今日は例の事件が起きて翌日からの日記を音読するから、みんな私に続いて読むように。
『クラスメイトも、先生も、同じ戦車道の仲間も、みんな目を合わせてくれなくなってしまった。 私はまた一人ぼっちになってしまった。 何が間違ってたんだろう、どうすればまたみんなと仲良く』
OGのあなた!逃げないでください!バケツはあります!吐くならここに!
お母さん!ごめんなさいごめんなさいって何に謝ってるの!?エミちゃんはお母さんを恨んだことはなかったよ!ずっと自分が間違ってたって泣いてたけど強く生きて誰も恨まなかったんだよ!謝ることはないでしょ!
じゃあ続きから……あ、赤星さんそんなところで恨みがましくみんなを見てないで私と音読しよう、ほら。
※ネタです、本編にはかけらも関係ありません。
「まぁ、なるべくしてなったって感じだなあ」
鳥肌が立つような寒さに満ちた廃墟の中で、そんなつぶやきが漏れた。
小さな声だったが、しかし静寂に満ちたこの空間ではやたらと響いて聞こえてくる。
「うん……ごめんね、もう少し警戒してれば」
「それだけでどうにかなるものでもない、向こうの作戦は見事なものだった、数を利用し物量で押す。 シンプルで、故に覆し難い」
対プラウダ戦の立ち上がりは、意外にも静かなものだった。
一丸となって進む大洗の6輌に対し、何輌かの戦車で固めた部隊が各所から攻撃を仕掛ける。
大洗チームは動きを止めずに回避運動を取り、そして丁寧な砲撃戦が始まった。
大洗チームの攻撃が1輌、2輌とプラウダ車を撃破したあたりから妙に風向きがおかしくなっていく。
向こうは全戦力を用いた攻撃を行うこともなく、丁寧に攻撃を回避しながら単発的な射撃でこちらにちょっかいを仕掛けてくる。
舐められている。
誰もがそう判断して、そして歯噛みした。
彼我の戦力差は圧倒的で、乗員の練度も向こうが高い。
向こうがこちらを嘲るのも当然だ。
そして悔しいことにこのまま行けば負けるということもわかっていた。
答えは単純で弾数の差だ。
向こうの方が車輌が多いということはそれだけ多くの砲弾を保持しているということ。
このまま丁寧に射撃戦をして、絵に描いたように上手くいきこちらが落とされず向こうをさらに撃破できたとしても、フラッグ車まで落とすことはおそらくできない。
弾が切れてしまえば戦闘続行は不可能、こちらの負けだ。
「……仕掛けるしか、ない」
みほは下唇を噛みながらそう判断した。
確かに危険だがこのままでは真綿で首を絞められるようにじわじわと追い詰められていく。
ならば、仕掛けるのは早い方がいい。
『危険だけど、やるしかなさそうだね〜』
『だ、大丈夫なの!?』
『勝機をそこにしか見出せない、やるかやらないかではなくやるんだ!』
『さながら島津の引き口?』
『全然違うぞ』
呑気な会話に少しだけ緊張が緩む。
みほは、負けるわけにはいかないと気を引き締め、肌を切るような冷たい空気の中でケツイを抱いた。
(負けるわけには、行かない!)
"正しさを証明するために"
みほは高らかに叫び攻撃を仕掛けた。
結果的に作戦は失敗した。
向こうは虎視眈々とその瞬間を待ってたのだ。
突撃した大洗チームは何輌かの戦車を撃破するもすぐさまに包囲網が展開され、猟犬に追われる獲物のように逃げ惑う羽目になる。
みほはそれでも必死に指示を出し、なんとかこの廃墟まで退避をすることができたが、外を見れば依然こちらより多い数の戦車が包囲網を展開している。
万事休すとはまさにこのことだろう。
「……どうするか」
「……うん、その、どうするかな、この……うん」
しかし、廃墟の中に漂うのは窮地に追いやられた絶望よりも、どう反応したらいいかわからないという気まずさというべきものだった。
「あのー……天翔さんはなんでさっきもらったカチューシャをつけているのですか?」
華がおずおずとその気まずさの原因を指摘した。
そう、今天翔エミの頭の上には黒いネコミミがぴこぴこと揺れている。
「いや、せっかくもらったからさ」
「もらったからって今つける必要はなくない……?」
「そんなことはわかってる、でもつけたら面白いかもしれないだろう」
堂々と言ってのけるエミに華も沙織も苦笑した。
確かに、面白い。
小学生と見まごうほどの体躯のエミの頭の上にぴこぴこと揺れるネコミミ。
タイツや黒いグローブで肌の露出がろくになくおまけに黒髪のせいでさながら本当に黒猫のようだ、ていうかなんであれぴこぴこ動いてるんだ?
「……」
そして、そんなエミを横目でチラチラと見ているみほの姿もまた奇妙な空気蔓延の原因だ。
相変わらずエミちゃんのことが好きなんだなぁと全員が呆れと微笑ましさを覚える。
「失礼します」
そんな踏み込み難い空間の中にしかし怖じけず堂々と入り込んできたものがいた。
途端に大洗生徒に緊張が走る。
「プラウダの……」
「……降伏勧告ってところかな」
「ええ、カチューシャ様はこれ以上の戦いは無駄だと。 慈悲深くそちらに情けをかけています。 3時間以内に返答するように。 それと……」
スチャッとカメラが構えられて、全員が疑問符を浮かべた。
カメラ?カメラナンデ?
「副隊長ノンナ様より、猫耳の子がいれば写真を撮ってくるように、と」
「パードゥン?????」
思わずエミが反応した。
そこまでやるかノンナさん、いやあんたカチューシャ一筋やろなに他の幼女ボディに執心しとんねんと吠えたくなって、我慢。
とりあえずカチューシャを外して面倒ごと回避を試みる。
「あの、すいませんどうか撮らせてください。 そうしないと我らが後でシベリア送りの可能性があるんです」
「えぇ…(困惑」
しかし涙目で懇願されてしまってはエミも思わずその手を止めた。
仕方がないのでボルシチをもらうことを交換条件に撮影を許可した。
「はいっ! いーよいーよ! 今度は頭と腰に手をつけて! ベリーグー! 今度は猫の手にしてこう、猫のポーズ。 きゃー可愛い!」
「……にゃあん」
「こふっ」
「みぽりん!?」
死んだ目で何枚もの写真を撮影されるエミ、やたらとテンションの高いプラウダ生徒、鼻を抑えるみほ、ぽーっとして見守る優花里。
「……今試合中だよね?」
会長のつぶやきは雪に吸い込まれていった。
ボルシチは美味しかった。
──月──日
いやぁ、プラウダは強敵でしたね、あらゆる意味で。
あの猫耳カチューシャをつけなければよかったとは思ったが、つけてなかったとしたらどうせつけて撮影させてくれと懇願されていたんだろうな。
その撮影会が終わった後は、俺は持ち込んでいた秘密の物資を放出してみんなの体力を温存させた。
久しぶりに原作知識を有効活用した気がする。
30個入りの使い捨てカイロパックを4袋、これだけでもそれなりに暖をとることができたらしくみんなに感謝された。
ついでに写真の代わりに頂いた大鍋いっぱいのボルシチとスープで暖をとり、そのあとはライターでビーフジャーキーを炙って齧る。
黒森峰のノンアルが飲みたくなる味だ、今度また箱買いしなくちゃ。
そんでもってみんなが暖をとって落ち着いた頃に降伏するか否かの話し合いが始まった。
そしてみぽりんが絶対に降伏しないと言い出して顎が外れるかと思った。
そしてその理由を聞いて心が砕けそうになった。
思い出すだけでも絶望感が満ちてくる。
みほエリ、みほエリはどこ…?ここ…?
とりあえずみぽりん曰く…
1.大洗にきて、最初は無理やり始めさせられたけど、ここでの戦車道は黒森峰のものと違って自由で新鮮だった。
2.俺がここで再び戦車道を始めるきっかけにもなって、そして以前のように戦車道を楽しめるようになった。
3.仲間たちと協力しあい助け合い、決して見捨てない戦車道の強さを証明したい。
という感じだった。
俺は、俺はその理由の中にいらんやで……みぽりん……
そしてその後に生徒会メンバーもついに廃校の件をみんなに明かした。
というかそっちの話題に目をそらしたくて俺が進言したのだ。
最低とかいうな! 俺だって必死なんや!!
それにみんなの士気が上がったしノーカウントだ!ノーカウント! なあ、あんたもそう思うだろう!?
その後試合は原作通りに進み、普通に逆転勝利を果たした。
勝利の後で再びカチューシャやノンナと話す機会があったが、その際俺はノンナに対しカチューシャという人がいながらそういうのはどうかと思うと伝えたらショックを受けて崩れ落ちていた。
写真を削除させることを約束させ、そのあと俺たちはなぜか両校メンバー全員で集まって集合写真を撮影した。
カチューシャがやたらと懐いてくるんだけどこれはもしかして俺の方が身長低いからなのだろうか
その後帰還した俺たちは、流石にヘトヘトだったので自宅に帰還したあとは即座に布団の中に潜り込む。
俺もこれを書き終えたら寝るつもりだ。
次はいよいよ、黒森峰戦。
負けられない、大洗の為にも、みほエリのためにも。
──月──日
いよいよ決勝戦までコマを進めたことで優勝という話が現実味を帯びてきた。
新たに修理完了したポルシェティーガーと三式中戦車も加わり、原作通りに8両まで戦力を拡大、自動車部のレオポンさんチームとアリクイさんチームも加わることで決勝戦を迎える準備は整う、あとは当日まで全員で練度を高める訓練を行うだけだ。
柄にもなく緊張している。
ガルパン全試合の中でも屈指の名勝負だった大洗VS黒森峰の試合に、俺が参戦する。
今更ながら現実感がない。
駄菓子菓子、俺の目的はさらにその先にあるのだ!
黒森峰を撃破し、その先にある大学選抜チームを打ち倒す! みぽりんとエリカが再び同じチームで戦う機会を作り、そこで2人を仲直りさせる!!そしてみほエリを!一心不乱のみほエリを!!
絶対に負けられない戦いが、ここにはある。
明日からもっと練習を頑張ろう。
「ふぅ」
日記を書き終えた俺は、電源を落としてグッと伸びをした。
今日の練習も疲れた。
指が一本使い物にならない現状は装填手としては非常に厳しいものがある。
改めてなんで俺は手の爪なんぞ剥いでしまったんだろうか。
今もまだたまに痛むし、装填が辛い。
しかし秋山殿とデートなどという百合豚としての最大レベルの大罪を犯した以上何らかの罰は必須だった。世の中って難しい。
さて、そろそろ寝ることにしよう。
俺は机の上のダミー日記を二重底の鍵付き引き出しにしまい、携帯を充電器に繋ぐ。
みぽりんも、最近は風呂に入ったあとは泥のように眠り込んでしまう。
みぽりんが穏やかな寝息を立てているのを確認してから俺は布団に潜り込む。
が、そこでピロリンと携帯が鳴った。
「あん……?」
少し不機嫌になりながら、仕方がないので布団から這い出て携帯を確認する。
画面には、ツミッターの通知が表示されていた。
「……エリカ?」
『どうしたんだエリカ、こんな時間に』
「ごめん、どうしても話しておきたいことがあったから」
電話から聞こえてきた声はいつものようなソプラノの澄んだ声で、それを聞いただけで自分の心がすっかり落ち着いていくのを感じる。
なんというか、すっかり絆されてるんだなあと改めて実感した。
「まずは、決勝進出おめでとう」
『そっちこそおめでとう。 相変わらず危なげない勝利だった』
「当たり前よ、負けるわけにはいかないんだから」
軽口を返すようでいて、私の声は自分でもわかるほどに落ち込んでいた。
今から話そうとしている話題は、決して話しやすいものでもない。
どう切り出そうか悩んで、悩んで。
『で、どうしたんだい? 何か悩みがあるみたいだぜ』
心臓が、跳ねた。
「なんでそうサラッと言い当てるのよ」
『長い付き合いだったんだ、わかるさ』
「……相変わらず鋭いなあ」
「廃艦になるんだって聞いた」
『……そっか』
「事実なの?」
『本当だよ。 大会で優勝できなきゃ、大洗は廃艦になる』
当たり前のように言ってのけたエミに、私は黒い感情が湧いた。
「……嫌になっちゃうわよね、また大人の事情でしょ?」
『あぁ、まあ私たちが何を言っても聞き入れてくれやしないだろう。 そもそも優勝したところで本当に廃艦を撤回するかどうか……それでも私たちはやるしかないのさ、それしか望みがないんだから』
「……」
しばらく沈黙が続いた。
なんと言葉をかければいいのかわからなかった。
また大人のせいで厄介ごとを押し付けられて、それなのに平気な顔をして。
どうして、弱みを見せてくれないのか。
「……ねぇ、エミ。 その……」
『ん?』
「……戦う前に、こんなこと言うのもなんだけど。 その……黒森峰に、戻る気はない?」
そうじゃないと、上手な手の差し伸べかたがわからない。
エミの笑い声が帰ってきた。
『もう勝ったつもりかよ』
「エミは、戦車道のことよく知ってるでしょ。 大洗の戦力とウチの戦力、比較すればどっちが勝つかなんて一目瞭然じゃない」
『プラウダには勝てたさ。 戦いっていうのは何が起こるかわからない』
「黒森峰は、あんないたぶるように時間を与えて逆転されるような愚は犯さない」
『それも含めて、さ』
「どうして、そこをそんなに守りたいの?」
知らずに口から言葉が溢れ出した。
『どうしてって?』
「どうせ、そっちでまた戦車道始めたのだって、そういう事情で無理やりやらされただけなんでしょう? 見捨てたって、誰も文句を言いやしないわよ」
『でも、帰る家がなくなっちゃうな』
「こっちにきなさいよ」
『エリカには会いたいけど、他の連中はいい顔しないさ』
「っ」
そんなことないと言いたくて、言えなかった。
黒森峰の者たちがエミに抱いた悪感情は、今も根深く残っている。
エミを黒森峰に連れ戻すのがいいことじゃないってことは、よく分かってる。
でも、それじゃあ
「……寂しいのよ、あなたがいなくて」
この心に開いてしまった風穴はどうすればいいというのだろう。
「あなたとみほがいなくなって、私すごく怖くなって……いつもあなたたちと一緒だったのに離れ離れになって、もう会えないのかもって思って、それで」
『エリカ』
「それなのにあなたとみほは別の学園艦でまた戦車道始めてて、そこに私はいなくてっ。 仲間外れにされたのが悲しくて、怖くて!」
『エリカ』
「なんで私1人だけ置いていったのよぉ……私だってあなたたちのそばに居たかったのに、あなたを助けてあげたかったのに……! なんで……みほだけ……ずるいじゃない……」
決壊してしまえばあとは、止める手立てなんてない。
ただただ無様に感情を吐き出す私。
それをただ聴き続けるエミ。
ぐずぐずと泣き散らしながら無様に喚いて、しばらくして私は、ようやく落ち着いた。
「……ごめんね、取り乱して」
『いいんだ。 むしろ、私の方こそ悪かった。 エリカのことを全然考えてなかったんだって思い知らされた。 ひとりぼっちは寂しいもんな』
「……うん」
『エリカ、分かったよ。 大洗が負けたら、私は黒森峰に戻る。 みほも連れてく』
「え?」
『みほは強引に私をここに引きずってきたんだから、私だってみほを強引に引きずってくことが許されるのは道理だろう?』
「でも……」
『いいんだよ、周りにとやかく言われようが、エリカと一緒に居られるなら苦じゃない。 また、エリカと、みほと、私の三人で、前みたいに遊んだり、勉強したりしよう』
「……ごめんね」
エミの優しさに、私はもう何をいったらいいかわからなかった。
申し訳なくて、でも、嬉しくて。
だから、ありがとうって言おうと思って
『ただし! 大洗が勝ったら当然この話はなーし! そしてエリカには罰としてみほと仲直りしてもらうぜ?』
「え"っ」
声が、震えた。
『こっちだけリスクを負うなんてフェアじゃないだろ? その時は私も付き添うからみほもエリカも一緒に、ごめんなさいして、また友達になろう』
「……結局仲直りはさせる魂胆なのね」
『2人が言い争ってるところ見るのは大嫌いだからね。 私は2人に、ずっとずっといつまでも仲良くしていてほしい、だから約束だぜ、エリカ?』
「……うん、わかった! 絶対勝つから、首洗って待ってなさいよ!」
『うん、じゃあおやすみ』
電話を切って、私はほおっと息をつく。
砂糖をまぶしたような満点の星空が広がっていて、その輝かしさを電話する前には気がついていなかったことを思う。
もう、迷いはなかった。
「うう、長電話してたら、体が冷えたな……さっさと寝よう。 おやすみ〜」
「……」
「エミちゃん……」
ソーダ水の炭酸が きれそうだ ▽