ姿を消してしまっていた。
「なんだったのかしら、あれは……」
「テキタイスルイシガナイノナラ、ナンデアレカマワナイ。ソレヨリモ……」
「襲いかかってきたほうの召喚獣ですよね」
アティたちは集いの泉へ向かい、蟻の召喚獣と白い召喚獣について報告をすることとなった。
報告を聞いたユクレス村の護人、ヤッファは一刻の猶予もない事態だと語る。
「ジルコーダ……メイトルパの言葉で『食い破る者』って意味だ。連中はエサとなる植物がある限り、とてつもない勢いで増える。自然の多いこの島はジルコーダにとっての最高のエサ場ってことだ」
つまり、爆発的に増える可能性が高い。そしてこの島の自然は瞬く間に食い尽くされてしまうだろう。
そのことを察した一同は言葉を無くす。
「それを防ぐためにもあなたたちみんなの力を貸してもらいたいの」
ベルフラウたちはアルディラの言葉に頷くと、準備が終わり次第再び集いの泉に集まることとなった。
アティとベルフラウが各集落に挨拶と注意喚起をして回る中、イリは集いの泉で行われた会話を思い返していた。
「ギシイィ……。『喰イ破ル者』……『餌場』……! 我ガ居ルコノ島ヲ餌場ニスル? 不敬! 不快! 不遜!」
世界を喰らう、捕食者の頂点である自身の居るこの島を餌場にしようとするジルコーダの存在を不快に思ったイリは兵隊を動かすことにした。
「ギシッ! ギシィイイ! 誅殺セヨ! ギリシィイ!」
先ほど遺跡を利用して召喚された兵隊たちに指揮を出す。
不敬な愚か者たちに身の程を教えるために。
準備を終え、再び集いの泉に集まったベルフラウたちはメンバーが揃っていることを確認するとジルコーダの巣がある場所である廃坑に向かった。
「ねぇ、イリ。きっと大丈夫よね……?」
ベルフラウは緊張した面持ちでイリに話しかける。
大規模な戦闘が予想されることから少し不安があるようだった。
「あんまり緊張しすぎちゃだめよ? アタシたちも護人の人たちもいるんだし、それに小さなナイト様もいるでしょ?」
ベルフラウの緊張を察したスカーレルにからかわれると少し頬を赤くしながらも、ベルフラウは小さく頷いた。
ジルコーダの巣に侵入したベルフラウたちだったが、予想されていた歓迎はない。
「おいおい、出迎えもなしかよ」
「あまりにも静かすぎますね……」
そう言うカイルとヤードの顔は険しい。
あまりにも静かすぎる廃坑内が不気味だった。
用心しながら進むベルフラウたちはついにジルコーダを発見する。
「これは……死んでいる……?」
アルディラの言葉通りようやく発見したジルコーダは既にもの言わぬ屍となっていた。
そしてそこからはジルコーダたちの死骸が点在している。
「これは一体……どういうことですの?」
ベルフラウの疑問に答えるものはいない。
アティも、海賊たちも護人たちにも見当はつかなかった。
廃坑の最奥にはジルコーダの女王が鎮座していた。
通常のジルコーダよりも遥かに巨大な体は少し離れたところからでも確認できる。
「あれが女王だ。……俺の知ってるのとは少しばかり違うみたいだがな」
ヤッファの言う通り、女王の腹の部分が通常種と違い白い繭のようになっている。
ベルフラウたちが武器を構えると女王は突然叫びだした。
「Gyaaaaaaaaaa!!」
狂ったように叫ぶ女王はのたうちながら地面に尻をこすり付けると、繭のようなものを植え付ける。
「あれは……!?」
アティが驚愕の声を上げた。
女王が植え付けた繭のようなものが破れたかと思うと中から喚起の門で見た白い召喚獣が生まれてきたのだ。
アティの上げた声に気付いたのか、女王はその顔をベルフラウたちの方向へ向ける。
「Gyshaaaaaaaaaaa!!」
脚をバタつかせ、重い腹を引きずりながら絶叫をあげて女王はベルフラウたちへと向かってくる。
「来るぞ……!」
本来移動には適していないのか、遅い速度で動く女王をスカーレルが速さで翻弄する。
「──シッ!」
しかし、振るったナイフは甲殻によって弾かれてしまう。
「ちょっとどんだけ硬いのよ!?」
カイルも続いて自慢の拳を叩きこむが──。
「かてぇなおい!?」
硬すぎる甲殻にはあまり効果が無いように見えた。
「なら召喚術で──タケシー! ゲレサンダー!」
ヤードが召喚した雷の精が放った電撃が女王を貫く。
これは効いたのか、甲殻を一部焦がし女王が一瞬動きを止める。
しかし女王の持つ再生能力によって瞬時に治癒されてしまう。
「再生能力とは……また厄介な……」
刀を振るうキュウマが愚痴をこぼす。
物理攻撃はほとんど効かない上、召喚術によるダメージも治癒されてしまう。
そして……厄介なのが女王の吐き出す酸だった。
射程が長いそれは召喚師にも届き得る。
酸を慌てて避けるヤードを横目で見つつ、ヤッファはアルディラに声をかける。
「駄目だ、硬すぎて物理攻撃じゃダメージにならねぇ! アルディラ、頼めるか!」
「言われなくても! 召喚術での一点突破を狙うわよ!」
アルディラの声にヤードが頷く。
「ドリトル! ドリルブロー!」
「タケシー! ゲレサンダー!」
機界の召喚獣が唸りを上げ、高速回転するドリルで甲殻を削っていく。
削りきれずに消えるドリトルに続き、タケシーが電撃を放ってドリトルが削った場所を攻撃する。
だがそれでも健在の女王を見てヤードが歯噛みする。
この中で生粋の召喚師はヤードとアルディラのみだ。
これでも倒せないならと、アティは魔剣の力に頼ろうとするが──。
「私、やるわ。あなたの生徒の雄姿、ちゃんと見てなさい!」
召喚師はまだいる。先日召喚術を使えるようになったばかりの頼もしい生徒の言葉にアティは応える。
「ベルフラウさん! やっちゃってください!」
「行くわよイリ! 私たちの力、見せつけて上げるのよ! 串刺シノ刑ニ処ス!」
地面から発生した巨大な爪が勢いよく女王に迫り──その身体を貫いた。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaa!?」
爪に串刺しにされた女王は口から泡を吹き、悲鳴を上げる。
爪が消えると、女王は身体に開いた穴から体液をまき散らして転げまわった。
だが繭状の腹部は女王の意に反して動き、地面に尻をこすり付けると──繭のようなものを生み出す。
それで力尽きたのか、女王は動かなくなる。
繭から生まれた白い召喚獣は自らを生んだ存在に興味がないのか、動かなくなった女王を無視して廃坑の出口へ向かっていった。
「……ようやく片付いたわね」
「ええ……」
アルディラに答えるアティの表情は暗い。
「私たちとジルコーダは一緒に暮らせはしないとわかってはいるけど……」
自分たちの都合でジルコーダを殺さなければならなかったことにアティは思うところがあったようだ。
「そうですわね……」
イリを腕で抱きしめるベルフラウは自らの教師の言葉に頷いた。
戦いを終えて帰ったベルフラウたちをマルルゥが出迎える。
マルルゥは宴の準備を済ませて待っていたようだった。
「さあさあ、みんなで楽しくお鍋を囲むですよ!」
楽しそうに笑って言うマルルゥに釣られて笑みを浮かべたベルフラウたちは宴の会場に向かった。
焚火が闇夜を照らし、皆が鍋を囲む。
大人たちは酒を飲んで出来上がっているようで、所々で騒ぐ声が聞こえた。
「ほれ、キュウマ。お主芸の一つくらいやってみせい」
顔を赤くして言う鬼姫ミスミの無茶振りに答えようと生真面目なキュウマが踊っていたり……。
カイルとヤッファは飲み比べをしているようで、次々と酒を煽っていた。
ヤードはカイルの隣で潰れていたが。
「センセは気になるオトコはいないのかしらー?」
スカーレル、ソノラ、アティ、ベルフラウは四人で集まりガールズ(?)トークをしていた。
「あははは……私はそういうのは……」
「軍学校に居たころはどうでしたの?」
ベルフラウの問いにもアティは首を横に振る。
「えー。先生美人なのになー」
「生徒はちゃっかり青春してるのに情けないわねー、ベルフラウちゃん?」
「なんのことですの?」
何故自分の名前が挙がったのか分からないベルフラウはきょとんとした顔でスカーレルを見るが、次にスカーレルが発した言葉を聞いて顔を紅潮させた。
「もう! 誤魔化さなくてもいいのよ。ベルフラウちゃんの気になるオトコはイリでしょ?」
「なっ!?」
「そうそう、ベルフラウちゃんったらイリにはデレデレだもんねー? ラブラブで妬いちゃうなー」
「ラブラブっ!?」
「あははは、いつか結婚しちゃいそうだなー、なんて……」
「け、結婚!?」
スカーレルに続いてソノラも乗ってベルフラウをからかうとアティまでもがそれに続いた。
酔った大人たちにからかわれたベルフラウはその顔を真っ赤にする。
「ほら、あそこで鍋掻き込んでるのの所に行ってきなさいよ」
ベルフラウの背中を叩くスカーレルの視線の先には一心不乱に鍋の具を掻き込むイリの姿があった。
顔を赤くしたままベルフラウはどこかぎこちない動きでイリに近づく。
「イリ……!」
食事に夢中になっていたイリはその声でベルフラウの接近に気付いたのか、すぐ近くまできていたベルフラウを見上げる。
「わ、私と……! 結婚してくれないかしら!!」
顔を真っ赤にしたベルフラウの叫びが宴会場に響き渡った。
どうしてこうなった…?
・蜘蛛の尖兵
白い姿の異形。異識体の操る兵隊。
・母胎ジルコーダ
蜘蛛の尖兵を産む機械にされたジルコーダの女王。
蜘蛛の尖兵を産むたびに生命力が削られるが女王が本来持つ再生能力が死ぬことを許さない。
ユニット性能的には甲殻体の軽減率が70%になったくらい。