残虐で優しい聖女(改訂版)   作:オミズ

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改訂版、第7話となります。
機械熱にやられないように読んで下さい。


第7話 出会い

その出会いは唐突に訪れた。

年を重ねた木々に囲まれた家の中、白の少女は慣れぬ苦痛に顔をしかめ、黒の少年は濁った瞳で少女を見た。ただそれだけの、つまらない出会い。

そこに感情はなく、ただ運命によって出会わされただけ。それでも、この出会いは彼と彼女にとっては宝物と呼べるものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疫病神が、お前等のからくり人形を攫いに来たぞ」

 

イリに背を向け、そう物騒な事を嘯いた少年に少女は既視感を覚える。

見慣れぬ、だがつい最近見た覚えのある少年。あーだこーだ、と頭を悩ませている内に振り向いた少年を視界におさめて得心がいく。と同時に、この少年なら物騒な事を言いそうだ、と頷く。

 

そうしている間に、イリの目の前まで近づいてきていた少年は、ベッドの隣にあった綺麗な木目の丸椅子に腰掛け、その黒色の瞳にイリを映した。

吸い込まれそうなくらいにジッと見つめられたイリは、思わずチラチラと目線を逸らした。そのおかげで、今までは目がいっていなかった、全体的に黒っぽい服装、額に巻いた赤い布などが目に入った。

 

「…久しぶりだな、自傷娘」

 

暫く見つめていた少年が発した第一声がコレ。アホだと言われる事が多々あるイリからしても酷い言葉だと思う。

だが、そう言った本人は至って普通。むしろ無表情で若干怖いくらいである。

どう応えるのが良いのかな~、などと頭の片隅で考えつつ思ったままに言葉を紡ぐ。

 

「…自傷娘とか酷くないですか?」

 

いつもならハイテンションでツッコムのだが、いかんせん腕が痛い。流石のイリでも、叫べば傷に響くことくらいは理解している。よって冷静に、尚且つ賢く反撃したいものである。

 

「そのとおりだろ?」

 

「そのとおりです」

 

反撃の手など始めからなかった。事実を虚偽へと変えることなどできないのである。

と、また一歩賢くなったイリは脳を空っぽにして伝えたいことを続ける。

 

「ありがとうございました」

 

「…唐突になんだ?」

 

イリのお礼に露骨に顔をしかめた少年は、あくまで感謝される事などしておりませんよ、と言わんばかりに顔と同様に疑問符を浮かべた。

その態度にイラッときたイリは、痛くないほうの腕をブンブンと振って、私怒ってますアピールを無言でした。

 

「……生理か?」

 

「来てないですからッ、て痛あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

痛みを逃がす為に体を捩っているイリを見て、少年はフッ、と笑った。

 

「あなたのせいですからねッ!!?」

 

つい、ツッコミをいれてしまった少女はまた痛みへの門を開いて悶え始めた。それを止められる唯一の人(養母)は失意に耐えかねて外出してしまっていた。故に、少女の絶叫を妨げる人はいない。

 

そんなカオスな状態から数分。

ようやく自身の体と闘え終えた少女は、はぁ、と溜め息を吐いて尤も気になることを問うた。

 

「なんで生理だと思ったんですか?」

 

「女が機嫌悪い時は、だいたい生理だと聞いていたからな…」

 

目を逸らした少年の雑な知識に、これみよがしとばかりに大きく溜め息を吐く。

これ以上突いたら、また話が拗れるだけだと悟ったイリは、強引に話を戻す。

 

「…あなたは感謝される理由が無いと思っているみたいですけど、私にはあるんですよ」

 

顔を向きなおした少年は続きを無言で促す。

 

「『魔』から私を救ってくださったこと、『魔』を救おうと自分の体を犠牲にした私を救ってくださったこと」

 

自身が行った異常性に気付くことなく淡々と述べていく少女を見て、少年は心の中で呟く。

なんで…こんな厄モノ引き受けちまったんだか。

 

「その二つに関して感謝を。ありがとうございました」

 

内心に気付いたわけではないだろうが、少女は光り輝く湖面の様な、虚偽を暴く銀色の瞳で少年を射抜く。

その真っ直ぐな瞳が、夢に溺れていた頃の自分を想起させて苛立った。

 

「…どうも」

 

だからだろうか、純粋な気持ちに無粋な態度で応じてしまった。

それでも、白の少女は全てを包み込む笑みを浮かべた。

一瞬、たった一瞬だが【救われた】と思ってしまった。その事に得体も知れぬ恐怖を抱く。

 

何が【救われた】だ。俺は懺悔などしていないし、少女は何も言っていない。そこに【救い】が介入する余地があるか?

 

初めて見た時は半信半疑だったが…今なら確信を持って言える。我が身を犠牲にしてまでも【救い】を与える精神性、微笑み一つで【救い】を与えるカリスマ。

 

これが、聖女

 

保護…という名で手元に置きたい気持ちも分かる。コイツが無差別に【救い】を撒くだけで人々はコイツを崇拝するだろう。信仰に目が眩んだ信徒どもほど面倒な人種はいない。それが膨れ上がれば最悪、聖女がトップの国を造るためだけに、国家の転覆すら行う可能性が出てくるからだ。

だから、慎重に扱わなければいけない。脂汗の浮かぶ手を握り締めて、ピンッと気を張り詰める。

 

「…突然で悪いが話がある」

 

出だしは考えても仕方ない。だが、内容はそうもいかない。

如何に相手にとってメリットとなる事柄だけを話すか、如何に100%の嘘を吐かないで言葉を飾るか。この二つこそが重要だと少年は思っている。

その信条に従って、戦闘時の様に高速で頭を回転させる。

 

「はい?」

 

少女の不可解そうな返事すら耳に留めずに、これまでの出来事を統合して虚構の道筋を求める。

 

相手は幼い――魔を救う――だが人を敵視しない――おそらく人も救う――だが力は無い

 

「お前は何を救いたいんだ?」

 

脳で電気が弾けると同時に口に出していた。

予想が確かならば、この方法なら連れ出せるという確信があったからだ。

 

真面目な話だと察知したらしい少女は、キュッと唇を引き締めて真っ直ぐ少年を見る。

その視線から一刻も早く逃れたい衝動はあるが、真剣な話をしているときに目を逸らすとどうなるかなど、余程の馬鹿でもない限りは分かっている。

早く終わんねえかなぁ、などと脳裏でぼやきつつ少女の目を見返す。

 

「生ける者全てです」

 

思わず一笑に付したくなるほど馬鹿げた答えが、滑稽なくらい真面目に少女の口から出てきた。

予想はしていたことだが、ここまで極まっているとは思いたくなかった。だが、これで少女は必ず着いてくる。

 

「なるほど…で、どうしたら救えると思う?」

 

「それは……考え中…です」

 

馬鹿だコイツ。

少女の返答を聞いた瞬間、少年が何度か思ってはいるが別の意味だった【馬鹿】がもう一つの意味を帯びた。有体に言えば、理想論者を笑う意味だったものが、アホ・考えなし・ポンコツetc.などという意味に変化したのだ。

 

見る見るうちに赤くなっていく少女を、可哀想なものを見るような目付きで見た少年は、気を取り直して望む方向に舵取りする。

 

「なら、参考程度に聞いてくれ。俺が思うに生き物を救うためには強くなくてはいけない」

 

「強く?」

 

「ああ。強くなければ…お前の様に見ているだけしかできない」

 

一瞬、ほんの一瞬だけだが少女の顔が歪んだのを捉えられてしまった。

自分で意図してやったことだが、思わず慰めたくなる。そんな感情を殺して言葉を続ける。

 

「だが、強ければそうはならない。力と力がぶつかり合っている場に入り込み、尚且つ生き延びられる」

 

「言葉では…止まらないのでしょうか」

 

半ば自分の答えを確かめる為の呟きを発した少女に、間髪いれずに答える。

 

「ああ。そもそも言葉を解す生き物自体が少ないだろう。もし言葉を解したとしても、闘争の最中は昂ぶっている。そんな中、闘う術も持たずに飛び出していけば、新たな闘争相手だと認識されて殺される可能性の方が高い」

 

「…そう、ですよね」

 

折れた。

その予感が、確信が、痺れるような感覚を訴えてくる。後は一言切り出せば良い。

 

「ココからが本題だ。お前は、闘う術が欲しいか?」

 

「……はい」

 

ほら、純粋な少女はこんな簡単に折れた。本当は争う力など欲しくないだろうに。それでも人を救うためなら、と涙ぐましい努力をする。

少年が語った事など()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なら、しばらくこの村にいるから、怪我が治り次第伝えに来い」

 

「分かりました」

 

硬い返事を聞き届けて、用は済んだとばかりに少年は背を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが何度目かの出会い。

けれども、どんな出会いより色褪せない出会い。

 

この話がなかったら、少女は旅立たなかった。

この話をしなかったら、少年は諦めたままだった。

 

だからこそ、この出会いは祝福だ。

 

 

たとえ ―――残虐で優しい聖女と呼ばれるようになってしまっても




ご読了ありがとうございました。
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