こちら白血球好中球課!   作:リッティー

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番外編的な位置づけ。


Ep.7 方向音痴の彼女との出会い

 

体内の巡回経路は、部位さえ分かっていればそれ程多くない。

「全身のパトロール」は血管を主に通る。

数多の血球で混み合う心臓を通り抜ければ肺に達する。

そのまま留まるもよし、気管支に行くもよしだ。

 

さて。

右腕の肘付近を中心に巡回していた私は、地図をくるくる回し、うんうん唸っている赤血球の少女を発見した。

迷子だ。

キャスケットからぴよんと飛び出すアホ毛が可愛らしい赤血球は、「ここ何処だろう???」と言っている。

台車をチェック──酸素だ。

「どうしたの?もしかして迷子?」

「はい……お恥ずかしながら、また…………」

また?

と、思いながらも続いた言葉に更に驚愕した。

「左膝の細胞さんに届けるんですけど、ここどこでしょうか?」

え。まって。

まさかここまで間違えるとかとんだ方向音痴でしょコレ!!

「右腕。案内したげる。でもその前にちょっと待って」

私の担当たる右腕を離れる、と、ヤナイに連絡を入れる。

そして通信機からヤナイの声と……別の人の声。

確か2048番さん。私はヨツバさんと呼んでいる。

『了解、あ、ヨツバが代わってって。ちょいまちー』

「『赤血球ちゃん』見なかったか?あ、赤毛でアホ毛の赤血球なんだが。識別番号はAE-3803。」

ちらりと帽子を改めて見る。縫い付けられた個体識別番号(コードナンバー)は、AE-3803。本人だ。

「今隣にいる。左膝に行くはずなのに右腕に行ってて。これから案内」

『了解、1146番見かけたら引き渡してくれ。』

そう言ってヨツバさんはヤナイの通信機を切った。

 

「白血球さんのお友達さんなんですか?」

赤血球の彼女が尋ねてきた。

「その『白血球さん』って1146番さんのことだよね?違うよー。その人の、親友さんが、新人研修担当で、それで知り合ったの。」

そうかーー、だったら2048番さんかな、4989番さんかな、いやいや意外と2626番さんの可能性も……と、可能性ありそうな人物をあげて行く。

だから教えてあげた。

「シロさん……あーいや、1146番さん通じて知り合ってるかな?4989番さん。私はハクさんって呼んでるけど」

「そうなんですね!確かにあの人話しやすそうです」

「もう見てるかも知んないけど、私は2038番。番号で呼ばれるのはあんまり得意じゃなくて……ミツハって呼んでね」

「ミツハさん、ですか……ちなみに、2048番さんと2626番さんのあだ名も付けてるんですか?」

「勿論。ヨツバとツムギ。」

なるほどーと言いながら律儀にメモしている。

「赤血球課のAE-3803番です!ミツハさんミツハさん、私にもあだ名つけてください!」

「んーーと、サヤ。」

「ミツハさんセンスあるー!」

つっても番号もじっただけだよーと笑う。

肺炎球菌の時のPO1076番さんは私達を見た時安心感と同時に僅かな恐怖が垣間見えたが(細菌に殺されかけたからかもしれないけど)、サヤは安心しきってくれている。そういえば貪食中は赤血球や細胞から引かれるのがデフォルトなのだが、そんな中で近付いてきている赤血球の少女に少なからず衝撃を覚えた記憶がある。そして1146番さんと何やら話して、その時の彼の貪食スピードが物凄く早くなっていたのも思い出した。なるほどあの時の子だったのか。

 

肩の方に着いたところで、それに気づいた。

背後から、殺気にも似た気配。

感度最大、音量最小のレセプターが、ピンポーンと音を立てて立ち上がった。

細菌の襲来。

「逃げてて。ちょっとこいつら倒してくる」

「でもっ、前からも来てますよ……?」

言われて気付く。挟み撃ちされた!?

「とりあえず前から殺る、開いた穴からあなたは逃げて」

()()()()()()()

1、2、3、4。

右と左に逆手で持ったナイフは、細菌の装甲を傷付け、肉を切り裂く。前からも後ろからも増援がやって来て、カラフルな影が白に駆逐されていく。どうやら半分は逃げて──え?半分しか居ない??

疑問を解決してくれたのは、ニコちゃん先輩だった。

「ハク、ミツハ。右折後くまなく探して。あの子、()()()()()。」

「了解」

あの子というのがサヤのことなら、真面目に危ない。

赤血球は戦闘力を持たない存在だ。溶血していたら目も当てられない。

私達は走り出した。

 

ハク先輩と私は、《速度》に優れている。機動力も高く、捕捉、追跡の担当はほとんど私達に振り分けられる事が多い。

街中の壁を次々蹴りながら、私は赤い少女を探していた。

レセプターが反応しているうちは聴覚や嗅覚が鋭敏化するため、あの声を、細菌どもの臭いを、聴き分け、嗅ぎ分ける。感覚が導く方角へ走る。

赤血球ひとりを、20の大群で追い回す細菌がハッキリ見えた。

最後の壁蹴り。垂直落下中に2回前方宙返り、そのうちにナイフを抜いて、追い回していた奴らのうちのひとりを血の海へと叩き落とす。

一撃だ。

「ふぇぇぇぇぇぇ」

細菌か、私か。

どちらに怖くなったか分からないけど、サヤが後ずさりした。

ちらりとそちらを見て、敵を見据える。

「大丈夫。すぐに終わらせてくる。」

だから安心して、と言外に伝えると、サヤは台車を道の端に寄せ、極細の毛細血管から戦況を見守ることにしたらしい。

「もう嗅ぎつけてたか、白血球さんよォ。でも、1対19だぜー?」

緑膿菌が煽ってきた。

反論はたった一言。

「舐めないで」

 

駆け出す。

風になる。

先程煽ってきた緑膿菌の鞭毛を一息に切り刻む。

非戦闘員より私に狙いをつけて向かってくる紫の鉤爪付き触手──肺炎球菌のものだ──は、十分に引き付けた上で撃ってきた6本まとめて力任せに両断する。

全身棘だらけの細菌は目の部分に傷を入れ、刃物のような針を持つ細菌は上から下へ刃を差し込み断ち割った。

化膿レンサ球菌の連鎖触手を中央でスパーンと解体し、珍しく地上に降りていた黄色ブドウ球菌の懐に潜り込み、核を一突き。

生体反応が失われたのを確認せずに、棘付きの球体を武器とする細菌に刃を振るう。

止血しようとあくせくしていた緑膿菌を踏みつけざまにナイフを奥まで差し込み、先程の肺炎球菌を上下真っ二つにしてやる。

新たな刃を取り出し、自身の白を敵の血で赤く染めながら、レセプターの反応が完全に消えるまで、私は暴れに暴れた。

 

血の海と死体の山。

その頂上に私はいた。

制服も赤く染まり、抜いた刃も血に塗れている。

これからここの『後処理』をせねばならない。

周囲には、ハク先輩とサヤの二人だけ。

「何回も見てますので、大丈夫です」

目で尋ねるとそう返ってきた。

貪れたのは4体だけ。あとは加水分解酵素スプレーをふりかけて溶かした。大食いのハク先輩は6体食べていたので、10の死体が、泡となって消えていった。

 

「細菌って美味しいもんなんでしょうか?」

興味本位だろうか。サヤが聞く。

「超マズイ。」

即答してやった。

 

 

洗い場で返り血を洗浄し、元通りの真っ白に戻る。

まだ細菌特有の苦味が口内に残っていたので、サヤが好きだと言っていた「濃厚いちごグルコースアイス」を買って、女の子二人で並んで食べた。口直しとはいえ、少しだけ酸味のあるこのグルコースアイスは私も好きだ。ぺろぺろ舐めていると。

「赤血球と……ミツハか」

「白血球さん!!」

「シロ先輩!」

お待ちかね(?)の1146番登場。

アイスを超高速で綺麗さっぱり舐めきると、私はその休憩スペースのベンチから足早に去った。

これからはあの二人が天然特大のグルコースだ。

これ以上甘味を摂取したら、胸焼けを起こしそうだった。

 

 




この後シロさんがしっかり左膝まで案内しました。
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