怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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たくさんのお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます!

お待たせしてすいません。
描写の見直しと今月出た原作第十四巻を読んでたら時間がかかりまして(

では、後編をどうぞ。




第十一話 怠け者、■■■。<後編>

 

 

 

 ロニーは信じられないモノを見るような目で自分の上に覆いかぶさるヴァンを見つめた。

 ヴァンはロニーに名前を呼ばれても何の反応も示さず、まるで何事もなかったかのように平然とした様子でロニーをただ見つめている。

 余りにも平然とし過ぎてヴァンがロニーを襲ったことが嘘みたいにも思えた。

 だが、現在進行形でロニーはヴァンに取り押さえられており、意識を取り戻しても未だに消え去らない倦怠感の所為で体に力が入らず、精々身じろぎするくらいしか体を動かせなかった。

 

 状況から察するにロニーの体の倦怠感もヴァンの仕業であることは容易に分かることではあったが、ロニーからしてみればヴァンにこんなことをされる理由が全く思いつかず、終始混乱し続けていた。

 しかし、全く状況は飲み込めなくとも数週間前にヴァンから教わったダンジョン攻略の通りに、慌てず冷静に得られる情報を確実に集めようとロニーは今自分で出来る範囲で情報を手に入れることに従事する。

 と言っても体の自由が利かない上に、種族的に脳筋になりやすいドワーフであるロニーでは多くの情報をこの局面で得ることは難しく、精々ほとんど動かすことのできない視界からの情報くらいしかマトモに手に入らなかった。

 

 そして、唯一手に入る視覚からの情報は相変わらず何も言わず自分を見つめるヴァンと、うっすらと光を帯びたダンジョンの壁だけで事態を解決する糸口には結びつかなかった。

 それどころかずっと自分を見続けるヴァンのことを見ていると言えもし得ぬ感情を抱き始め、動悸が少し激しくなってしまう始末である。

 それが一体どんな感情なのか、そのことを知ってはいけないと本能で感じ取ったロニーは気を紛らわせることも兼ねてもう一度気力を振り絞ってヴァンに声を掛けた。

 

「……だ、だんちょぉ、ロニー、体に力、入らなくてね、それで、えっとーーー」

 

 しかし、その言葉を最後まで紡ぎ終える前に今まで身動き一つしなかったヴァンが動き出す。

 ヴァンはロニーの右手を片手で掴むと、その腕を起点にして仰向けになっていたロニーを裏返しにするようにうつ伏せにし、右手を掴んだ状態のままロニーの背に足を乗せ完全に身動き一つできないように組み伏した。

 話をしている最中に急に組み伏せられたロニーは顔面を地面にたたきつけた時に勢いよく口を噛んでしまい、その所為で出来てしまった口内の傷口から赤々とした血を唾液と共にポタポタと口から垂れ流す。

 

「~~~~~ッ!!」

 

 ロニーは口を噛んでしまった痛みで声なき悲鳴を上げる。

 ロニーが痛みによって悶絶しているうちにロニーの頭の後頭部を空いたもう片方の手でガッチリと掴んだヴァンは、そのまま力任せにロニーの頭を地面へと叩きつける。

 元より組み伏されるまでもなく抵抗する力のないロニーは無抵抗のままその容赦のない攻撃を受け、顔に新たな傷を増やした。

 

 しかし、ヴァンの暴行はそれだけでは終わらず、ロニーの頭を持ち上げては振り下ろし、持ち上げては振り下ろしと、同じ動作を繰り返し行った。

 

 機械のように何度も、何度も。

 ロニーの顔面を地面に叩きつけた。

 

 そして、その度にロニーの顔の傷が増えていき、ヴァンがその手を止めた時にはロニーの顔は自身の鼻と口から出た血で赤く彩られ、内出血して膨れている箇所も多々見受けられた。

 度重なる頭への衝撃で再び意識が遠のいてしまうロニー。

 もう彼女には呻き声を上げることしかできなかった。

 

 ほぼ死に体と言っても差し支えのない状態までロニーを追い込んだ張本人であるヴァンは動きを止めず、ロニーの拘束を一瞬だけ解くと力なくだらりと下げられたロニーの右腕を小脇に挟み、空いたもう片方の手を添えた。

 そして、添えた手に思いっきり力を入れるとミシミシと嫌な音が数秒続いた後……。

 

 

 

 ポキリッ、と乾いた音がルームに響いた。

 

 

 

 まるで木の枝が折れたような音ではあったが、実際に折れたのはロニーの右腕である。

 

「ーーうあぁぁああ、アゥグッ!?」

 

 余りの痛みに再び意識を覚醒したロニーは悲鳴を上げるも、またしてもヴァンに後頭部を掴まれ、地面に叩きつけられる形で強制的に黙らされてしまう。

 再びロニーが静かになるまで何度も、何度もヴァンはロニーの顔面を血に染まった大地へと叩きつけた。

 ロニーの頭を叩きつける音がダンジョンにこだまする。

 

 ダンジョン内での戦闘音に慣れ切った冒険者達がその音を不思議に思うことはなく、むしろ他の同業者とかち合わないようにと皆、音のする方向から遠ざかっていた。

 

 誰の助けも来ることもないままロニーは無言の暴力になすすべもなくやられ続け、その手が止められた時には歯が血と共に数本抜け落ち、さらに顔の判別が難しくなるほど顔が膨れ上がって目も片目が辛うじて見える程度という有様だった。

 片腕を折られ、顔を嬲られ、訳の分からない倦怠感に襲われるなど、今まで体験したことのない恐怖の連続でロニーの心は完全に折れていた。

 

「……ひぃ、ッぐ。……だ、だん、…だんちょっ、……ごめん、なさいっ。……ごめっ、なさい……!」

 

 泣きながら、遅すぎる謝罪を繰り返すロニー。

 この場で彼女が一番恐怖したのは無言で淡々と暴行を振るい続けるヴァンそのものであり、今の彼女にとってもはや""ヴァン""という存在は""恐怖""そのものでしかなかった。

 真の""恐怖""を魂に刻まれたロニーに反抗する意思はとうになく、ただただ助けを乞うように謝り続けた。

 

 ……だが、無慈悲にもその願いは聞き遂げられることはなく、今度は足を折る気なのかヴァンはロニーの左足へと手を伸ばしていた。

 届かない謝罪を延々と続けるロニーの足を単純作業のように折ろうするヴァンだったがその動きを急に止め、掴んだロニーの足を無造作に放り出すと大きく後ろへと飛びのいた。

 

 次の瞬間、二つあるルームの入り口の一つから緑色の影が飛び込み、目にも止まらぬ速さで得物を振り抜いてヴァンをルームの壁へと叩きつけた。

 ダンジョンの壁に罅が入る程の勢いで飛ばされたヴァンは壁にぶつかったものの、倒れるギリギリのところで体勢を立て直す。

 思考をすぐさま戦闘用のモノに切り替えたヴァンは自身の邪魔をした人物を正面に捉える。

 

 

 

 緑色のローブに顔を隠すように覆われた覆面。そして、覆面の隙間から垣間見える怒りに満ちた空色の瞳を持つエルフ。

 【アストレア・ファミリア】所属。上級冒険者、【疾風】のリオンがそこにいた。

 

 

 

 彼女は怒りに燃え上がる眼でヴァンを見つめ、手にした木刀を向ける。

 

「……これは、どういうことですかッ!!答えなさいッ、ヴァン!!」

 

 傷だらけで意識も朦朧としたロニーを庇うように立つ彼女は激情に任せるようにそう問いた。

 その言霊には明確な怒りが込められており、言葉を向けた対象に恐怖心を抱かせるのには十分すぎるほどものだった。

 しかし、それに対してヴァンは驚くほどに冷静、というよりもいつも通りボーっとした表情で彼女を見つめているだけで恐れを抱く様子を全く見せなかった。

 

 その様子に怒りを覚えたリオンは目の前にいる腐れ外道を叩きのめそうと足を一歩前に動かすも、彼女の後ろにいた人物に肩を叩かれて制止させられる。

 

「リオン、待ちなさい。」

 

「ーーアリーゼ、何故止める!!貴女とて彼がやったことが分からないわけでは無いでしょう!?」

 

 彼女の同僚であり、【ファミリア】の団長であるアリーゼ・ローヴェルだ。

 激高する仲間に対し、アリーゼは毅然とした態度で彼女をなだめる。

 

「一旦落ち着きなさい。私は彼を助けるわけじゃ無いわ。リオン、今あなたがすべきことはそっちじゃないと私は言っているの。」

 

 視線をロニーに向けるアリーゼを見て、リオンはハッとした表情になり怒りから我に返って来た。

 リオンはある程度のケガを癒すことができる魔法を有している。

 そのため完全に治すことは出来ずとも、応急処置をする分には彼女の魔法を使った方が理にかなっているということをアリーゼは言外に伝えたのだ。

 

「……すみません、アリーゼ。彼のことは任せます。」

 

「うん、任せて。」

 

 リオンは武器を収めるとロニーの下へと向かい、応急処置の準備に入った。

 そして、彼女と入れ替わるようにヴァンと対峙したアリーゼはいつになく真剣な眼差しでヴァンを見つめる。

 

「……じゃあ、聞かせてもらいましょうか。何で君がこんなバカげたことを仕出かしたかをね。」

 

 アリーゼは一見落ち着いた様子に見えるが、その手には血が流れてきそうなほど強く握りしめられた握り拳が作られており、彼女も仲間のエルフと同様に彼に対して激しい怒りを覚えているのは明白だった。

 きっと彼女も仲間の怒り狂う様を見ていなければ、一目散に彼に殴りかかっていたのだろう。

 リオンの回復魔法による光を背に対面する二人。

 

 数秒のにらみ合いの末、今まで頑なに口を閉ざしていたヴァンの口が開かれた。

 

「……誰にも付けられてないと思ってたんですが、いつから俺達のことを?」

 

 聞かれた質問を無視し、逆に質問をぶつけてきたヴァンに対しアリーゼは苛立ちを抑えながら正直に答える。

 

「見つけたのはついさっき。君がわざと若干正規ルートを外れて移動してたもんだから探し当てるのに時間が掛かっちゃったよ。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

 ヴァンは妙に納得するような素振りを見せる。

 彼は自分の耳にかなり自信を持っており、これまでダンジョン探索の中でも索敵に関して言えばかなりの精度を誇っていた。

 今回、""ロニーの処理""をする上で誰かに見られることを嫌った彼はこの能力を最大限活用し、人気のない場所に来たのだが多くの犯罪組織相手に様々な調査をしたことがある【アストレア・ファミリア】の団員の調査能力の前では意味がなかったようだ。

 

「……私達が何で君を追いかけていたのか、聞かないんだね。」

 

「まあ、大体予想は付きますからね。……ゲブ様がアリーゼさん達に頼んだんでしょ?」

 

 まるで確信しているかの様にそう言ったヴァンの言葉をアリーゼは肯定する。

 

「……ええ。今朝、しばらくでいいから自分がバイトで手が離せない間、君のことを見張っておいて欲しいってゲブ様から正式な依頼をされたの。しっかり依頼料まで用意されてたんだからびっくりしたわ。」

 

 その時の場景を思い出すように彼女はゲブの依頼を受けた時のことを口にする。

 ゲブがどのくらいの額を払おうとしたのかは分からないがアリーゼの反応から察するに、ローンの返済すら済んでいない貧乏ファミリアにしては相当な額だったのはまず間違いがなかったのだろう。

 事実、その時ゲブが払おうとしていたお金は彼が個人的にコツコツと溜め続けていた総資産であり、その額は十数万ヴァリスに迫っていた。

 

「流石にお金は返したけど、必死さはよく伝わった。だから、私達は依頼を受けたの。で、早速君の後を追ってダンジョンに行ってみたら君達が一緒に行動してるっていう証言を聞いて、とにかく情報を頼りにしらみ潰しに探したわ。6階層に入ってから足取りが分からなくなったんだけど、さっきの彼女の悲鳴が聞こえてきてここにいるのが分かったってわけ。」

 

 アリーゼは自分達がここに来るまでの話を終えると一息吐き、改めてヴァンに質問を投げかける。

 

「さあ、私は君の疑問にちゃんと答えた。次は君が白状する番だよ。」

 

 正面から真っ直ぐな瞳でヴァンを居抜きながら、アリーゼは返答を待つ。

 もしも誤魔化したり、その場を逃げようとすれば容赦なく殴りかかりに来そうなアリーゼを見て、ヴァンは観念したような様子でポツポツと話し始めた。

 

「……限界だったんですよ、そこのドワーフと一緒にいることが。」

 

 ここまで表情一つ変えてこなかったヴァンだったが話が進むにつれて、徐々に嫌悪感を隠すことなくあらわにしていった。

 

「そいつの面倒を見ることになってからホントは最悪でした。ダンジョンで色々教えた時は何回言っても叫びながら突っ込む癖は直らないし、何度言い聞かせても調子にのって油断はするし、時間経過で腹の音がうるさくなるし、挙げ句の果てには目を離した隙に自分の分の稼ぎを全部食いもんに使っちゃうしで、もう何度そいつを見放そうとしたか。まあ、一週間くらいで付きっきりの指導は終わったからその辺に関しては特に気にしてません。むしろそれからのそいつの行動がダメだったんです。俺と別れて行動してからは稼ぎが増えても少しの金を残すだけで他は全部飯代に使っちまうから、ファミリア全体の稼ぎは全く増えるどころか食費が増えて最近は赤字になりぎみだったし、俺の休日中に勝手に後を付いてきて、昼寝の邪魔もしてくるわ、飯をたかりに来るわで、そいつをダンジョンに放り込むまで休まる日が全くなかった。」

 

 続けざまに言葉を発することに疲れたのか、少し息を切らせながら小休止すると再び口を開ける。

 

「俺は働くのことが大嫌いです。でも、ファミリアの為でもなく、まして神様のためでもない。自分の夢のために毎日俺なりにコツコツと頑張ってきました。でも、そいつがいる限り俺の夢は遠ざかっていくのが昨日ハッキリしました。」

 

 

 

 だから、

 

 

 

「俺はそいつを処分することにしたんです。」

 

 

 

 

 冷えきった声で彼はそう言った。

 

「ただ、俺が直接手を下すとこんな世の中でもすぐにブタ箱行きですし、ダンジョンでモンスターに殺しもらうことにしました。俺が魔法でそいつの動きを制限しているウチに適当な場所でモンスター達を呼び込んでヤる計画だったんですが、そいつが予想以上にタフだったもんだから要らん労力がかかって大変でしたよ。ま、最終的にアリーゼさん達が来て俺の苦労もすべておじゃんになりましたけど。」

 

 ヴァンはそう締めくくると、降参するように両手を上げた。

 

「さあ、もう洗いざらい吐きましたし、痛いのは勘弁ですから捕まえるなら捕まえてください。別に逃げやしませんから。」

 

 まるで反省していない様子でそう言う彼にリオンは怒り、アリーゼは冷めた目で見つめ、ロニーは相変わらず抜けきらない恐怖に震えていた。

 彼と相対していたアリーゼは一度目をつぶって熟考すると、冷静にこう返した。

 

「いや、今私達は君を捕まえる気はないよ。」

 

 驚くべき答えにヴァンは瞠目し、ロニーの治療を終えたリオンは荒々しい足取りでアリーゼに詰め寄る。

 

「アリーゼッ!!彼を見逃すことなど私にはできません。彼の身柄は今確保すべきです。」

 

「……確かに、私だってヴァンのことは許せないし、今すぐ殴り倒したいとも思ってる。」

 

 でも、と彼女は区切り言葉を続けた。

 

「もとはといえば彼に任せっきりにしてた私達の責任でもあると言えるし、彼もこのまま姿を消して面倒事を抱えようとする人間じゃないのはリオンだってわかっているでしょ?」

 

「ですがッ、ーー」

 

「それにッ!!……一旦彼から離れて落ち着いてから考えた方がいいと思うの。今の私達に冷静な判断ができそうにないもの。」

 

「……分かりました。ここは貴女に従いましょう。」

 

 彼女にも思い当たることがあったのだろう。

 リオンは苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも同意する。

 

「取り敢えずロニーはしばらくウチで預かることにするけど、いいわね?ヴァン。」

 

「はい、全然構いませんよ。」

 

 飄々とした態度でそう返したヴァンから背を向けたアリーゼは足が覚束ないロニーを抱えると、ヴァンを視界に収めずに口を開く。

 

「念のため言っておくけど逃げ切れたと思わないことね。今はまだ君の処遇を先送りにしただけで免罪にする気なんてさらさらないから。しかるべき処置が決まったら君に知らせる。その時が来るまで精々自分が仕出かしたことの罪を悔い改めるといいわ。」

 

 そのままルームの出口へとリオンと共に歩いていくアリーゼは一旦立ち止まると、首だけを動かし横目でヴァンをにらみつける。

 

「もし逃げたら、……たとえ地の果てでも私は君を追い駆ける。それだけは覚えておいて。」

 

 その言葉を最後に彼女たちはロニーを連れて去っていった。

 

 

 

 彼女たちが去ったのち、散乱した荷物をまとめたヴァンは何事もなかったかのように今日の獲物を探し、下の階層へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 









……どうしてこうなった(

最初はただのクズを書くつもりだったのがいつの間にか価値観ぶっ壊れのサ〇コパスが生まれてしもうた。
一応、次回かその次の回でロニーの一件は終わらせるつもりです。


改めまして一瞬ではありましたが拙作がランキングに乗っていて若干ビビってた作者です。
ぶっちゃけこの作品自体見切り発車で始めたようなものなのでここまで評価されるとは思ってもいませんでした。
これからも不定期更新ですがヴァン達の冒険を見ていただけると幸いです。


-追記-

主人公のスキルは次回公開します(たぶん)
この流れだとちょっとあれなので。


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