「さあ、ダージリンも一緒に! みほエリはガルパンにて、最強!」
「だめだ!声が小さいやり直し!!」
「みほエリはガルパンにて最強!」
足元が崩れ去るような感覚だった。
住んでいた家と、通っていた学校、切り開いた未来にかけがえのない友達まで、すべてを失った時に私は思い知った。
(こんな気持ちだったのかな……天翔殿は……)
「やぁ、おはよう」
朝になって目が覚めると、ふわりと香ばしい芳香が鼻先をくすぐった。
体を起こしてその香りの元へと足を運ぶと、小さな女生徒がヤカンの湯を沸かしている。
「おはようございます。 早いですね、天翔殿」
「なんだか目が冴えちゃってね。 朝の一杯は如何かな?」
「是非」
そう答えると、彼女は微笑んでマグカップを一つ手渡してくれた。
中にはもうなみなみと、コーヒーが満たされている。
「いえ、これは天翔殿の分では?」
「後でも先でも同じだよ。 先に飲んじゃうといい、冷めないうちにどうぞ」
「……では」
お言葉に甘えてカップに口をつける。
薫り高いコーヒーが口腔の中を満たし、爽やかな苦味とコクが広がっていく。
相変わらず素晴らしい味だ。
それを飲んで、すこしだけ胸の中の突っかかりが楽になったような気がする。
ほっと一つため息をつく。
まだ朝日が顔を出しきってない時間帯だ、夏場ではあるが、過ごしやすい。
「……私たち、これからどうなるんでしょうか」
「ん?」
自然と、弱音が口から漏れ出していた。
彼女の側にいると、普段の自分とは違う自分が顔を出して、彼女に寄っかかって、甘えようとしてしまう。
一度口に出すともうダメで、私はそのままスルスルと泣き言を吐き出してしまう。
「せっかく大会を勝ち抜いて、廃校を撤回できたと思ったのに……あんな形で反故にされて、家も、学校も無くなっちゃって……考えないようにしてたんですけど、でも、ふと気がつくとネガティブなことばかり考えてしまうんです」
「それが当たり前さ。 突然理不尽に日常を奪われてしまえば、人は容易く膝をつく。 当たり前の日常っていうのは支えのようなものだ、それを取り払われてしまったら立ち直すのは容易じゃない」
「……」
重い言葉だった。
彼女はその地獄をすでに味わっている。
そのことを思うと、ジワリと視界がにじんだ。
「……酷いです。 こんなのあんまりです」
「秋山さん……」
みっともなく溢れ出した涙。
それを隠そうと手で覆う前に、彼女はそっとハンカチを握らせてくれた。
彼女だって、恐らくは私よりも辛いはずなのに。
情けなくて、苦しくて、辛くて、私は崩れ落ちて散々泣いた。
そんな私を見捨てずに、天翔殿はずっと、側にいてくれた。
「ごめんなさい、恥ずかしいところを」
「気にしなくていい、人間なんだから大泣きするときもあるさ」
しばらくしてようやく落ち着いた私は、洗って返すといってハンカチを懐にしまい、みっともないザマを晒してしまったことを謝罪する。
それをあいも変わらず微笑みながら流してしまう彼女を見ると、本当に同い年なのか疑ってしまう。
この心の余裕は、どこから来ているんだろう。
「……本当に、ありがとうございます、愚痴に付き合ってくれて」
「いいさ、秋山さんの愚痴の相手ならいつでも引き受けるとも」
「……そうならないよう気をつけます。 じゃあ、私髪とか整えてきますね。 また後で、『エミ殿』!」
私の言葉に彼女は目を見開いたが、慌てて振り向いた私はそのまま駆け出してしまった。
(な、な、名前で呼んでしまいました……!)
急にそんなことをして変に思われなかっただろうか。
顔が沸騰するほどの熱さを感じながら、私は洗面所へと向かうのだった。
「……エミ????? あっ、おれエミリじゃなくてエミじゃん」
──月──日
がっこうぐらし!
いや、ネタではなくリアルに。
学校で寝泊まりしたのってこれが初めてかもわからんね。
さて、さてさて。
エキシビジョンマッチを終えてから3日経ち、俺たち大洗生徒は廃校生活2日目を迎えていた。
長らく放置されていた廃校は、昨日であらかたの掃除は終わっていたがまだまだ生活するには少し不便がある環境なので、その辺りの掃除とかに精を出していた。
こういった仕事はおっさんに任せて君らJKはもっと華やかな業務をしてなさいね!
で、そのあとは買い出しとかの雑用に移行する。
他の面々を置いておれはⅣ号に乗り込み、スーパーマーケットやらホームセンターなどに足を運び様々な日用品を買い込んだ。
大洗に転校してからはちょくちょくバイトして生活費を稼いでた俺はちょっと懐が暖かいのだ。
なにかと苦労しているメンバーたちのためにそれなりの生活を送れるための物資を買い与えるくらいしてやるべきだろう
あのⅣ号戦車を自分で運転させてもらったのだから対価は十分だ。
だってお前、あんこうチームのⅣ号運転できるとかすごいことだぞ?
普段はカメさんかカモさんの戦車に乗ってて運転なんてしなかったから感動はひとしおだった。
それと、地味に俺個人の買い出しも行わなければならない。
いくつかお土産を見繕わなければならないのだ。
転校手続きの書類に保護者のハンコが必要なのは俺も同じなので、実に4年半ぶりくらいに孤児院に帰らなければならないからだ。
死ぬほどめんどくさいし、院長には苦労をかける羽目になるだろう。 俺は面倒が嫌いなんだ。
まったく、こんな書類どうせ無駄になるのになんでわざわざ作らなければならないのだ、これも全部文科省のせいだ。
……でも俺は文科省に対してさほどでかい口をたたける人間ではない。
なんせ俺はもともとみほエリをなすと言う我欲のためにみぽりんが大洗に来るのを阻止しようとしてたからだ。
みほエリをなす以上仕方がないと割り切っていたし後悔はしていないが、もしあの計画が完遂されていれば今頃大洗は救世主みぽりんがやってくることはなく廃校が決定され、みんなお通夜ムードだったのだろう。
うーん、冷静に考えたらみほエリストである前にガルパンおじさんとしてこれは特一級のピロシキ案件なんじゃないだろうか。
世の中本当にままならない。
──月──日
今日は1日エリカとの電話で終わった。
大洗が廃校になることを知って電話をかけてきたのだが、なぜすぐ教えないのかと散々お説教された。
電話の向こうでエリカが泣いていたのを聞いてますます自分の罪が増していくのを感じた。
はい、ごめんなさい……ピロシキします……
とはいっても電話をするような暇がほとんどなかったのはガチだし、落ち着いて話せる時間を確保してから電話しようと思っていた旨をみぽりんと一緒に伝えるとなんとか納得してくれた。
ええ子や……大学選抜戦の時にとびきりうまいコーヒー淹れてあげなきゃ……
──月──日
ようやく生活が落ち着いて暇ができたので、アリクイさんチームのトレーニングに混じってきた。
装填手にとって重要な筋力とはズバリどこかというと、はっきりいうが全身である。
背筋、腹筋、胸筋、腕に腰に足、全ての筋肉を活用することになる作業である。
それに重量のある物体を持ち上げるわけだから速筋がいるのに、早々にへばるわけにもいかないので遅筋もしっかり鍛えなければならない。
要は全身大切なのだ。
そして全身を鍛えるにはどうすればいいというととにかく体を動かすのだ。
というわけで俺は校舎全体を使いひたすらパルクールし続けた。
わずかなとっかかりに指を引っ掛けて壁を駆け上がったり、塀の上を全力疾走したり、それをぶっ続けで三十分、休憩十分、また三十分。
初めて見る俺の本格的トレーニングにみんなポカンとしていた。
みぽりんは見慣れていたのでタオルとドリンクを用意してくれた。
……すまん、自分でやっといてなんだが、やっぱこれを受け入れちゃうのはまずいよみぽりん。
──月──日
これと言って書くことのない暇な1日だった。
劇場版だと一瞬で時間が経ったけどこれは現実だからなあ、結構長いことこの廃校で過ごしたんだなあ。
そう思うと結構感慨深いものがある。
──月──日
エリカに、転校するのなら黒森峰に戻らないかとみほ共々誘われた。
心配してくれるのはありがたいが多分廃校は撤回されるしその辺りの考えは不要なんだよなあ。
まあそんなことを言えるわけもないし、とりあえずその方向で考えておこうとお茶を濁した。
エリカは俺たちが陰口を叩かれたりしないよう徹底的に教育を施すと張り切っている。
まほ先輩もやる気満々らしい。
……嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ。 エリカのそのやる気の源って多分俺への、その、さ?
盛大に吐血してしまった。
トイレで吐いたので見つかってないとは思うのだが。
みほエリにサンドされている現状は確実に俺の胃を蝕んでいる。
真面目に医者に行ったほうがよさそうだ。
──月──日
とりあえず明日、深夜バスで帰ることにした。
何事もなければいいのだけど。
そういえばみぽりんはまだボコミュージアムを見つけてないらしい。
そうなると愛里寿との邂逅はまだなのだろうか。
愛里寿と戦うのかー……やだなー……
「やっと着いたか……」
地方の中心都市、そこから少し外れた場所にある少し大きな建造物。
こここそが、俺を拾い上げ育ててくれた院長の属する孤児院である。
度々院長に電話はしていたものの、顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。全く変わっていない俺の姿に驚くだろうか。
いや、もう小学生の時点で成長止まってたし今更かもしれない。
眺めてても仕方がないので、俺は敷地に足を踏み入れた。
今日ここに来ることは院長に知らせていたので、出かけてはいないはずなのだが。
「ただいまー」
施設の扉を開くと何人かの子供達がこちらを見た。
俺の知らない新顔が何人かいたが、知っている顔は俺の顔を見ると眉をひそめてそそくさと退散していく。
もう見慣れた光景なので特に気にすることもなくずんずんと施設内を進んでいき、おそらく院長がいるであろう院長室を訪ねた。
扉を二、三度、ノックしてみる。
「院長、いますか?エミリです」
自分でその名前を言ってから、違和感に顔をしかめる。
いや、正確にはこの「エミリ」こそが自分の名前だと認識している現象に嫌気がさしたのだが。
しばらくしてから院長の応答が帰ってきたので、俺はドアノブを回し、部屋へと踏み込む。
「失礼します、お久しぶりです、院ちょ……お?」
「あら、先日ぶりね。 元気だった?天翔エミリさん」
なぜか院長室に島田千代さんがいた。
なんで??????
「その制服……エミリと同じ」
「え? 君、えみりん知ってるの?」
「その……ここにきて、私とお話ししてくれるの」
「初耳だな」
「初耳ですね」
「──────」
「西住殿? 西住殿ー? ……ダメです、返事しません」
「
「あー、なるほどね」
「エミカスゥ!! お前の後ろの本棚にあるみほエリ本よこせみほエリ本!!」