俺はみほエリが見たかっただけなのに   作:車輪(元新作)

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最終回なので初投稿です


エピローグ

「改めて、久しぶりだね赤星さん。 試合前はごめん」

「いいんです。 お久しぶりです天翔さん」

 

 沈み行く夕日が大地を染め上げる中で、2人の少女が互いの手を握り合って微笑んでいた。

 かたや腰ほどまである黒髪を尾のように束ねた小学生と見まごうほどに小柄な少女。

 かたやふわふわとした焦げ茶色の髪で柔和な印象を抱かせる少女。

 天翔エミと赤星小梅、実に試合前ぶりの再会だった。

 

「前よりも髪が伸びました? 」

「そうかな、流石に試合中に見てわかるほどは伸びないぜ?」

「もう、そうじゃなくて!」

 

 からかわれてむくれる小梅にくつくつと湯の沸くような笑いを零したエミは、落ち着いたところで小梅の顔を見つめて、少し色の違う微笑みを浮かべる。

 

「君が、戦車道を続けていてくれて、本当によかった。 あのあと話す機会もなくて、こっちに来てからは連絡も取れなかったから。 あの事故がトラウマになってたらどうしようかとずっと不安だったんだ」

「私こそ、私たちを助けたせいでエミさんが、エミさんが……う、うぁ……」

「ほらほら、泣かないの。 これ使って」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 感極まって泣き崩れた小梅の目元を、エミはハンカチで優しく拭ってあげた。

 

「エミさんが、あんなに戦車道に真摯だったエミさんが……わたしのせいで戦車道やめちゃったら、どうしようって、ずっと不安だった……! だから、今日前よりずっと元気だったエミさんを見れて、わたし……嬉しくて……!」

「ありがとう。 君は本当に優しい人だ」

 

 泣いている小梅の背中を、エミは優しくさすってあげた。

 しばらくそうしているうちにようやく泣き止んだ小梅は、ハンカチとエミを交互に見て恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ご、ごめんなさい、恥ずかしいところを……ハンカチ、えーと洗って……でも」

「いいよ、それはあげる。 安物だから気にしない」

「でも」

「気にするっていうなら、また会った時に返してくれればいい。 またいつか戦う時に」

「……うん!」

 

 とびっきりの素敵な笑顔で返事をした小梅に、エミも少し不恰好な満面の笑みを返す。

 

「じゃ、私はこれで……きっと、もっと大切な話があったんだよね」

「ごめんね、気を使わせて。 じゃあ、また会おう赤星さん。 今度は甘味でもつまみながらゆっくり話をしよう」

「うん!」

 

 赤星は最後に一度頭を下げてから、小走りで走り去っていった。

 それを見届けてから、エミもまた踵を返す。

 これからまだ一つ、大きな仕事をやり遂げなければならない。

 

「小梅ちゃんというとみぽりんとのカプかな……すまんな小梅ちゃん、この世界のみぽりんはエリカ用なんだ」

 

 エミカスはエミカスだった。

 

 

 

 

 

「みほ……結局やられっぱなしになってしまったな。 姉として失格だ」

「そんなことないよ! もしあの高所を陣取った時にお姉ちゃんが平野で陣を敷いてたら……アレはきっと、そうしたくてもできなかったんだよね」

「そうだな。 それでも、私は自分が出せる全ての力を持って挑んで、そして負けたんだ。小さい存在だよ、私は」

「違う! お姉ちゃんは強かったよ!」

「……みほは相変わらず優しいな。 変わってなくて、嬉しい」

 

 エミは、記憶をたどってみほの足取りを追った。

 そしてそこで、尊いものを見た。

 みほとまほが、互いを抱きしめ合っている。

 そして互いの健闘を称え合って、互いの無事を喜び合って、そして勝手に黒森峰をやめたことを、みほの異変に気がつけなかったことを、涙を流して謝り合っている。

 一瞬夕日の光に溶けて消えそうになったけれど、まだそれはできない。

 エミは空気が読めてないことを承知でそんな2人に歩み寄った。

 

「みほ。 ……おじゃまだったかな」

「あっ、エミちゃん」

 

 声を聞いた途端に、みほはまほから離れて涙に濡れた目元をぐしぐしと拭った。

 まほにちょっとだけ睨まれたので苦笑を返すと仕方ないなぁと笑われる。

 

「まほ隊長に、心配かけたこと謝った?」

「うん。 ちゃんと謝ったよ」

「ん、よかった。 まほ隊長も、話したいことは話せましたか?」

「あぁ、全部言えた。 もう、みほは心配ないみたいだな、少し寂しいくらいだ」

 

 朗らかに笑い合う姉妹を見ると、やはりその笑い方が似ているのがわかる。

 もともとこの2人は喧嘩をしたわけでもない、少しのすれ違いさえ理解し合えたならまた以前のように仲のいい姉妹になれるだろう。

 

「……でも、あと一つやらなきゃいけないことがあるね」

「……うん」

「みほ……」

「大丈夫、お姉ちゃん」

「うん……エリカ」

 

 エミがその名前を呼ぶと、建物の陰からスッと人影が現れた。

 日本人離れした銀の髪は、夕日色に染められている。

 

「いつ……え、エリカ、さん」

「……みほ」

 

 2人が、数歩分の距離を開いて向かい合った。

 まほも、エミも、少し離れて2人の様子を見守る。

 まほが横目でエミを見ると、かつてないほど不安そうな様子で唇を噛み締めている。

 

「……」

「……」

「……あ、あの、ごめんなさい!!」

 

 数分か、数秒か、沈黙をみほが先に破り、エリカに深々と頭を下げた。

 

「わ、私。 必死で、エミちゃんのことを、助けなきゃって……なんとかしなくちゃって……でも、それで……エリカさんに、何も話さずに黒森峰を出ていっちゃって……」

 

 言葉尻が小さくなると同時に、みほの目がみるみるうちに潤んでいく。

 思わず飛び出しそうになる体をエミがなんとか抑え込んでいる。

 そうだ、これは決して、他者が手を貸してはダメだ。

 

「謝ろうって思って、でも、エリカさん、すごく、怒ってて……何言えばいいかわからなくて、私もムキになっちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 滴る涙が道路をわずかに潤していく。

 そんなみほを黙って見つめていたエリカは、しばらくして大げさにため息をついた。

 

「ったく……みほ!」

「ひぅっ」

「こっちこそ、怒って……その、悪かった……わよ」

「ぇ……」

 

 意外な言葉だったのか、みほが涙で濡れそぼった顔を上げて、エリカを見つめる。

 

「みほはその、あの事故では私よりもずっと、責任を感じる立場だったし、その、あれよ。 あと、家族がエミを責めたりして、きっと私よりもずっとエミに申し訳なく思ってたと思うし……でも、そんなこと私は少しも思いつかなかった。 だから私も怒って悪かった」

「……許して、くれるの?」

「あーーっと、あー、お互い様よお互い様! お互い悪かったから、水に流すってことで……いい?」

 

 呆然としたみほに、様子を伺うようなエリカ。

 互いがしばらく硬直して、そして、堰を切ったようにまたみほが泣き始めた。

 

「……う、うぅ、うぇっ、うえぇぇ……えりがざん、ごめんなざい、ごめんなざぁい……!!」

「だぁぁもう泣いたまま抱きつくんじゃあない! この泣き虫! っとにもう……私だってあんたと……あんたと喧嘩してるの……辛かったんだから、バカァ……!」

 

 つられて泣き出したエリカもみほの体を抱きしめて、2人で泣きながら、笑いながら、謝りあっている。

 その姿を見てようやく、まほは胸の中のドロドロが全て洗い流されていくのを感じた。

 2人はまた、前のように戻れるだろう。

 いや、一度こじれにこじれたからこそ、再び手を取り合えたなら前よりも強固な絆が紡がれたはずだ。

 人目もはばからずわんわんとなく2人をあまり見つめるのも無粋かと視線を外して

 

 そこで初めて、まほはエミが泣いているのに気がついた。

 

「エミ……?」

「良かった……」

 

 大きな瞳から大粒の涙がこぼれ出ていた。

 どんな辛い練習をしても、そこに結果が伴わなくても、そして事故の後多くの人から言われのない嘲笑や嘲りを受けようとも決して泣かなかったあの強い強い少女が、見た目相応の子供のように泣いていた。

 

「また仲直りできて、良かった」

「……」

「私のせいで、2人が離れ離れになっちゃって……だから、私頑張って、2人を仲直りさせようって思って、でも全然うまくいかなくて……良かった、良かった……うぅ、うううあぁぁぁぁ……」

 

 その姿を見て、まほは思った。

 この小さな少女は、あの2人がまた友達として一緒に居られるように、とてつもない努力を重ねてきたのだと。

 一番辛いのは間違いなくエミ本人だったろうに、それをおくびにも出さず、2人のために身を粉にして戦い続けてきたのだ。

 

「エミ」

「ゔぁい……」

「ありがとう、2人のために……本当に、ありがとう」

 

 まほはその小さな体をそっと抱きしめた。

 そこで我慢の限界だったのか、エミは押し殺した声で、たくさんたくさん、泣いた。

 

 三人の涙が合わされば湖になるかもしれないほど三人が泣いて、そして、ようやく収まって。

 

 そして、三人は笑った。

 その姿をまほは、ずっと見つめていたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけでした、チャンチャン。

 食後の団欒の時間再び携帯にて日記書いてます。

 まほ隊長に抱きつくとかいう大罪を犯してしまったことは万死に値するが、その罰はまた後日でもいいだろう、今日ばかりは努力の果てについに復縁したみぽりんとエリカの姿を堪能してもバチは当たらないはずだ。

 

 今、俺の目の前ではテーブルを挟んでみぽりんとエリカが、それはもう仲睦まじそうにお話をしておられる。

 あぁ^〜目玉がチーズみたいにとろけそうなんじゃあ〜。

 えへへ〜みたいなゆるゆる笑顔のみぽりんが大洗でのたくさんの出来事をエリカに話し聞かせて、エリカはそれをうんざりしたような、しかし喜色を隠しきれてない顔で聞いてあげている、ツンデレさんなんだからもう!

 この光景を改めてみることができただけで転生して、そして戦車道のために頑張ってきた甲斐があるというものだろう。

 

 さて、エリカがなぜここにいるかというと、まほ隊長が気を利かせてくれたのだ。

 まほ隊長は別れ際になってからエリカに対し、タイマンで軽戦車に負けた罰として隊長権限で今日は大洗に泊まり明日色々見てから帰還するようにと命令されたのだ。 できる女は違う。

 あの時の呆然としたエリカの顔は見ものだったとも。

 そして大洗の祝勝会で一通り騒いだ後に一足早く帰宅した俺たちは、今までの穴を埋め尽くせるほどにたくさんの話をしていたのである。

 

 それにしてもここまで来るのは本当に大変だった。

 黒森峰でみぽりんをかばったときはまさか俺が大洗に、しかもみぽりんと一緒に転校するなど夢にも思っておらず、しかもその後原作の大洗チームたちと一緒に全国大会を戦い抜くなんて完全に想定外だった。

 だけど、そんな苦難の道を歩んだからこそ、かつて離れ離れになりながらも再び絆を結び合った尊いみほエリをこうして間近でみられるんだなあと思うと、つくづく急がば回れということわざは実際偉大なんだなあと思い知らされる。

 

「みほ、あんたいつまで話してるつもり?私は明日一応大洗の偵察……ていうかお土産買ったりとかしないといけないからそろそろ寝たいんだけど」

「えへへ、ごめんねエリカさん」

「おっと、もう寝るかい?」

 

 俺は携帯を閉じた。

 夜更かしは美少女の大敵だから2人が寝るというなら俺もそれに合わせなければならない、日記は大体めぼしいことは書き尽くしたしこの程度でいいだろう。

 

「で、今日はどう寝るの?みたところこの部屋二つしかベッドがないけど。まぁ当たり前か」

「えーと、お客さん用の布団って、用意してないっけ」

「ないね。 じゃあ2人は同じベッドで寝たまえ」

「はあ!?」

「えぇ!?」

 

 計 画 通 り

 この瞬間を俺は虎視眈々と待っていた!!

 今日エリカがお泊まりするとなれば、当然ベットが二つしかないこの手狭な部屋では寝る場所に困る。

 そこで2人をおなじ寝床に叩き込んでやろうという発想が生まれるのは必然といってもいいだろう。

 

「なんでよ、エミは小さいんだしエミとどっちか1人でもいいじゃない」

「私はベッドを広く使いたいのさ。 2人の仲直りに私は散々苦心したんだし、このくらいの贅沢は許されてしかるべきじゃないかい? 今日一晩同衾してもっと仲良くなるといいよ」

「何言ってんの!?何言ってんの!?」

 

 ふはははは!顔を赤らめるエリカが最高に尊いぞ!!この世界に生まれて良かった!!!!!!

 この世界に生まれ落ちて以来最高に楽しいひと時を俺は過ごしている!!

 あー最高!!ガルパンはいいぞ!

 

「あ、あの、じゃあベッドをくっつけて三人で寝ない?」

「あ、あぁ、そっちの方がいいわね」

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

「どう?狭くない?」

「私は別にいいけどこんなに固まるとエミが苦しいんじゃない? 平気?」

「あー……」

 

 なんで???どうしてこうなった???

 今俺は、ベッドを二つくっつけあって作った即席ダブルベッドの真ん中で、みほとエリカに挟まれて横たわってます。

 

 いや、なんで?????????????(4行ぶり三度目

 真剣にわからない、何がどうしてこうなった?

 そこはさ、2人で一緒のベッドに入ってイチャイチャしてるのを俺に聞かせる流れだったじゃん???????

 ここに俺いる??????????

 

 え?てかこれ、まずくない?

 配置的にこれはみほエミエリになってない?

 ふざきんな!!!1!!1

 みほエリくださいみほエリないの?はやくして

 え、いかんでしょ、オイオイオイ死ぬわ俺。

 口の中に血の味が滲み出してきた。

 

「エミちゃん、もう眠い?」

「うー」

 

 ここで俺は全て諦めて速攻で眠りにつくことにした。

 はっきり言おう、現状ここから脱出することは不可能に等しい。

 ならば会話もスキンシップもせず速攻で寝て現状維持しか手はないのだ。

 いやだって、今俺がここで嫌だって言って抜けたらミポリン寂しがりそうやん……寂しがらないでよ俺が離れたくらいでさ。

 

 というわけで俺は全てを明日の俺に丸投げして狸寝入りすることにした。

 そしてそのままあわよくば本当に眠れますように。 おやすみ!!

 

 

 

「……本当にもう寝ちゃった」

「仕方ないでしょ。 エミは、私たちのためにずっと気を張ってたらしいし、それに今日の試合あんだけ飛び回ったのよ?」

「うん、無理させちゃったなぁ」

 

 ぐー、すぴー

 

「……本当に、大変な目に遭わせちゃったわね、私たち」

「うん。 エミちゃんのためにって思ってたこと、全部裏目に出ちゃった……ごめんね、エミちゃん」

 

 ぐーすかぴー

 

「こんな小さな体で……私達のために頑張ってくれたのよね」

「うん……やっぱり、エミちゃんはすごいや」

 

 ぐ、ぐー、ぐー

 

「……ねえみほ。あんたさ」

「なあに?」

「……わ、笑わないでよ?」

「言わなきゃわからないよお」

「……女が女を好きって、変だと思う?」

 

 

 

 what???

 

 

 

「え?エリカさんまさか……」

「い、いやあの、聞いただけよ聞いただけ、深い意味は」

「……ううん、エリカさん、変なことなんてないよ」

「え?」

「……私もきっと、そうだから」

 

 

 

 まって

 

 

 

「……あんた、つまり」

「うん、私ね、エミちゃんのことが好き」

 

 やめて

 

「……そう」

「エリカさんも?」

「うん、私もエミのことが好き」

 

 

 堪忍して

 

 

「……ライバルだね、私達」

「せっかく仲直りしたのに……」

「そうだね、でも、これだけは譲りたくない、かな」

「……私もよ。 恨みっこなし、後腐れなしで競いましょっか」

「……うん、負けないから」

「こっちのセリフ」

 

 

 赦して

 

 

「……えいっ」

「なっ!」

 

 ……ファッ!?

 

「えへへ……しちゃった」

「あ、あんた……負けないからっ!」

  「あっ!」

 

 

 なん……だと……?

 

 

「……おやすみ、エリカさん。 明日から、また頑張るね」

「……ふん、みてなさい、その余裕ひっぺがしてやる。 おやすみ」

 

 

 

 

 は?

 なんだこれは?

 ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな!!バカヤローーー!!

 こんな終わりが、みほエリの間に転生者が挟まるだなんて、そんな展開が許されていいのか!?

 

 

 

 ふざけるな、そんなのが認められるはずがない。

 

 どこだ、どこに間違いがあった。

 

 これは誰得だ?

 いったいどの層向けだ?

 誰がそんなカプ頼んだ!

 誰が挟んでくれと願った!

 

 俺は、俺はこの現状を作り出した全てを恨む!

 

 

(ガルパンに、みほエミエリなんて可能性は存在しない、それを証明してみせる)

 

 猛烈な胃痛と血の味が満ちてくる中、俺はケツイした。

 俺は、どこかで失敗したのだろう、悲しいことに俺は最悪の地雷カップリングをこの世に生み出してしまった、万死に値する罪だ。

 

 だがこのままでは終わらない。

 

 まだ、劇場版がある。

 最終章だって残ってる!!

 絶対、絶対にこの歪んだ運命を断ち切ってみせる!!

 

 そうだ、これは錯乱したわけでも自暴自棄になったわけでもない!

 これはこんなルートを望んだ全ての存在に対する、逆襲だ!!!

 

 

 

 エミは めのまえが まっくらになった!▼

 

 エミカスの逆恨み 2019年1月4日




あとがきは後日活動報告に書きます

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