招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~ 作:あったかお風呂
廃坑での戦いを終えたアティはベルフラウと別れると、戦いの疲れからか木に寄りかかると眠ってしまう。
心地よい微睡の中、昔よく聞いた鋭い声を耳にする。
目を開けたアティの視界にいたのはアティを見降ろし、剣を突きつけるアズリアだった。
「帝国軍人にとって任務は絶対だ。私は必ず、剣を取り戻して見せる!」
アズリアはアティにそう宣言すると踵を返して立ち去って行った。
かつて軍学校で共に学んだ学友と戦わなければならない。
その現実にアティは一晩中悩み続けていた。
そして一晩明けても悩み続けるアティは海賊船の外で黄昏ていた。
「先生……?」
イリを連れて海賊船を出たベルフラウはアティの姿を見つけるとかけよった。
「何不景気な顔してるのよ。うじうじ頭で考えるなんてあなたのやり方じゃないでしょ?」
「私らしくないですよね? 立ち止まって考えてばかりいるのは……」
「そうよ。いつもみたいに笑い飛ばして、さっさと決着つけなさい!」
生徒にこう言われては家庭教師失格だと、アティは暗い表情を変えて目に決意を灯す。
そして教師と生徒の様子を少し距離を開けて見ていたイリは二人に聞こえないように呟いていた。
「安易……妄想……無闇……無為無策! 計画性皆無! 後先ヲ考エナイ……甘イ願望ノ垂レ流シ……」
イリには理解出来なかった。
二人が言っているのは要するに行き当たりばったりだ。
何も解決していない。
アティの友人と戦わなければならない現実は何も変わらない。
それなのに何故、アティの表情は明るいものになっているのか。
それなのに何故、アティの目には決意の火が灯っているのか。
理解出来ない、分からない。
(他人とわかりあえない貴方は、哀れで可哀相なだけのバケモノよ!)
自身に刃向い、打倒した不快な者たちの言葉がイリの脳裏によぎる。
「他人トワカリアウ……?」
アティはベルフラウとわかりあったから、前を向いているというのか。
「却下! 断固ッ! 断固否定! ギシッギシギシギィイイイ!」
太く低い声が響いたのはアティがベルフラウに叱咤され、決意を新たにしてから間もなくだった。
「わが名は帝国軍海戦隊所属第六部隊の一員、ギャレオだ!」
そう名乗ったのはビジュに副隊長と呼ばれていた大柄な男。
声を張り上げて、ギャレオは続ける。
「隊長殿の命令に従い、ここに宣戦布告の名代として参上した!」
ギャレオの声が聞こえたのか、カイルたち一家が続々と甲板へと姿を見せる。
「わが部隊は後方にてすでに臨戦態勢にある。しかし、賊といえど弱者への一方的な攻撃は帝国軍の威信を損なう」
「……!」
弱者と呼ばれたことに腹を立てたカイルは眉間に皺をよせ、ギャレオを鋭く睨む。
それを気にせずにギャレオは剣を渡すように降伏勧告も行うと、立ち去って行った。
「弱者ときたか……」
海賊としてのプライドを煽られたカイル一味は徹底抗戦の構えを取る。
「我慢してほしいなんて言いませんけど、その前に……少しでいいですから彼女と話す時間をください」
怒りに燃えるカイルたちにアティはアズリアとの話し合いをする機会を設けるため、頭を下げるのだった。
ベルフラウたちは森の中を歩き、決戦の場所である『暁の丘』を目指す。
「……あら? 奥のほうが騒がしいわねぇ」
スカーレルの言う通りベルフラウたちの前方、暁の丘方面から音が聞こえた。
そしてその音がだんだんと近づいてくる。
「これは……足音? 近づいてくるわ!」
ベルフラウは抱きしめていたイリを離すと警戒態勢を取る。
──そして。
「なんなんだ、あの化け物たちは!?」
ベルフラウたちの前に現れたのは、暁の丘でまっているはずの帝国軍たち。
しかし既に傷だらけで、その姿は満身創痍と呼んでもいいだろう。
「帝国軍!? どうして……!?」
「くっ……アティか……」
アティの声を聞いたのかアズリアとギャレオが進み出てくる。
「一体なにがあったんですか!?」
「丘で白い化け物たちに襲撃された……。やつらには攻撃が通じず……」
そう言うギャレオの前にカイルが進み出る。
「おいおい、帝国軍さまよぉ。ずいぶんとボロボロじゃねぇか。ま、俺らには『弱者』をいたぶる趣味はねぇからよ。見逃してやってもいいぜ?」
弱者と呼ばれたことを腹に据えかねていたカイルの言葉を聞いたギャレオは悔しげに唇を噛む。
「アズリア、私と話をしましょう。今私たちと戦うのは得策ではないはずです」
「……よかろう。聞こうじゃないか」
このチャンスを逃してたまるか、とばかりに提案したアティにアズリアは承諾の頷きを返す。
そしてアティは話した。
この島が召喚術の実験場であったこと。
無色の派閥の魔剣のこと。
喚起の門のこと。
そして、武器を収めればこの島の住人たちと共存できることを。
──しかし。
「なるほどな。この島を接収すれば、帝国にとって多大な利益となるということだな?」
アズリアは和解などするつもりはないようだった。
「宣戦布告をしておいて戦わずに逃げるなど、帝国軍人には許されない! 私はそんな恥さらしになるつもりはないぞ、アティ。貴様に一騎打ちを申し込む!」
「一騎打ち? なに言ってるのよ、そんなの……」
ソノラのその言葉を否定するかのようにアティが前に進み出た。
「受けますよ、アズリア。それであなたが分かってくれるなら」
「なるべく傷つく人を減らしたい、そうだろう? 甘い貴様ならそうするだろうな!」
「おい、先生!」
カイルたちが止めようとするがアティはアズリアと向かい合う。
アティとアズリアの一騎打ちが始まった。
アティとアズリアが戦闘を繰り広げている中、森に潜む影があった。
「ヒヒヒ……チャンスじゃねェか」
緑髪の男、ビジュはベルフラウの背後の茂みからベルフラウを睨む。
前回の戦いでベルフラウの召喚術に倒れたビジュは幼い少女に敗れた恥さらしとして部隊内での評価がさがり、肩身の狭い思いをしていた。
「(小娘め……ただじゃ置かねえぜぇ!)」
幸い、ベルフラウと仲間たちの視線は一騎打ちに釘付けだ。
ビジュは恨みを晴らすべく、ナイフを手にベルフラウの背後へ飛び出した。
「なっ!? ベルフラウちゃん!!」
スカーレルが気づき、声をあげるが──遅い。
「(取った!!)」
狙うのはその白い首筋。
そこを目指して引き絞った右手でナイフを突き出そうとし──。
「ギシシイイイイイ! 誅殺!」
魔力が渦巻き、瞬間。
ビジュの頭上の虚空から一条の閃光が降り注ぎ──。
「ぐぎゃっ!?」
──ビジュの体を貫いた。
ベルフラウがそれに気づいたときには既に背後にビジュが倒れていた。
仲間たちがベルフラウを心配し駆け寄る中、ベルフラウはイリを見つめる。
「イリ……あなたよね、助けてくれたの」
「ギシイイ!」
自分の力を見たかとばかりに頷いたイリを抱きしめたベルフラウは顔を擦り付けた。
「ありがとう! イリ! ありがとう!」
その様子を見ていたアズリアは舌打ちをする。
「ビジュめ……余計な真似を。恥さらしめ!」
「さて、これ以上続けますか?」
すでに一騎打ちのほうも決着がついていた。
そもそも消耗していたアズリアのほうが圧倒的に不利な戦いだった。
アズリアにもそれはわかっていたのだろう。
膝を付いていたアズリアは撤退命令を出すと、アティを睨む。
「次は万全な状態で決着をつけるぞ、アティ」
アズリアは帝国軍とともに去って行った。
戦いが終わり、ベルフラウたちは海賊船への帰路へつく。
「すごかったのよぉ! 空から光が……」
ビジュに気づき、一部始終を見ていたスカーレルの話を真剣に聞くベルフラウとそれを横目に歩く仲間たち。
「そういえば奴ら、白い化け物に襲われたって言ってたな」
カイルが思い出したように言うとアティは首をかしげた。
「でも……どうしてでしょうか。私たちは襲われなかったのに」
「変なことして怒らせたとか? そんなことしそうなヤツいるし……」
ソノラはビジュの顔を思い浮かべ、考察する。
「一体、何者なのでしょうか……」
ヤードはそういうと、内心付け加える。
「(イリに……似ている気がするのは気のせいでしょうか)」と。
夜、皆が寝静まったころベルフラウはベッドに腰掛けてイリを撫でていた。
「今日はありがとね、イリ。それにしてもすごいじゃない、スカーレルから聞いたわよ」
撫でられるイリは疲れてしまったのか、ベッドにぐったりして眠っているようだった。
なすがままに撫でられるイリを見てベルフラウは何か逡巡したあと──。
顔をイリに近づけると、口づけをした。
「おやすみ、イリ」
頬を赤く染めたベルフラウはそう言うと横になり、夢の世界へと旅立っていった。
name イリ
class 護衛獣
skill
全異常無効
全憑依無効
甲殻体(通常攻撃ダメージの70%を軽減する)
送還術(Cランク以下の召喚術を無効化する)
遠距離攻撃・誅殺(無属性の光で遠距離攻撃を行う)
出撃枠を圧迫しないユニット召喚獣にあるまじきインチキ性能
きたない流石ラスボスきたない