怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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夏の暑さの所為か、途中で間違えて投稿しちゃって、焦って着々と書いていた文を消し去り、軽い動悸に襲われた作者。
救世主は自動保存機能でした(綾○風
……マジで危なかった(汗

皆も小説を書くときは小まめに保存するか、バックアップを取るのをお勧めするゾ!(なお、作者

しかし、主人公が何かしらやらかさないと筆が進まないのは何故なのだろうか?

※今回はいつもより多目です。





第十九話 怠け者、許容する。

 

 

 

 

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「はい、今までは誰も気が付かなかったくらいですし、極端な変化はないかと……。」

 

 シャラスが入団してから一週間ほどが経ち、ヴァンとシャラスはダンジョンにいた。

 彼女の実力と彼女のステイタスにある、とあるスキルの効果を確認をするため、八階層付近で探索をすることにしたのだ。

 

 いつも通り、全身黒の装備を身に付けているヴァンだが、常用していた装備は先日のオークとの戦いで破損しているため、今日は少しだけ素材の質が低いスペアの装備を身に付けている。

 丁度いい素材が手に入ったこともあり、新装備の製作をジュリに頼み、それが完成するまではしばらくはこのままだ。

 

 一方、今回からヴァンと同行することになるシャラスは白を基調としたフード付きのポンチョを羽織っていて、その下には肩から先がない薄いシャツと下着を着用。

 下半身は足がほとんどむき出しになっているパンツを履いていて、実にアマゾネスらしく露出度の高い装備である。

 彼女は主にサポーターとして後方支援に徹するため、ドロップアイテムを収納する大きめのバックパックを背負い、護身用の短剣と魔法の補助をする短いロッドを装備していた。

 

 愛する人との初めてのダンジョン探索で気合いとテンションが爆上りしていると思われたシャラスだったが、ヴァンも含め両者ともに何処かぎこちない空気を感じる。

 ヴァンはダンジョンに入る前からシャラスから2、3歩ほど距離を取りながら警戒心を露にしており、それに対しシャラスは仕方がないと受け入れているのか、少しだけ残念そうな表情を浮かべている。

 あからさまにヴァンから避けられているシャラスだが、ヴァンにそうさせてしまった原因が彼女にあるためどうしようもない。

 

 ことの発端は、シャラス入団直後まで遡る。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 入団後、ヴァンと交際することになったシャラスなのだが、その晩に行われたステイタス更新でとんでもないスキルを発現していたことがゲブとヴァンに知られてしまい、もろにスキルの影響を受けると思われるヴァンからは露骨に警戒されるようになった。

 

 

 シャラスのスキルは簡単に言うと「惚れた男の成長スピードを上げる」という下界でもほとんど確認されていない他者の成長を補助する超希少スキルである。

 

 

 「なんだ、便利そうなスキルじゃないか」と思われるかもしれないが、問題はそのスキルの副作用にあった。

 その副作用というのが、スキルの影響下に置く対象の""力""や""耐久""といった基礎アビリティーのランクを一つ下げるというものだ。

 実際にはシャラスの対象への恋慕の度合いでステイタスの減り具合は変わるのだが、今まで経験上そのくらいは減ると本人は考察している。

 ステイタスの減少が意味するのは、単純に戦闘能力が落ちるということ。

 ダンジョンでは戦闘技術や作戦といった面も重要だが、最後にものを言うのはステイタスの高さだ。

 

 敵を屠れるだけの""力""がなければ相手を倒すことは出来ず、敵のスピードに付いていけるだけの""敏捷""がなければ逃げることすらできず、敵の攻撃を受け止めるだけの""耐久""がなければ一瞬でミンチにされてしまう。

 

 ""ステイタスがなければ絶対に格上の相手は倒せない""

 

 これはオラリオにいる冒険者共通の常識であり、一部の実力者以外の冒険者が「技と駆け引き」を疎かにし、ステイタスに振り回されている原因の一端でもある。

 ステイタスに頼りすぎると深く考えずに戦うようになり、結果、総合的に戦闘能力が低下することに繋がってしまうのだが、その状態でもある程度は戦えてしまうほどステイタスは絶対的なモノだ。

 同格の相手とならまだしも、あらゆるステイタスのパラーメーターが上回っている場合、余程の策でもない限りサシでの勝負でまず負けることはない。

 

 己の命を懸けてダンジョンに潜る冒険者にとって、ステイタスは高ければ高いほどいいものである。

 しかし、いくら将来的に強くなれても、その間、自分を弱体化させることになるのでは話も変わってくる。

 一時的とはいえステイタスが下がることを許容できる人間はあまり多くない。

 わざわざ自分の命綱に切れ目を入れるような人間がいないのと同じで、こんなリスキーなことを好き好んでやる人間が多いわけがないのだ。

 

 それに加え、あくまでスキルは任意発動ではあるものの主導権を握っているのはシャラスであり、彼女の裁量次第で自身のコンディションが変化してしまうことから、スキルの対象となる人間からしてみればかなり面倒なスキルとも言える。

 

 

 しかし、ヴァンはスキルを使われることに関しては受け入れていた。

 

 

 スキルによる成長補正はダウンしたステイタスの度合いにもよるが下がれば下がるほど上昇するらしく、最近になって上がりにくくなったステイタスを手っ取り早く上げたかったヴァンからしてみれば、まさに渡りに船だったのだ。

 

 

 ヴァンとしては、そのスキル自体よりもそのスキルを発現させたシャラスに対し、言えもしれぬ危機感を感じていた。

 スキルとはその人間の人間性や内に秘められた可能性を反映した産物であり、どのようなスキルであってもそれが発現するだけの素質が個人に備わっている。

 ロニーであれば人一倍強い食に対する飽くなき思いが反映されたスキルが、ヴァンであれば末永く怠けたいという気持ちが反映されたスキルが発現している。

 種族特有の血筋や長い経験を経ることが切っ掛けで発現する一部のスキルを除き、この法則性は基本的に成り立つ。

 

 この事を踏まえて、シャラスのスキルについて考察すると彼女の異常さがありありと記されているのが分かるだろう。

 意味ありげなスキルの名前に加え、同ファミリア内限定とはいえ他者に強く干渉することができる特殊な能力、そして、彼女がパートナーに過酷な試練を望んでいるかのように付け足されているデメリットなどなど。

 一見するだけで彼女の在り方がかなり分かりやすく、纏められているのだ。

 

 なるほど。

 確かにこんなモノが背中に刻まれていることなど、ヴァンに知られたくもないはずである。

 自分が""英雄""という存在を心底求め、いい素材を見つければ相手の意思など考慮せずに自分の思いを勝手に押し付け、有無を言わさずに試練と言わんばかりに過酷を強いらせる女であると、誰が言えるだろうか。

 現に昔の男達に対しては内密に動き、主神にも口封じをしてスキルを使っていたことを本人が話している。

 既にスキルのことがバレてしまったからか、かなり素直に自分の過去について話していた。

 ヴァンの前にも付き合いのあった男がいたことや、スキルの都合上、鍛えたい男が出るまで【ファミリア】を確定させず、パーティーを転々としていたことなど、割りとぶっちゃけた話も色々とあった。

 

 と、まあ、比較的従順な姿勢を見せたシャラスではあったが、一番心を許してほしいヴァンからは警戒の目を向けられていた。

 そもそも、こんなとんでもスキルを発現させた女がスキルに頼るだけで終わるはずがなく、他にも自身の""英雄""を鍛えるために何かしらのアプローチを取ることなど容易に想像が付く。

 

 

 ヴァンはそれを恐れたのだ。

 

 

 スキルによる束縛はゲブが天界に送還でもされない限り、最低でも一年は続く。

 連続で違う神の所に改宗出来なくなるという、本来であるならばシャラスの方にできるデメリットが、逆にヴァンが他の神のところに改宗しない限り逃げられないように完全に利用されていた。

 団長という肩書きにこだわるヴァンの中に、【ゲブ・ファミリア】以外のファミリアに移籍するという選択肢はないため、ヴァンが彼女から逃げ出すこともできないといった状態である。

 そんなわけで勝手にスキルをONにされて急にステイタスが減少しても困るし、一応有用なスキルであることは確かなので早い段階で受け入れることにしたヴァンではあるが、それ以外のシャラスの動向が全く読めないため、スキルの存在を知ってからは緊張状態が続いていた。

 

 ホーム内にいると「訓練はなさらないのですか?」やら、「ダンジョンにはいつから行かれるのですか?」などとスキルの存在が知られた所為か結構遠慮なくヴァンに干渉してきて、昼寝をしに外に出れば「私も同行しても良いでしょうか?」とついて来たがるシャラスを追い払い、あとからこっそり付いてくる彼女を撒いて、やっと昼寝ができたと思えばいつの間にか彼女の姿が物陰にあったりと、かなり粘着質で面倒なことになっている。

 しかも、彼女から逃げる途中で普段はあまり人通りの少ない裏路地に人の気配が濃くなっていることに気が付いたヴァンは、もしかしなくても彼女が手配した自分の踏み台要員がそこかしこに点在しているのではないかと、あまりにも突拍子もない考えを頭に浮かべていた。

 人のいるところを的確に避け、シャラスからも逃げきっているため確証は持てないが、彼女ならそれくらいはやってのけそうな凄みがあり、一概に否定することもできなかった。

 

 彼女の行動に段々とストレスが溜まっていくヴァン。

 ロニーの時と同様に隙を見て殺してしまおうかと若干過激な思考を巡らせるヴァンだったが、とある出来事で事態は終息に向かうことになる。

 

 

 

 シャラスが入団してから3日目の夜。

 

 いつの間にか全員分の夕食の準備をしていたシャラスに夕食を勧められ、捨てるのも勿体無いか、と若干疲れた様子で承諾したヴァンは、皆とともに彼女が用意した料理を食べることにした。

 ヴァン達の目の前には緑葉食野菜とすりつぶしたポテトがキレイに盛られたサラダや、あっさりとしたコンソメスープ、季節の野菜と肉が絡み合ったスパゲッティーなどなど、普通に美味しそうな料理が並べられていた。

 使われている食材は特別高そうな物はなく、シャラス曰く、家計に負担が掛からない程度に安く手に入る材料で最高の料理をしたのだとか。

 目の前に出された料理を見て、ロニーは辛抱たまらずヨダレを垂らし、ゲブは彼女の料理の腕前に感心するように息を吐き、ヴァンは注意深く料理を見つめていた。

 

 見た目は本当にただの料理だった。

 パッと見たところ変なモノは入ってなさそうだし、匂いも色々と香辛料が入ってあるが、極端におかしい感じはしない。

 実際に口に入れてみても、普通に美味しくて異物が混入している気配もなさそうだ。

 流石に考え過ぎかと思ったヴァンだったが、隣の席に座るシャラスの笑顔を見るとどうにも安心することができない。

 そんな微妙な面持ちの中のことだった。

 

「ねえねえ、だんちょう。ご飯、食べないの?」

 

 ヴァンの向かいの席に付いてロニーが心配そうな表情でそう言う。

 食事を開始して数分と経っていないのにも関わらず、盛られた料理が全て空になっているロニーの皿を見て、コイツの食欲は相変わらずか、と何処か呆れにも似た感情をヴァンは抱いた。

 

「……まあ、そんなとこだな。」

 

「だったら、ロニーが少し手伝ってもいい?」

 

 未だに多くの料理が残されているヴァンの皿を見て、ロニーは申し訳無さそうに腹を鳴らしながら首を傾げる。

 最近鳴りを潜めていた底抜けの食欲は健在だったようだ。

 正直、得体の知れない料理を前に尻すぼりするくらいなら、ロニーに毒味をさせて経過を見た方が建設的かと考えたヴァンは残ったご飯の半分ほどをロニーに明け渡した。

 

「あら、ロニーの分は多目にしてたのだけど……、少なかったかしら?」

 

「いや、こいつが満足するくらいの量ともなると、絶対に赤字になるから今のままでいいぞ。……あと、俺の分は少な目で頼む。」

 

「分かりました!団長♪」

 

 ロニーに食事を分けることに対し、あくまでロニーのことを気遣うような素振りをするシャラスだったが、食事に入ってようやく出てきたヴァンからの一言を聞き、一瞬でとろけそうな恍惚の表情になった。

 どうやらここ3日間の共同生活でヴァンが心底嫌がることの傾向でも掴めたのか、過剰な接触は控えることにしたらしく、シャラスは彼女基準ではあるものの昼頃からあまりにも近過ぎたヴァンとの距離を置き始めていた。

 距離を取ってからまだ一日と経っていないが、ヴァンとの直接的な交流の機会が減っていた所為か、愛に飢えていたシャラスは自然な流れで出てきたヴァンの言葉に大袈裟に反応し、大層喜ぶ。

 このまま適切な距離感に落ち着いてくれれば助かるのだが、とヴァンが考えていると、ふと違和感に気が付いた。

 

 ロニーの手が止まっている。

 

 あの食欲の権化と言っても過言ではないロニーが、料理が残った状態で手を休めるのは希なことだ。

 何か疑問に思ったのか、目を閉じながら口に入れた料理の味を確かめるように舌の上で転がし続けるロニーの様子を不思議に思い、彼女の隣に座るゲブが心配そうに話し掛けた。

 

「ロニー、どうかしたのか?腹の調子が悪いのなら私も手伝うが……。」

 

「……ううん、そういうのじゃないの。ただちょっと変だなぁ~って思っただけなの。」

 

「……変、とは何のことだ?」

 

 ゴックンと口の中身を飲み込むと、ロニーはそう言い放ち、ゲブはその疑問に対し問い掛ける。

 ロニーは「うーん」と腕を組ながら考え込み、しばらくしてシャラスへと向き直ると、首を傾げながら口を開いた。

 

 

 

「ねえ、シャラス?なんでだんちょうのご飯にお薬が入ってるの?」

 

 

 

 本当に不思議そうに問い掛けるロニー以外の、その場にいる全員の動きが固まった。

 あまりにもショッキングな話を聞いたゲブとヴァンは咄嗟にシャラスへと視線を頭ごと動かし、当のシャラスは困惑した表情を浮かべていた。

 

「ロ、ロニー?なんでそんな冗談を、ーーー」

 

「ロニー、薬っていうのは何の薬だ?」

 

 シャラスの言葉を無理やり遮ったヴァン。

 その疑問にロニーはたどたどしながらも、着実に答えていった。

 

 簡単に要約すると、ヴァンの皿には中毒性のある薬草が入った薬が少量ながら盛られていたらしく、少しだけ口にする分には問題ないのだが継続的に摂取すると判断能力の低下や、痛覚の鈍化を引き起こし、最悪廃人のような有り様になる危険な薬が入っていたことが判明した。

 独特の甘さがするタイプの薬草であるものの、少量だと他の香辛料に紛れて味が判断しにくい上、かなり希少な薬草であるためそもそも存在を知らない人間が多く、食事に混ぜられてもすぐに気付きにくい薬なのだという。

 

「ロニーよ、どこでそんな知識を手に入れたのだ?」

 

「ロニー、昔からなんでも食べちゃったからお父さんが心配して近所の薬屋のおばさんの所で色々と教えてもらってたの。すぐ死んじゃうお薬は食べたことないからあんまり自信ないけど、それ以外なら大体ロニー、食べれば分かるよ。」

 

 外に繰り出せば良く分からない野草や虫に手を出し、店の食糧庫近くに備えた害虫用の毒団子を「美味しそうなの~」と言いながら食べようとした、娘に危機感を覚えたのだろう。

 今は亡きロニーの両親は店で働く合間に彼女を町一番の薬屋に連れていき、将来的に悪い男に一服盛られた時のことも考え、ちょっとばかし高めの授業料と引き換えに様々な毒や薬のことをロニーに教えていたのだ。

 食材に対する好奇心や、元から地頭が悪くなかったことも幸いし、毒や薬の知識に関してはサバイバル生活をしていたヴァンよりもロニーの方が上回るほどの知識を体得するに至り、今、その知識は自分に機会を与えてくれたヴァンのためにフル活用されていた。

 

「……良い両親を持ったな。」

 

「……うんッ!」

 

 天に上った父と母のことを思い出したのか、ちょびりと目に涙を浮かべながらもロニーは笑顔を作る。

 

「……で、何か言い訳はあるか?」

 

「…………。」

 

 例えプライベートな時間であっても常に武器を携帯しているヴァンは、短刀が納められた腰に手を伸ばしシャラスに詰問する。

 シャラスはロニーの指摘に対し反論することなく、俯いていたまま黙していた。

 嘘をついても神であるゲブの前では無意味であり、誤魔化しが効くような状況でもない。

 故に彼女は沈黙を貫いていた。

 この状況を乗り切るために自分がどうすれば良いのか、どうすればここから追い出されずに済むか、必死に考えた。

 その結果……。

 

 

 

 

「誠にッ!申し訳ありませんでしたッ!!!」

 

 

 

 

 シャラスは自分が座っていた椅子から降りると、膝をつくと同時に頭と手を勢いよく床に叩きつけ、全力の謝罪を述べた。

 シャラスの珍妙な行動にゲブとロニーは度肝を抜かれ、ヴァンは特に驚かずにシャラスを見下ろし続ける。

 

「……それで終わりか?」

 

 それならばと、短刀を握る手に力を入れるヴァンの様子を感じ取り、シャラスは叫ぶように許しを乞う。

 

「私はただッ!団長のお役に立ちたいと思っただけなんです!!」

 

「薬を盛ることがか?」

 

「……私だって、できればこの手は使いたくなかったんです。でもッ、仕方ないじゃないですか!」

 

 床に付けていた頭を勢いよく上げると、シャラスは捲し立てた。

 

「団長は素質があるのにほとんど訓練もしていませんし、ダンジョンに潜るのだって週に二日か三日。いくら自由な冒険者とはいえ少なすぎです!だから、私だって団長にやる気出してもらおうと思って、頑張ったんですっ。」

 

 しかし、ヴァンにスキルのことを知られてしまい、距離を取られてしまった。

 予想以上に警戒心の強いヴァン相手ではシャラスが事前に用意した試練までもっていくのも困難で、変なところで我の強さが出ているからか、いくら呼び掛けようとダンジョンに行く頻度を変える気配すらない。

 予め入団する前に集めた情報とこれまで間近でヴァンを観察した結果、シャラスは自発的にヴァンの生活習慣を改善させることを諦め、実質的に取りうる最後の手段として彼女の実家に伝わる一族秘伝の薬で思考能力を低下させ、言うことを聞きやすくする方法を取ったのだ。

 

「使い方さえ間違えなければ大事には至らない薬なんですけど、副作用で多少戦闘の妨げになる可能性がありましたから、本当にこの方法だけは使いたくなかったんです。」

 

 それでも、とシャラスは叫ぶ。

 

「私は団長に強くなって欲しかったッ。もっと強さに貪欲になって欲しかったッ!もっと私を求めて欲しかったッ!!」

 

 薬に頼るのは自分の力でヴァンの心を変えることのできないと認めているのと同義である。

 己の敗北を認めることをアマゾネスの血が、その身に刻まれた一族の矜持が許しはしない。

 しかし、それを曲げてでも、シャラスは英雄を求めていたのだ。

 

「確かにやり方に多少の問題はありましたが、私が団長のことを想っているのも、団長のために動いていたのも本当のことなんです!……もう、私も早まった行動はしないと神様の名の下に誓います。ですから、私をこれまでもずっとここにいさせてください。お願いしますッ……!!」

 

 どこまでも自分本意な物言いにゲブとロニーはなんとも言えない視線を向け、ヴァンは辟易とした様子を見せる。

 流石のゲブも今後も彼女に付きまとわれることになるヴァンのことが気の毒に思ったのか、彼の相談に乗ったこともあってヴァンの意見を尊重する姿勢を見せ、ロニーは自分の時を思い出したのか顔を青くさせて体を震わした。

 シャラスの処遇はヴァンの判断次第となり、当のヴァンは彼女をどうするか考えていた。

 

 後衛と言うわりに存外高いステイタスを持つシャラス相手にステイタスが変動する自分一人で戦うのは少し骨が折れることは想像に難くない。

 ロニーを味方につけても対人戦の経験のない彼女では、足手まといになる可能性がある。

 となれば、抹殺はあまりいい考えとは言えないだろう。

 

 むしろ、最終手段に踏み切るしかなくなった彼女にできることなどたかが知れてるし、取り返しのつかないことをしたら【アストレア・ファミリア】に泣きついてでも始末すればいい。

 一応、そのくらいは協力してもらえるだけの信頼関係は残っているはず、と曖昧で根拠に欠ける未来図を脳内に思い描いたヴァンは取り敢えず、シャラスに対する処遇は現状維持にとどめ、体制的に最終警告をする。

 

「今回のことは見なかったことにする。次に俺が迷惑に思うことをしたら、容赦なく排除する。それでいいな?」

 

「……はいっ!寛大な処置をありがとうございます!!」

 

 起こした体を再び床に付け、極東で言う所の""ドゲザ""を披露するシャラス。

 本当に分かっているのか不安になったがしばらくは様子見をするしかないか、とヴァンは割りきり今に至るわけである。

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 最終的にヴァンがダンジョンに潜らない日にもロニーのサポーターとして付けさせたり、ゲブのバイトの手伝いをさせたりとヴァンに近づかせないようにしたり、今後ヴァンの口に入れるものはロニーが先に毒味をするなどと言った対策が取られ、この一週間、本人は不服そうではあったものの文句一つ言わずに仕事をこなし、本日ついに念願のヴァンとのダンジョン探索の日が来たのである。

 未だにヴァンからは警戒されたままではあるが、これからは焦らず着実に信頼を勝ち取り、彼の横に立つことを認められるように精進せねばとシャラスは意気込み、面倒なことが起きませんようにと、前途多難な未来を思い浮かべながら薄暗いダンジョンの中を歩くのであった。

 

 

 

 

 

 







またしても賛否両論な結末になってもうた……。


当初の予定ではシャラスにはもっと色々とやらかしてもらおうと思っていたのですが、ロニーの件が響いてどう動いても対処される未来しか思い付かず、虎視眈々と狙いつつも大人しくしていく結果に落ち着きました。
シャラスの過去については今後、おりを見て話に出そうと思います。

最近、暑さにやられて燃え尽き気味なので、しばらくはマジで更新が遅くなりそうです、その辺はご了承ください。



以下、シャラスのスキルの概要を載っけときます。


【英雄研磨】

・自身が想いを寄せる対象に対し、任意発動。

・対象は早熟する。

・スキル発動中、対象のステイタス低下。

・想いの強さで効果上昇。



成長補正は大体、スキルを発現させて間もない頃のベルくんよりちょっと劣るくらいですかね。

※余談ですが、ヴァンはスキル補正で毒耐性があるので薬の存在に気が付かなくても、ほぼ無力化してました。




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