展開は飛ばし飛ばしなので、ヒロアカ原作を知ってる方が良いと思われます。
◇◇◇
雄英高校。1年A組教室。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。君たちは合理性に欠けてるね」
時は過ぎて。春。
新たな出逢いに胸を膨らませ、期待にわくわくを募らせた新入生が同じ教室に集った。
個性の影響か、志怜のいるこの教室は随分と主張が強い容姿をしている者が大多数を占めている。
唯一のヒーロー科。1年A組。
半端ない倍率の試験を通過した者のみが所属する選ばれしクラス。
今日が初めての顔合わせ。互いに自己紹介をしあっているその空間にいきなりその男は現れた。
「俺がこのクラスの担任"相澤消太"だ。よろしく。早速だが、お前達これを来てグラウンドに出ろ」
寝袋に身を包んだ一人の男性。黒一色のぼそぼさ髪と癖の強そうな容姿。
相澤は生徒達の質問にも有無を言わさない態度でジャージをクラス分、配布。
既に相澤の姿はない。
選択肢がない故に大人しく誰もが指示に従おうと席を立ち上がるしかなかった。
一方―――その頃。
響香は斜め前の席を見ていた。
頭を垂れ、がっつり机と合わせて微動だにしない男子生徒。他でもない、入試の時に救ってくれた彼だというのは分かる。
クラスメイトが交流を深める間、彼はじっと席から動かない。個性の影響なのか、それとも性格によるものなのかは分からない。
が、ぞろぞろと教室から外へ移動するとなり、流石に置いていく訳にも行かなかった響香は彼の席へ近寄り、肩を揺らす。
「おーい。もうそろそろ起きないと置いてきぼりに―――」
「ん?あんれ?誰もおらん………」
幸い、眠りは浅かったらしい。
目を擦りながらも半目で教室を見渡す彼に響香も黙って見守る。
「あれ?君は?」
「ウチは"耳郎響香"。入試の時、助けてくれてありがとうね」
「入試………あー、あん時の。どうもどうも。ところで、なんで誰も居らんのかな?もう放課後?」
「先生が外に出ろってさ」
「そっか。なら、俺らも早く行かんと。起こしてくれてサンキューな」
彼が席を立つ。
「あ、あのさ!」
「うん?」
「名前………聞いてもいい?」
「俺?あっ、そう言えばちゃんと言ってなかったか。俺の名前は―――」
◇◇◇
グラウンド。
「個性把握テスト!?」
そうだ、と相澤は断言。
全てを遮ってまで行おうとしていたのはどうやら個人の現段階での実力らしい。
雄英は校風が自由とされる。その定義に生徒も先生も関係ない。つまり、一般的な行事でもある入学式やガイダンスがどうなろうと知ったこっちゃないという訳だ。
第一種目―――50m走。
ジャージ姿の響香や志怜は順番待ち。
現在は、白髪ボンバーの目付き鋭い男子生徒が爆発と共に地面を吹き飛ばしたところだ。
因みにテストの中身は単なる体力測定。
個性解禁のおまけ付きだが。
「おっ、ようやく動いたか」
志怜の元に一人誰かが近寄ってくる。
その者は大柄の体格に触手のようなもの。さらに先端には目玉付き。個性強すぎな容姿だった。
一応、軽く頭を下げておいた志怜。
「"障子目蔵"だ。同じクラス同士よろしく頼む」
「英鈴志怜って言う。適当に呼び捨てでも構わんよ。こっちこそよろしく」
友情の証として、握手を交わす。
「てか、動いたって何だ?」
「ずっと寝てたのかは分からんが机と一体になったままだっただろ。そのせい」
「それは仕方ない。昨日、夜更かししてもうたからな。普通に眠かった」
「え?もしかして、高校が楽しみ過ぎて寝れなかった………とか?」
響香が会話に入ってくる。
「いや、違うけど。いつもの夜更かしってやつ。今回は予想外に苦戦してしまってな………止めときゃ良かった」
「あっ、そうなんだ………」
楽しみにしてたのは自分だけ。
響香は勝手に一人恥ずかしくなっていた。
「苦戦って………ゲームでもしてたのか?」
「ん?そりゃあ―――」
「次、英鈴志怜。お前の番だ」
と、絶妙なタイミング。
志怜の台詞を遮るかの如く、相澤の呼び声が掛かってしまった。
出番が来た彼はそそくさと測定の位置に着く。
普通の人と変わりない姿。でも、入試を突破してきた強者なのは違いない。
そして、響香は彼の個性を使用した現場を直で見ている。半端ない威力であった。
クラスメイトもまた彼の個性には興味があった。結果的に彼の記録にあちこちから期待が寄せられていた。
―――始まった。
「………7秒15」
―――記録、普通だった。
「個性は使わなくて良いのか?」
「大丈夫です。むしろ、こんな所では使えないですので」
「そうか」
相澤もそれ以上の追求はせず。
出番を終えた彼はその場から逃げるようにして元の居場所に帰ってきた。
「………」
「………耳郎さん?どうしてそんな蔑んだ目を向けてらっしゃるのでしょうか………?」
「ウチは知ってるから。志怜が個性を使えば、もっと記録を伸ばせた事」
「何?そうなのか?」
「うん。この目で見た」
「訳有りなんだ。察してくれ」
すまん、と手を合わした彼。
この現代社会において、個性は人間の価値を表すステータスの働きもする。
「………ごめん。余計な詮索はご法度だった」
「気にしてないよ―――え?嘘だよな?」
「えっ、え?ど、どうしたの?」
「何も言ってないが………」
彼が唐突に慌てた。
再度確認するが、特に会話にそんな返答をする内容はない。
「す、すまん。今のは二人には関係のない話。気にしないでくれ」
「ホント何?」
「分からんが、個性関連だろうな」
「その通りとだけ言っておくわ」
「でも、志怜、良いのか?」
「何が?」
目蔵が深刻そうに伝える。
「このテストで最下位をとった生徒は
「う、嘘やん………」
テストはまだまだ続く。
◇◇◇
グラウンド。
「志怜の奴、不味くないか」
目蔵がそう言う。
そんな結論に辿り着くのも無理もない。彼はこれまでの測定種目全てにおいて無個性のまま挑んでいたからだ。
同じように無個性で記録に挑んだ者も別にいたが、その者はソフトボール投げで個性を解禁し、見事に一位を獲得している。
「うん、ここまで来たら、むしろどういう個性か気になる」
響香の個性は"イヤホンジャック"。
音に突飛つした能力であり、プラグ代わりとなった耳たぶを使用する。攻撃は勿論、些細な音も拾う感知機能も備えている。
目蔵の個性は"複製腕"。
触手の先端に身体の部位を複製する。作られた部位は通常よりも強化されており、本体に悪影響も及ぼさない優れもの。
他のクラスメイトも少なからず一度は個性を使用済み。中には、測定不可能な記録を叩き出した生徒もちらほら。
「最後は………体力勝負かぁ」
最終種目―――持久走。
不安要素しかない種目。
ただし、今回は個性有りなので人によればとてつもない記録が出ることは違いない。
今回、全員が一斉に走ると記録が取れないのを理由にクラスを半数に分けて前半後半で行われることになった。
志怜は前半組に入った。
「耳郎はどう見る?」
「本人はやる気十分のようだけど、どうだか」
スタートラインで準備体操に念を入れまくる彼。現在の彼の順位は下から五本の指には入るぐらい。
そろそろ高順位に入って欲しい。さもなければ、最下位争いに巻き込まれて挙げ句の果てには除籍。
なのだが、そう簡単には問屋が卸さない。
推定順位一位―――"八百万百"。
彼女もまた前半組。しかも彼の隣を陣取っいる。
タイムはあくまで前半組と後半組合わせての判定となるが、強敵と一緒にいるというだけで心構えも変わってくると言うものだ。
「英鈴さん………でよろしいでしょうか?」
「ん?合ってるよ」
「なら、良かったです。よろしくお願いしますわ」
「ん。よろしく」
心配は杞憂だったようだ。
軽く紹介を交わす二人に緊張の様子はない。
「英鈴さんは個性は使わないのでしょうか?」
「んー………分かってる。分かっては居るんだけど、なかなか使いどころが難しくてな」
「そうですか………それほど扱いに癖のある個性なのですね」
「そ、そうやね。まぁ持久走は使うつもりやから一位は確定」
「言いますね。私こそ負けませんわ」
バチバチと散る火花。
準備も完了したのか、相澤が所定の位置に着いた。前半組全員の目付きが変わる。
―――パァン!!
合図が切られる。
スタートダッシュを見事に決めたのは百。個性を使い、バイクを精製した彼女は悠々とトップに躍り出た。
数十秒しても状況に変化なし。
他のクラスメイトも懸命に後を追おうとするが、人力とエンジンでは流石に力の差が歴然としている。
またしても首位は彼女の手に。
観戦している後半組の誰もが共通して認識してしまう程その差は大きい。
―――ラスト、グラウンド一週。
百がトップを独走。
このままでは何もなく終わってしまう。彼の活躍を期待していた響香も目蔵も内心では諦めがちなムード。
因みに彼は最後から四番目の順位で走っている。
百が最後の直走ゾーンへ突入した。
もはや逆転は不可能。
誰もが諦めへと行くその時―――異変が起きた。
「な、何!?」
「これは………鳥の声か!?」
響香が異変を察知。続いて、目蔵もまた強化された聴力で情報を集める。
グラウンド全域に木霊する甲高い鳴き声。
声の主はどんどんと大きくなり、やがて彼等の前に出現したのは―――
まるで―――グリフォンのような生物。
人間を優に見下す巨体。羽ばたけば、風が舞い上がる巨翼。馬のような四本足。ギロリと全てを見据えたかのような目。
現実に存在しない架空の生物が出現した。
「う、嘘………だろ!?なんだよ、あれ!?」
「何処から来たんだ!?」
派手に目立つ仁王の姿。
グラウンドを走る他の生徒にも自然と関心がそちらに寄ってしまう。
巨大なグリフォンはやがて、走る生徒のグループの頭上を飛翔して並走を始めた。
そして、驚くことに誰かがグリフォンの背中に飛び乗った。
「あれ………志怜が呼んだんだ………」
響香の目に写る非現実の光景。
個性を封印してきた彼が夢の生物グリフォンの背中に立っている。現実なのか疑いたくなるが、正真正銘、現実だ。
よく見れば、彼の服装にも変化がある。王族が着ているようなローブに腰には長剣を携えていた。
「このまま一直線だ。ヒポグリフ」
グリフォンも志怜を主人と認識しているのかすんなりと彼を背中に乗せた。そして、その巨体を軽々持ち上げ、宙へと飛び上がり一気にゴールへと突き進む。
最後尾付近の彼を乗せたグリフォンが怒濤の速度で通り越し、カーブを殆ど速度を落とさずに曲がりきる。
前を走る生徒を目にくれず、ガンガンと追い抜いてしまう。
そして、そのまま一気に彼は―――
「そんな!?」
百すらも抜いて、成績一位でゴールした。
-3-へ続く。
*次回、ようやく説明回(予定)。