俺はみほエリが見たかっただけなのに   作:車輪(元新作)

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出来心でガチ百合なんぞ書こうと思ったのが全ての失敗だった

※ガチ百合を成立させる都合上、この話に限りエミカスのレギュレーションに一部変更を加えて秋山殿を好きだと自覚しても心臓麻痺しないように調整します
この話は今までと毛色が全く違うため今までのような話を求めてる場合割と真剣にブラバしたほうがいいです。
この前書きはネタじゃないです。


おまけモード三本メ もしもゆかエミが成されてしまったら

 心臓の鼓動が早まる時、人はどんな感情を抱くだろう。

 恐怖、それは正しい。

 私も怖い映画を見た時は泣きそうになったりしたから。

 緊張、それも正しい。

 失敗できない大一番では手に汗が滲む程だった。

 興奮、それも正解だ。

 大接戦の戦車道の試合を見た時は思わず声を張り上げるほどの活力が生み出される。

 

 でも、それなら

 

「おまたせ、秋山さん」

「ぁ……天翔殿」

 

 この人を前にした時は、どうして心臓が早鐘を打つのだろう。

 恐怖でも、緊張でも興奮でもないこの感情は、一体?

 

 

 

「じゃあ、今日はよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 今日は、私が天翔殿を、学園艦内の施設で探しているという場所に案内することになっている

 なぜ2人なのかといえば、予定が合わなかったからとしか言えない。

 バイトで稼いでいると言う天翔殿のスケジュールもあり、私だけがその付き添いとして選ばれた。

 なんと言うか、この人はいつも間が悪いような気がする。

 本人もそう口をボヤいていたから自覚はあるんだろう。

 

「それにしても、今更だけどもなんというか違うなあ」

「と、言うと」

「雰囲気。 黒森峰も、サンダースも、アンツィオもこことは違う雰囲気なんだよ。 和やかというか、活気が緩いというか……地方の中心都市みたいな空気だよ」

「は、はぁ……」

「如何にもな日本じゃなくて、ありふれた程度の日本感って感じ。 私はこういうのが好きだな」

 

 こういうのでいいんだよこういうので、と言う天翔殿。

 正直なところその感覚はあまり理解できなかった。

 だけどこの街並みを好きといってくれてるのは、なんだか嬉しく思う。

 ずっと私が暮らしてきた学園艦だから。

 

「さて……じゃあ案内を頼もうかな」

「あ、了解しました、こちらですよ」

 

 今日天翔殿に案内を頼まれたのは、珈琲豆を扱う店で、できれば専門店がいいという。

 コーヒーには、結構なこだわりがあると教えてくれた。

 たまに遊びにいくと入れてくれるコーヒーは本当に美味しくて、お世辞抜きでお店で飲むもののようだった。

 数少ない趣味らしく、豆にもこだわりがあるという。

 

「あの、理科の実験みたいな器具はなんなんですか?」

「コーヒーサイフォンだよ。 院長がコーヒー大好きで、日頃のお礼にお小遣い貯めて送ったんだけど淹れる係まで任されちゃってね」

 

 コーヒーサイフォン、というのは聞いたことがある。

 あれを駆使してコーヒーを入れてる時の天翔殿は、普段よりも大人びて見えて、少しだけドキドキする。

 

「興味があるなら、淹れ方を教えようか」

「え? 私でもできます、か?」

「簡単簡単、あんな見た目でもやること自体はシンプルなんだ。 コーヒーは、他の人に淹れてもらった方が美味しいからね。 是非ともこの趣味を拡散したいものだよ」

 

 作成動画をSNSにでもあげようかと盛り上がる天翔殿は本当に楽しそうだ。

 戦車道での引き締まった顔とも、普段の微笑みを絶やさない顔とも違う。

 この顔はきっと初めて見た。

 好きな、顔だ。

 

「えーっと、確かこの辺りだと」

「お、ここかな」

 

 たどり着いたのは、ショーウィンドウから中が覗ける清潔な店だった。

 店内に踏み込んでみるとなんとも香ばしい香りが鼻腔を擽る。

 

「うんうん、いい品揃えだ」

 

 天翔殿は、楽しそうな笑いを浮かべながら、ガラスケースがずらりと並んだ棚を見上げている。

 首が痛くなりそうなほど視線を上げては下げてを繰り返す。

 豆の知識はさほどなので、一体何を基準に選んでるのか分からない。

 

「お、これがいいかな」

 

 やがて一つのケースから取り出したのは、たっぷりの粉が詰まったパックだ。

 モカと書かれているらしい。

 

「コーヒーはモカの5が一番好きだな」

「モカの……5、とは?」

「まぁその辺りはおいおい。 じゃあこれを買おう」

 

 そう言ってレジへ向かう姿に迷いはない。

 私は手近なケースの中身を覗いて、パックを引き出してみた、こちらは豆入り。

 じっくりとみてみる、ブレンド豆、ハイロースト。

 つやつやとした豆からは濃厚な香りが漂ってくるのだけれど、味の想像はさっぱりつかない。

 ……見た目はなんだか豆菓子のようだ、インスタントとは全く別物に感じる。

 

「秋山さん」

「わひゃっ」

「何してるの?お会計終わったよ」

「は、はいすいません、つい」

「それは豆のままだな。豆のままは難しいぜ。 豆を挽く道具はあるの?」

「う、うーん……それはないと思います」

「まだ器具も持ってないなら。豆はまた今度にした方がいい、今日は行こう」

「わかりました」

 

 豆を戻して、店を後にする。

 紙袋を抱える天翔殿は随分と機嫌が良さそうだ。

 足取りも軽い。

 

「しばらくはインスタントだったから、ようやくまともなのが飲める」

「やっぱり、インスタントじゃダメですか?」

「ダメとは言わないけど、ちゃんと淹れたコーヒーとインスタントコーヒーは、なんというか別ジャンルの飲み物だからね」

 

 豆が切れてからは我慢の日々だった、と愚痴る姿は、なんというか姿相応の子供のようで微笑ましい。

 しかしそんな小さな彼女が、コーヒーを淹れるのが趣味で凄腕の装填手なのだというから、人は見かけで判断できない。

 

「いやぁ、いい買い物ができてよかった。 ありがとう秋山さん」

「いえ、お役に立てて何よりです」

「何かお礼をしないといけないね。 なにがいいかな」

「そんな。 私も、友達とお買い物できて楽しかったですから……」

「それでも何かしてあげたいんだ。 そう重く考えなくても、私だってジュース一本奢るとかくらいに考えてたからあまり凄いのは無しだぞ」

「……じゃ、じゃあ、一つお願いが」

 

 

 

「じゃあ、座って待っててね、すぐ作ろう」

「あの、淹れるところを見ててもいいですか?」

「別にいいけど……」

 

『今回買った豆の最初の一杯を飲みたい』。

 そんな私の願いを気軽に引き受けてくれた天翔殿。

 家に着くとすぐに準備をしてくれた。

 

「見てても、面白いかな?」

「はい、とても」

「よくわからないなぁ……」

 

 ブツブツと言いながら、挽かれた豆を計量する姿をじっと後ろから眺める。

 背が低いから台の上に乗って作業してるのが可愛らしくて、なのに手際はテキパキとしたもので頼もしさも感じさせてくれる。

 

「コピ・ルアック」

「え?」

「おまじない、気にしないで。湯の温度は90度くらいかな」

「そんなとこまで気を使うんですね」

 

 時々解説を挟んでくれるから、やっぱり面倒見がいいんだと思う。

 鼻歌交じりにサイフォンを動かす姿を眺めていると不意に、今天翔殿は一杯のコーヒーを、私のためだけに作ってくれているんだという考えが脳裏を掠めた。

 なんだか傲慢な考え方みたいで嫌だったのだけど、同時に不思議な満足感も満ちてくる。

 

「……さぁ、出来たよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 気がつけば彼女の手には、コーヒーで満たされたマグカップがあった。

 

「砂糖はいるかい?」

「……せっかくなので、ブラックで」

「コーヒーをブラックで飲むのは日本人くらいって知ってた?」

「え?」

「でも私はブラックが好きだ」

「……もう」

 

 少しムッとすると、くつくつと湯を沸かすように笑われてしまった。

 悔しいのを誤魔化すようにカップに口をつける。

 

 ……熱くて、苦い。

 でも甘やかなコクと適度な酸味。

 天翔殿の淹れてくれるコーヒーはなんだか、とても安心できる、優しくて嬉しい味だ。

 

「美味しいです、すごく」

「ふふ、淹れた甲斐があるね」

 

 得意げに微笑む天翔殿をみると、なんだがトクンと胸が弾んだ。

 まただ、またこの感覚。

 

 彼女が、笑ったり、驚いたり、安らいたりした顔を見ると、胸がズキズキして、お腹の奥に不安のようなものが満ちてくる。

 コーヒーを飲み込んで、その感情も押し込んで。

 

「……天翔殿、もう一つお願いしていいですか?」

「お? 随分と欲張りだな。 一体なに?」

「私も、コーヒーをいれてみていいでしょうか」

 

 

 

「そう、フィルターはロトの真ん中にしっかりと」

「は、はい」

 

 後ろからかけられる声に従いながら、ガラスの器具の中に道具を押し込む。

 落としてしまったら、このガラスの厚さでは一撃だろう、ミスはできない。

 

「じゃあ、ロトにコーヒーの粉を入れて、ロトを差し込んで」

「はい……」

 

 粉を投入したロトを、沸騰した湯の入ったビーカーに差し込む。

 すると、不思議なことにビーカーの中のお湯がロトの中に上がり始めてきた。

 昇ったお湯が粉に届いて、それを竹べらで軽く混ぜる。

 

「あぅ、うまくいきませぇん……」

「初めてだもん、しょうがないよ」

 

 笑われてしまった。

 頬に熱が集まるのを感じながらもなんとか形になるように混ぜるのだけれど、天翔殿がやったものよりも濁って一緒くたになったコーヒー液ができてしまう。

 

「さ、そろそろ火を止めて」

「は、はい……」

 

 結局、出来上がったコーヒーはうまくいかなかった。

 フラスコに落ちてきたコーヒーをカップに注いで見ると、見た目はあまり変わらないように思えるのに香りが違う。

 いれ方の手際だけでこうまで変わってしまうのか、と思い改めて天翔殿の腕前の巧みさを実感した。

 

「……飲んでみます」

 

 カップに口をつけて、一口飲んでみる。

 ……まずい!

 

「うぅ、にがい……」

「ちょっと火からおろすのが遅かったかもね」

 

 とてもじゃないが飲み難いそれは、コーヒーというよりは泥水だろう。

 これでは……これでは到底、天翔殿に飲んでもらうなんて叶いそうにない。

 仕方がない、自分で淹れたのだから、責任を持って自分で飲もう。

 そう思ったときに、持っていたカップを攫われていた。

 

「え? あ、まって!」

 

 そういったときすでに天翔殿はカップの中身を口に運んでしまっていた。

 まずいっていったのに、どうして。

 

「……うん、美味しいよ、秋山さん」

「……そんなわけないじゃないですか」

「それこそそんなわけないよ。 さっきも言ったでしょ、コーヒーは誰かに淹れてもらった方が美味しいって」

 

 そのまま、私が作ったコーヒーもどきは天翔殿の胃に収まってしまった。

 ……顔が、熱い。

 

「ご馳走さま。 私が初めてつくったときに比べれば上出来だったよ、これは期待の新人現る、だね」

「……意地悪ですね」

「素直に褒めたつもりだよ」

 

 飄々とそんなことを言われてしまって、また胸がどきりとした。

 何故だろう、さっきからどうにも、あの妙な鼓動が抑えられない。

 何故なんだろう。

 甘い疼きが、辛くて耐え難い。

 

「……天翔殿」

「ん?」

「また淹れたら、飲んでくれますか?」

「勿論。 1日に何杯も飲むのはちょっときついけどね」

「多分、上手くなるまで時間がかかります」

「知ってるとも、私がそうだった。 秋山さんのコーヒーの味見係なんて光栄だね」

「……どうして、そんなに私に優しくしてくださるんですか?」

「え? なんでって、それは」

 

 

 

「秋山さんが大事な友達だからだよ」

 

 

 

 その言葉をかけられて、ズキリと、さっきまでと違う痛みが胸に走ったのに気がついた。

 

 そして気がついた、気がついてしまった。

 

「大事な友達なら、みんな同じようにするんですか?」

「へ?」

「冷泉殿も、武部殿も、五十鈴殿も、それこそ、西住殿も。 みんな友達、ですよね」

「あ、秋山さん、どうしたの?」

「みんな、みんなに同じような態度を取るんですか?」

 

 体が勝手に動き出して、小さな彼女に詰め寄った。

 慌てて距離を置こうとされるのが嫌で早足で一気に近づくと、知らずに壁に追い詰めていた。

 

「……天翔殿。 私、最近変だったんです。 天翔殿をみると、なんだか変にドキドキして、落ち着かなくなって。 それがなんなのか全然わからなくって」

「な、ま、まって、落ち着いて秋山さん、いったん離れて……」

「でもさっき、急にわかっちゃったんです。 さっき、友達って言われたら急にそれが辛くて痛くなって。 きっと私、天翔殿の友達じゃ嫌なんです」

「な、な、な、ななな」

 

 普段の様子とはかけ離れて慌てふためく天翔殿の肩を掴む。

 ビクリと震えた華奢な体。

 自分よりも小さくて細くて、小学生のような彼女が震える姿が視界に満ちる。

 

「……きっと、私は、あなたが好きです」

「──────────」

「あなたが1人で辛いことを抱えてて、それなのにみんなに弱音を吐かない強がりなこととか。 誰よりも努力家で、でもそれをひけらかさないところとか、たくさんありますけど、私は、あなたがきっと好きなんです、大好きなんです」

「ぅ、ぁ、ぅ」

 

 必死で、伝えたいことを口にする。

 天翔殿はといえば普段の余裕なんてすっかり無くして俯いてしまう。

 

(かわいい)

 

 そんなことしか思い浮かばないから私はもうダメかもしれない。

 

「天翔殿……イヤなら、言ってください」

「ぇ、な……」

「言ってくれれば、止めます、止めますから……」

 

 壁に押し付けていた天翔殿を、そっと引き寄せる。

 膝を床について、視線を合わせる。

 真っ赤な顔で目線を踊らせるのを見つめながら、少しずつ顔を近づけていく。

 

「な、ま、ま、ま、待って、こんな、おかしいって」

「女同士はやっぱりやですか……?」

「そんなわけないけど!! そんなわけないけどでも、私なんてほら、可愛くもないし」

「可愛いです、天翔殿」

「〜〜〜〜〜!! い、いや、だから、えっと、落ち着いてよ、今はその、冷静じゃなくなってるだけだから、だから、その」

 

 あと、10センチ。

 

 目があった。

 

 初めてみる狼狽した姿。

 

 私だけが知ってる、天翔エミ。

 

 

 

「……嫌だとは、言わないんですね」

「あ」

 

 

 

 唇が、重なった。

 

 初めてのキスはコーヒー味だった。

 

 

 

「……」

「──」

「……」

「──」

「……ぷは」

 

 一瞬とも永遠とも思えるようなひと時だった。

 顔を少しだけ離すと、魂が抜けたような顔つきの姿。

 おかしくて、少し笑ってしまう。

 

「ふふ……」

「──」

「天翔殿。 答え、聞かせてください」

「──」

「私は、秋山優花里は、あなたが好きです。 あなたは、どうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き、です」

 

 

 

 その日私たちは恋人になった。




これ以降エミカスは完全にゆか堕ちして秋山殿に名前呼ばれたり側に寄られると一瞬でしおらしくなるというクソ弱体化を果たすようになる、つまり秋山殿はバリタチだった。



書いてて舌噛みちぎりなくなる一話でした、真剣に苦しかったです。
エミカスの分際で生意気なので次の話では右腕あたりをもぎ取ってやろうと思います。

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