怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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タイトルの伏字は読者の皆さんのご想像にお任せします。
今回の話は前、後編合わせて三人称で進めさせていただきます。





第十話 怠け者、■■■。<前編>

 

 

 

「ーーこれはッ……」

 

「?ゲブ様、どうかしたんですか?」

 

「ああ、何でもないぞ。少し疲れでボーとしてしまってな。」

 

 神ゲブの寝室にて週に一度のステイタス更新を行っていたヴァンは主神のいつもと違う反応にいぶかしんだが、当の本人であるゲブが問題ないと言うためそれ以上の詮索は行わなかった。

 

「ところでヴァンよ。最近何か変わった事でもあったか?悩みがあるなら私も相談に乗ろう。」

 

「……まあ、あることはありますが大丈夫ですよ。ゲブ様の手を患わせるほどのことじゃありませんし。」

 

「ふむ、そうか……。」

 

 下界の子供たちの嘘は天界よりきた神々には通じないというのはもはや下界での一般常識であり、この神ゲブも当然その嘘を見通す力を持っている。

 その力によってヴァンの発言には嘘はないことが分かり、特に話し方からも後ろめたいといった感情もまるで感じられなかったため、傍から見れば本当に問題ないようにも見えた。

 しかし、ゲブはヴァンが自分に何かを隠していることに感づいていた。

 

 

 

 なぜなら、この一週間の中で彼に""その人格さえも捻じ曲げる猛烈な変化""をもたらした何かがあったことが文字通り彼の背中に刻まれたステイタスが物語っていたからだ。

 

 

 

 ヴァンに手渡したステイタスの写しには書かなかったのだが、実はヴァンには新たなスキルが発現していた。

 しかし、そのスキルの内容が非常に危険な思想に取り付かれていた人間にのみ発現するようなレアスキルであったため、ゲブは諸手を上げて眷属の変化を喜ぶことが出来ず、ヴァンにスキルのことを言い出すことも出来なかったのだ。

 

(……一体、何が彼を変えてしまったのだ。)

 

 本来、神の恩恵によって獲得するスキルや魔法は種族や血筋で獲得できる特殊なモノを除いて大体は本人の心の有り様が大きく反映されており、最初はなくとも精神的な成長を経て後天的に発現することがままある。

 通常であれば世間一般で言う所の普通の日常生活を送っている人間はそういった色濃い性質を自身に持つことがかなり稀なことで、初めて神の恩恵を授かる人間の大半は比較的習得しやすい方であるコモンスキルですら持っていないのが実情である。

 【ゲブ・ファミリア】では当然のように、まだ二人の団員しかいないとはいえ、団員全員がスキル持ちであるがこれはかなり珍しい部類なのだ。

 

 そして、今回ヴァンが新たに取得したスキルはおおよそただダンジョンに潜っているだけでは手に入れられない様な部類の経験によって取得できるスキルで、明らかに最近の人間関係のこじれによって生み出された感情がスキルを顕現させた発露になったとゲブに思わせるほど異様なスキルだった。

 スキルが発現した切っ掛けは依然として分からないが、己の眷属が誤った道に進まぬよう主神として彼のことを監視とまでとはいかなくても注意深く見守らなければとゲブは心に誓った。

 といっても彼のことを四六時中見守ることなどほぼ不可能なため、現状で分かる範囲である程度本人に探りを入れていかねばなるまい。

 

「ヴァンよ。最近の君はいささか働き過ぎだ。君なりにファミリアのことをよく考えているのは分かるが、無理をしてはいかんぞ。」

 

「……確かにゲブ様の言う通りかもしれません。けど、俺が今働かないとファミリアが大変な事になることくらいゲブ様にも分かりますよね?ただでさえとんでもない大喰らいがウチにはいるんですから。」

 

 ヴァンはゲブと初めて会った時、入団条件として「週五休暇、三食、昼寝付き」と提示し、ゲブはその条件を飲んだ上で彼を眷属にした。

 ファミリアが発足してから約一カ月間はヴァンの天性の才覚によってそれで何とかなったが、それ以降は何かとトラブルに苛まれヴァン自身が自主的に働かざるをえない状況へと追いやられていた。

 今では「週三休暇、三食、時々昼寝」といった塩梅で、彼に掛かっている負担は単純計算で二倍である。

 

 ゲブ自身、彼が自主的に働いてくれたことに後ろめたく思う反面、非常に有り難く感じていたこともあり特に今まで言及してこなかった。

 しかし、自分が働かざるを得ない現状にとてつもないストレスを感じ、彼があのようなスキルを発現したのだとしたら責任は主神である自分にもあると思いあのようなことを言ったのだが、ヴァンからはそんなゲブの申し出を責める非難の声が飛んできてしまいゲブは言葉に詰まってしまう。

 確かにロニーが来てからは食費は増え彼女の稼ぎにも期待できない以上自分達が頑張って稼ぐしか他になく、これ以上バイトの数を増やすのも困難なゲブでは根本的な解決は不可能なためその分ヴァンがダンジョンに潜って稼ぐ必要があった。

 

 友好関係にある【アストレア・ファミリア】からも少しだけ資金を出してもらっているが、いつまでも彼女達の力を借りるわけにもいかないのでファミリアの団員であるヴァンが頑張るのは当然と言えば当然である。

 元凶であるロニーの浪費癖を直そうにも彼女が自分の感情を制御できずに買い食いをしてしまうことが原因であるため、彼女に何回言い聞かせてもその悪癖は治らないし、かと言って四六時中監視することも出来ず、さらに精神的に未熟な彼女を強く責めることができなくて、現在では放置することになってしまっていた。

 主神としては眷属の生活面を管理ができていないことに不甲斐なさを感じ、こんな自分に付いて来ているヴァンには感謝さえしている。

 しかし、どんなにファミリアの経営が大変でも自分が思っている本当の気持ちをゲブはヴァンに伝えたかった。

 

「ああ。……だが、もし君に倒れられでもしたらことだからな。私も主神として可能な限り君の力になりたいのだ。だから、ヴァンよ。休みたければちゃんと私に言うのだぞ。」

 

「……はい、お気遣い感謝します。でも、まだ大丈夫ですから。」

 

 最初に出会った頃に感じていた言動の節々に隠れた軽いノリは鳴りを潜め、主神を敬う礼儀正しい態度でヴァンはそう言うと最後に一礼し、ゲブの部屋を退出した。

 ヴァンが出て行ってから暫くして、ゲブはヴァンの最後の言葉を脳裏に浮かべた。

 

「……まだ大丈夫、か……。」

 

 一人だけになった自室で、ポツリとそう呟く。

 

 

 

 最後に自分の眷属がうっかり吐いてしまった嘘を、ゲブは頭の中で反芻するのであった。

 

 

 

 

 

 

 【ゲブ・ファミリア】でステイタス更新を行った翌日、朝からバイトのあるゲブに見送られながらヴァンとロニーは一緒にダンジョンへと向かっていた。

 

「ロニーちゃん、おはよう。今日もウチの屋台によっておいで。串カツ一本サービスしたげるから。」

 

「わーい!オバさん、ありがとう!」

 

「おお、ロニーちゃん、今日も朝から早いねぇ。今日、新作のじゃが丸君出すからよかったら寄って来てくれよ。」

 

「ホント!?ロニー、絶対よってく!」

 

「よっしゃ!出来立てを用意して待ってるぜ!」

 

 最近では毎日買い食い用の費用を稼ぐためにダンジョンに潜るロニーは近所の飲食店や屋台を出している人の間ではすっかり有名となっていて、朝の仕込みで表通りに出ている人たちの前を通ると明るい声であいさつをされることが多くなった。

 最初のうちは万引き騒ぎで嫌煙されていたが、一カ月も経てばもうお金を出さずにモノを食べないと約束させたことと彼女の持ち前の明るさによってそういった疑いを持つ人間はこの通りにはいなくなっていた。

 近年、オラリオでは犯罪が横行している所為か自然と人々の顔から笑顔が消えていることを考えると、この光景はかなり珍しいモノと言えるだろう。

 

 週に四日とはいえ、かなり特徴的な黒い装束でダンジョンへと向かうヴァンもダンジョン外ではロニーと共に行動するのをよく見られるため、彼のことも自然と知る人間も増えていった。

 そのおかげか、彼が休日に屋台に行くと時々サービスしてくれる店が多くなっていき、ファミリアが被っている金銭の消費とは釣り合わないもののある程度イイ思いはさせてもらっている。

 

 朝から元気いっぱいに挨拶をしているロニーにその隣を歩くヴァンは声を掛けた。

 

「なあ、ロニー。少し相談があるんだがいいか?このまま歩いたままでいいから。」

 

 普段、用もなければ自分から話しかけようとしないヴァンが珍しく話し掛けてきたことに少し疑問を抱いたロニーだったが、特に気にせずに答えた。

 

「うん、いいよ!どんなお話するの?」

 

「ああ、唐突で悪いんだが、ロニー。今日は俺と一緒に7階層まで潜ってくれないか?」

 

「え、……でも、ロニーまだ4階層までしか行ったことないよ?」

 

 ロニーは金をいつも湯水のように使い果たしてしまうものの普段からダンジョンに潜っていることもあって、ステイタスはかなり上昇しており、魔法が発現していないため魔力は0のままではあるが他のアビリティは全て熟練度Hに達している。

 さらにバトルスタイル的にモンスターからの攻撃の被弾が多い所為か、耐久に限って言えばGに届きすらしそうなステイタスである。

 これに彼女のスキルが最大限の性能で発揮できる状態で発動すれば十分5階層でも通用するステイタスと言えるだろう。

 

 しかし、ヴァン自身の経験からロニーはもっとステイタスを上げてから5階層に挑んだ方がいいとして、これまで次の階層へと進出することは止められていたのだ。

 それなのになぜ、ヴァンは自分を5階層どころかそれより下の層へと同行させようとしているのか、ロニーには見当もつかなかった。

 

「大丈夫、お前の今のステイタスとスキルを駆使すれば7階層まで踏破すること自体問題にならん。それに今日はお前をサポーターとして連れていきたいだけだからな。」

 

「だんちょー。サポーターって、なに?」

 

「そういえばお前にはまだ教えてなかったな。サポーターってのは主に魔石やドロップアイテムの回収とか、俺が使ってるこれみたいな副武装を運んだりする所謂雑用係だな。」

 

 そう言いながらヴァンは自分の背中に背負われているブロードソードを右手の親指で指さす。

 しかし、あまりうまくイメージができないのかロニーはピンとこない表情で首を傾ける。

 

「ザツヨウガカリ?」

 

「……えーと、つまり戦い以外のことをやる人のことだ。」

 

「う~ん。……うん!ロニー、サポーター分かった!ロニー、サポーターやる!」

 

「よし、その意気だ、ロニー。じゃあ、俺の革袋も無くさずに持っておけよ。」

 

「はーい!」

 

 ロニーは元気よくそう返事をするとヴァンの魔石やドロップアイテムを収納する革袋を受け取り、まだ空きのあるバックパックに詰め込んだ。

 

「前にも言ったが、下の階層のモンスターは強いが倒せば上の階層よりも高い金額を稼げるようになる。今日は俺とお前で取り分を半分ずつにするが、いつもよりお前の稼ぎが増えることは期待していいぞ。」

 

「ホント!じゃあロニー、いっぱい頑張って、いっぱい稼ぐ!」

 

「ああ、俺もお前の活躍に期待してるぞ。」

 

「うん!ロニー頑張る!」

 

 なぜ急にヴァンがサポーターとしてロニーを連れていくことを言い出したのか。

 そんな当たり前のように思い浮かぶはずの疑問をロニーは抱くことなく、終始楽しそうな表情でダンジョンへと続く道をヴァンと共に進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンに入る前にサポーターとしてある程度の注意事項をヴァンから教え込まれたロニーはそれを必死に覚え、言葉を反芻しながらダンジョンを歩いていた。

 ヴァンは4階層までは現在のロニーの腕前を正確に知るために出くわしたモンスターを全てロニーへと任せ、自分の指導を離れたロニーがどのくらい成長したか実際に確認した。

 結果として、ロニーの戦闘力はコボルトとゴブリンの混成集団で大体6体くらいまではスキルがなくても余裕で倒せるくらいの実力で、この分ならウォーシャドウと対面しても問題ないくらいだろうと判断された。

 

 最低限の自衛だけはするようにと最後まで釘を刺されながらであったが、ロニーはついに初めて5階層へと降り立った。

 

「おい、ロニー。ここから先はお前の腹の音が目立つと面倒だ。今のうちにこれでも食っておけ。」

 

「え、いいの?だんちょー、ありがとう!」

 

 ヴァンは腰につけたポーチから保存食として使える燻製の肉をロニーへと差し出し、食糧の補給をさせる。

 ロニーは今までの戦闘で余程腹が減っていたのか肉を手渡されるとすぐに口へと放り込み、よく噛みながら食した。

 

 それからヴァンとロニーの一行はエンカウントした5階層のモンスターを次々と屠っていき、魔石へと変えていった。

 もちろんヴァンが主体となって戦っていたが、少なからずロニーが相手をしなければならないモンスターもいる。

 慣れない相手に苦戦していたロニーだったがほとんど一対一の戦いであり、ウォーシャドウといった手ごわい相手は全てヴァンが受け持っていたため、全て自身が持つメイスで叩き潰していった。

 

 そして、二人は順調な足取りでドンドン5階層を突き進んでいき、一時間ほどで6階層へとたどり着く。

 しかし、流石に6階層ともなると攻撃の激しさもモンスターの出現頻度も増していき、さしものロニーも慣れないこと続きで疲労が溜まり始め息を切らしていた。

 その状況を見かねたヴァンは正規ルートから少し離れたルームへと向かい、一時休憩を取ることにした。

 

 ルーム周辺のモンスターを一掃した二人は半径約五メートルほどのルームの中央に陣取って、ロニーの空腹もついでに解消すべくかなり早めの昼食を始めた。

 ご飯が食べれると知ったロニーは一目散に荷を地面におろしてゲブが作った弁当を食し、ヴァンも彼女と背中合わせになる形で食事をちびちびと始めていた。

 弁当の中身であるサンドイッチをすぐに食べ終えてしまったロニーは視線を後ろにいるヴァンの横に置かれたサンドイッチの入った弁当箱へと移し、特に彼の様子を伺うことなくそれに手を付けてしまう。

 ヴァンももはや慣れてしまったのか、むしろどうぞ食べてくださいと言わんばかりに弁当箱をロニーの方へと押していた。

 

 食事のことになると遠慮が無くなるロニーは瞬く間にヴァンの分のサンドイッチも腹に収め、満足したといった表情を見せる。

 

「ふぅ~。ごちそうさまでした!」

 

「少し食休みしたら次の階層まで行くから準備しておけ。」

 

「は~い!」

 

 ヴァンの命令によりロニーは弁当箱を片付け、荷物の整理し始める。

 その傍らでヴァンはロニーに背を向け、俯きながら小さな声で何か呟いていた。

 

「【伝染……、怠惰の……。】、……。」

 

「ん?だんちょー?何か言ったーー」

 

 ロニーはヴァンが独り言のように呟いていたことが気になり振り返って疑問の声を上げたのだが、それを言い切る前に彼女の目の前は何かに黒いモノに覆われて真っ黒になってしまう。

 目の前が真っ暗になったことに驚く間もなく、ロニーは今まで感じたことのない倦怠感に急に襲われ立つことすらままならなくなり膝を地面につけた。

 彼女が膝を付けると彼女の目を覆っていた""黒い手袋を付けた手""は、そのまま手を放さずに力を入れ彼女の頭を地面にたたきつける。

 

 流れるようにして行われた一連の出来事に抵抗できずにやられるがままのロニーはそのまま頭に強い衝撃を加えられる形で仰向けに押し倒されてしまう。

 頭に加えられた衝撃は非常に強く、もう何もかもどうでもよくなるような倦怠感も助長する所為か、ロニーの意識はかなり不鮮明になっていた。

 地面にたたきつけられてから視界を覆う手は離されたものの全身を襲うまどろみに飲まれ、ロニーは体に力すら入らない処からむしろその衝動に抗うことなく体から力を抜いていきその目すらも閉じてしまう。

 

 しかし、ダンジョンにおいて意識を失うことは自殺行為を意味すると前にヴァンに教えられたのをロニーは思い出し、こんな場所で死んでたまるかとギリギリのところで意識を覚醒させる。

 そして、覚醒した意識の中でロニーは重たく閉じてしまった瞳を再び開け、自分をこんな目に合わせた人間の姿を視界にとらえた。

 

 所々プロテクターが付けられた全身真っ黒の黒装束に、癖の強い茶髪、そして眠そうな瞳をした少年。

 

 

 

「ーーだん、ちょぉ?」

 

 

 

 そこにいたのは彼女にとって頼れる先輩であったはずの、ヴァンだった。

 

 

 

 

 

 

 







後編に続きます。

次回は自分で言うのもなんですが割と胸糞で意味不明な展開です。
ある程度読者が離れてしまうのは仕方ないと作者は考えています。

あと、ヴァンの新スキルは次回のあとがきで出そうかなと考えています。


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