な、なんとか一週間で書き終えた、
読者の皆様のお陰で評価が初めて千を越えました!
めちゃくちゃ嬉しいです。
特に記念に一本かけるほどの文才はありませんが、今後も拙作を読んでいただけると嬉しいです。
では、迷宮編です。
晴天の青空の下、多種多様な装備を纏い冒険者達は白亜の塔に列をなし、未だ底が見えないダンジョンに挑む。
冒険者に明確な休みなどはなく、ダンジョンに人が途切れる日はほとんどないと言っていいだろう。
今日も今日とてダンジョンは盛況である。
ダンジョンに入る前の様子は冒険者によって様々で、緊張で動きをぎこちなくしていたり、未知なる冒険に心踊らせたり、強敵との戦いを想像し舌を鳴らしたり、はたまた金を稼がねばと鼻息を荒くしたりするような者もいる。
皆、一様にダンジョンに求めるモノに違いはあれど、この中の誰もがダンジョンにそれぞれの夢を見ながら挑んでいる。
しかし、ダンジョンの見せる夢は圧倒的なまでに
それでも、それを承知の上で、彼らはダンジョンに夢を見る。
この、侵入者に対し全くもって微塵も容赦のないダンジョンに彼らはそれぞれの理想を、願望を、欲望を満たすために命を賭けて、潜るのだ。
……そう、ダンジョンは命を賭けて望む場所であり、けして気軽に昼寝が出来るような場所ではないのだ。
【ゲブ・ファミリア】団長ヴァン。
彼はダンジョンで食後の昼寝をしていた。
◇
半透明の
一部の結晶が溶けだし、空間の中心部に透き通った泉が存在するここは、ダンジョンの神秘の一つ。
ヴァンがいるのは九階層に存在する
この日ヴァンは相棒のジュリに予定が入っていたため、ソロでダンジョン探索をしていたのだ。
ヴァンは基本的にソロで活動する場合、
しかし、そこを利用したがる冒険者はかなり少ない。
なぜなら、旨味があまりないからだ。
そこまでして
数匹程度なら問題のないモンスターでも、数十匹もいれば対応も追い付かなくなる。
そうなれば死、あるのみ。
こういった理由で
一日中歩き回るのが面倒、
昼寝を始めて半刻ほどが経ち、ヴァンは小さく欠伸をすると布が大きく動かない程度にゆっくりと体を起こし、耳をすまして周囲の状況を把握する。
ヴァンの並みの獣人以上の聴覚によると現在、
普通にソロの下級冒険者が相手をするにはかなり厳しい規模である。
しかし、ヴァンはいつものことのように眠そうな表情のまま感覚を研ぎ澄まし、さらに
冒険者特有の装備が擦れる音も、足音もせず、仕掛けても外部に漏らすような目撃者がいないことを確認した。
手で自身の体を撫でるように装備の不備がないかを簡単に確認し終えると、詠唱を始める。
「【伝染せよ、怠惰の息吹】」
モンスター達が動いた時に生じる小さな音とは違う、ハッキリとした
例え小さい声であっても、静かすぎる
それを知ってか、それとも分かっていたのか、ヴァンは自身に覆い被せていた布を取り払い、右手に集まった黒き魔力を魔法へと変貌させる。
「【レイズィペスト】」
オラリオの下級冒険者の中でも上から数えた方が早いくらいの『魔力』のステイタスを持つヴァンは、数か月前とは比べ物にならない
発現した魔法はヴァンの右手から溢れ、黒い霧となり一瞬で
ルームを覆い尽くすほどの霧を纏ったヴァンは自身の装備も相成って、周囲から見れば黒い人影のような姿になっている。
そして、黒い霧が晴れた先には、眠り始めようとするモンスター達の姿があった。
モンスター達の奇声が発する前に沈黙したため、
ヴァンは追加のモンスター達や同業者達がやってくる前に地にふせっているモンスター達を丁寧、かつ迅速に処理していき、ものの数分とかからずに
これがヴァンの編み出した
少なからず失敗もしているが、それは同業者と鉢合わせて実行できなかった場合のみなので、実質やれば100%成功していると言っても過言ではない。
実に怠け好きのヴァンに向いたやり方である。
今日はすでに7セットほどやっているが、予想以上にドロップアイテムが出てきたため、次の一回でヴァンは早めに切り上げることにした。
最後の一匹を仕留め終え、
◇◆
最後の一狩り中にモンスターの団体と鉢合わせたヴァンは、若干うんざりしながらも問題なく敵を灰に変え、今日の稼ぎを背負いながら帰路に着いていた。
ドロップアイテムが入った革袋はまだ余裕はあるものの、その重さを主張するようにヴァンへとのしかかる。
本日のヴァンの成果は大きかった。
キラーアントの亜種とされる
同じ
そのドロップアイテムはギルドで換金しても最低二十万ヴァリスはもらえるため、最近金策に走っていたヴァンは内心ウハウハである。
普段であれば帰り道でもモンスターを狩りに積極的に行くヴァンなのだが、そういうこともあって今日は少し控えめのようだ。
普段通り、正規ルートから若干外れた道を軽い足取りで行くヴァンだったが、……最悪の形でその歩みを止めることになる。
「おい、そこの貴様。止まれ。」
「……まじか。」
ヴァンの目の前に現れたのは全員が白い装束を全身を覆い隠すように身に纏った六人ほどのパーティーだった。
あまりにも特徴的なその姿を視界に捉えたヴァンは集団の正体を知り、めんどくさそうにそう
彼らの正体は今オラリオに暗躍中の
彼らの派閥は制服が決められており、白の頭巾をかぶり白の服を服を着ることが定められている。
表だって行動することが多くなった
実際に壊滅させられたファミリアもそれなりにいるらしく、全面的に反抗する姿勢を見せるのは【アストレア・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】などの上級冒険者を多数抱えるファミリアだけで他は嵐が去るのを待つのみである。
そして、今、重要なのは彼らはダンジョンにも出没するということだ。
彼らは上層の五階層以降を中心に冒険者相手に略奪行為をしている。
数週間前にヴァンがやろうとしたように、ダンジョンでは外よりも隠蔽がかなり楽である。
それを利用するのは悪事を是とする彼らにとって当たり前のことで、逆らう奴等は片っ端から殺してしまうのだ。
上層を狙うのはほどほどに稼げて、返り討ちにされにくい下級冒険者を狙っているからだ。
狙われたが最後。良くて魔石やドロップアイテムを全て奪われる、悪くて命を取られて全てを奪われる。
それが現実だ。
ヴァンは
「貴様、だいぶ稼いだようだな。その革袋を寄越せ。そうすれば貴様にも我らの神から恩恵を授かることだろう。」
パーティーのリーダー各らしき人物が両手を広げながらそう言った。
相手がそんな無防備な状態にも関わらず、ヴァンは目の前の男を真正面から殺すイメージが湧かなかった。
同じような感覚をヴァンは感じたことがあった。
主に【アストレア・ファミリア】の面々、上級冒険者と対峙した時の感覚だ。
最初に会ったときのリオン程ではないが、かなりの強さを目の前の男から感じ取る。
(Lv.2の中堅くらいか?)
体感的に己と目の前の男の戦力差を割り出す。
ならば、目の前で偉そうにしている男が上級冒険者である可能性はかなり高いと言えるだろう。
それに、今、この段階で仕掛けるのは
ヴァンはそう判断すると、大人しく肩に下げていた革袋を相手に差し出した。
「はい、どうぞ。」
「……ふん、中々聞き分けの良い奴だ。」
引ったくるようにして革袋を奪い取った男は後ろに控えていた仲間に中身を確認させる。
「おお!こいつぁ、ダイアモンドアントの甲皮じゃねぇか!」
「ほう。貴様、中々やるようだな。顔を覚えておいてやろう。覆面をとれ。」
ここで顔を見せれば抵抗できずに、すぐに金を出す人間として目の前の男達に覚えられるのは想像には固くない。
しかし、ここまで横暴な態度を取り続ける相手に下手に抵抗でもすれば、面倒なことになることは明白である。
「……はい。」
ヴァンは仕方なさそうに黒の額当てと黒のマスクを外し、素顔を晒す。
「ふっ、無様な顔だな。覚えたぞ。もう、消えていい。」
「………。」
稼ぎの入った革袋を失い、手ぶらになったヴァンは彼らの横を通り、その場を立ち去る。
下っ腹らしき男達の横を通りすぎる際にクスクスと
◆◆
「ありゃ、いいカモを見つけやしたねぇ。」
「ああ、そうだな。これで我らの神への供物も華やかになるというものだ。」
彼らは先程出くわした、自分達とは対照的に全身真っ黒の男のことを話していた。
「ソロでダイアモンドアントを倒した実力もそうだが、あの清々しいまでの従順な態度が実にいい。」
ダイアモンドアントは魔法に対する耐性が極端にない反面、物理耐性が非常に高く、ステイタスも上層にいるモンスターの中でも上位に位置する強力なモンスターだ。
討伐方法は同種のキラーアントと同じように甲殻の接続部位を狙うか、強力な攻撃魔法を使って防御を突破するかなど、手段は限られている。
ソロの下級冒険者が平行詠唱、詠唱をしながら他の戦闘行動を取る魔導師の上級テクニックを習得しているとは思えないため、件のモンスターを倒したのは彼の実力か、それとも運良く手に入れたのか。
どちらにしろ重要なのは
後々、頭角を表してきたら強引に勧誘するのもいいし、逆らうようならその拠点ごと潰してしまえばいい。
男達は白い覆面の下で、下卑た笑みを浮かべる。
彼等は自分達の神の名の元に好き放題に暴れるのが大好きな社会的に迷惑な人間達ばかりだ。
パーティーのリーダーの男のように主神の甘言に騙され、神に尽くそうとする構成員は非常に多いが彼らの大半も悪事を楽しんでいる。
過去、オラリオを支えてきた二大派閥は消え、彼らの時代がついに到来してきたのだ。
強奪を、略奪を、侵略を、殺戮を、破壊の限りを尽くさねば。
この素晴らしき暗黒時代の主役は自分達なのだから。
彼等は一様に、そう酔いしれていた。
……だからなのだろう、彼等は出会ってはいけない、後に一部の冒険者達から""災厄""とまで呼ばれることとなる冒険者と接触し、目を付けられたことに気付いていなかったのだ。
それは一瞬の出来事だった。
彼らが黒づくめの男と別れて数分後のこと。
彼らの前に突然、黒い霧が発生したのだ。
通路を飲み込むように彼らの進行方向の前と後ろから迫り来るその霧は彼らに抵抗する余地を与えずに、彼らを包み込む。
「こ、こりゃまさか、黒霧ぃ!?」
「全員、息を止めろ!走れ!」
ここ数週間前からダンジョンで頻発に発生するようになった現象、通称""黒霧""は冒険者の間では有名だった。
初めてその存在が確認されたのは約半年ほど前のこと。
それに巻き込まれた冒険者達はのちに破滅の運命を辿ることになったと噂になっている。
未だにその原因はギルドですら把握しておらず、未知のモンスターの誕生を噂する声も聞く。
現在、黒霧への対処法はとにかく逃げろ、という単純かつ確実な方法しか提示されていなかった。
彼らもそれに習い、完全に霧に包まれる前に走り出す。
しかし、彼等はもうすでに捉えられていた。
走り出して数秒後、メンバーで一番小柄な男が走るのを止めた。
声を上げることができない状況下で足を止めた仲間に「何をしている!?この愚図が!!」と、叫びたいのを我慢し足を止めずに振り返ったリーダーの男だったが、その様子を見て
一人、また一人と足を止めていき、逃げ出してから十秒後にはリーダーの男も歩みを止めていた。
(……はて?私は、なぜ走っていたのだ?こんなにも心地よい空間にいるというのに。)
ほけー、とした表情のその男は脳から指令を出すまでもなく、手足から力を抜き、脱力したまま地面に横たわる。
男から少し離れた場所にいる仲間達も同様に、体を無防備に投げたしていた。
彼らのように、自分の欲望に忠実な人間にとって、黒霧がもたらすその倦怠感は非常に心地よく、抗うことなどできるはずがなかった。
彼らが逃げようとしていた通路の先から、静かな足音を鳴らしさらに濃い霧で包まれた""影""が現れる。
静かでいて、速い足取りでリーダーの男のそばに近づいた影は、男が完全に眠りについていることを確認すると腰に付けられたポーチから先端が尖ったピックの様なものを取りだし、空いた左手で男の頭を固定する。
頭を捕まれたことで呆けていた意識が少し戻り、目をうっすらと開けた男だったがそれ以上の行動を取ることはなかった。
影はピックを逆手に持つとそのまま勢いよく、男の眼球目掛けてピックを突き立てる。
生々しい、肉のえぐれる音がダンジョンに響いた。
◆◇
既に時刻はすでに夕方となり、ダンジョンの出入り口にはホームへと帰らんとする冒険者達の姿が多く見られた。
その中でもかなり特徴的な黒の装いをした男の元に少し線の細いドワーフの少女が駆け寄る。
「だんちょー、お疲れ様なのー。」
「……ああ、今日は疲れた。」
私はダルいです、という空気を隠しもしないヴァンはロニーに労いの言葉をかけることなく、そのまま歩き続けた。
「だんちょー、今日は大量だね!」
「まあ、今日は獲物に恵まれてたからな。」
ロニーはヴァンが肩に下げているパンパンに膨れ上がった
「……週末はどっかに食べにいくか。」
「え、いいの?……その、ロニーの所為でお金、まだなんじゃ……。」
「なら、食べたくないのか?」
「食べたい!」
即答である。
「じゃあ、いくぞ。量は押さえろよ。」
「はーい!」
笑顔で満ちたロニーと共にヴァンはホームへと帰るのであった。
いやー、微笑ましいエピソードですねー(目をそらしつつ
ダイアモンドアントはダンメモのストーリーで出てきたモンスターです。
設定は基本捏造です。
以上、ヴァンの日常回でした。
前回と今回で一話にまとめようとした過去の自分が怖い。
次回は少し話が進む予定です。