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主人公の容姿の設定を一話のあとがき、ゲブ様の容姿を二話のあとがきに掲載しました。
見返すのが面倒な方は感想欄にまとめて書いていますので気になれば目を通してもらえるとよろしいかと思います。
では、本編をどうぞ。
俺がウォーシャドウさんと激戦を繰り広げてから二ヶ月が経った。
ウォーシャドウさんとの戦闘で負った怪我自体は神の恩恵によって底上げされた自然回復力で数日と経たずに完治したのだが、正当な理由で仮病を使えるチャンスを逃さんと言わんばかりに俺は怪我から回復しきっていないことをゲブ様にメチャクチャアピールした。
しかし、相手は完全に下界の生活に飲まれただの主夫と化しているとはいえ腐っても神。
子供のついた浅はかな嘘などすぐに看破せしめ、出会ってから初めてゲブ様の神の
普段怒らない人間が怒ると大層怖いと聞いたことがあったのが、……マジだった。
ーーおこったカミさま、こわい。
これからは欲張らずにホドホドにダラけよう。いや、マジで。
そして心を入れ換えた俺はそれなりにダンジョン探索に力を入れるようになり、ウォーシャドウさんとの戦闘で痛感した全体的なステイタスの偏りを解消すべく、敏捷を上げるために普段から走り込んだり魔法のコストとして減少してしまう耐久も少しでも底上げすべく回避だけでなくガードも使うようにし始めた。
そして今では全体的にステイタスが伸び最低でも全て熟練度G以上にまで仕上げ、魔力に至って魔法を頻繁に使用している関係上熟練度Eまで到達しアドバイザーさんからも許可が下りて6階層へと行けるようになるまでに至った。
最近では不意討ちやら小細工を労したやり方を避け、なるべくガチンコ勝負で戦っているおかげかステイタスとは関係のない技術面での基礎的な戦闘能力もやや上昇している気がする。
というか、魔法の使い方が完全に変わった。
実は二ヶ月前のウォーシャドウさんの一件で魔法を使用した際、状況的に命が懸かっていたこともあり加減も考えずに通路全体が覆われるほど精神力を込めて魔法を発動したのだが、俺が思っていたよりも広範囲に靄が広がってしまいたらしく数十人ほどの冒険者と多くのモンスター達が巻き添えを喰らっていたことが翌日のギルドの張り出しを見て知った。
数分の出来事とはいえLv.1の冒険者以外にたまたま中層へと向かって移動していた複数のLv.3及びLv.2の冒険者ですら戦闘不能な状態になっていたことが後押しし、今回の件がギルドとしてはかなり深刻な事態だと判断されたようで高レベルの冒険者による上層の見回りや、今回の件について何か情報を持つ者は名乗り出るよう呼びかけるなどかなり厳重な対応を取られていたのだ。
後に""うたた寝の黒霧""と呼ばれるようになる事件の犯人である自分は名乗り出るべき案件なのだが、二ヶ月経った今でもギルドへ自首はしていない。
別に俺自身ギルドへ出頭すること自体に抵抗感はなかった。
他の冒険者を危険にさらしたことから多少のペナルティはあるだろうが、ある程度うちが極小ファミリアであることを加味した上で制裁を下すと思っていたからだ。
むしろ後々犯人であると判明したときの方が重いペナルティを課される可能性の方が高く、最初のうちは自首をしに行ってしても構わないとも思っていたのだが、念のため事情を話したところゲブ様に止められてしまったのだ。
ゲブ様が俺を止めた理由はいたって単純で""危険だから""である。
確かに今ギルドに自首しない場合、後々に課されるペナルティは重いモノになるかもしれない。
しかし、ゲブ様が真に恐れていたことは他の神々の動向である。
まず、ギルドに自首するということは俺の魔法についてそれなりに話さなければならないというわけで少なからずギルドに俺の魔法の詳細がバレることになる。
もちろん、冒険者の生命線であるスキルや魔法についてギルドも本人の許可もとらずに公に公表するわけにもいかないため、俺が情報の開示を拒否さえすれば外に俺の情報が出ないように配慮はしてくれるだろう。
しかしながら、ギルドがいくら情報統制を行ったとしても完全に情報を漏らさないことなど出来るはずもなく、ある程度の情報は少なからず噂のような形でオラリオ中に伝わることになるのは間違いない。
そしてその情報をもとに犯人の身元を判明する輩が現れることは想像に難くなく、Lv.1の俺がどうやって自分よりも高レベルの冒険者たちを戦闘不能にさせたのかについて興味がいくのは自然の流れである。
興味をもつ連中の中には単純に悪事に利用しようとする者もいるが、それよりもただ単に面白おかしくチョッカイを出したいだけの
そもそも
このオラリオでもそれは例外ではなく、オラリオに住む神の八割はこの愉快犯の性質を持ち切っ掛けさえあれば彼らはいつでも自分の持ちうる手段で躊躇いなく騒動を引き起こそうとするだろう。
そして、現在。俺は彼らにとって格好の起爆スイッチになり得るポテンシャルを持ったオモチャであり、一歩間違えれば昼寝すらままならないハードな人生にまっしぐらになるというわけだ。
大体こんな感じの説明をゲブ様から受けた俺はわざわざ自分の人生を棒に振る気はないので迷うことなくギルドへ自首することを止めたのである。
しかし、俺の戦い方は小手先だけではどうにもならない格上と戦う場合、確実に魔法を使わざるを得ないスタイルになっており、「魔法を封じる」=「戦力の大幅ダウン」に繋がってしまうため今までのようにただぶっ放すのではなくどうにかして魔法のことに関してバレないようにする訓練が必要となった。
この問題については元々靄の精密操作の練習をしていたため割と早い段階で解決することができた。
その解決策の一つは単純に出現させる靄の量を実践で必要な分まで減らすことである。
俺の魔法はウォーシャドウさんとの戦闘で靄を相手に吸わせなくても発動することが分かり、正確な発動条件を知るためにダンジョン探索に復帰してからひっそりと人気のないところで
その結果、魔法で発生させていた靄は
恐らく今までは靄を過剰に作りすぎていたため吸収されていたことに気が付かず、吸い込ませた方が体内と体外の両方で吸収する速度が単純計算で二倍ほど速かっただけだったのだ。
そして、肝心の魔法の効果である「感情を伝染」をさせるに必要な靄の量は個体の体積が関係していると今の段階では睨んでいる。
大体魔法のことが分かった俺は今までのようにただ放出するのではなく自身の体や装備に纏わりつかせて利用する、一種の
武器や素手による攻撃で相手に触れるとき、必要量の靄を相手に肌の上から纏わりつかせることで「靄に触れると発動する魔法」ではなく「靄を纏った武具に触れると発動する魔法」というイメージを周囲に刷り込ませ、俺が件の""うたた寝の黒霧""で使用された魔法を使っていないと錯覚させることにしたのだ。
かなり靄の操作に集中力を割くことになるがこの方法なら意図せず周りの人間に魔法が誤発せずに済むし、魔法を封印しなくても堂々と使うことができる。
どのみち魔法を使わずに下に進めるほどダンジョンは甘くない。
馬鹿正直に封印するなんてナンセンスである。
取り敢えずゲブ様の協力の下、周囲からそれっぽい魔法として見せることには成功したためこの方針で魔法を使うことにした。
俺は魔法の使い方の一新に伴い、それに合わせた装備の変更を行った。
まあ、変更と言っても靄の色が目立たないようにするために体全体の色合いを黒地の布に変えたり、黒のペイントを付けただけだ。
多少靄の制御に失敗してもバレないようにという俺の苦肉の策である。
安物の黒い生地でゲブ様が見繕った黒マントにドロップアイテムであるウォーシャドウの爪を鍛冶師に見繕ってもらい作ってもらった短刀、そして皮鎧を黒く染めたペイントの材料費などなど、装備の一新に掛かった料金は合わせて四万ヴァリスとかなりの痛手だった。
ゲブ様が貯金していなかったら今頃アパートからも追い出されていただろう。
この二カ月間の間、4階層で新たな戦闘スタイルを自分の体に馴染ませることと足りないステイタスを全体的に鍛えることに従事し、新装備に掛かった費用集めも並行して行った。
俺なりに焦りもあったのか週休四日の勢いでダンジョンに潜り続けた。
そして、今。怠け者なりの努力によって俺は装備に掛かった費用を全額ゲブ様へと返し、新たな魔法の運用法を自分のモノとしたのだ。
全ての準備は整った。もう、6階層へと続く階段はすぐ目の前にある。
格上相手に今の俺のやり方がどれだけ通じるかはまだ分からない。
でも、もう後戻りはできない。腹をくくるしかない。
己の夢を叶えるためにはいくらダルかろうと前に進まなければならいのだ。
俺は自分の夢のために胸の中でくすぶる不安を押し殺しながら、6階層へと足を踏み入れるのであった。
◇
俺が6階層に進出してから2週間が経ち、俺はゲブ様と共に夜のオラリオを歩いていた。
6階層での探索は順調に進んでおり、ウォーシャドウを初めとした新たに出現するモンスターについても問題なく討伐でき、当然モンスターが手ごわくなるほど手に入る魔石の質も上がるため稼ぎも順調に増えてきている。
何度か危険な目には遭ったが初めてウォーシャドウと戦ったときほど切羽詰まった状況にはならず、無事に切り抜けてきた。
……もうウォーシャドウさんがいきなり壁から大量発生するとかマジで勘弁してほしいっす。
まあ、なにはともあれ6階層で稼ぎが良さげな狩場を見つけてからは二ヶ月前とは打って変わり懐が非常に暖かく、今では一度の探索で一万ヴァリス近く稼げるようになり、うちのファミリアの経営も大分余裕が出てきたため今までできなかったゲブファミリア結成の祝いをすることにしたのだ。
そして、ゲブ様と出会ってから初めての外食をオラリオですることになった俺なのだがいかんせんオラリオに着くなりすぐ引き籠っていたり、一人で日向ぼっこする毎日を過ごしていたりした所為かダンジョン関係以外のオラリオの情報に明るくなく、今日のところはゲブ様が以前バイトで働いていた酒場に行くことになった。
酒場に向かう道中で大通りを通ったのだが街灯や店の灯りで照らされた大通りは昼間と比べて遜色ない程明るく、飲食店が集まる区域に入ると人の声もたくさん聞こえるようになり良く言えばにぎやか、悪く言えば騒々しかった。
普段ダンジョンからの帰り道では寄り道せず、休暇でも日が沈み始めた段階で帰宅している俺にとってあまり目にしない夜の町並みはとても眩しく感じた。
俺とゲブ様が生活しているアパートのある区域は住宅地が多く、飲食店が全く見かけないためこういった空気には余り慣れていないこともあってか余計にそう感じた。
昼間のオラリオとはまた違う空気に何とも言えない新鮮さを感じていた田舎者の俺はそれ以上特に思うことなく、漏れ出る欠伸を押えることもせずただ足を動かす。
多くの酒場の喧噪で満ちた通りに入りゲブ様と時々談笑を交えながら歩み続けて数分が経ち、丁度通りの真ん中くらいに来てやっと目的の酒場に到着した。
店の外装はそこまで洒落ておらず、看板には店の名前が記されているだけで変な手心を加え得ている様子はなくかなりオーソドックスな酒場の外見をしていた。
「ほれ、ヴァンよ。そんなところに突っ立ってないで中に入るぞ。」
「うーっす。」
ゲブ様にエスコートされ店内に入ってみると、外装以上に店内が広く設計されていたことに少し驚いた。
そして、店の中にはダンジョン帰りの冒険者達の姿が多くみられたが、それ以上に子連れの親子や仲のよさげな老夫婦など冒険者には見えない様な客が意外と多かった。
店員の案内で席に着いてからそう言った疑問をゲブ様に投げかけると、ゲブ様は自分のことを自慢するかのように店のことについて話し始めた。
「この店はオラリオの一般的な酒場と違って完全に予約制でな。予約の時点で柄が悪かったり、良くない噂が流れているような人間は入れない仕組みになっていることからどこのファミリアにも所属していないような一般人に人気の店なのだよ。」
付け加えると予約制と言っても提供される食事や飲み物はそこら辺の酒場と変わらず、料金もべらぼうに高いわけでもなく市場の価格で提供しているらしい。
基本的に荒くれ者の冒険者が多いこのオラリオではそういった輩を気にせずに飲み食いできる店というのは貴重なのだろう。
一般人に人気があるというのもうなずける。しかし、
「……でも、そんなことして出禁にされた冒険者が腹立てて暴れたりしないんすか」
「ふむ、それについても問題ないぞ。」
入店を拒絶された冒険者はそれ相応の理由があるわけで、そういう人間が素直に話を聞くとも限らない。
むしろ暴れるからこそ拒否されるのだろう。
しかし、その点についてもゲブ様は全く心配している様子はなかった。
ゲブ様がその理由を話そうとすると、丁度店の入り口から明らかに荒くれ者といった風貌の数人の冒険者が店員の静止を押し切り、大声を上げながら入店してきた。
「ああ!?俺様たちゃは客だぞ!入店させねえとか訳の分かんねえこと言ってんじゃねえぞ、このボケナスがぁ!!」
「ですから、入店したければちゃんと事前に予約を済ませてですね、」
「テメエ…。オラァ、Lv.2の冒険者様だって分かって言ってんだろうなぁ、おい。」
店員の言い分を完全に無視し、入店してきた冒険者達の中で一際大柄の男が店員に顔を近づけて威圧してくる。
Lv.2。それはオラリオにいる冒険者の半数が到達しえていないレベルであり、その力量の差は赤子と大人以上の差があるという。
ヒョロヒョロで貧相な体をしたヒューマンの男性店員がこんな相手にかなうはずがなく、あの店員はどうするのだろうかと様子を見ているとここまで暴言を吐かれていても常に笑顔を保っていた店員の雰囲気が変わったことに気付いた。
「いえ、そのようなことは存じていませんし今は関係のないことです。今すぐ出ていかないのであれば強制的に退出していただきます。」
「コノヤロォ、痛い目見ねぇと分からねえみたいだ、なぁ!!」
元から沸点が低い所為なのか一瞬にして顔を真っ赤にして怒り狂ったその冒険者は店員に向けて拳を振るい、一般人が喰らえば大怪我では済まされない様な強烈な一撃を繰り出した。
性根は腐っていてもやはりLv.2。圧倒的なステイタスの暴力によって店員は何の比喩でもなく店の床の染みになると思われた。
しかし、実際に痛手を負ったのは拳を繰り出した男の方だった。
なんと店員に攻撃が当たらないどころかパンチに使った手の関節が綺麗に外れていたのである。
速過ぎて何が起きたか分からなかったが男の目の前にいる店員がやったことであるのは間違いなのだろう。
遅れて腕の痛みに気が付いたその男は自分状態に驚き、そして悲鳴を上げた。
「お、俺の腕がぁぁぁあああ!?」
「て、テメェ!?ポルルさんになんてことしやがる!」
「ぶ、ぶっ殺してやらぁ!」
親玉がやられた所為か、一瞬にして小物感が増した冒険者達は意地を張って得体のしれない店員相手にあくまでも虚勢を張ろうと腰につけた武器を手にしようとする。
だが、その瞬間。店員から何やら恐ろしいオーラが出たことに気付きその動きを止めてしまう。
「これ以上店内で暴れようとするのなら、……私も容赦いたしません。」
明らかにかたぎの人間では出せないような空気を放出する店員を見て、男達は顔を真っ青にし完全に戦意を喪失する。
「再度警告します。早急にこの場を立ち去りなさい。」
ゴミを見るかのように冷ややかな目で男たちを見つめる店員。
それを見て蜘蛛の巣を散らすように男達は出口へと逃げ出した。
「「「は、はいいいい!!」」」
「お、おい、コラ待てよ、てめぇら!」
我先にと逃げ出した男達はポルルと呼ばれた男を置いて先に逃げてしまう。
関節を外された痛みがまだ続くのか、腕を抑えて痛みに耐えていた男に件の店員が音もなく近づくといつの間にか外されていた関節は元に戻っており、ポルルなる男も一瞬にして治った自分の腕を見て改めて驚愕する。
そんな男の反応など知ったことではないと言わんばかりに店員は言葉を紡ぐ。
「お連れの方々はお帰りになりましたが、どうなさいますか?」
「ちぃっ、覚えていがれぇ!!」
元通りになったはずの腕をもう片方の手で押さえながらそう言い捨てた男は仲間の後を追って逃げていった。
男の姿が消えてようやく殺伐とした空気から解放された客たちは再び食事を楽しみ始める。
その一部始終を見終わった俺達は先程の会話へと戻る。
「まあ、つまりああいう事だ。」
「……なるほど。」
一瞬で納得する一言だった。
後で改めてゲブ様から聞いた話ではこの酒場はとある多数のファミリアの連合が経営しており、警備や接客に出ている店員は全て連合に所属するファミリアの団員達でその中にはLv.2どころかLv.3やLv.4の上級冒険者が十数人もいるらしい。
店員が全て戦闘要員として戦えるわけでは無いが常に上級冒険者が数人在中しているため、ああいった荒くれ者の対処はほぼ完ぺきでこれまで客に被害が出ておらず、そういった面も含めて一般人に人気の店なのだと俺は改めて知った。
その後、先程の騒ぎの礼として店側から食事の料金を半額にしてもらった俺とゲブ様は家計の負担が少し減ったことを貧乏くさく喜びながら、祝いの食事を楽しむのであった。
ヴァン:下級冒険者
予期せぬ事態を前に自身の魔法に縛りをつけて戦わざるを得なくなった男。
この日、彼は初めて酒を飲んだが全く酔いもせず、その良さもあまり分からなかったため今後祝いの席でもなければ自主的に酒に手を付けることはない。
彼が酒に溺れずに済んだことを内心安堵していた男神がいたという。
ポルル・グイール:第三級冒険者
最近ランクアップし、調子に乗り始めた田舎者出身の男。
今回痛い目に遭っているものの全く反省していない模様。
別段決定事項ではないが、今後もヴァンの周りで出没する可能性あり(
名もなき男性店員:第二級冒険者
現役の冒険者でファミリア連合の中でもトップクラスの実力者。
極東の技を体得しており、モンスターよりも対人戦闘の方が得意。
彼がホールを担当している時に来たポルルさんはまだ運がいい方で、他の第二級冒険者の面々がいるとそもそも腕が使い物にならなくなっていた可能性があった。