「お待たせしましたっス!」
やっとB細胞くんが戦場へとやってきた。
「喰らえIgE抗体!」
と、対抗物資が大量に溶け込んだ薬液が発射される。
どばしゃああああ!
と発射されたそれは、スギ花粉を次々に溶かして行った。
「まずいなぁー。マジでこれはまずい」
しばらく資料室に入り浸っていたレイレイがやってきた。一体何がまずいんだろう?
「IgEが放出されすぎると、ヒスタミンがどばっしゃーーーーって出てくるみたいなんだよ。記憶さんから聞いたんだけどな」
へええええ。
記憶さん。
B細胞が変化した、免疫記憶を司る
オーバーリアクションで細胞達にはかなり人気らしい。
「まあ、実際に聞いたのはこんな感じだけどな。
『聖なる霧が地上を包む。されどその時、災厄の幕は上がるのだ』
それと、『霧は大雨となり全てを押し流す』、だったかな。メモとして残されてて、本人は意味を分かってないっぽかったけど。」
詩人だった。記憶さん。
「いや、先代だけどな!?」
別人だった。
そうして話しているうちにも、B細胞くんは次々に抗体薬液を発射してスギ花粉を駆逐していく。
「なあ、もうそろそろ俺らでも殺れそうだし抗体止めね?」
「あ、そうッスね。でも大丈夫っス!もうすぐヒスタミンが放出されますから!」
レイレイの忠告に答えて射出を止めたB細胞くんは、さっ、と指を上に向けた。
頭上のノズルから、ヒスタミンは分泌されるのだ。
そしてその職務を請け負っているのは、マスト細胞さん。
「マニュアル通り」を信条とする白衣の細胞さん。「肥満細胞」の別名もあるけど、あまり呼ばれたがらない。というかそう呼んだらド怒りする。通り名は《ヒステリー細胞》だとか。
ういーん、と出てきたノズルが……引っ込んだ。
「アレっ?」
虚を付かれる私。
「ノズル交換するんスかね?」
上を見続けるB細胞くん。
そして、私たちを巨大な影が覆った。
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
私、レイレイ、B細胞くんはもとより、往来を行き来する細胞達や赤血球も足を止めて困惑する。
身長の何倍もあろうかという太さのノズルが出てきていたからだ。
「何よこれ……!?」
「おいおいこのデカさはやべーだろ……」
「やめてやめてまだ酸素配達終わってないからって……」
どばっしゃーーーー!!!
ヒスタミンが滝のように流れ出した。
「「「「「「うわあああああああっ!?」」」」」」
大洪水。正しく大雨。
流されるがままになる。
「ごぱっ!ミツハ、大丈夫か?」
「大丈夫だけど、状況がヤバい!」
そう。一部の細胞達が、マスト細胞さんの事務所に駆け込んでいく所を、見てしまったのだ。たぶん事務所から出てきて大乱闘になるだろう。
分泌中枢がショートして、発動した緊急免疫システム。
乱発されるくしゃみロケット、溢れ出す涙のダム、地殻変動が起こって地盤が上がってしまい、ボロボロになった鼻腔温泉街。
記憶さん達に伝わる、スギ花粉アレルギーの発動。
毎年春の、動乱だ。
本編の体内は涙、くしゃみ、鼻詰まり。
私は鼻水、くしゃみ、目のかゆみ。