本ッッッ当に、遅れて申し訳ない。
ほぼ半年ぶりの更新です。
これからはもう少し早めに出せるように頑張りたいです(願望
ヴァンの朝は早い。
休日だろうと、そうでなかろうと日の出が上がる頃に彼は一度目を覚まし、周囲の状況を確認した後、再び布団にもぐり睡眠に入る。
その後、数刻経ってから主神であるゲブが作った朝食が出て来る頃合いを見計らって完全に起床。
ゲブに起こされたロニーと共にリビングで朝食を取りながら、その日の予定や【ファミリア】の運営に関する話などを話し食事を終え次第、各自解散する。
普通に仕事のある日の場合、ロニーとゲブはそれぞれダンジョンとバイトへ、そして休日のヴァンはそのままホームでゴロゴロと過ごし、手持ち無沙汰に自室に置いてある武器や装備の簡単な手入れを済ましたり、天井のシミの数を数えてダラダラと過ごす。
その後、ヴァンは日が完全に上がり切る前、昼の休憩で通りに人混みが出来やすくなる正午よりも半刻ほど早くホームを出ると、まだ人通りがまばらな大通りの屋台で軽い昼食を購入し、人混みができる前に裏道へと退避し目的地へと向かってのんびりと歩みを進める。
すっかり昼時になり、騒がしくなった大通りの喧騒すらうっすらとしか聞こえてこないほど裏路地の奥へと来ていたヴァンは、過去の自分の身に起きたことを鑑みて周囲の観察を不自然にならない程度にしつつ違和感を感じないことを確認すると安心して足を動かし続けた。
薄暗い裏路地に入ってから十数分後、目的の地に辿り着く。
日当たりは良好、風通しもよく人気も全くない。
バベルを除けばオラリオの中でも一、二を争う程の高さを持つ建造物、オラリオを囲む市壁の上にヴァンはいた。
市壁にはギルドの職員が見回りにくるものの、ステイタスを授かっていない人間にできることなどたかが知れており、実際に何かトラブルが起きてもその場で対処不可能なケースが多い所為か、職員の身の安全を確保するために基本的に市壁の""外へ""の監視しか徹底しておらず城壁内の人間の動向など全く気にしていない。
そのため、市壁の上で昼寝をしようとも、近くで怪しげな取り引きをしようともなるべく大事でなければ関わらないようにしているため、昼寝をしているヴァンを叱る人間もほとんどおらず、快適な睡眠を送れるというわけだ。
【アストレア・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】などに所属する冒険者の有志達が見回りに来た場合は話が異なるが、身内に内通者がいる所為なのか見回りの予定が
まあ、簡単に言うとここは多少の危険はあれどヴァンの昼寝場所の一つとして非常に都合が良い静かな場所であるということだ。
ヴァンは休暇の日、大体市壁のどこかで過ごしている。
昼寝をあくまで善意で邪魔しにくるアリーゼがヴァンにとって唯一面倒とする存在だったのだが、彼女の予定をとある情報筋から仕入れることができるようになっているため最近ではあまり遭遇しなくなっていた。
また、前まで飯をねだりに来ていたロニーも例の一件で反省して睡眠の妨害はしてこなくなったのだが、ヴァンと休日が被った時にはヴァンの真似をしているのか彼の近くで昼寝をするようになり、気に入ったおかげか今では自分だけの昼寝スポットを探しに休日はオラリオをぶらぶらしているようだ。
何はともあれ誰からも邪魔されることなく、暖かな日差しに照らされながらヴァンは昼寝を楽しむ。
普段であれば人気のなさを利用して『魔力』を鍛えるために魔法の特訓をしている所なのだが、今日はこれから人と会う約束があるため、普通に昼寝中である。
そうしてしばらくの間、のんびりと都市側の壁に寄りかかりながら昼寝をしていたヴァンだったが、急に眼を開けたかと思うと市壁に備え付けられた階段へと視線を向けた。
「首尾は?」
「最悪。」
「成果は?」
「からっきし。」
階段の方からくぐもった声で発せられた質問に対し、即座にふざけた返答をヴァンが返すと階段の影で隠れていた小さな人影が現れる。
その人物は目深にフードを被り、口元にも布を巻いていて素顔は完全に隠されており、声もわざと中性的な印象を抱かせるようにしていて男か女かも判断できなかった。
唯一その小さな体格から
階段の影から現れたその
ヴァンが投げたその紙の束に懐から取り出した
一通り紙に書かれていた内容を確認した怪しげなフードの
「期待以上の成果だったぜ。ほれ、今回の前金だ。」
「そりゃどうも。」
ずっしりとした硬貨の重みを感じさせる袋を手渡され、さっそく中身の確認へと入る。
「……報酬の量、間違えてません?」
「そういうこたー、気にせず受け取りゃいいんだよ。大体アタシの依頼を受けた時点でちゃんと説明したろ?『働き次第でモノは弾む』、ってよ。」
袋の中には十数万ヴァリスくらいの大金が入っており、ヴァンは予想以上の金額にその目を疑っていたが目の前の
「まあ、そんなものか」とヴァンはすぐさま割り切り、袋の口を閉めるとそのまま手元に置いておいた。
全くもって遠慮というモノに縁のない男である。
なぜヴァンがこのような大金を受け取っているのか。
そもそもヴァンはこの
話はロニーが【ゲブ・ファミリア】に復帰してしばらく経った時まで遡る。
◆◇
ヴァンがリオンによってつけられて怪我の治療費やホームの
彼女の名前はライラ。
【アストレア・ファミリア】所属の
これまで彼女とヴァンは接点がほとんど無かった所為かこの日まで交流は皆無で、ヴァンとしても彼女に話しかけられる理由に心当たりがなかった。
そのため、彼女に話しかけられたことを疑問に思うも、その疑問は直ぐに解消される。
「なあ、いい儲け話があるんだ。一つ乗ってみないかい?」
他の団員に聞かれないようにするためか、ヴァンの耳元でそう呟いたライラ。
正直、ロニーに無断で金を使われたこともあってかなり懐がさみしくなっていたヴァンにとってすぐさま飛びつきたい話ではあったが、上手い話には裏があるというのは常識というモノであまり人柄を良く知らない彼女の話を完全に信頼するのもどうかと思ったヴァンは、取り敢えずその場でどんな話なのかを手短に聞くことにした。
彼女の話は簡潔に言うとちょっとした調査の手伝い、所謂バイトだった。
仕事の内容は前にヴァンが路地裏を追い掛け回されることになった原因である麻薬取引に関する情報収集や、オラリオに根ずくスリの大元となる組織の拠点捜査、あとは都市に広まっているちょっとした噂の収集などで、特に具体的な捜査方法は指定されておらず、期限も決められていない。
好きな時に無理のない範囲で小遣い稼ぎ程度にやってもらえるだけで構わないということだった。
話を受けた場合、週に一回の報告会を行うものの、何かしら情報さえ持ってくれば最低でも一万ヴァリスは提供するということもあって、そこまで悪くない話である。
しかし、ヴァンには
そもそもなぜライラは自分にこんな話を持ってきたのか、ということだ。
ヴァンはついこの間、過程はどうであれかなり自分勝手な理由でロニーを秘密裏に殺そうとしたヤバいヤツで、正直に言って事情を知っている周囲からの印象はあまりよろしくない。
このように自分のことを第一に考える人間である以上、報酬をもらえる範囲で虚偽の情報を流す可能性があり、自分は信頼できる相手だとは到底思えない人間である。
そのことを正直に話したヴァンに対し、ライラはこう言った。
「いやいや、そんなリスクのたけーことするようなタマじゃないだろ?」
見くびってもらっては困ると言いたげな様子で、ライラは首を振る。
「アンタは自分が思ってるよりも慎重な男だよ。これまでの行動を見てりゃアタシでも大体わかる。」
彼女は淡々とした様子でヴァンを指名した理由を述べていく。
「第一にアンタは周囲からの自分の評価に対して最低限、気にしている節がある。」
ヴァンは今のオラリオで生活するのであれば多少のトラブルは出来得る限り回避しなければならない。
そう、アリーゼ達と交流するきっかけとなった騒動で改めて学んだ。
いくら足掻いてもこの街にくすぶる悪意は否応なしに周囲を巻き込み、平穏を許すことがない。
ならば、自分のできる範囲で自分の身を守るために動くのは当然のことだった。
自分の出来ているようでできていない礼儀作法を正したり、現在唯一直接ファミリア間でつながりのある【アストレア・ファミリア】との関係が悪化しない程度には主神の命令にも従ってきたし、ロニーの新人教育なども最低限こなしてきた。
ーーそう、例え「互いのことを良く知るため」と言われて連続で上級冒険者と割とシャレにならない模擬戦をやらされても、ロニーが入った所為で酷くなった出費を穴埋めするために昼寝の時間を削ってまで働きもした。
全ては自分がこの街で生き残るため、味方を少しでも確保しようという彼なりの努力の結果なのだ。
……とは言っても、懲りずに人気のないところに昼寝に行くことだけはやめられなかったところを見ると本当に努力しているのか判断に困る所である。
しかし、それでもライラはヴァンの打算ありきの行動を遠目に見抜いていたようだ。
「今のアンタはさっき自分で言ったようにある程度、同情的な立場であったとはいえ、自分のファミリアの仲間を殺そうとした危険人物って印象が
「まあ、否定はしませんけど。」
確かにヴァンは既に失った信用に関してはどうにかしようとは考えていなかった。
後ろ盾となってくれる人間が少なくなるのは残念ではあるが、これ以上地道で面倒な仕事を増やすことは彼の生来の怠惰な気性が邪魔するため、「ま、仕方ないか」と、自分の中で片付け終えていたのだ。
「けど、アタシの話に乗っかるってんなら、話も違ってくるんじゃないか?アンタからしてみれば自分の生活圏内で見聞きした黒い噂や怪しい連中の動きをアタシに報告する、ただそれだけのちょっとした労力である程度の収入が増える上に、それなりの成果さえ出せば少なくともアタシからの信用が得られるって寸法さ。ああ、もちろんちゃんと仕事さえしてくれれば、アタシなりにアンタとウチの【ファミリア】の連中との間に入ることを約束してやるよ。」
それに、とライラは言葉を続ける。
「アンタの有能さが証明できれば他の上位派閥の【ファミリア】とのパイプを作る協力もしたっていいともアタシは考えてる。」
それを聞いてヴァンは少なからず驚き、疑いの目を鋭くする。
「……話が上手すぎせんか?」
「そんなに不思議な話じゃないさ。有能な人材を売り出すことはアタシの評価につながるし、そもそもこれは仮定の話だからな。大前提としてアンタが『アタシが有益と思えるような情報』をある程度持ってこなきゃいけないわけだし、難易度自体が高い。そんな条件下でいい仕事をしたら、こーんなことをアタシがしてやるって説明するのは当然の義務だろ?まあ、アンタならいい仕事をしてくれると思って声を掛けたのは事実だけどな。」
「それは流石に俺のことを評価し過ぎな気がするのですが?」
流石にここまで来ると裏がないとは考えにくい。
いくらなんでもヴァンのことを評価し過ぎある。
もはや、ヴァンを餌にして何かしらの計画を実行しようとしていると言われても不思議でないくらいに胡散臭い話だ。
「まー、ここまでの話だけ聞くとそういう感じになるよなー。でも、一応他にもアタシの方にもメリットはあるし、アンタを選んだ理由もある。」
全く飄々とした態度を崩さずにライラはヴァンの疑問に答える。
「まず、アタシのメリットってのは単純に自分が持つ情報網が増えるってとこだな。」
彼女曰く、このオラリオでの様々な情報を得るのに一番必要な物は「幅広い人脈」なのだという。
オラリオの頂点に近い上級冒険者達から、その日暮らしを余儀なくされてる下級冒険者達。
オラリオの中枢を担うギルドの上層部の人間から、上からの情報があまり流れてこない末端の職員達。
都市外まで名の知れた商業系ファミリアから、いつ潰れてもおかしくない商店の店主。
果ては冒険者にすらなれず落ちぶれてしまった
地位の高い人間から得られる情報もそれなりに有益なのは確かであるが、底辺の人間から得られる情報もバカにできないのだとか。
今まで彼女、というか【アストレア・ファミリア】は裏路地で燻っていた
「生き残った奴等もいるけど、全員ダイダロス通りの方に引きこもっちまってなー。ちょっとは協力してくれる奴等もいるけど、完全にウチとは縁を切るって奴の方が多いからホントに人手が足んなくて困ってるってわけ。」
「それこそ猫の手も借りたいくらいにね。」と、意味深な視線をヴァンに向ける。
ダイダロス通りとは、数百年前にダイダロスという人物が
あまりにも複雑な構造過ぎて、一度入れば二度と出られないこともある、ともっぱらの噂で裏の世界の住人と言えどわざわざ好き好んで入る場所ではなく、主にそこで生活をしているのは様々な理由で落ちぶれたオラリオの貧民層の人間達くらいだ。
もはや安心して過ごせる場所は此処しかない、と難を逃れたホームレス達は世俗を捨てる覚悟でダイダロス通りに散らばってしまったようだ。
「で、本題のアンタに依頼しようと思った本当の理由ってのは、簡単に言うとこないだの顛末を知って、ってところだな。」
『こないだの顛末』というのは言わずもがな、ヴァンがロニーを抹殺しようとした一件のことである。
彼女は現場に居合わせてはいないものの、可能な限り周囲に自分の犯行を気取らさせないように迅速に計画を編み出しそれを実行した行動力と、それを実現したヴァンの隠密能力に感服したらしい。
もちろん、正義の【ファミリア】の団員として名を連ねている彼女がヴァンの凶行を受け入れたわけでは無いが、彼なりに自分と【ファミリア】のことを考えて行った行動は彼女のお眼鏡にかなうものだったようだ。
「少なくともアタシは別にアンタを責めちゃいない。
どうやらライラは事件の全貌を知ったことでロニーの件についてはヴァンを悪く見る気は起きなかったようだ。
むしろ言葉の端からロニーの方に若干敵意が入っている様にも感じられる。
「やり方は少し過激すぎたとは思うけどな。」と付け足すように茶化しながらそう言う。
「
実際の所、ロニーに対しヴァンの魔法が普段通りの効果を発揮していればロニーの悲鳴が追跡中のアリーゼ達に聞かれることはなく、今頃ロニーはダンジョンで行方不明として消え去っていた可能性は高かった。
若干図星を突かれたヴァンだったが既に自分の中で反省し終えたことなので今更特に思う所はなく、その言葉に動揺することはなかった。
「今回アタシがアンタに頼みたいことはあくまで情報収集。闇派閥の拠点を制圧しろとか、悪人を捕まえてこいとか、そういうことは期待しちゃいない。アンタの隠密能力の高さを見込んで依頼したいってことなのさ。」
ここまでの話を聞いて、ヴァンは少し悩んだ。
確かに裏路地で生活をしていた住人の情報がなくなるのはそれなりの痛手になるのは分かる。
【アストレア・ファミリア】のような有名なファミリアともなると団員達の行動は基本的に
専門の情報屋以外にも何者にもマークがされていない、言わば一般人に近い人間に頼りたい気持ちはなんとなくだがヴァンにも理解できた。
現状、かなりの頻度で裏通りを通るヴァンはホームレス達ほどではないが、ある程度彼女らにとって有益と思える情報をいくつか
これからも裏の通りには昼寝に行くルートとして使うつもりであるわけで、新しく情報も手に入れられる可能性もあり、デメリットはそこまで大きくないように思えた。
唯一、自分がホームレス達の二の舞になるのではないかと、考えはしたがどのみち裏道を利用している時点で危険なことには変わりない。
ならせめて彼女の言うように小遣い稼ぎとしてこの依頼を受けてもいいんじゃないかな?、とヴァンはこれ以上深く考えるのをやめ、バイトの依頼を引き受けたのだ。
その後、ヴァンはオラリオで多発していたスリの大元となる窃盗集団のアジトの情報や違法薬物の取引の日時の情報などを仕入れることに成功し、結果的に都市の治安改善に大きく助力することになるのであった。
今回と次回でヴァンの日常()をやりたいと思います。
次回はダンジョン編です。