戦いながらキラーT細胞の皆さんに事情を聞いた。
T細胞の最終分化形態は主に3種類──
サプレッサーは制御性とも言うらしいが、それは置いといて。
重要なのは、これらが《最終》であること。
つまり前駆細胞とも言うべき期間は当然あり、その前駆細胞期間の最後の時期が、ナイーブT細胞、という訳だ。
「助ける者」を意味するヘルパー、「殺戮」を意味するキラー、「静音」から「抑制」へと意味が発展したサプレッサー、そして──
「純真、純粋」を意味するナイーブ。
英語の意味から推察するに、ナイーブT細胞は恐らく、「実戦つまり命のやり取りの経験がないT細胞」のことだろう。ヤナイがヘナチョコ戦闘員と評したのも頷ける。
そして、キラーT細胞に分化するナイーブT細胞は特に変化が見られる、「活性化」現象が起こる場合がある。
そして、その活性化を引き起こす鍵が、サイトカイン。
マクロファージさんの連絡は、直接ヘルパーT司令部に行くわけではない。一旦、樹状細胞を通すのだ。
そしてその樹状細胞が、問題のサイトカインを分泌する。
私達好中球にも効果のあるそれ──IL-12は、
『免疫系細胞達が被写体になった、目を背けたくなるほど恥ずかしい黒歴史写真』
というかたちをとっているのだ。
黒歴史系サイトカインの印象が強すぎて『緑の悪魔』の異名を持つ細胞、それが樹状細胞なのだ。
ともあれ彼らの助けを借りて活性化したナイーブT細胞は、もはやビクつきの欠片もない逞しい青年になるのだという。
「引っ張ってけろー」
「ハク先輩またですか……」
さて。戦場が変わったせいで4989番/ハク先輩が遊走路出口で引っ掛かるという珍事を起こしたが、応援のキラーT細胞や好中球、マクロファージが次々現場に到着している。
「ふっ!」
「そぉりゃっ!」
「ぶちかませっ!」
私は最前線で、咽頭班の班長を務めるキラーT細胞さんと、1146番さんと共に戦っていた。
「あんま出過ぎんなよミツハ!」
レイレイの叱責が飛ぶ。問題ない。今のところ、制服を染め上げる赤は全部返り血だ。
「たあっ!」
反転して回り込んでいたウイルス感染細胞を二人切り刻む。
背後から飛んでくる大鉈はマクロファージさん。
更に壁を使って跳躍高度を伸ばし、マンションのベランダでお湯をかけられて気絶していた感染細胞にトドメを差す。
「そのまま引き付けてて、ミツハさん!
それとB細胞課から連絡入りました、抗体開発完了です!
直線陣形そのまま!A-3地区には入らせないようにお願いします!」
私がニコちゃん先輩と呼んでいる2525番さんは、戦場での指揮と狙撃力に長けている、稀有な好中球だ。体力はそんなに無いが、迅速に作戦を組みたて、上司にあたるキラーT細胞をも指揮下に置く現場参謀が抗体開発完了を報せた。
「「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」」
「これで殺りやすくなるな!」
この場に於ける第二の知恵者2048番さんは、今日は殺意メーターが振り切れているらしかった。
「!?」
「どしたん?キラーTさん達」
いきなりキラーT細胞の皆さんが硬直し、「歴史が紐解かれた」とか何とか言ってる。大丈夫かな?と思った矢先に声が降ってくる。
ニコちゃん先輩だ。
「あーーー、サイトカイン案件か」
「サイトカイン?って、樹状さんが分泌するアレ?」
「そーそーソレソレ。たぶん逃げてったナイーブくん、活性化して帰って来るよ」
ニコちゃん先輩の言葉に、はて、と疑問を覚えた。
帰ってくる?あのビクビクして逃げ出した彼が?
連戦に次ぐ連戦とキリなく増殖し続ける
B細胞の応援までもう少し、というところで──
ドゴオオオオオンッ!
壁が揺れ、崩れ、中から筋骨隆々の誰かの腕が、拳を作って突き出ていた。
知識量=戦闘指揮官適正はナゴミ&ヤナイ<ミツハ<レイレイ&ハク<2048番/ヨツバ<ニコ=ヘルパーT司令。
ニコは体力がないのを自覚しているので、代わりに戦術書なんかを読みまくって指揮官として戦うことを選んだ。