バンドリ短編集   作:星見秋

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シーズン1の時期に書きました。


解釈違い

「弦巻こころ」といえば? ──花咲川の特異点。奇人、偏人、変わり者。大財閥のお嬢様。常識知らず。三バカの一人。ハロー、ハッピーワールド! のボーカル。笑顔の導師。スーパーポジティブシンキング。闇夜も照らすシャンパンゴールド。太陽。光。無敵のヒーロー。凄い人。そして、ただの一人の女の子。

 

 だから、傍にいてあげたいって思うんだ。

 

 こころについてどういうところが凄いかとか、具体的な行動を取り上げて説明する気は今更ない。ちゃんとセッテイングされた場所でさあ語れと言われたら語ることもあるかもしれないけれど、あたしの口から自発的に語るかってなるとしないと思う。

 言葉で説明するよりも実際に見た方が早い。百聞は一見にしかず。一回だけでもいいから、ハロハピのライブを見に来てよ。きっと笑顔になれるから。こころの凄さもわかるから、ってこころについて誤解している人には伝えているけど、それだけだ。例えばホラー映画について語るときのりみとか、盆栽関連の話題になったときの市ヶ谷さんみたいに熱弁を振るうわけじゃない。見れば伝わるだろうし、それだけの凄さがこころには、ハロハピにはあると今は思える。

 その凄さっていうのは「世界を笑顔に!」っていうスローガンだ。

 目標と言い換えてもいい。ハロハピは世界を笑顔にするバンドだけれど、それはあたしたち五人、いや六人で達成するものじゃない。みんながみんなを笑顔にするのだ。ハロハピのパフォーマンスで笑顔になった人たちが、笑顔に勇気づけられた人たちが、他の誰かも笑顔にする。もしかしたらその誰かとはあたしたち六人かもしれない。

 こころは世界はみんながヒーローなんだと言っていた。誰かに笑顔をあげられる。誰かを勇気づけてあげる。それはつまり、極端なことを言ってしまえば、世界のみんなはハロハピなんだと宣言しているに等しい。ミッシェルはハロハピで奥沢美咲はハロハピじゃないなんて、そんな話はありえない。笑顔になったら誰もがヒーロー。笑えば勇気が湧いてくる。笑顔にならなきゃ誰かを笑顔にできないけれど、笑顔になったら誰かを笑顔にできるのだから。

 ……そう、だから、こころだけがヒーローというわけではないのだ。あの子は凄いし、笑顔だし、叶わないなって度々思うけれど、こころは超人じゃない。いつも笑顔ってわけじゃない。悲しむときだって、怒るときだって、当然あるかもしれない。だってこころはただの女子高生だ。単なる何十億分の一、ひとえの少女でしかない。あたしと変わらない、普通の人間なんだ。

 だからあたしは助けてあげたい。助けるって言い方は烏滸がましいし、こんな言い方をするのは気恥ずかしいんだけど、……あたしはこころのヒーローになりたいんだ。

 あたしはこころを笑顔にしたい。悲しんでいる顔なんて見たくない。もっとも、別にそれはこころに限った話じゃない。誰の悲しんでいる顔も見たくないし、だからこそ悲しまないで笑ってほしい。昔あたしがこころに言ったような、過度に首を突っ込むお節介行動なのかもしれない。昔のあたしなら、突っぱねられることを恐れて「どうせ何も変えられないよ」と斜に構えていたかもしれない。だけど、今はみんなを笑顔にしたいなって、……少なくとも、あたしの見えている範囲の人たちは笑顔であってほしいなって思う。

 こころも笑顔にしてあげたいんだよ。あたしが何もしなくても笑顔でいると思うけど、万が一こころから笑顔が失われるようなことが起こったとき、あたしはこころを笑顔にしたい。勇気づけさせたい。側にいてあげたい。悲しんでいる理由がピンとこないものだったとしても、せめて寄り添ってあげたい。あの夕焼けの差し込む教室で、こころがあたしにしてくれたように。だって誰かを笑顔にするためには、まず自分たちが笑っていないといけないのだから。

 ……まあ、もちろんそんな機会なんか来てほしくないんだけどね。

 

 〇

 

「あれ、花音さん?」

「美咲ちゃん、こんにちは」

 ──ショッピングモールの手芸コーナーに花音さんがいた。羊毛フェルトの生地を何枚か手にしていて、色はピンク、黄、それから水色。

「花音さんもフェルト生地を買いに来たんですか?」

「うん。ちょっと、お人形さんを作りたいなって思って」

 そう言うと、花音さんは愛おしそうに手にしたフェルトを撫でた。赤ん坊の頭を撫でるような手つきだ。実際、フェルトの黄色やピンクを撫で回す花音さんの瞳には優しくて柔らかいものが浮かんでいるように見えて、あたしはつい尋ねてしまった。

「誰かにプレゼントするんですか?」

「うん。千聖ちゃんと彩ちゃんにあげようかな、って思って」

「そうなんですか」

 なるほど、と思った。ピンクと黄色というと彩先輩と白鷺先輩の色だ。その二人にプレゼントする二人の色を用いた人形というと、二人を象ったものになるのだろうか。そうなると、水色のフェルトは花音さん自身の人形用なのだろうか。

 あたしは彩先輩のことも白鷺先輩のこともよく知らない。花音さんとは同じハロハピのメンバーだけど、だからといって同じ人間ばかりと仲良くしているわけではもちろんない。あたしにとって彩先輩はアイドル活動を行っている学校の先輩に過ぎないし、白鷺先輩にしてもそう。友人と声高にのたまうにはいろいろ足りない。

 でもそれは花音さんからしても同じ例はあるはずで、例えば市ヶ谷さんとか、交流がないわけではないんだろうけれど友人と呼ぶには至らない関係はあるはずだ。

 友人の友人。それは友人が構築している人間関係の一角を知れる存在であるし、同時にその友人に自分の知らない一面が存在することを裏付ける証明のようなものだ。

 それはそうだろう。人によって態度を変えるなんてことは珍しくもなんともない。あたしだってそうだし、市ヶ谷さんもそうみたいだし、こころでさえあたし以外にはこんなことしないだろってことをやってくる。花音さんだって白鷺先輩や彩先輩にしか見せない顔があっても不思議じゃない。

 とりわけあたしと花音さんの間にはそういう関係性が多いような気がする。彩先輩とか、白鷺先輩とか、花園さんとか、羽沢さんとか。あたしはあまり関わりがないけれど、花音さんは仲良くしている人。ハロハピとは無関係の共通の友人。そういう人が少ないから、あたしは花音さんのことをあまり分かっていないんだろうなと思う。

 あたしはハロハピでの花音さんのことは知っているけれど、それ以外の花音さんは知らない。はぐみやこころの場合、そんなことはない。こころは最近なんかずっと一緒にいるような気がするし(違うクラスであるにも関わらず!)、はぐみははぐみで戸山さんとか大和さんとか、ある程度話せるくらいの共通の知り合いはいる。でも学校も学年も異なる薫さんならまだしも、いやその薫さんだって日菜さんとか大和さんとかがいるというのに、花音さんは同じ花女であるにも関わらず、そういう相手がいない(強いて挙げるなら燐子先輩だろうか? でも、燐子先輩と花音さんってそんなに接点があるようには思えない)。

 だから、あたしは本当に、花音さんのことを一面でしか知らない。あたしからは見えない面の情報を伝えてくれるような筋もあたしにはない。

 そういう一面だけを切り取って、その人はこういう人だと理解した気になることの危険たること何とやら。それは誤解になりかねないと、あたしは思う。

「美咲ちゃんは何を作るの?」 

 花音さんの質問。あたしは目的のフェルトを探しながら、

「ミッシェルとか作ろうかなって思ってます」

「そうなんだ。あれ? でも、ミッシェルはこの間作ってなかったっけ?」

「そうなんですけど」花音さんが持っていたやつより少し色素の薄いピンク色のフェルトを手に持ち、あたしは言葉を続ける。

「こころがあれを見て、自分も作りたいって言いまして」

「……そうなんだ」

「それで、手取り足取り教えようってことで買い出しに来たんですよ。いくらこころでも、流石にやり方が分からないと出来るかもわかりませんし」

「……」

「でも、どうして急にやってみたくなったんですかね? そんなに楽しそうに見えたんですかね」

 問いかける語尾。疑問の意を表すというよりは、円滑に会話を進めるための問いかけだ。

 しかし花音さんは答えない。口元をきゅっと引き結んで、「…………」何かを考え込むような神妙な表情。問いかけに応じるつもりはなさそうだ。

 仕方がないので、あたしは口を開いた。片方が黙り込んでしまったとき、会話を絶やさないようにするためにはもう片方が頑張るしかない。噺家みたいに、語り掛けるように。

「でも、嬉しいですよ、正直に言うと。単にミッシェルが作りたかっただけかもわからないですけど、こころが羊毛フェルトに興味を持ってくれて。これで羊毛フェルトは楽しいってなったら、ハロハピの活動として羊毛フェルトをやる日が来るかもしれないですしね」

 口元に笑みを滲ませて見せるあたしに、花音さんがついに口を開く。

「ねえ、美咲ちゃん」

 やけに硬質な声音だった。眉を顰め、瞳には猜疑心の色が宿っているように見えて、何ならそれは睨み付けているようでさえあった。

「美咲ちゃんは、こころちゃんをどうしたいのかな?」

 そうして放たれた言葉に、あたしはぽかんとせざるを得なかった。

「どうって、どういうことで──」

「言葉通りの意味だよ。美咲ちゃんはこころちゃんをどうしたいの?」

 花音さんは言い放った。強い口調だった。疑問文ではあるけれど、その聞き方は授業中に生徒が手を上げて教師に質問するような生易しいものじゃなくて、例えるなら胸ぐらを掴んで「おいどういうつもりだ、説明しやがれ」と脅すかのような、それも直前まで穏やかに会話していたのに突然態度を豹変されたかのような、即ち暴力的。答えなかったら分かってんだろうな、って言われているみたいで、とにかくそれくらいの迫力があった。

 あたしは唾を飲み込んだ。ごくりと喉が鳴ったけれど、そんなことをいちいち気に留めておくには思考が混乱しすぎていた。

 どうして花音さんはいきなり脈絡もない話を持ち出してきたのだろう? しかもあんな剣呑な口調で。気づかないうちになんかしてしまっていたということだろうか。あの花音さんがあんなになるくらいのことを? 

 けれど実際に目の前の花音さんはあたしにじっと視線を送っていて、真っ直ぐと、射抜いて貫くような、催促するような、責め立てるような視線。

「ええと、その。……笑顔にしたいなって、思ってます」

 気づいたら、あたしは口に出してしまっていた。焦っていたからか、動転していたからか。考えるよりも前に口から言葉が滑り出ていて、それを認識した頃にはとっくに手遅れになっていた。

「ふうん。でも、こころちゃんは何もしなくても笑顔だと思うよ?」

 花音さんは答えた姿勢のまま固まったあたしをじろじろ眺めていて、それはまるで小学校で生徒がトラブルを起こしてしまった際に発生する説教。大の大人たる教師が理論的に生徒の悪行を問い詰めることによって罪を自覚させるような。

「確かに、そうなんですけど」あたしは言葉を詰まらせて、

「でも、こころには笑っていてほしいなっていうか。こころが笑えなくなったとしても、あたしが笑わせてあげたいなっていうか、……そういう、こと、です」

 とぎれとぎれ。つっかえつっかえ。苦し紛れ、という形容を振り払うことはできない。

「ふうん」

 花音さんはやはりじろじろとあたしを眺め回して、「そうなんだ」溜息を吐くかのように言い、

「私ね、こころちゃんにはヒーローでいてほしいんだ」

 と、独白。訥々と、独り言のように思いの丈を打ち明ける。

「こころちゃんは私にとってヒーローなんだ。ドラムを諦めて売りに行こうとしていた私を引き止めてくれたのはこころちゃんだったから」

 胸に手を当てて目を閉じる。当時の出来事を思い出しているというふうに。

「人前で演奏するっていう勇気をくれたの。それまでの私は引っ込み思案で、そんな自分を変えたいと思って始めたドラムも続けられなくて。もうやめちゃおうってドラムを捨てようとしたときにこころちゃんと出会って、私は勇気を貰ったんだ」

 口元に微笑みを宿らせる。思い出の温かさに頬を緩めているのかもしれない。

「そのおかげで、私はハロハピのメンバーとして演奏できてるんだ。今の私がいるのは、こころちゃんのおかげ。だからこころちゃんは私にとってヒーローなんだ」

 そこまで言って、花音さんは照れたように笑い頬を掻いた。それはしょうがないと思う。長々しい自分語りなんて、気恥ずかしくて人前では難しい。

 それに、発言の内容にしてもそんなに変な内容はない。むしろあたしもだいぶ共感できるところだ。こころに勇気を貰った、もっと言ってしまうとこころに自分を肯定してもらえた経験はあたしにだってある。そのことでこころに感謝している気持ちがないと言えば、それは真っ赤な嘘だ。あたしだってこころには感謝している。だから、花音さんの気持ちもあたしは理解できる。

 ……ただ、そうと言って引っ掛かりを覚えた点がないわけではないのだけれど。

「美咲ちゃんはどう? 美咲ちゃんにとってこころちゃんはどんな人?」

「え、あたしですか?」

 花音さんが尋ねてくる。

 あたしは返答に窮した。何も思いつかないからではない。あまりに思いつきすぎるが故に、却ってどれを選択していいか分からないからだ。

「弦巻こころ」と言えば? ──花咲川の特異点。奇人、偏人、変わり者。大財閥のお嬢様。常識知らず。三バカの一人。ハロー、ハッピーワールド! のボーカル。笑顔の導師。スーパーポジティブシンキング。闇夜も照らすシャンパンゴールド。太陽。光。無敵のヒーロー。凄い人。そして、ただの一人の女の子。

 要素が多すぎる。それは、それだけあたしがこころの一面を知っているという証左になっているわけだが、ここからどれか一つだけを選ぶのは中々に難題だ。これだけ数多くの面を備えていて、一つだけ選んでそれが弦巻こころという人間だよと主張したところで、それは間違っているに決まっている。一面だけを抽出したところで全体像が説明できるわけがない。人間なんて多面体であって当たり前なのに。

「……答えられないの?」

 ふうん、と息を吐いて、花音さんは再びあたしをじろじろと眺め回した。全身を舐めるような目つきだった。向けられると背筋がぞくっとするような悪寒を感じる。体内に緊張感が生じ、喉をごくりと鳴らしても息を鼻から深く吸っても薄れることはない。むしろ増大しているような気さえする。

 選択を間違えたのは明らかだ。でなければ、花音さん(そう、あの花音さんが、である)はこんなにプレッシャーを放ってはこない。

「こころちゃん、最近ちょっと変わったよね」花音さんが言った。

「笑顔が可愛らしくなったっていうか――たまに、女の子みたいに笑うようになったよね」

「……こころは普通の女の子ですよ」

「そうだけど、そうじゃなくてね」

 花音さんはかぶりを振ると、

「こころちゃんって、ヒーローだから。可愛いけど、かっこよくて、優しいから。だから、ずっと笑っていてほしいんだ」

 それは、あたしもそうだ。あたしだってこころには悲しんでほしくない。できることなら笑っていてほしい。

「でも、最近のこころちゃんはヒーローってよりは、女の子だよ。ヒーローじゃなくなったわけじゃないけど、……よく笑って、よく楽しんで、誰かに勇気をあげて。それだけじゃなくなったような気がするんだ」

「……どういうことですか」

「今のこころちゃん、つらくなれちゃうんじゃないかな。もちろん笑顔を忘れたわけじゃないけど、つらくなったり、悲しくなったり、くるしくなったりできるんじゃないかなって。普通の女の子みたいになってるんじゃないかなって思うの」

 あたしは目を見開いた。確かにそれは驚くべき事態だ。一時期はあたしのことをキグルミの人と呼んで、もやもやするようなことを頭から遠ざけていたようなこころがそんなふうになっていたのなら。それは確かに驚愕に値する。

 ……けれど、それは別に喜ばしい事態なのではないだろうか? こころが悲しんじゃうかもしれないのは確かに嫌だなって、本当に嫌だなって思うしそうなってほしくないけれど、そんなにさも由々しき事態のように取り扱われるような事柄だろうか?

「どうしてそうなったのかな?」

 花音さんがあたしの目を覗き込んでくる。

「こころちゃんはどうしてそうなったのかな?」

 

 あたしは戦慄した。それは、こころが今まで通りに喜怒哀楽の喜と楽のみを理解するような人でいればいいと言っているようなものじゃないのか。怒と哀を頭から放り棄てて、それらに全身を突き動かされている人を理解できないままその人の存在そのものを記憶から抹消する、かつてのこころのままでいればいいと言っているのか。

 確かにそれならこころは悲しまないかもしれない。しかしそれはこころに他人に対する理解を諦めろと言っているに等しいんじゃないか。こころにあたしの記憶をもう一度失くせと言っているんじゃないか。無理に理解する必要はないけれど、かといって理解をしなくていいということにはならないんじゃないか。

 こころのヒーローとしての側面ばかりに注目しすぎているんじゃないか。こころは確かにヒーローだけど、同時に人間でもあるというのに。

 こころが普通の女の子で、何がいけないって言うんだろうか。

 文句を言おうと、あたしは口を開こうとした。

 しかし、「あら、美咲に花音じゃない!」聞き覚えのある声が聞こえて、その思いは霧散してしまった。

「あっ、こころちゃん!」

 花音さんがうれしそうな声を上げる。あたしは少し虚を突かれて、

「こころ!? どうしてここに?」

「どうしてって、この間美咲と約束したじゃない。ようもうふぇると? を一緒に作ろうって」

「あー、はいはいわかりました。その材料を買いに来たってことですね」

「正解よ美咲! よくわかったわね!」

「いやー、流石にこれは分かると思います」

 喜色満面、満天の笑顔、こころの顔面に向日葵が咲く。花音さんが最近可愛らしくなったと評していた笑顔。そう言われてみると確かに、うん。可愛い。……かわいい。

 はっと気がついて花音さんの方に視線を飛ばすと、花音さんは一応当たり障りのないよう笑顔を浮かべていた。口元だけ。目元は全然笑っていない。

 そんな花音さんの様子を知ってかしらずか、こころは、

「美咲と花音は何をしていたの?」

「えっ、と、それは……」

 しどろもどろになるあたしの声に被せるように、花音さんは、

「お買い物をしてたんだ。羊毛フェルトの材料を探してるんだよ」

「まあ! 同じものを買いに来ていたのね!」

「あー、はい。そういうことになりますね」

「でも美咲、それならどうして呼んでくれなかったの?」

「いや、こころが買いにくるなんて思ってなかったし。黒服の人たちに頼むと思ってたよ」

「頼まないわ? だってせっかく美咲が教えてくれるんだから、自分で買いに行きたいもの!」

「あー、さいですか……」

 全く。この子は本当に、よくそんな台詞を恥ずかしげもなく吐けるよね。ほんと、凄いと思う。

 とうとうこころを直視できなくなって、あたしはぽりぽりと頬を掻いた。

 花音さんの方から湿った視線が飛んできていたが、気がつかない振りをした。多分、もう口元でも笑っていないんじゃないかな、と思った。

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