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なんで……。なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのだ!
そう心の中でぼやきながらも、迫りくる脅威から逃れるべく俺は必死に足を動かし続ける。
今俺がいるのはダンジョンの中、…ではなくオラリオにあるいたって普通の路地裏である。
後ろを振り返れば俺のことを始末せんと獲物を手に迫りくる怖いお兄さん達の姿が目に映った。
なぜこんなことになってしまったのか。
事のあらましは数分前にさかのぼる。
◆
オラリオに来てから半年が経ち、順調にステイタス上げを進めていた俺は8階層まで行動範囲を広げていた。
7階層に進出してきた時はもはや新階層に入った時の恒例行事と化した現住民達からの熱烈な歓迎を受けたはしたが、必死の抵抗により五体満足で生き残ることができた。
いや、ホント""キラーアント""って怖いっすね。
やけに動きが速い上に読みにくいわ、虫だからなのか攻撃に怯まないわ、そもそも外殻が固すぎるわで6階層にいたウォーシャドウとはまた違う手ごわさですよ、ありゃあ。
それに加えて瀕死時に仲間を引き寄せるフェロモンを出しやがった所為で、あらかた片づけた後で直ぐに階層中から追加のキラーアント御一行がやってくる始末。
あの時は流石に「あ、こりゃ死んだわ」って思いましたわ。
マジな話、魔法がなかったら今頃ダンジョンの床の染みになる所でしたよ。
まさしく""初心者殺し""という名に相応しい強さを持ったモンスターでしたな。
他にもニードルラビッドやパープルモスみたいな単体じゃそこまで脅威にならないモンスターが束になって来るわけで、そりゃもう最初のうちは大変なんてもんじゃありませんよ。
……と、まあこういった感じで内心緊張感があるようでないまま、それから先も苦難な状況が多々あれどこれまで培った力と知恵で無事に乗り越えてきたのである。
今日は週4の休日。いつも通りお気に入りのベストプレイスへ昼寝をしにオラリオの西へと向かって歩いていた。
最近ではベストプレイスに向かうのに様々な道を通って来たからか周辺の地理についてかなり詳しくなり、最短距離で向かう道も既に把握済みである。
そして、今日も今日とてのんびりとした足取りで塀の上やら人一人が通れるくらいの細道を通りながら目的地へと向け足を進めていたのだが、今日は何やら不穏な空気を感じた。
何というか、周囲に人気がなさすぎる。
今の時刻は大体朝と昼の合間、世の中的には働く人が起きてすでに仕事に出ているくらいである。
いつもであればこの時間帯にベストプレイスへと向かう時には少なくとも表に出て来れない御身分の方々や、ファミリア探しやダンジョン探索で失敗し、そのまま落ちぶれたホームレス達の姿や気配があるはずなのだが今日に限って言えばそれが全くない。
ただ単にいつもの場所にいるホームレスがいつの間にか姿を消すことだけならこの半年間で何回も体験したことはあるが、ホームレス以外の人間も含めてここまで多くの人間が消えたことは体験したことがない。
別段、ギルドが年々増加するホームレスの対処をするといった話も聞いたこともないし、そういったうわさも耳に挟んでいない。
明らかにおかしすぎる。
少し考えすぎかとも思いはしたがダンジョンでモンスターの大群に襲われるたびに感じる前触れの様な空気を感じ、俺は今日のところは大通りの方で時間を潰そうと考えなおし、元来た道へと戻ろうとした。
……したのだが、丁度すこし広めの十字路に差し掛かった所で人相の悪い男達に行く手を遮られてしまう。
もう少し早く働いてくださいな、と心の中で自分の危機察知能力の怠慢に文句を言っても後の祭りである。
「おい、兄ちゃん。こんな人気のないところで何してんだ、ああ?」
なんでこの手の人達は威嚇から会話を始めたがるのだろうと場違いな疑問を抱きながらも正直に「昼寝しに来ました」と、話したとしてもどうせ信じてもらえないだろうからなんとなくそれっぽい理由をねつ造して話す。
「ここら辺に昔の知り合いがいるって聞いて様子を見に来たんすけど見つからなくて。そろそろ昼頃だし帰ろっかなと思ってた次第で……。」
自然体でそう話し終えるとチラッと相手の様子をうかがう。
うん。これ、完全に信用されてねぇヤツですね、ハイ。
「ほほ~う、人探しねぇ……。良かったら、俺達も協力してやるぜ。」
悪そうな笑みを浮かべながらそう言う男からは当然のことながら全く善意といったモノは感じられず、取り巻きの男達からも敵意がプンプン漂っていた。
しかも、最悪なことに耳を澄ましていると周囲から何人かの足音が集まってきているのを確認し、状況から考えると近づいて来ているは目の前の男の仲間達であることは明白だった。
恐らくここいらにいたホームレス達がいないのはこいつらによって消されたからなのだろう。
俺もこのままこの男達に捕まってしまったらどうなるか分かったもんじゃない。
男達に捕まるようなことは今まで一度たりともしてきていないが、そんなことは最早関係ない。
早急に逃げねば俺の人生が詰むッ!
「いやいや、見ず知らずの人達にそこまでしていただく必要はないっすよ。御遠慮願いたいんで、取り敢えず道を開けてもらえないっすかねぇ。」
徐々に後ずさりをしながらそう言うが、男達もそれに合わせて足を前に出し距離を保つ。
「まあまあ、そう言いなさんなって。兄ちゃんが遠慮したって俺達は協力してやるからよぉ。」
今まで若干隠れていた男の敵意が膨れ上がった瞬間、俺はわき目も振らずに残された退路である後ろの道へと駆け出す。
今の俺の敏捷の熟練度はウォーシャドウやキラーアントの大群に出くわすたび追い掛け回された結果、Eまで成長し下位のLv.1相手なら余裕で逃げ切れるほどの脚力を有している。
しかし、ここは迷宮都市オラリオ。
ダンジョンに潜るのがメインでなくともステイタスを鍛えるためにダンジョンに潜る鍛冶師や道具屋がいるような都市である。
たとえ裏社会にドップリと浸かっている様な人種ならなおさらステイタスを所持していてもおかしくもなく、俺の後方から追ってくる男達はスタートダッシュで差は付いているもののしっかり俺の後を付いて来ていた。
しかも気のせいでなければ先程よりも追ってくる人数が増えているように思える。
いや、確実に増えてますわ。
俺が逃げ出したことが周囲にいた仲間らしき人間に伝わった所為か、周囲から荒々しく走っているような足音が聞こえ、着々と包囲網が形成されていることを否が応でも俺に知らせる。
一応、男の仲間たちとかち合わないように気を付けて走ってはいるのだが、向こうにも土地勘がある所為で全く撒くことができない。
魔法を使えば一瞬で制圧は出来るが、そうなった場合口封じとしてその場にいる全員を殺すしかないのだが男達のバックにいる大本の組織が報復として俺を突け狙うことは間違いないだろう。
殺さずにいた場合は言わずもがなである。
大人しく捕まったら地獄行き、捕まらずとも神々や裏社会の連中に付き纏われる生き地獄が俺を待っている。
あ、あれぇ~。俺、詰んでね?
今までの人生、事あるごとに俺を追いつめるかのような出来事が起きてきたがよもや社会的に死に瀕することになるとは。
しかも、これまでと違い逃げ場なし。
どない所為っちゅうねん。
徐々に狭まる包囲網。
裏路地中に響く男達の怒号。
己の内側から溢れ出る「もう、諦めようぜ☆」という心の声。
もはやいろいろな意味で逃げるのは限界である。
今回はウォーシャドウさんと初めて戦った時とは違い、勝機が見つからなくとも最後まで逃げ続けたものの十数分の逃走劇を経て俺は最初に男達と遭遇した十字路で完全に囲まれてしまう。
前を見ても、横を見ても、後ろを見てもむさ苦しい男達の顔で溢れ、「これが全部可愛い女の子ならなぁ」と現実逃避してみるもそれはそれで怖いなと思うだけで何の救いにもなかった。
「兄ちゃん。手間かけさせてくれたなぁ、おい。」
「……アンタ達なんでここまでして俺を捕まえようとするんすか?」
特に意味のない時間稼ぎをするために話を振ると、予想に反して最初に俺へと話しかけてきた男が律儀にも説明を始めた。
「どうせテメェは俺達から逃げられりゃしねぇし、逃がすつもりもねぇからな。教えてやるよ。俺達はここいらで表に出せねぇ様なブツを取り扱った商売してんだけどよ、最近取引現場をチクりやがった野郎が出やがった所為で流通ルートの一つがパアになっちまってなぁ。それを知った上の奴らがカンカンになってチクり野郎を探しだすように命令したってわけよ。でも一々そこら辺の奴らを使って探すのも面倒だし、また似たような奴が出たら困るからよぉ。…ここいらの
なるほど、こいつらは以前俺が見かけたヤバそうな物を扱ってた輩の仲間か。
俺はどちらかと言うとアンタらの商売を黙認してた方なんですが……、て言っても今更関係ないんだろうな。
何はともあれここいらをうろつく人間はこいつらにとって
犯人が見つからなくても
そうすることで密告した相手に宿る恐怖が増すからな。
今更知った所でどうしようもない情報を聞いた俺は死んだ目をしながら改めて世の中は何処までも理不尽であると思い知った。
男は話を終えるとそれ以上何も言わずに周りの仲間と共に俺への包囲網を詰めていき始める。
目視で確認できる数は大体三十五、六人前後。かすかに聞こえた物音からして建物の上に数人。
籠の中の鳥とは言い得て妙で、どこへ行っても逃げ場なしである。
幸いなことと言っていいのか、少なくとも上にいる連中以外はLv.1の冒険者のようで、強くても精々7階層までソロで行けそうな戦闘力しかなさそうなのが唯一の救いだ。
こんなことになるのなら逃げてる途中で逃げればよかったと今頃になって反省中である。
最早回避不能な未来に観念した俺は腰に下げていた護身用のナイフに手を付け、魔法の詠唱へと移ろうとする。
まさに一触即発の状況下で俺は男達が武器を構える音と共に遠くから何かが猛烈な勢いで近づいてくる足音を耳にした。
大体二人分の足音なのは辛うじて分かるのだが奇妙なことにどうにも地面を走っているような音ではなく、どこを走っているのか掴みにくい不思議な音だった。
俺以外誰もその存在に気が付いていないようで、特に構う様子もなく男達は俺に殺到し始める。
こちらに近づく人間のことは気になりはしたが目の前の敵を確実に仕留めるために、周囲一帯を巻き込む規模で精神力を込めながら詠唱を続けていた。
そして、男達との彼我の差が2メートルになる瞬間、魔法を発動しようとすると頭上から悲鳴と共に複数の何かが男達と俺との間に落下してくる。
落ちてきたのは俺を上から見張っていた男達の仲間らしく、落ちてきた衝撃の所為なのか、それとも落ちる前からなのかは知らないが全員目を回して気絶していた。
突然仲間が降ってきて驚いたのか男達は急に止まり、数人が俺に警戒したまま他の面々は上へと視線を移動させる。
俺も魔法を発動直前でキープしつつ、頭を動かさずに視線だけで上の様子を確認する。
すると、建物の上には葉を思わせる緑色のフードを深くかぶった人影が一つあり、顔は見えないが微かに見える空色の瞳で見降ろしていた。
「あ、あれはまさか?」
「【疾風】、アストレアファミリアか!?」
男達の誰かがそう言ったのかは分からないが、上から俺達を見下ろしていたその人影は落ちるように急降下し俺の前に降り立ち、手にした木刀で蹂躙を開始した。
木刀を構えた直後残像を残して目の前から消えた彼女は次の瞬間、俺を取り囲む男達の先頭にいた面々を一秒と経たずに木刀の一撃で気絶させていき、その攻撃の渦をどんどん広げていく。
彼女が現れた時点で逃げに転じていた男達もいたが、そのほとんどは圧倒的なステイタスの格差によってかなうことはなかった。
数少ない逃亡者たちも少しして路地裏に悲鳴がこだました後に赤髪の少女によって気絶させられた状態で引きずられてきた。
彼女たちが現れて事態が収束するまで一分もかからなかった。
放たれずに行き場のなくなった魔法はそのまま発動させず、暴発しないように気を付けながら手の中で自然消滅させる。
……この流れ、もしや生き地獄ルート回避なるか?
いや、待てよ。男達が倒れる前に言っていたことが事実なら彼女達は都市の治安に一役買っているあの【アストレア・ファミリア】なのだが、なぜこんなにもタイミングよく現れたのか。
そこが疑問だった。
「おーい、そこのお兄さん怪我無い?」
自分よりも大柄な男達を軽々と片手で持つ少女が溌溂とした表情で俺に近づきながら話しかける。
一先ず自分の中から出てきた疑問を胸のうちにしまうと、俺は男達を倒しても未だに木刀を下ろさない緑フードの女性を横目にしながら返答する。
「怪我はしてませんよ。逃げるので疲れはしましたが。」
「アハハ!案外肝が据わってるねぇ、お兄さん!」
俺の物言いが面白かったのか、少女はおかしそうに笑った。
彼女はそのままの空気で話を続ける。
「私はアリーゼ・ローヴェル。で、そっちのダンマリしてるのがリオン。聞いたことない?【アストレア・ファミリア】って言ったら分かるかな?」
「まあ、名前くらいなら。」
【アストレア・ファミリア】。
団員数は少ないもののファミリアのメンバー全員が第三級及び第二級冒険者で構成されている超少数精鋭の実力派ファミリアである。
ていうか、オラリオにいて【アストレア・ファミリア】の名を知らないやつはいないと思う。
それほどまでに彼女たちのファミリアはオラリオの治安維持に協力しているというわけなのだが。
「まあ、そうだよね。ところでお兄さん、この人達に何かしたの?滅茶苦茶ヤバそうだったけど。」
予想通りの質問が来たため、特に取り乱すこともなく俺はこれまでの経緯を彼女らに話した。
「こ、こんなところまで昼寝しに来るなんて、っくく。君、変わってるね!ックフフ。」
どうやら俺が昼寝をしにここまで来たのが大層面白かったらしく笑い交じりに話す。
イマイチ笑うポイントがズレているような気がしたが、彼女の笑いの沸点が低いだけなのだろうということで落ちつくことにした。
何はともあれ俺はただ巻き込まれただけの休暇中の冒険者だと分かり、完全に警戒は解いていないものの俺の後ろでたたずんでいたリオンさんは無言で木刀を収める。
その後、取り敢えず気絶した男達を縄で縛り上げる手伝いをしながら彼女たちがなぜここまで来たのかについて聞かせてもらった。
まず、彼女達はこの区域にいる薬物の闇取引をしていた集団について知っていたらしい。
なんでも、つい先日一般人からのタレコミをもとに捜査した結果、取引現場を特定し日を見計らって襲撃。
そして、表では善良な商売をしていた商会の裏を暴くことに成功したのだが肝心の商談相手が複数あり、全ての特定ができなかったのだという。
現在はその捜索中で、少しでも情報を得るためダンジョン探索の合間にファミリアのメンバーが交代で各区域の裏路地のパトロールをしていた所、ここいら一帯で浮浪者や一般人が連続して行方不明になっている噂を聞き付け、監視を強化したところ俺が男達に襲われていたのを発見したらしい。
この二人以外にも【アストレア・ファミリア】のメンバーと協力関係のファミリアのメンバーがこの区域におり、その人達もここいら一帯で暴れまわる男達の駆除に助力しているようだ。
ここまで話を聞いて俺が思ったことは「あれ、もしかして俺が今まで追いかけ回されてたのってコイツらの不手際の所為なのでは?」であった。
なんというか、捜査の段階から脳筋臭がプンプンするな【アストレア・ファミリア】。
全員がそうなわけではないのだろうが噂の麗しき美女、美少女達がひしめく正義のファミリアという前評判とは違う気がするのだが……。
うん。これからはただの脳筋正義集団という認識に改めた方が良さそうだ。
「そう言えばお兄さんの名前聞いてなかったね。良かったら教えてくれない?」
「……ヴァン。ただのヴァンです。下に名前はありません。」
一瞬偽名を使おうと考えはしたが後ろから殺気を感じ、普通に答えた。
ちなみにファミリーネームは今まで世話になったようでなってない家族に迷惑を掛けないように旅に出てからは誰にも教えていない。
「へぇ、ちょっと変わってるね。まあ、そんなことどうでもいっか。これからよろしくね、ヴァンさん!」
「は、はあ?よろしく、しますです?」
「アハハ!何で全部疑問系なの!おっかしいの!」
アリーゼさんはまたしても変なツボに入ったらしく、俺の背中を叩きながら笑いだした。
彼女達のお陰で人生を懸けた裏社会のお兄さん達との追い駆けっこは避けられそうなのだが……、何故かは分からないが相変わらず俺の脳内の警戒警報が全力で鳴り響いていた。
うん、この感じ、""危険が来る""じゃなくて""既に危険と遭遇してる""ときの奴だわ。
どうやら自分が予想していたものとは違う形で生き地獄ルートに直行しそうな空気を感じとった俺は、もう男達に追いかけ回された辺りから考えるのもめんどくさくなり、そのまま抵抗せずに流れに沿って動くことにした。
その後、彼女達のホームまで男達の運搬を手伝わされた俺は団長であるアリーゼさんに気に入られた所為か、かの脳筋集団、【アストレア・ファミリア】と関係を持つようになる。
正義のファミリア()と関わりを持ってしまった男、ヴァン。
彼の人生に安らぎが訪れる時は来るのか?
次回を待て!(ここまでが茶番
今更ですがこの作品はA4用紙二枚分くらいの脳内プロットと作者のその時々の気分で展開されていくかなり適当な作品です。
原作キャラとの触れ合いも多少有りますが、過度な期待はしない方がいいでしょう。
感想、くれると嬉しいな……(´・ω・`)