皆さんどうか、気をつけてっ!
ドゴオオオオオンッ!
壁から手が突き出ているという怪現象。
キラーT細胞の皆さんも、マクロファージの皆さんも、先輩方も勿論私も、そしてお敵さんも硬直。
瓦礫を割って出てきたのは、見覚えの無さそうな人。
でも逆だった髪と被っている帽子の「NAIVE」の文字、ピッチピチかつ所々破けた黒い軍服が否応なく「彼」を思い起こさせる。
「皆さん」
既に変声まで終わってしまっている成長力に戦慄したまま、動向を見守る。
「先程は見苦しい姿を見せ、失礼しました。」
のっしのっしとこちらに向かって歩いてくる。
というかアレ?背、班長さんより高くない?
「しかし僕は過去の自分を乗り越え、活性化して帰ってきました」
そう。その人は──
「元・ナイーブT細胞です!」
インフルエンザウイルス感染細胞の大軍を前に尻尾を巻いて逃げていた、
更にかつかつ鳴り響く軍靴の音。まさか、まさかまさか───!?
「「「「「「「分裂増殖もしてきました!!!!」」」」」」」
増えてるーーー!?と、マクロファージ共々叫ぶ。
ビックリ、真面目にビックリだ。
おっしゃー、これで百人力だー、感染細胞ぶっ潰すー!などと叫ぶキラーT細胞の皆さん。流石、慣れてらっしゃる。
そんな中で、軽やかな着地音。
「お待たせしました、B細胞ッス!抗体作ってきました!」
ニコちゃん先輩が言ってたB細胞くんだ。
キラーT部隊の士気が上がりまくる。
「全員ぶっ潰す!」
ってコラ、B細胞くんの仕事とるな。
そしてちょっと怖いでしょコレ。
そこからの七日間の戦いは、激動の日々だった。
各器官の連携行動。汗腺の細胞さんは発汗を促進し、脳細胞の皆さんは発熱を促して一般の方々に「お湯」という名の武器を提供する。胃腸の消化エネルギーさえも治癒に回し、相変わらずの細菌誘導率を誇るとある赤毛の赤血球は、激戦区をあちこち走り回っては酸素や救援物資を配達しまくっていた。
そして、廃墟となってしまった細胞組織で、日々働いた私達。外側から救援物資と共に乳酸菌も届いたため、樹状さんが「IL-12」と書かれたダンボールを抱え、コート+グラサン+ムチという出で立ちで黒歴史写真をばら撒きまくった。羞恥のあまり活性化してしまったのがだいたい四日前だと思う。というのも時間感覚が失せてしまったからだ。活性化した私は見境が無くなるらしく、「青い瞳を煌々とギラつかせながら感染細胞を手にかけてた」とは、この辺りの細胞さんのことば。
ともあれ多々の皆さんの協力で、最後のウイルス感染細胞が倒れた。
トドメはあのナイーブT細胞さんだった。
が。
現状は、甘くないのだ。
戦勝祝いで飲んだ食ったの大騒ぎな咽頭A-4地区。
一般の細胞さん達も交えた本格的な宴だ。
そこに現れる、緑と赤のシルエット。
ピンポーン、とレセプターが軽やかな音を立てて立ち上がった。
インフルエンザウイルス感染細胞。
「既に何万もの仲間が葬られたと言うのに……」
班長とも和解した例のナイーブさんは、すっかり強気な発言。
「苦しまぬよう、一撃で葬りましょう」
その隙に帽子──ウイルスに目をやる。
って、ちょ、マジか!?
コレはナイーブくん、悪手だわ。
予想通り吹っ飛ばされるナイーブくん。
ムキムキのエフェクター状態からナイーブに逆戻りした青年、やっとこ気づいた1146番さん。
「A型の……インフルエンザ……」
うん、そうだね、やばいねえ、特に私達、疲れ切ってるからねえ。
つーか宿主何やってんの。
「こちらマクロファージ、今度はA型のインフルエンザウイルスが侵入したようですわ」
抗原提示がなされる。
B細胞は抗体作ってくる、と一目散に退散して行った。
後に残るは私達。
「ちょ、疲れてんだけどーー!?」
「ぐはああああああああ!!」
ハクさんや班長さん、前線に出ることになってしまったニコちゃん先輩、ヤナイ、ナゴミ、レイレイ等々の悲鳴と細胞達の絶叫をBGMに、2回目の戦いが幕を開けた。
後日。
ぶはーーー、疲れたああああああぁぁぁ。
と、盛大なため息をつきながら、青い瞳の白い少女がハシゴを登った。
寮代わりにもなっている辺縁プールに到達すると、レセプターの着いた制帽も武器類も片っ端から外して行く。
「寝るのが一番だよ、疲れた時には。」
おやすみー、と声がしてしばらくすると、少女はすやすやと寝息を立て始めた。
「ミツハ、寝るの早いなあ」
5分後、辺縁プールにやってきた隣の部屋の同僚──個体識別番号0101番が、そう呟いた。