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血の夢を漂っていることを知覚したのはいつだったか。
3順目?4順目?はたまた、忘却している事もあったかもしれない。なんせ、ここは永久だから。
故に、過去を思い出そうとするのよりは、未来を描く方が建設的だろう。
この夢は、毎回違う景色に違う時代。けれど、毎回同じ立場。
私が出来ることは見ることだけで、干渉など出来ない。そんな、もどかしい責め苦の様な夢。
こうしている今も再生を続ける仕事熱心な夢に辟易する。
「なあ、もういいだろ?もう君に出来ることはない。だから――
「退け、というの?」
「ああ」
「…言い方が悪かったわ。見捨てろ、というの?」
「…そうだとも」
一方は優しそうな少年。もう一方は気の強そうな少女。
少年は少女を守ろうとし、少女はそんな少年を糾弾する。
けれど、お互い分かっていたらしい。
結局は少年が折れるという事を。望んで戦場に向かう少女に、君らしい、と仕方なさそうに微笑んだ。
場面は変わる。
「どれくらい…その、救えたんだ?」
「32人のうちの1人だけ。あなたの言う事は…正しかったわ」
「そうでもないさ。君がいなきゃその1人も犠牲になっていた」
「…そうかしら」
「そうだとも」
「でも、31人も亡くなってしまったのよ」
「……なら、君が助けた1人も見捨ててよかったのか?」
「そうじゃないわッッ!!」
「ああ、そうだとも。そうじゃないんだ」
「え?」
「さっきも言ったが、君がいなきゃ犠牲者は1人増えてたんだ。なら、君に出来る事はあったんだ。それを今は心に刻んでくれ」
「…そういうことじゃないの分かってるでしょ?でも、ありがとう」
そう言って、少女は静かに泣いた。それは嬉しさの涙でもあったのだろうけど、悲しさの涙の割合の方が高かったのだろう。
少年は少女を理解できていなかったのだから。
場面は変わる。
「…結局、あなたでも私を理解出来なかったのね」
「………」
「考えてみれば当然。
「………」
「それでもあなたは必死に
「………」
「ありがとう。さよなら。あなた
黙ったままの少年に、言いたい事だけ言って少女は去った。
場面は変わる。
少女はどんなに小さな争いでも飛び込んだ。
少女はどんなに大きな争いでも飛び込んだ。
救うため救うため救うため、と自身を省みずに他者だけを気にした。
Aを救い、Bを救い、Cを救い――――果てに恨まれた。
場面は変わる。
「君は馬鹿だよ」
「…久しぶりだけど、それは認められないわ」
「もう争いは止められないぞ。…喧嘩しているAとB。そのどちらにも協力したら恨まれるし、根本的な解決になってないから、また喧嘩し始める。…分かってたはずだろ?」
「…そうね。」
「分かっていても……見捨てられない、か」
「あら…少しは
「そうだとも。君とは違って馬鹿ではないからね」
「ええそうね。…馬鹿ではないのなら、教えてくれないかしら?」
「君と共に逃げるためさ」
「…ほんっと頭良いんだから」
「それだけで済まさないでくれ。無駄と分かっても聞きたいんだ」
「無理よ無理」
「分かってる」
少年は仕方なさそうに微笑んで、踵を返して少女の前から消える。
その背中をずっとずっと、少年の姿が見えなくなってもずっと。少女は見つめ続けていた。
その日から、少年は一日に一回少女を訪ねた。
いつ着弾するか分からない、恨みという矢を見て見ぬフリをして他愛も無いことを話した。
ある日はお互いの趣味嗜好を話し、ある日は別れてからあった出来事を話した。
少女と再開して一週間。不思議なほど穏やかに過ぎた。いつ、国家同士の争いが勃発するか分かったものじゃないのに。それだけでも奇跡と呼べるくらいなのに、もう一日、もう一週間、と平和な時を刻むたびに少年の心は軋む。
少女と再会して一週間と三日。
場面は変わった。
「なあ…なんで僕が生きているんだ?」
…………
「おかしいだろ?僕は何もしなかった」
…………
「…君は世界を
…………
「なあ、今どうなってると思う?」
…………
「君が救った国は例外無く荒れた。君に救われた人達は君を見捨てた国に楯突いた挙句、殺された」
…………
「君の成果は彼らを延命させただけ。君のせいで、殺された人の家族は国を恨み、それが連鎖して国は二分されるだろう」
…………
「君の生き様は正しくて美しかった。だけど、それは『人間』とは呼べない生き方だった」
…………
「人間は完璧を求める。だけど、真に完璧なものは受け入れられない。そんな狭量な生き物なんだ」
…………
「もうじき戦争が始まるだろう。火種であった君が死んだのにね」
…………
「伝えたいのはそれだけさ。後はゆっくり死んでいてくれ」
場面は変わり、血の夢は閉幕を迎える。
フィナーレはみんな大好き死屍累々。人は死に、村は荒れて、国は更地となり、残されたものは去ったものに寂寥と羨望を抱く。
何順目かの夢が終わったとき、私は夢を見る意味を理解し始めた。
夢は皆、正しくて愚かな少女の人生を描いていた。馬鹿みたいに人を救いたくて、全力で走った後、振り返れば救った人より多い死者を生み出していた。
この夢は、こうなってはお終いだという教訓。
だけど、私にはいらない教訓。
彼女達は間違っていて、私は間違っていないのだから。
『人』だけを救おうとするだなんて愚かな考え。そんな中途半端な救いを与えたから皆に恨まれた。
『生ける者全て』を救う。これこそが私が辿り着く、私の行為を皆が容認するステージ。
私の意志が定まるのを待っていたのか、血の夢は徐々に輪郭を失っていく。それと平行するように、外界の情報が私の鼓膜を刺激し始める。
―おい、コイツくたばってねえよな?―
―はい。脈はあります―
聞き慣れない声と、聞き慣れた声。そのどちらもが、等しく薄れゆく夢を震わせる。
夢は終わり、記憶はやがて薄れるのだろう。けれども、私はこの夢に縛られる。
それだけは心に刻まれた。
ご読了ありがとうございました。