残虐で優しい聖女(改訂版)   作:オミズ

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改訂版、第3話となります。
ぬくぬくしながらお読み下さい。


第3話 交差

「これでラスト」

 

その一声と共に『魔』のフェイントに引っ掛からずに切り捨てた少年は、ふぅ、と一息吐いて刃を収めた。その際飛び散った紅が、夥しい量の死体達の血に混じって溶ける。

 

それを横目で眺めた少年は、周囲の警戒もそこそこに思考の海に沈む。

気になるのはただ一点。

 

この生命力溢れる木々に囲まれているにしては奴等…強すぎる。

 

『魔』といえど生物。

当然、人間で言う食事が必要になる。それに当たるのが大地からの魔力の吸収。例えば、この辺りみたいな木々に囲まれた場所では、良質で多量の魔力が蓄えられている。反対に、木々が少ない場所では、悪質で少量の魔力しか蓄えられていない。

だから、劣悪な環境にいる『魔』は少しでも多く魔力を得る為に争い殺す。奴等にはより良い環境を求めて移動する脳がないからだ。故に、それならば強くてもおかしくは無い。だが、ここは優良な土地だ。そこら中に魔力が溢れている。魔力を得る為に争う必要が無い。

それなのに、フェイントやらコンビネーションやら……?

 

コンビネーション?奴等にそんな協調性など有ったか?

 

脳裏で打ち鳴らされる警鐘が一際強くなり、このまま放置してはダメだ、と訴えてくる。

確たる証拠も無い。むしろ偶然で片付けてもいい筈の事柄。

それなのに、何故こんなにも五月蝿いのか。

 

(早急に依頼を終えて報告しよう)

 

それだけを決めて、絡み付いてくる焦燥を振り払う様に目的の村まで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

植物観察を開始して数分。

真っ白な少女はその顔を、わたし退屈しています、と言わんばかりに膨らませている。そんな少女に目に掛ける大人はおらず、それが余計に少女の退屈を加速させていた。

 

照りつける太陽は少し熱くて、体が火照って仕方ない。それに、養母からはあまり肌を焼くな、と言われている。理由を問うたところ曰く、嫁入り前の女の子だから、との事。理由になっていないと思っているのだが、それでも一応気にかけている。

 

そんな諸々の理由が重なり、外に出たのが間違いだったかなぁ、などと考え始めた少女は母親譲りの溜め息を吐く。

(良い一日になると思ったんですが…間違いでしたか)

 

そう思い、踵を返そうとしたとき硬質の音が耳を打った。

足を止めて耳を澄ましてみると、その音は断片的に、しかし継続して響いてくる。

場所はそう遠くはない。だが、行くべきかどうか一瞬だけ躊躇した。

 

人が傷ついているかもしれない。それだけで動く理由としては充分すぎるからだ。

飛び出したら過去の小さな疑問など忘れてしまう。だけど…この時すでに、多大なる幸福と絶対的な不幸を味わう事を予感していたのだろう。

 

 

イリは幼子にしては軽やかに地を駆けて、一歩一歩鮮明に聞こえるようになる音に幼子の様に顔を歪める。未だ姿は見えないが、なんとなくの見当は付く。

そして着いた先で、自分の見当が甘かった事を目の当たりにした。

 

そこで繰り広げられていたのは『人』と『魔』の間で起こる闘争。

孤軍奮闘している『人』と、無限に湧き出ていると錯覚させるほど膨大な『魔』の間で起こる、一方的な虐殺。

但し、優位なのは数で劣る『人』の方。圧倒的な速度と技術で、瞬く間に『魔』を細切れにしていく。

 

その虐殺が始まってから既に何分経ったのだろうか?

地面は元の色を失い、チカチカするほどの赤を映している。積み上げられた死体は数知れず。

その中心に立っている少年が、イリの方をチラリと見た。

 

その瞳は驚く程に黒くて、まるで底なし沼のようだと麻痺した思考の片隅で思った。

そう…麻痺してしまった。だから虐殺劇を傍観者として見守ってしまったし、少年に恐怖を覚える事もなかった。

 

「ん?……おい、お前」

 

機械的に『魔』の相手をする少年が、不意に声を掛けた。

始め、自分が対象だと思っていなかったので、案山子のように突っ立って悪夢のような光景に溺れていた。

 

「…聞こえてないのか?…おい、そこの白髪!!」

 

「白髪じゃないですよっ!!」

 

初めての非常に気に入らない呼称に、先程までの全てを忘れて言い返してしまう。そして…硬直する。

この少年は、屍の山を築き上げた張本人。即ち、生命を破壊した忌むべき『人』

ほら、こうしている間にも死体は増えていく。

一、二、三、

 

「やめてッッッ!!!」

 

四。

宙を舞ったナニカの首が、運命をせせら笑いながら少女の足元に落下した。みるみるうちに広がっていくシミが、一つ生命の終わりを示している証拠だと理解して絶叫する。ナニカ…ナニカその命を繋ぎ止める手段がある筈だと、自分の知識を総動員して探す。探す探す探す探す―――?

無い。何も無い。何で?どうして?一つくらいある筈でしょう?それこそ、私の命を捧げれば…

 

「おい。聞こえてるか?」

 

目の前に殺人者がいる。不機嫌そうな顔の破綻者が突っ立っている。

そうだ!この人なら、この人なら知っている。

 

「ねえ…どうやったらこの生命(いのち)は救えるの?」

 

私は私は血に染まった首を抱いて問う。彼ならば、彼ならば知ってると確信してるから。

 

「無理だ」

 

まるで、気味の悪いものを見たかのように青ざめた顔で少年は告げる。

 

無理?出来ない?不可能?

うそ…嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

 

ソウダ…カラダ…カラダミツケナクチャ。カラダクッツケレバ……タスカル、スクエル、イキカエルッ!!!

ダカrアkラd―――ドコ?

 

「…お前ら、救いようがねえな」

 

知覚外からの一撃。

やわな少女の体は当然のように耐え切れず、狂った思考を闇に置き去りにした。

 

「あーあ。聖女ってのはこんな気味悪いモンなのかねぇ?」

 

少年の疑問に答える命など、死屍累々のこの場には存在しなかった。




ご読了ありがとうございました。
主人公に精神崩壊は付き物だと思います。
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