こちら白血球好中球課!   作:リッティー

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Ep3 すり傷 後編 振るえ、刃を。

Side:2038

 

いったん傷口から離れたものの、結構すぐに現場に舞い戻ってきた。

仲間が苦戦中とあらば駆け付けないわけにはいかない。

しかし。現場は私の予想を超えてひどい有様になっていた。

ドーム状の血管壁が所々壊され、とてもじゃないけど足場として使えそうにない。

しかも!まだいるんだよ黄色ブドウ球菌!!しかも絶対指揮官な個体!

下で雑菌ども退治しててもいいけど、やっぱり上で空中戦を挑む方が私の性分に合っている気がする。でも足場がなければ空中戦も出来ないんだけど。浮遊能力とかズルい。

 

足場がないからろくに空中戦が出来ず、下で黄色ブドウ球菌の触手を弾くしかない。その間に大量に侵入する細菌たち。数えるのも億劫なほど入ってきてる。

 

「応援だぞーー!!」

 

4989番先輩、0101、0871、7539(β班メンバー)、accord班の皆さん、その他もろもろ。

 

正直頼もしいけど……マクロファージさん達がまだ来てない。

内心で舌打ちをする。

 

強く、風が吹いた。

私達の移動を妨げ吹き飛ばす強風が。

 

「うわあああああああ!?」

聞き覚えのありすぎる叫び声。先輩の声。

 

「4989番!?L-セレクチンちゃんと付けとけーーー!」

1146番さんの声をよそに、私は本気で舌打ちをした。

L-セレクチン。

私が壁走りの際に使ったものだ。

接着分子と呼ばれており、血管の壁にくっつくことが出来るようにする効果がある。

私も利用量をセーブしていたが、何とか無事だった。

 

「あらあらー、貴方のお仲間さんは随分頼りないのねー」

上から投じられる声。黄色ブドウ球菌だ。

今すぐにでも殺りたい指揮官個体だと直感するが、生憎足場代わりの壁もない。大ジャンプからの空中殺法しか方策がないと知って防戦一方になる。投げナイフも弾かれるのがオチだ。

でも、希望はある。

一人一人は小さくても、集まれば巨大な力になる──

それを体現した血球仲間が。

待つしかない。

決死の防衛戦をしばらく続け、大分疲弊した頃。

 

 

私の耳が、何人もの足音を捉えた。

一斉に止まり、投じられるのは。

「「「「「「「「「「お疲れ様です!!!!!!」」」」」」」」」」

激励のキッズソプラノだった。

 

「は?」

細菌達の時間が止まる。

 

「はぐれないように、勝手な行動しないことっ!」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

「他の子とケンカしないことっ!」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

「GP1bとかをちゃんと使って、飛ばされないようにすることっ!」

「「「「「「「はいーーーー!」」」」」」」

カンペ見ながら注意事項確認してるよ……可愛すぎか!

まぁ、血小板達は見た目子供だ。

 

「凝固因子は持ちましたかー?」

「「「「「「「「「持ったよーーーーー!」」」」」」」」」

「それじゃぁ行くよおおおおおおおおおおおお!」

スルスルと紐を使って器用に下に降り、フィブリンという名の建築資材を惜しげも無く使って基礎固め。下に降りるまでが大変だけど、私達・好中球の援護と小さい体格を活かしてササッと傷口に集合して、作業はどんどん進められていく。

そして、待ちに待った声が投じられた。

 

 

 

「血栓完成ーーー!」

 

 

血栓。

それは外界とこのセカイを隔てる臨時の壁。

臨時とはいえ糊のようにベタベタくっついて離れない。

そして、隔てられたと言うことはつまり、誰も入ってこないということ。

心置き無く殺れる。

落ちる心配が無くなり、封印していた飛び蹴り殺法、空中戦を惜しげも無く解放した。

 

最後の1匹となった例の黄色ブドウ球菌は、下からの1146番さんの斬撃と上からの私の一閃で絶命した。

フィブリンネットにぼすんとダイブすると、ようやく仕事が終わったと感じる。

 

……ん?

視界右端に白い影。ってまさか!?

そちらを見て、驚愕して、1146番さんと同時に叫んだ。

 

「あ!先輩(4989番)生きてた!」

 

 

そして、その後、フィブリンネットに巻き込まれた者の末路を、身をもって知ることとなった。

 

好中球課業務細則には、フィブリンネットに巻き込まれた場合には五日間の休暇が与えられると書いてあった。血管に穴が空いた時には、自分達(血球)の身体を使って穴を塞ぐためだ。

大抵の場合、血管基礎工事及び血栓業務は三日で終わるが、場合によって五日ほどかかることもあるが故の処置である。

 

しかしキツい。

そう。血餅とも呼ばれるこの状態は、通常流れる血球達をフィブリンで絡めてぎゅうぎゅうに押し込んだ状態なのだ。当然暑いほどの血球密度に、死にそうになる仲間続出である。

 

 

 

 

三日間。地獄の日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後。

「ふー、やっと解放されたー!」

大きく伸びをすると、私は近くの寝台付き辺縁プールを探しに歩き出した。

業務細則の「五日間の休暇」は、血栓期間含めて、だ。三日目に解放された私は、この後ぐっすり寝て、身体を温めつつ体内の温泉街、鼻腔へと行こう。と思いながら、遊走路の中にあるハシゴに手をかけた。

 

今日の寝床は辺縁プールだ。

 

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