怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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毎度のことながら、お待たせしました。

最近のダンマチのコンテンツが軒並み微妙であまりにも手がつかず、執筆が遅れました。
申し訳ない。

お気に入り登録、評価ありがとうございます!
なんとかエタらずにすんでます(

今回は前話からの続きです(ゲス顔
※少しグロ描写があります。




第二十二話 怠け者、休息を願う

 

 

 シャラスがヴァンに抱き着いてから一分ほど経ち、気まずそうにその光景を見つめるジュリの目覚めを境に彼等は地上に戻るため、動き出した。

 

 今回、インファント・ドラゴンとの想定外の戦いを強いられたヴァン達はかなり損耗していた。

 シャラスが背負っていたバックパックは戦闘中に落とし、偶々インファント・ドラゴンのブレスの射線上にあったからか、中身もろとも真っ黒こげで使い物にならず。

 予備で各自が持参していたポーションなどのアイテムはハイポーションと精神ポーションが各自一本ずつと、携帯用食料が少し、あとはジュリが持参していた予備の武器が数本といったところで、インファント・ドラゴンのドロップアイテムを加味しても大赤字である。

 

 それに人的被害もかなり厳しい。

 

 インファント・ドラゴンの攻撃をもろに喰らったジュリのケガは大分深く、地上の治療院で診てもらわなければならない程の重症だ。

 今は状態が落ち着いたものの肩を貸してもらわなければ歩くことも満足にできなくなっている。

 

 シャラスは自身の魔法の性質上、血を流さなければ発動しないため腕に自分で付けた怪我があったが、既に止血しており、それ以外に大したケガもしていない。

 先程の強化魔法で大分消耗した精神力も専用のポーションで回復していて、パーティーの中では軽傷の部類だ。

 

 そして、インファント・ドラゴン相手にただ一人で大立ち回りを繰り広げたヴァンの損耗は見た目以上に激しく、ポーションとシャラスの治癒魔法で骨の罅は回復はしたものの極度の緊張下で行われた戦いで体に蓄積された疲労は完全には消えていない。

 それに加え、装備の消耗が酷かった。

 

 元から黒い装備を着用していて、はた目からは分かりにくいがブレスで焼け焦げた部分が多く、プロテクターの一部は溶解していて動くのに若干邪魔になるということで無理やり取り外されている。

 インファント・ドラゴンに投げつけたナイフは回収されているが、岩のように固いものに投げた所為か刃こぼれが目立つ物が多く、同様に長時間インファント・ドラゴンを斬りつけていた短刀もボロボロで六層以降のモンスター相手に使えば一戦で壊れてしまいそうな有様だ。

 唯一無事そうなのは使用していない投げナイフが三本と、最後に使用したブロードソード、未使用の短刀が一本といったところだ。

 とはいえ、ブロードソードも上がった器用を利用して鱗と鱗の間を切ったと言ってもその下にある重厚な竜の筋肉を切っていたことに変わりはなく、ナイフほどではないが遠くない未来で壊れる運命にあるのは見て取れた。

 

 予想外の大出費。

 インファント・ドラゴンと遭遇する前に入手した殆んどのドロップアイテムはバックパックと共に燃え尽き、この時点で大分厳しいのにこのままではダンジョンで全滅もあり得る。

 最悪の場合、通り掛かった同業者に助けを乞わねばならないほど切羽詰まった状況に、ヴァンはため息を吐きながら二人を連れて歩き続ける。

 シャラスにジュリの補助をさせているため、軽く戦闘を行うくらいなら問題ないヴァンだが、ダンジョンはそこまで甘くはない。

 

 

 

 十一階層、十階層で数回行われた戦闘で運悪くヴァンのブロードソードは折れ、現在はジュリが所持していた大剣を今は代用している。

 安定性の欠いたパーティーでの戦闘が予想以上に厳しく、さらに運の悪いことにここまでの道中で同業者と遭遇することなく進んできたヴァン達の顔にも焦りが見えてきた。

 

 ……いや、若干一名はただ単に眠気をこらえてしかめっ面になっているだけだ。

 誰かは言わずもがな。

 

 そのことに気が付いた残りの二人は、こんな状況下でも普段通りでいられる彼に少し呆れながらも、全身に纏わりついていた緊張による無駄な力みを解いていった。

 そのことが功したのか、一行の移動ペースは少しだけ速くなり、それ以降は幸運にもモンスターと遭遇することなく、九階層へとつながる連絡通路に辿り着き、一度休憩をはさむことにした。

 

 休憩に入った瞬間、「んじゃ、見張りよろしく。」と言うや否や、装備を傍らに置いて昼寝に移行したヴァンの手際の良さにシャラスとジュリは苦笑する。

 流石にほぼソロの状態で十階層のモンスターと戦うことはヴァンをもってしても簡単なことではなかったのだろう。

 一瞬で眠りについたヴァンはちょっとやそっとのことでは起きそうにない。

 

 このヴァンの睡眠能力は長期間、ダンジョンで活動する上級冒険者からしてみれば、割と知られていない必須技能なのだが、この場にいる面々はそのことを知らないため、ヴァンの凄さに気が付くことはなかった。

 ニ十分もの休憩時間を過ごした三人だったが、その間、他の冒険者たちと会うことはなかった。

 

 昼寝から目覚めたヴァンを含め、全員、流石に今の状況のおかしさに気が付いていた。

 

 下の階層から登ってくる同業者達がいない事はまだ理解できる。

 ヴァン達がいる階段はさらに下の階層に向かう通路の中でも一番時間のかかるコースにあり、探索帰りの同業者が通る確率は低い。

 時間帯的にも、昼と夕方の間という微妙な時間であるため、上からはともかく下から誰かが上がってくる可能性も同様だ。

 

 しかし、上からとなると話は違ってくる。

 ある程度、上の階層でウォーミングアップを済ませてから下の階層に移動するパーティーは少なくはない。

 今は昼から本格的にダンジョン探索に出るパーティーなどであれば、上から移動して来てもいい時間だ。

 いくらインファント・ドラゴンと遭遇するくらい運がないヴァン達とはいえ、流石に人通りがなさすぎた。

 そもそも、普段であればよく顔を合わせるパーティーとここまでずっと出会わずにいる時点で不思議に思うべきだったのだ。

 ダンジョン内の冒険者の数が異様に少ないことに、ヴァン達は今更ながら気付く。

 

 もう少し休憩を取りたい一行だったが、このままダンジョンにいることの方が危険だと判断し、移動を再開することとなった。

 そして、ついに上り始めた階段の途中でヴァンは上から流れてきた空気に不穏なモノを感じ取る。

 

「これは、血のニオイ……。」

 

 ジュリとシャラスもその血のニオイに気が付いたのか、顔をしかめた。

 冒険者としてある程度活動している人間であれば嗅ぎなれたニオイではあるのだが、今回のニオイは今まで嗅いだ中でも余りにも濃く、彼らの中の警戒心を否応なく高める。

 よりいっそう慎重な足取りで進むヴァン達。

 

 そして、一行が階段を上った先。そこには凄惨な光景が待っていた。

 

 部屋の所々に散らばる、武器や装備の残骸。

 濃厚な血の香りを漂わす、鮮血と肉片の数々。

 モンスターはその性質上、ドロップアイテムと魔石以外は残さずに灰と化す。

 ゆえにこの場に残された死骸の数々は、人間のもの。

 

 ダンジョン内で人が死ぬことは珍しくない。

 しかし、この光景は余りにも血生臭く、刺激的だった。

 

「一体、何が……。」

 

 若干動揺しながらも状況把握に勤しむシャラスの様子はインファント・ドラゴンと遭遇した時よりも冷静だ。

 ジュリも冒険者として活動していることもあって、こういった場面に直面したことがあるのか、顔が少し青くなるくらいで済んでいる。

 そして、ヴァンは特に動揺することなく、平然としている。

 ……まるでよく見る光景だ、と言わんばかりの慣れっぷりである。

 

「……ッグ、」

 

「団長!?生存者がいます!……どうしましょうか?」

 

 ルームの壁に寄りかかっていた顔面蒼白の男が生きていたらしい。

 取り敢えず、助けるか否か指示をヴァンに仰ぐシャラス。

 緊急時に備えて残しておいたポーションをここで使うべきか、悩ましい状況である。

 

 男のケガの程度にもよるが、事情を聞けるくらいまで治療するとなると、もう完全にポーションはなくなることになる。

 しかし、ここで男を見捨てればこの場で一体何があったのかが分からないまま、この先を進まなければならなくなる。

 冒険者同士の抗争でこうなったのなら、なるべく関わりたくないのが本音だが彼らが争った相手が気になるのも事実である。

 

 しかし、

 

「喋れる程度まで治療しよう。奴らがダンジョンで何をしているか確認したい。」

 

 この場の冒険者の装備の中に闇派閥(イヴィルス)の特徴である白の装束がある。

 もし、今回のダンジョンの異変に闇派閥(イヴィルス)が関係しているのであれば、何も情報がないまま上層に移動するのはまずい。

 ここまでダンジョンの人通りに影響を与える事件が上層で起こっていた場合、自分たちも被害に遭う可能性が非常に高く、そのような事態はなるべく避けるのがベストである。

 

 取り敢えず、この男から情報を出来る限り引き出しておかねばならない。

 

 闇派閥(イヴィルス)絡みのことであれば、被害を現在進行形で受けてさえいればたいていの冒険者は協力してくれるはずだ。

 仮にこの男がこの場の惨劇を作り出したのなら、かなり問題だが、こちらに襲い掛かって来たとしても対処できるようにしておけば問題ないだろう。

 だいぶ、見通しの甘いプランだが、なにぶんヴァン達には物資も体力も何もかもが不足している。

 多少は「もうメンドくせーや」と思考を放棄していたりもするが、実際にこれ以上にヴァン達に出来ることもない。

 

 シャラスはヴァンの言う通りに男の治療を開始した。

 

 幸か不幸か、男のケガはそこまで深くはなく、シャラスが常用している血止めと残りのポーション、そしてこの場に落ちていたポーションで応急処置は完了した。

 男を治療したシャラスによると男のケガは腹部のケガがまあまあ酷いものの致命傷ではなかったのだが、肩につけれらた細剣のように細長い何かでつけられた傷から血が止まらず、出血多量で行動不能になっていたようだ。

 治療するのがもう少し遅ければ、男は今頃、大量出血で冷たい肉塊になっていただろう。

 そういう意味では血止めを持っていたシャラスのいるヴァンのパーティーに助けられたこの男はかなり運が良かった。

 その運を少しは分けて欲しい、とヴァンは切実に願う。

 

 

「……っ、てめぇーらは、おらぁ一体、何が?……」

 

 

 一通りの治療を終えると、傷口を触られたことで刺激でも受けたのか、男が目を覚ます。

 貧血の影響が出ているため、軽く意識が混濁しているが少し時間を置けば話も出来るだろう。

 

「俺達がアンタを治療した。辛いところ悪いがこちらの質問に答えてくれ。」

 

「あ?てめぇ、何言ってやが……!?__」

 

 苛立った様子でヴァンに視線を向けた男は、ヴァンの後ろに見えた惨状を見て完全に意識を覚醒する。

 

「クソ!!アンにゃらろう、どこだぁぁぁあああ!!!ぶっ殺してやるぅう!!!!」

 

 一変して怒り狂う男に対し、ヴァンは軽く右ストレートを放つ。

 

「落ち着いたか?」

 

「て、てめぇ!ふざけんじゃ、っくぅ。」

 

 殴った手をぶらぶらと揺らすヴァンに、怒鳴り返そうとする男だったが傷の痛みを思い出し、大人しくなった。

 その一連の流れを見て、ジュリは一人ドン引きしていた。

 

「俺達が知りたいのはここで何があったかだ。別にアンタに危害を加えたいわけじゃないけど、話ができないんじゃ協力のしようがないのを理解してくれ。」

 

 男は歯ぎしりをしながらも自分を抑え、少し落ち着いてからヴァンの言う通りに話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 男の名前はポルル・グイード。

 

 ファミリア唯一のレベル2の上級冒険者にして、最速到達者(レコードホルダー)寸前にまで至ったれっきとした実力者である。

 しかし、言い換えれば他の団員の強さが悪い意味で彼とかけ離れており、ファミリア全体の戦力はそこまで高くない。

 

 もちろん、ポルルと一緒に探索していたメンバーは彼について行けるだけあって、それなりに強かったのだが、初めて中層に入った際に一人が死亡、二人が四肢の欠損で冒険者を引退してしまい、ファミリアからも既に抜けている。

 残った団員は生き残ったポルルを含めた三人の幹部に加えて、普段は七階層付近を中心に活動している補欠のメンバーが八人のみ。

 新しく団員を確保するにしても、即戦力になるほどの逸材がそうそう転がってるわけがなく、今いるメンバーを鍛えた方が早いとポルルたちは判断し、団員の教育に力を入れ始めたのが半年ほど前のことである。

 

 今日も今日とて団員の地力を強化すべく、ポルルを含めたファミリアの幹部が各階層に分かれて団員の育成をしていたのだが、ポルルが率いていたグループが運悪く闇派閥(イヴィルス)の団員と出くわしてしまう。

 元来気性の荒いポルルは彼らが何かしら因縁を付けてきようものなら、ぶちのめす算段をつけていた。

 自分の強さに絶対的な自信を持っているポルルは完全に慢心していた。

 流石に自分よりも高レベルの冒険者に勝てると思えるほど驕ってはいないが、全力を出せば同世代でも有名な【剣姫】や【疾風】にも勝てる自信が彼にはあったからだ。

 

 黒い噂が絶えない闇派閥(イヴィルス)のパーティーが目の前にいるものの、上層でカツアゲをしている部隊は精々リーダー格の人間に上級冒険者がいるかいないか、という構成になっていることは冒険者の中でも周知の事実であり、中層で痛い目を見た脳筋のポルルも情報収集の一環で知識として得ていた。

 

 相手の数は六人。

 

 噂通りであれば、上級冒険者がいても一人だけなはず。

 ポルルは「余裕じゃねぇか」と、悪い笑みを浮かべた。

 

 仲間達には万が一、モンスターが現れた時のために後方で控えさせ、迎撃を徹底させる。

 そして、残ったポルルが敵を殲滅させれば全てが終わり。

 見通しの甘すぎる、策と言っていいのか分からないほど杜撰な作戦ではあるが、上級冒険者のポルルでなら可能であり、何だかんだで一番有効的な手段だった。

 というのも、ポルルと他のメンバーとでは実力差がありすぎてまともな連携など取れないため、下手に足並みをそろえるよりも完全に分かれて行動した方が面倒が少なくてすむのだ。

 

 完璧なプラン(笑)を即座に思いついたポルルは、なめ腐った態度で相手を挑発する。

 

「ハハハッ!!知っているぞ。貴様、【雷流の鉄槌(ウコンバサラ)】。ポルル・グィードだな?」

 

 しかし、相手はポルルのことを知っていたようだ。

 リーダーと思われる男は上級冒険者のポルルを前にしながらも、余裕の態度を崩さずに下卑た笑いを顔に貼り付ける。

 相手の態度に煽り耐性の低いポルルのボルテージは急上昇していく。

 

「あぁん?誰だテメェ?」

 

「アアッ!!今日の私は最高にツイている!!このような場所で上級冒険者相手にコイツの力を試せるんだからなぁ!!」

 

 男はポルルの言葉を無視し、勝手に何やら喚きながら、懐から黒のバンドが巻かれた黒茶色の球体を右手で掲げた。

 ポルルは額に血管を浮かばせながらも、相手が自信満々に取り出したモノに警戒を高める。

 

(あれは、形からして魔剣じゃねぇな……。何かの魔道具か?)

 

 魔道具はレベル2から発現する発展アビリティ、【魔導】や【神秘】が作り出す文字通り魔法の道具。

 特に【神秘】のアビリティ持ちが作り出したアイテムは神の奇跡すらも再現することができると言われている。

 下っ端であろうと相手は闇派閥(イヴィルス)の団員。

 ポルルを無力化するほどの強力な魔道具を持っていてもおかしくはない。

 ならば、

 

(使われる前に叩き潰せしゃあいい!)

 

 どのみち、相手もやる気満々。

 交渉の余地が無いのであれば、暴力を抑える意味もなかった。

 

「おらぁ!!!」

 

「なっ!?」

 

 背中に括りつけたT型のハンマーを右手に装備したポルルはそのままの勢いで、数メートルほど空いた相手との距離を一瞬で詰める。

 どうやら闇派閥(イヴィルス)側のパーティーに上級冒険者はいなかったらしく、ポルルの突進に誰も反応できずにリーダーのもとへ向かうのを許してしまう。

 リーダーの男は辛うじて認識できたものの、そこまでで終わりだ。

 

 ポルルは相手が掲げている謎の球体目掛けて、上段から渾身の一撃を食らわせる。

 

 レベル2で、かつ力のステイタスが特に伸びているポルルの一撃は球体と共に男の右腕をも巻き込みながら、地に叩きつけられた。

 球体と巻き添えになった男の腕は半ばから完全に潰され、とめどなく血が流れ続ける。

 

「ヌアアアあぁぁあぁあぁああ!!??私のっ、私の腕がぁあああ!?」

 

 痛みの余り、右腕から血をまき散らしながら地面を転げまわる男の姿を見て、残った闇派閥(イヴィルス)の面々はポルルに恐れを抱き、ポルルの仲間たちはいつの間にか相手のリーダーを叩きのめしていたポルルの姿に興奮を隠せずにいる。

 

「すげぇ!?流石ポルルさん!!」

 

「なんか良く分かんねぇけど、ポルルさん流石っす!!」

 

 能天気なパーティーメンバーの声を耳にしたポルルは若干機嫌を良くしながらも、先程の一撃による違和感を感じ取っていた。

 

(あの球、俺の一撃で壊れてねぇだと?)

 

 ポルルは床に転がる球体を目にして、軽く驚いていた。

 固い甲殻で覆われたキラーアントでさえも軽々と粉砕できるほど強力なポルルの一撃で傷一つ付かない球体の耐久力は明らかに異常である。

 しかし、何はともあれ球体は男の手を離れ、何か効果を発動するような素振りもない。

 であれば、今は無視しても問題ないだろう。

 ポルルはそう判断し、壁際に転がっていった球体から背を背けた。

 

「なんだか分からねぇが、ご自慢の切り札も使えねえんじゃ意味もねぇ。俺様に喧嘩を売ったこと、地獄で悔やむんだなぁ!」

 

 こうしてポルル無双が始まろうとした瞬間、ボコボコッ、とポルルの背後から物音がしたかと思えば、

 

 

 

 ---ポルルの右肩に風穴が空いた。

 

 

 

 突然の攻撃に若干混乱しながらもポルルは自分の肩から出てきた黒茶色の細い棒を掴もうとするも、それは光景を早戻しするように抜き取られ、ポルルの左手は空を切る。

 もはや目の前の闇派閥(イヴィルス)の面々のことなど無視したポルルは、後ろに視線を向けると驚愕の光景を目にする。

 

 先程の球体があった場所には黄色味のかかった単眼に、黒茶色の昆虫の様な甲殻を纏った化け物がポルルの肩を串刺しにした細い触角のようなものを舌のように口元でチロチロと動かしながら、左腕、右腕、胴体、といった風に体を生やしていた。

 さなぎが殻から抜け出るように体を構成していくその姿を見たポルルは肩を左手で抑え、化け物から視線を離さずにホルスターからポーションを取り出しながらパーティーのもとまで戻っていった。

 見たことのない化け物、---新種のモンスターと思われる目の前のそれは体が完全に更生される前の段階の時点でレベル2の自分に傷を負わせる程のポテンシャルがある。

 迂闊に近づけば無用な痛手を喰らいかねない。

 それに闇派閥(イヴィルス)の面々が自分が化け物の相手をしている間に仲間に危害を加えに行く可能性がある。

 

 リーダーの男をほとんど戦闘不能にしたとはいえ、自分のパーティーメンバーはまだ実力的に不安だ。

 ゆえに、あの化け物との戦闘に巻き込めるような立ち位置に移動したポルルだったのだが、その心配はいらなくなった。

 --最悪の形で。

 

「何故だ!?私は貴様の主だぞ!!やめろ、やめろぉおお--、、」

 

 リーダーの男はそう言いながら、血が出ることも構わずに腕を動かすも、完全に体を構築し終えた化け物の腕で取り抑えられ、喉元を食いちぎられた。

 その後も物言わぬ男の死肉を貪り続ける化け物。

 そこには主人に従順な飼いならされた下僕の姿はなく、ただただ己の本能に付き従う野獣しかいない。

 目の前の光景を見ていたこの場の一同は様々な面持ちで動きを止める。

 

 残された闇派閥(イヴィルス)の面々は状況に追いつかず放心し、ポルルの仲間は自分たちの理解の及ばない存在にうろたえ、ポルルはこの状況でどうすれば仲間を守れるかを考えていた。

 

 状況が動いたのは化け物が咀嚼音がなくなった時。

 つまり、新たにエサを求めて動き始めた時である。

 

「うわあああ、来るなあああぁぁあああああ!!!!」

 

 化け物は手始めに近くにいた闇派閥(イヴィルス)の面々を腕から伸びた鋭い刃で切り刻んでいく。

 ポルルはここが好機と見て、仲間に叱咤を飛ばした。

 

「てめえら!俺が時間を稼ぐ。その隙に上に逃げろ!」

 

「「「へ、へいっ!!」」」

 

 良くも悪くもポルルの命令に忠実な彼らは脊髄反射の勢いで返事をする。

 最後に残った闇派閥(イヴィルス)のメンバーが行動不能になった瞬間、ポルルは化け物の後ろからハンマーを振りかぶり、仲間たちは上の階層に繋がる順路へと駆け出した。

 化け物は逃げ出そうとする者を追う習性でもあるのか、ポルルの一撃を腕を盾にして防いだ後、顔を逃げ出すポルルに向けるとポルルの肩を貫いた触手を高速で飛ばし、ポルルの仲間の足を打ち抜く。

 隣で倒れた仲間の存在に動揺し、他の仲間の足が止まるとそこを狙い撃つように化け物から攻撃が連続で放たれた。

 

「くっ、テメエの相手はこの俺様だぁあああ!!!」

 

 ポルルは怒鳴りながら化け物に連撃を喰らわせるが、その全てが甲殻の鎧に阻まれ怯む様子もない。

 しかも、防御の合間に仲間に向けて攻撃する化け物の動きは非常に速く、ポルルでも阻止するのは難しかった。

 

(チッ、詠唱の時間さえありゃあこんなヤツに……!?)

 

 雑念を感じ取ったのか化け物はポルルに出来たほんの少しの隙を突いて、ポルルの顔目掛けて口から液体を噴射した。

 その攻撃をもろに喰らったポルルは視界を奪われ、たたらを踏む。

 決定的な隙を見せたポルルに化け物は強烈な右ストレートを放ち、ポルルを壁まで吹き飛ばした。

 ギリギリハンマーの柄を防御に回せたポルルだがその衝撃はかなり堪えていた。

 しかし、前衛を努めるポルルにとっては痛みは慣れたもので、スグサマ立ち上がろうとするが体に力が入らなず、少し体を浮かせるだけで終わってしまう。

 

「くそ、意識も遠く……。」

 

 ポルルは先程吹きかけられた液体が即効性の毒物だったことに気付けないまま、意識を落としていく。

 失われる意識の中、ポルルが最後に耳にしたのは仲間の悲鳴の声だった。

 

 

 

 

 

 






ポルルさん、満を持して登場(第四話参照


この話から今作はオリジナル展開がアクセルシンクロして行きますが、生暖かい目で見守ってもらいたい。

今回出てきたモンスターは完全なるオリジナルです。
詳細は後々分かりますが、取り敢えずイメージ画像は、某デュエル王で出てくる「人○い虫」をマッチョ化した感じです。

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