朝が来た。
窓の外から差し込む光に、眩しさを覚えて。
「やっば!」
飛び起きる。
手早く料理を済ませお食事。まあ、この後仕事で散々食べるんだけど。
ぱたぱたと真っ白い制服を着込み、寝床にもなっている辺縁プールを出る。
装備の確認も忘れてはいない。
帽子、OK。
インナー、OK。
電気系の接続、OK。
武器、ばっちし。
そして、通信機の電源を入れる。
「こちら2038番。これより定位置に向かう」
『今日もお勤めお願いしまーす』
ヘルパーT司令の声が聞こえる。
そして「定位置」こと集合場所に向かう。
「あ。やっほー
「みんな!」
骨髄球時代からの友人3人組と、新人研修の講師担当になっている先輩の好中球、4989番さん。
「じゃあ、休憩場所とか、寝るとことかも分かったところで、今日は肺方面に向かってみようか」
「はーーい!」
骨髄近くの寮を離れ、
今日は大変なことになりそうだ。
肺方面。つまり心臓を通る。
人混みで大変なことになるのは嫌でも予想がつく。
ゆっくりのんびり、5人で歩く。
4989番先輩とも、いずれ同僚として肩を並べて戦うことになりそうだ。
新人研修は全部で3日。今日で二日目だから、明後日から4人で――このβ班メンバーで戦うことになる。
そんな事を考えていると、音が鳴った。
──ピンポーン。
この少々お間抜けな音の発生源は私の後頭部。
デザインも音も、どっかのクイズ番組みたいでちょっと──いや、だいぶバカっぽいけど、侮るなかれ。
これ、私たちにとっての「スイッチ」のようなもので、この音を合図に私たちは豹変する。
穏やかな顔した通行人から、狩人へと。
「抗原どこだ!」
「ま、前のほう!肺炎球菌が出たらしいぞ!」
親切にも教えてくれる赤血球のひとり。
「さんきゅー!」
「お前たちも頑張れよーーー!俺も酸素配達頑張るからーー!」
免疫細胞に物怖じしない赤血球って、実は結構少ない。
血まみれになっても気にせずに敵を屠り続け、感染とあらば味方のはずの細胞たちも手にかけるから。また、レセプターの音を聞いた後の豹変ぶりも相まって、私たち好中球に話しかけるような人は少ない。
応援ありがとうの意味も込めて、すれ違いざまに帽子に縫い付けられた
しばらく走っていると、敵影が見えた。襲われている赤血球と、白い影も。
「ッ!」
4989番先輩が肩を震わせる。
しかしその目は、希望の光に満ち満ちていた。
頼もしい仲間が、そこにいたから。
無言で次々と肺炎球菌を掻っ捌いていく、白。
その姿に、居ても立っても居られなかった私は、駆け出した。
敵を屠りに。
現場近くの肺炎球菌が粗方片付き、貪食処理班と追撃班に一時別れた。
私たちはちゃっちゃと貪食を済ませ、肺へと急ぐ。
雑菌、不味かったけど。
「こちら4989番、引き続き侵入した肺炎球菌の捜索を続けています」
「こちらβ班代表、2038番。
各々連絡のために通信機を取り出し音声を吹き込む。
直ぐに、「りょうかーい」だの、「こっちは擦り傷だ!でも何とか対処出来そうだぞ」といった声が返ってくる。
「────っち、肺炎球菌のヤロー、どこ行きやがった……!!」
未だに狩人の瞳をした4989番先輩は、肺へと繋がる直通遊走路を睨んでいた。
肺炎球菌って言うくらいだし、肺にも何体か入り込んでいるかもしれない。と、私も思っていた。
でもさ。
肺に行ってもまだ騒ぎになってないってドユコト?
どっかの肺胞とかで隠れてるかもしんないよ?とは、β班の参謀0101番の弁。そのため、私達は現在地である左肺の肺胞を虱潰しに探索していた。
結果、私は五体もの肺炎球菌を発見。一体見つけたらあれよあれよという間に次々見つかり、4989番先輩の同僚さんが見つけた一体、β班の残り3人も全員で10体見つけ、合わせて16の肺炎球菌をくしゃみ1号に乗せて体外に叩き込んでやった。
──ピンポーン。
またかっ!このレセプター!
どうやら喉から細菌どもが攻めてきたようだ。
意識が戦闘モードに切り替わる。
気づけば私は叫んでいた。
「このっ、雑菌野郎っ!!!」
私の背後で、「んじゃあ、お疲れ様です……」という声が聞こえた気がした。