私も体内でこいつらが暴れてます。
スギ花粉が。
眼球粘膜と視覚野は、このセカイの外のことを「見て」知ることが出来る場所だ。
インフルエンザの後、大雪と雪解けを経験し。
私が血管内で働き始めて初めての春が来た。
眼球粘膜が、動乱に包まれはじめていた。
「スギ花粉、10秒後に着弾します!!」
ヘルパーT細胞の声が響く。
ここは神経に接続する司令室。
「着弾」に合わせてまばたきをすることで、異物の侵入を防ぐ機構を司っている。
しかし彼らの必死の努力にも関わらず、スギ花粉は着弾してしまった。
アレルゲンが体内に侵入する。
「平和だなぁーー」
パイプの上で足をぶらつかせながら、眼下の幹線道路=血管を見下ろす。この時間は好きだ。赤がぞろぞろと流れていき、時折交じる白がモザイクを作る道を見る時間が。
ふっと遠くを見晴らして──
それに気付いた。
赤と白による秩序が乱れ、黄色が目立つ道に。
事件の予感を察知して駆け出す。遅れて鳴ったぴんぽーんという音は制帽に取り付けられたレセプターだ。
「ごめんねっ、通して!」
それだけでそそくさと赤血球達は道を開ける。
アレが到底太刀打ちできない敵だと本能的に分かっているから、彼らは私たちに道を譲るのだ。
「スーーーギーーーーーーーー!」
黄色い影が巨大化する。
大きな敵に対して、2本のナイフはあまりにも小さすぎる。それでも一閃で、ヤツは倒れた。
「なんだ、たいしたことないじゃん。一応食べとくか。いただきまーす」
手を合わせて、一口かぶりつく。青臭さが鼻につく。細菌類特有の苦みは皆無。
今回侵入してきたのは、一般的には『無害』だとされているスギ花粉だ。
……単体なら。
だけど、今回は、今年は違ったらしい。
「スギーーー」
「スギーー?」
え。待って。なんか、いっぱい居ない?
見えてるだけでもいちにーさんしー……10以上はいる。
すぐ近くには排水口があり、そこから彼らはこちら側に侵入を果たしたらしい。
って、また増えた。この増殖ペースおかしくない!?もう30!斬りまくってるけど!
こんな時には、援軍を呼ぶしかない。
と思って、胸ポケットから通信機を取り出した。
「こちら2038番。右眼の眼球結膜のスギ花粉、視認範囲で50超えました。対処お願いします」
さて、時間稼ぎだ。
Side:ヘルパーT
あちこちからかかってくる電話に忙殺されている最中。僕の耳はその声をとらえた。
『こちら2038番。右眼の眼球結膜のスギ花粉、視認範囲で50超えました。対処お願いします』
2038番ちゃん。通称ミツハ。通り名は《三閃刃》。司令部常勤の僕らでさえも、彼女には助けてもらっている。
場所の伝達が的確だからだ。
マイクに声を吹き込む。
「了解。B細胞を送り込む。安心しろ。何年も前に抗原提示は済んでいるからな」
『足止めします。至急お願いします』
素早い返答。通信機越しでも、スギ花粉を切り裂く音は鮮明に聞こえる。
声の送り先をとあるB細胞の事務所に設定すると、僕は指令を送った。
「出番だぞB細胞くん、眼球結膜のスギ花粉を駆逐せよ!」
今回はここまで。
まだどこも騒ぎになってないようだけど……?