怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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大っ変、お待たせしませした!
リアルで色々とあってしばらく手付かずになっていました。
申し訳ありません。

十二話なのですが色々と考えた結果、ロニーの話はロニーの話で分けて書こうと思い、後半部分が大分変っていますのでまだ読み直していない方はこの話の前話から読んでもらえると幸いです。

今回の話はロニーの話です。
※少し長めです。





閑話 大喰らい、改める。

 

 

 ロニー・ペルダン、十二歳。

 

 

 彼女の人生は世間一般的に見て、比較的平凡なモノだ。

 

 両親はとある小国のちいさな町にある酒場を経営していて、裕福と言えるほど稼いでいるわけではなかったが贔屓にしてくれる客もそれなりにおり、食うに困ることはなかった。

 

 彼女は一人で歩けるようになってからしばらくすると、遊びに夢中になる年頃にも関わらず自主的に実家の手伝いをするようになっていた。

 その理由はいたって単純。

 ご飯をたくさん食べるためである。

 

 ロニーが三歳になった頃。

 彼女はすでに食べることに夢中だった。

 野原に出れば他の子と遊ぶことよりも自然と実を結んだ果物や食べれる雑草に興味を示し、花を見れば愛でるよりも蜜を嘗め回すことに目が行く食いしん坊っぷりである。

 

 そんな彼女にとって飲食店を営む家の中はまさに金銀財宝が眠る宝物庫にも匹敵する宝箱のようにキラめいてみえていた。

 しかし、店で取り扱う食料が入った食料庫は常に施錠されており、鍵の管理は両親がしていたため彼女がその中に自力で入ることは不可能だった。

 抜け道を探してもすでに兄のロジーが似たようなことをしてしまった所為か子供のつまみ食い対策はしっかり取られており、侵入することは叶わず。

 当時のロニーは文字通り指を加えて突破することの出来ない壁を見つめるしかなかった。

 

 そして、幼い彼女なりに考えた末、出た結論が両親の手伝いをするというものだったのだ。

 

 ある日、彼女が「もっとごはん、いっぱいたべたい!」と両親にごねたところ父親から笑い混じりに「店の手伝いをしてくれるんなら考えてやろう」と、言われたのを期に彼女は働きだした。

 ちなみにこの時点でロニーは四つ年上の兄とほぼ同量以上のご飯を三食出されており、両親的には食べ過ぎだと判断していたため、もし手伝ったとしても後々色々と理由を付けて誤魔化す算段をしていた。

 

 ……していたのだが予想以上のロニーの働きぶりを見て考えを変えざるを得なくなったのである。

 

 幼い頃から彼女は非常に飲み込みがよかった。

 親から教わったことをすぐに覚え、簡単な料理なら自力で作れるようになり、接客もほぼ完璧で他にも掃除や洗濯、簡単な買い出しもこなし、もはや店の看板娘と化したロニーの働きぶりに両親も無視することができず、約束通り彼女の食事の量を増やした。

 

 いくら将来的にふくよかになるドワーフの女とはいえ娘の今後を考えてこれでいいのかと心配する両親であったが、増えたご飯を目の前にして喜びを隠さずに体全体をつかって表現するロニーの様子を見て「まあ、別にいいか」と、思考を放棄するのであった。

 そんな山盛りのご飯を毎日食べていたロニーなのだが、ロニーの食欲に合わせるように体が調整されたお蔭か親が懸念するほど太ることはなく、健康的なドワーフの少女として成長していった。

 

 しかし、いつまでも同じ量のご飯で満足するほどロニーの本能は甘くなかった。

 八歳を越えた頃、ロニーはちょくちょく親の目を盗んでつまみ食いをし始めたのだ。

 両親も彼女の所業を咎めはするものの小さいながらも懸命に働く娘に強く出れず、常に目を光らせていれば特に支障は出なかったためドが過ぎないうちは見逃していた。

 まあ、それ以上に兄のロジーが自主的に働かないこともあり、親としてはロニーに対して甘くなっていたのだろう。

 

 兄のロジーなのだが、彼は年相応に夢見るドワーフの少年だった。

 彼の夢はこんな寂れた町の店を継ぐことなどではなく、迷宮都市へと繰り出し世界中に勇名を轟かせることにあった。

 当時の都市外からのオラリオの印象は【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】の二大派閥がまだ健在だった頃のままで、田舎などの辺鄙な場所にいる人間には闇派閥が暗躍し、ドンよりとした空気になっていることなど知るよしもない。

 

 妹が勤勉に働いている間、ロジーは近所のゴロツキとつるみながら喧嘩をしたり、悪さをしたりと親に反抗するように振る舞っていた。

 そんなロジーを怒るロニーの両親ではあったが、もはや働かない息子よりもこれまで一生懸命働いてきた娘に店を任せようかと考えるようになっていた。

 それについてはロジーもそうなってくれれば未練もなく家を出ていけるので本望ではあったのだが、成人である十四になってもロジーは旅立つ元手となる路銀が足らず、家を出ることが叶わなかった。

 

 親から金をちょろまかそうにも金銭の管理がしっかりしている両親から奪い取ることができず、少し前から給金を貰えるようになった妹の小遣いを奪おうにもロニーは稼ぎを一瞬で食べ物に変えてしまうため、一ヴァリスも得ることが出来なかったのだ。

 他に金の宛が無かったロジーは仕方なく家の手伝いをするようになったのだが、長年妹に仕事を押し付けてきた影響か全く使い物にならず、金もほんの少しずつしか貯まらず旅立つことはなかった。

 

 このまま小さな町でずっと過ごさなければならないのかと辟易とした気分になっていたロジーだったが、数年後、彼に転機となりうる事件が起きた。

 

 

 彼の両親の死亡。

 

 

 それはあまりにも唐突で、現実味のない出来事だった。

 

 死因は事故だった。

 夫婦で町に買い出しに行ったところを暴走した馬車に引かれて、運悪く二人ともその時の怪我で死んでしまったのだ。

 両親は駆け落ちしたドワーフの番だったようで、親類はおらず残された二人のドワーフの少年と少女は行く宛がなかった。

 

 兄妹は両親の死に涙を流し、悲しみに明け暮れた。

 

 あのロニーですらしばらく食事が喉を通らない日々が続き、残された財産で町の墓地に両親の墓を立てた二人は今後の方針を考えるようになった。

 

 このまま店を続けることは現実的に見て非常に厳しかった。

 いくらロニーが小さい頃から働き続けていたと言っても、厨房ではまだ簡単な手伝いくらいしかやったことがなく、接客ができても今年で十二才になる彼女では店を持つにはまだ幼すぎた。

 ロジーも成人したとはいえ、このまま店を自分で経営することなど不可能に近い。

 

 彼の決断は早かった。

 

 帰る場所がなくなった彼はオラリオを目指すことにしたのだ。

 路銀も期せずして親の遺産から手にいれることが出来た。

 主がいなくなった酒場兼実家は売り出し、妹の財産にするつもりだった。

 あとは、妹のロニーを預かってくれる家を探すだけである。

 

 不良の兄とはいえ実の妹を可愛く思っており、不幸な目に会わせる気はサラサラなかった。

 幸運にもロニーは普段から人当たりもよく振る舞っており、近所の住人からは可愛がられていたはず。

 だから、面倒を見てくれる人もすぐ見つかると彼はたかをくくっていたのだが、その実の妹からとんでもない告白を彼は受けることになった。

 

 なんとロニーが彼と一緒に冒険者になると言いだしたのだ。

 

 どうにも小さい頃に母に聞かされていた迷宮の物語や、酒場に来たオラリオに行ったことのある商人の話を聞いてからは叶うことならオラリオで冒険者になり、毎日飲めや歌えやの宴会騒ぎの中でご飯を楽しくたくさん食べたいと思っていたらしいのだ。

 これにはロジーもビックリし、妹に諦めさせようと必死になって言葉を並べたが彼女の意思を変えることが出来ず、あえなく同行を許すこととなった。

 

 この時、もっと強い言葉で妹を制止していれば彼と妹の運命は大きく変わっていたのだろう……。

 

 

 

 

 ロニーとその兄であるロジー・ペルダンは共に両親が残した財産を元手に旅の支度を済ませ、故郷である小さな町を旅立った。

 今まで店を贔屓にしてくれ常連のお客さんや、近所付き合いのあった人々に見送られ、町を離れた二人は町を行き来する馬車を乗り継ぎオラリオへと向かう。

 

 彼ら兄妹の旅は順調だった。

 

 兄のロジーが懸念していた金銭の問題は両親の遺産で無事に解決し、オラリオに着くまでに必要な旅費は十分にあり、道中もトラブルに見舞われることなく快適な旅路を過ごしていた。

 問題があるとすれば交通費ではなく、食費の方だろう。

 

 兄のロジーはともかく妹のロニーが金額のことなど特に考えずにご飯を食べてしまうため、ロジーが考えていたよりも食費に負担がいっていたのだ。

 ロニーは家にいたときから毎日山盛りのご飯を食べており、彼女にとって当たり前の量のご飯を取るとなるとそれなりに金がかかってしまっていた。

 旅に出てから二、三週間は問題なかったのだが、オラリオまであと数日くらいのところにまで来てあんなに分厚かった財布が薄くなっていることに気がついたロジーは危機感を覚えていた。

 ロジーは町にいた頃から勉強に熱心ではなく、町のゴロツキと仲良くしてきた弊害で頭がそこまでよくなく、その所為で旅の間財布の紐を握っていたロジーはあまり計画的に金銭を遣り繰りするといった簡単なことにも気がつかず、大量の金を使ってしまったのだ。

 

 

 気が付いたからと言って失った金は戻ることはなく、仕方がないので食費を少なめにするなど出来る範囲で節制を行いつつ、一抹の不安を残したままロジーたちはオラリオへと足を進めた。

 

 

 オラリオは都市外に出ることに関しては都市内の戦力の流出を恐れてか、かなり厳重に行っているが外部から中に入る分には比較的楽であり、兄妹は特に問題なく念願のオラリオに入ることができた。

 ちょっとした不安を抱えながらもロジーはこれから味わうであろう未知なる体験を夢見て胸を高鳴らし、その横で妹のロニーはこれから胃袋に入るであろう美味な食材を求めて腹を鳴らしていた。

 オラリオに到着したロジーたちは早速自分たちが入れそうな【ファミリア】を探して都市内歩き回ったのだが、中々兄妹二人を受け入れてくれる場所は見つかなかった。

 

 兄のロジーは同族の同年代のドワーフの中では比較的体格がよく、ゴロツキと付き合っていたおかげかそれなりの腕っぷしも一丁前に持っていたため受け入れてくれそうな【ファミリア】はそれなりにあったのだが、妹のロニーが一緒だとダメだと言われる場合が多く、知らない環境で妹を一人にはしないという彼なりの兄の矜持の所為か妹と共にいろいろな【ファミリア】を巡ってみたがいい場所はなかなか見つからなかったのだ。

 そんな日々をオラリオについてから一週間ほど過ごした頃、彼らの手持ちの金はあと数日宿に泊まれればいいくらいしか残っていなかった。

 本当ならばあと一カ月くらいは余裕で過ごせる程の金をオラリオに来た時、彼らは持っていた。

 

 それがここまで少なくなってしまったのは別にロニーの空腹を満たすために金を無駄使いしたわけでは無く、ロジーが持っていた金をいつの間にかスリに取られしまった所為である。

 ロジーはオラリオに付く前に金銭のやりくりに関してはしっかりするようになったのだが、生まれの環境が非常に恵まれていたためか誰かに金を奪われることなどほとんど考えておらず、馬鹿正直に腰につけていたポーチに金銭の類を身に着けていたのだが、スリが横行していたオラリオでは彼の様な平和ボケした少年は恰好のカモだったのだ。

 そして、当然のことながらそんなカモを見逃すほどオラリオのスリたちは甘くなく、数日と経たないうちに彼の持っていた金はポーチごと消えていたというわけだ。

 

 お金に対する認識は妹のロニーの方が優秀だったのか、ロニーが管理していた数万ヴァリスしか彼らの手元には残っておらず彼らはまさに崖っぷちの状況に追い込まれていた。

 

 焦燥に駆られたロジーは必死に【ファミリア】を探していたがどこも胡散臭そうな場所だらけで、安心して妹を預けられそうな場所も見つけることできなかった。

 金がなくなったことで食事の量を減らして過ごしていたのだが、ロニー自身は何も言わなくともロニーの体は空腹を訴えるように腹を鳴らし、ふくよかで端正な顔つきがやせ細っていく様子を見るたびにロジーは心を痛めていき、彼の精神状態は日に日に非常に危うくなっていた。

 何で自分がこんなに苦労しなくちゃいけないんだ、何で俺の思い通りになってくれないんだと、心の中で悲鳴を上げるロジー。

 慣れない環境での慣れない出来事の連続に苦しんでいた彼は、ついに壊れる。

 

 

 彼は妹を捨てたのだ。

 

 

 ロニーさえいなければ俺は今頃どこかの【ファミリア】に入ることができたし、食費でこんなに苦しむこともなかった。

 コイツさえいなければ、コイツさえ、と自分がスリに金をとられたことを棚に上げて全てを妹の所為にした彼は妹という重しを捨て去り、自由の道に進むことにしたのだ。

 兄である自分を完全に信じ切った馬鹿な妹から金品を全て奪い取り適当な裏路地で彼女を放置して、ロジーは姿をくらませた。

 

 のちに全ての真相を知った彼女は自分を捨てた兄のことを恨むことはなかった。

 それは、最後に見た兄の姿がどこか悲しげに見えたからなのだろう。

 

 

 こうしてロニーは金も、家族も失い、独りぼっちになった。

 

 

 待てど暮らせど、永遠に帰ってこない兄を待つロニーだったが半日もずっと待っていれば流石の彼女も兄が絶対に戻ってこないことに気が付く。

 しかし、そんな辛い現状から目を背けたかったからか、彼女は自分の体が望むがままに食料を求めて歩き始めた。

 

 彼女は幸運なことに変なゴロツキと出くわすことなく表通りまで辿り着き、通りに出てすぐ目についた青果店へと向かい、普段なら絶対にしない無銭飲食を働き少し戻った理性で自分の犯した罪に気が付き逃げるも店員に押さえつけられる。

 捕まってもなお現実から目を背けるように暴れる彼女に店員が暴力をふるおうとしたその時、彼女の前に救いの手がのばされる。

 

 これが神ゲブとの出会いであり、彼女の運命が決まった瞬間ともいえるだろう。

 

 ゲブの手によって助けられたロニーはその後、お試しで【ゲブ・ファミリア】に入り、その実力を買われて正式に入団することになった。

 それからの日々は彼女にとって輝かしいモノだった。

 おいしいご飯を作ってくれるゲブに、時々彼女の相手をしてくれる【アストレア・ファミリア】の人達、そしてめんどくさがりながらも自分に時に厳しく、時にやさしく接してくれる先輩のヴァン。

 そして、他にも多くの人達と出会い、彼女の毎日は充実していた。

 

 特に【ゲブ・ファミリア】の二人は短い付き合いであっても独りぼっちになってしまった彼女にとって家族ともいっても過言でない程かけがえのないモノとなっており、ついつい甘えてしまっていた。

 だからなのだろう。

 彼女はある日取り返しのつかないことをしてしまう。

 

 彼女は親の金銭の管理がしっかりしていた所為か、すぐに取れる場所に金があるという状況に置かれたことがほとんどなかった。

 ロジーとの旅の初めの頃では兄の懐の甘さを利用してちょくちょく金をスっていたこともあり、彼女にとって身内の金をとることに罪悪感が湧くことがなかったのだ

 そして、たまたまヴァンが隠していた金のありかを知ってしまったロニーは、ある日ダンジョン帰りに見つけた高級菓子店のお菓子をどうしても食べたくなってしまい、自身の欲求に耐え切れなくなりその金に手を出してしまう。

 ちょっとだけ罪悪感は沸いたものの、美味しいお菓子の山を前にそんなことはどうでもよくなっていた。

 ヴァンにも正直に告白したが、本人に怒られるどころか笑って喜んでくれたため罪悪感は完全に消え去った。

 

 

 しかし、彼女は自分が許されていなかったことを後に知ることになった。

 

 

 ロニーが菓子を食べた翌日にてダンジョンで行われた恐怖の出来事は彼女の脳裏にしっかりと刻まれている。

 ダンジョンに響く音、終わらない暴力、人を人として見ていないあの無機質な瞳。

 そのすべてが彼女の中で恐怖となっていた。

 

 彼女はあの一件の後、懇意にしていた【アストレア・ファミリア】の世話になっていたが、預かってもらって最初の頃は「ヴァン」、と名を出すだけで顔を青くさせ、あの時の恐怖を思い出し動けなくなるほど重傷だった。

 そんな彼女の様子を周りの人間は哀れに思っていたが、ヴァンの事情聴取を行ったゲブからの情報を聞くとそれぞれ彼女の見る目が変わっていった。

 ある小人(パルーム)の少女は「そんなん自業自得じゃねぇか。」と吐き捨て、ある妖精(エルフ)は「それでもこんなことをしていい理由にはならない!」と加害者を叱咤し、ある元極東の令嬢は「まあ、どっちもどっちだな。」とどちらも悪いと冷静に判断した。

 

 そんな中である赤髪の只人(ヒューマン)の少女はロニーにこう説いた。

 

「ロニーがしたことは確かに悪いことだった。それは間違いないことだよ。その事実は変わり様がないし、変えることは出来ない。過去のことだからね。でも、今の自分を変えることはいくらでもできる。だから、ロニー。もし、アンタが変わりたいならちゃんと言葉にして私達の誰でもいいから伝えて頂戴。そうすれば私達はいくらでもアンタの力になったげる。もとはといえばアンタのことをヴァンにまかせっきりにしてた私達の所為でもあるからね。」

 

 それを聞いてロニーは考えた。

 自分はどうしたいのか。どうなりたいのかを。

 ロニーは両親が亡くなった後、自分の夢を叶えるために兄のロジーと共についていくことにした。

 夢をかなえたいという気持ちは嘘では無い。

 しかし、本当は一人になりたくなかっただけだったのかもしれないと、彼女は思い始めた。

 

 実は彼女を引き取ろうと名乗り出た人間は故郷の街に何人かいた。

 皆、酒場に通っていた人や近所でよく合う人たちで彼女のことをとても心配していたのだ。

 だけど、彼女は唯一残された彼女の家族である兄と共にいくことを選んだ。

 その兄との旅はとても楽しいモノであったが、最後にその兄から自分は捨てられてしまった。

 

 お腹が空いても我慢したのに、スリからお金を守ったのに、お兄ちゃんが大変そうだからわがままも言わなかったのに、なんで、なんで自分を捨てたのか。

 彼女は初めのうちは本当に分からなかった。

 でも、明確な自分への悪意を身をもって知り、その悪意が何処から来たものなのかを他者から教えられた今の彼女にはその理由が分かった。

 

 自分が無知だから。

 教わるだけで自分で考えようとしない自分だったから自分は捨てられたのだと。

 自分は何処までも自分が中心で他人のことなど考えず、自分のことだけを考える自分だったから恐怖を刻まれて殺されかけたのだと、ロニーは理解した。

 

 きっと今の自分ではまた同じような間違いを犯してしまう。

 【アストレア・ファミリア】に受け入れてもらっても、いずれ自分は彼女たちに対して取り返しのつかないようなことを仕出かしてしまうのではないか。

 そう考えてしまい、ロニーは彼女たちの手を取ることができなかった。

 

 こうしている間も彼女の腹は空腹を訴えるかのように音を鳴らす。

 それが当然のことのように。

 彼女はこのままではいけないと思った。

 このままでは、また、あの悲劇が繰り返される。

 あの恐怖が、あの瞳が、あの音が、あの痛みが、自分を壊そうとする意志が、自分に襲い掛かってきてしまう。

 また、昨日まで親しかった人間に殺されかけるような体験はしたくない。

 

 そう考えているうちに彼女は自分の腹の音が止んでいることに気が付いた。

 彼女に刻まれた恐怖は彼女の空腹すら上回ったのだ。

 この時、ロニーは確信にも似た感覚を覚えた。

 

 

 この恐怖こそが自分を変えてくれるのではないか、と。

 

 

 そうは考えたものの体は猛反発した。

 「そんなことをすれば死んでしまう。」、「持つはずがない」と、警告を発するかのように心臓の拍動は速くなり、体は痙攣し、意識も遠のきそうになる。

 しかし、その警告を無視し、彼女はこれしかないと自分に言い聞かせた。

 

 おそらく、自分はこのままでは遅かれ早かれ身内に殺されることになる。

 ならば、自分が一番変わりやすくなれるであろう環境に身をやつせばいいのだ、と。

 そう、体に言い聞かせた。

 

 自ら死地に向かおうとする意志をねじ伏せようと体は必死の抵抗をしたが、彼女はそれを跳ね除け行動を起こした。

 震える身体でダンジョンへと潜り、恐怖を払うかのように槌を振り回した。

 ロニーの身が心配だと【アストレア・ファミリア】の面々が同行していたが、危ういところはあったものの彼女たちの手を煩わせることなく毎日稼ぎを得て、空腹に飲まれないように理性で稼ぎを湯水のように使わないように必死でこらえた。

 食事の時間もいつもの半分の量で我慢し、投げかけられる誘惑(おやつ)の声も打ち払った。

 

 短期間とはいえこんな生活をしていたおかげか彼女はスキルによってステイタス以上の能力を発揮し、稼ぎも日に日に増えていった。

 そして、それと同時にこれならいけると、改めて確信した。

 

 この道は非常に困難であり、いつか本当に命を落としてしまうのかもしれない。

 でも、それでも変わりたい。

 いつまでもみんなと一緒に幸せに暮らしたい。

 おいしいご飯をみんなと一緒に食べたいと、彼女は願った。

 

 だから、この道を行こう。

 

 

 

 こうしてロニー・ペルダンは再び動き出した。

 明るい未来を求めて。

 

 

 

 

 








少し感想欄でロニーの評価が荒れているのを見て作者なりに色々と考えさせられました。
寧ろ作者以上にキャラのことについて考えてくれてる読者が多くて、かなり驚いていました。
前にも言った通りこの作品、作者の脳内でA4用紙2ページ分のプロットで作られたものなので結構アラも多く、というかアラしかないんですけど少し考えるところもあってもう少し考えてこれから先の展開を書いていきたいと思います。
まだまだ、書きたいキャラもいるので。

ただ、勢いのまま書かない分結構時間もかかると思いますが、そこはタグの不定期更新の意味を考えてもらえると幸いです。





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