怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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今回はちょっと短めです。




第六話 怠け者、心労を重ねる。

 

 

 冒険者歴、半年と一ヶ月ちょいの駆け出しである俺ことヴァンは某脳き、じゃなくて正義のファミリア()の団長であるアリーゼ・ローヴェルにうっかり気に入られてしまい、彼女を通して他の団員や主神とも付き合いができ、かれこれ一ヶ月くらい経った今、うちの神共々交流を密にしている。

 

 あの日、助けられた俺はまだしも、なぜ彼女らと全く接点のないゲブ様もその交流の輪の中にいるのか。

 実はあの日【アストレア・ファミリア】の二人に危機的状況から助けてもらったことを当日の夕飯時に精神的に疲れていた所為かポロっと言ってしまい、「私の眷属を助けてくれた恩人に一神として礼を尽くさねばならん」といった風に、ゲブ様が張り切ってしまったのだ。

 そして後日、ゲブ様と共にお礼の品を持ってあちらのホームへと向かったところ、あちらの主神であるアストレア様と思いのほか話が合ってしまったおかげでそのまま主神同士が茶飲み友達になったというわけだ。

 

 そして、主神同士が仲がいいとなるとお互いの眷属である俺とあちら側のメンバーとの交流する機会が増えるわけで、彼女らには私生活で色々と世話になるようになった。

 

 

 

 ……いや、ホント、マジで世話になりすぎて、ね……。

 

 

 

 彼女達とはあまり人目も気にせず話をしたりする所為か、うちのファミリアがあのオラリオでも超有名な【アストレア・ファミリア】と交流があると知れ渡るのも割と早く、最近ではすっかりご近所さんでちょっとした有名ファミリアになってしまったのだ。

 さらにお互いの主神の仲が良すぎる所為で俺も何かと彼女らの手伝いに駆り出されるようになり、主神の命令となれば断ることも出来ず、最低限の休暇は確保してくれるものの俺の日常はドンドン忙しないモノになっていき、終いにはその功績を称えられた所為でギルドからの評価も自然と上昇してしまう始末である。

 

 大手のファミリアと交流ができたことで色々と人脈や情報のアドバンテージは取れたものの、俺の平穏な日々は全力疾走で遠のいていった。

 

 そして、今日は待ちに待った週四日の休日。

 知り合いとウッカリ出くわしさえしなければ、俺は何にも縛られない自由の身になるはずだったのだが、

 

「あれ、ヴァン?こんなとこで奇遇だね、今日も昼寝?だったらこの間の場所はやめといた方がいいよ。」

 

「……バカ、な。」

 

 今、目の前に現れた赤髪のポニーテールが似合う可憐な少女こそ、俺にとって命の恩人であり、この一ヶ月間俺の平穏をことあるごとに邪魔してきた件のアリーゼ団長その人である。

 どうやら今日は非番なようで、いつも着ているライトアーマーではなく普段着の可愛らしいワンピースを着用していた。

 

 人物紹介では彼女のことを散々ひどい言い方で紹介はしたが、別に彼女が悪意を持って俺に接しているわけではないのは分かっている。

 ただ彼女は気に入った人間に対してお節介が過ぎるのだ。

 俺が敢えて距離をおいているのにわざわざ周囲の人間との仲を取り持ったり、都市の巡回中に遭遇したら一々声を掛けてきたり、懲りずにベストプレイスで昼寝してたら叩き起こされたり、メンバーと交流を深めるために模擬戦を組んだりなどなど。

 もはや何がそこまで彼女を突き動かすのか分からないくらいなにかと俺に世話を焼いてくるのである。

 

「ん?どうかしたの、いつにも増して暗い顔して。なんか悪いことでもあった?」

 

「いや、そんなことは別に。ただアリーゼさんの顔を見たら今日は厄日だなぁ、と思っただけです。」

 

「アハハ、ヴァンったら相変わらずひどい物言いだね。」

 

 俺からのあんまりな悪態を受けながらも悪意がないことを察してか、普通に笑って返すアリーゼさん。

 この人、一見して能天気そうに見えるけど人を見る目だけはそれこそ神並みだからな。

 

「それで?ヴァンは結局今日何か用事でもあるの?格好からしてダンジョンでもなさそうだし。」

 

 今の俺の服装は麻のシャツにダボダボのボロい紺色のズボンで端から見ても完全に休日スタイルである。

 ちなみにダンジョン行きのスタイルだと全身が真っ黒の装備になり、あからさまに悪目立ちするので普段使いはしていない。

 取り敢えず別段隠す様な事柄でもないので素直にこれからの予定を話した。

 

「契約してる鍛冶師の所にちょっと用がありまして。」

 

「へぇ、ヴァンにもそういうのいるんだ。意外だなぁ。」

 

「失敬な人ですね。」

 

 丁度ダンジョンに潜り初めてから一ヶ月経ったとき、つまりはウォーシャドウさんと熱烈な思い出を築いたあの""うたた寝の黒霧""があってからすぐに諸事情で装備の更新をした俺なのだが、何分貧乏なファミリアであるため武器防具関係でオーダーメイドを頼むにしろ安く引き受けてくれる人間が必要になった。

 そこでギルドのアドバイザーさんに相談したところバベルにいる【ヘファイストス・ファミリア】の下級鍛冶師達を頼ってみてはどうかと助言をいただいたのだ。

 

 【ヘファイストス・ファミリア】とは武器防具の作成を専門にしたファミリアで腕利きの職人を数多く有しており、その職人達の手によって鍛えられた武具は非常に性能がよく、値段もべらぼうに高いということでかなり有名である。

 しかし、そんな大手のファミリアでも入ってきたばかりの新人は当然のことながら経験が不足しており、よっぽどの腕がない限り【ヘファイストス・ファミリア】の名を聞き付けてやって来た上客相手に紹介することはまず不可能である。

 

 そのため、【ヘファイストス・ファミリア】では入団してからある程度の修練過程を経た新入団員達に一定のスペースを貸し与え、己が鍛えた武具を実際に使用する冒険者達に直接売り込ませ、自力で自分だけの顧客を作らせるようにしているらしい。

 主神であるヘファイストス様の教育方針が実戦の中で己の腕を磨かせるというもので、要約すると「高みに行きたければ自力で這い上がれ」ということだ。

 オラリオにいる冒険者の半数以上がLv.1である関係上、実際に使用する人間はあまり高価な武具を求めていないこともあり、そこまで資金力がなくとも手ごろな所で自分が求める武具を探せる下級鍛冶師の作品が出品された場は割と需要があるためファミリアの採算は取れているのだとか。

 

 場所の概要を聞いた俺は早速紹介された場所へ向かってみたところ、偶然にもその日のうちに利害が一致した鍛冶師と出会うことができ、そのままお試しで専属契約を結び半年以上関係が続いて今に至ったというわけだ。

 今日は前にその専属の鍛冶師に渡したドロップアイテムを使った新装備のお披露目を予定していたため、ダメだしするにもそのまま採用するにも取り敢えず直接俺が顔を出さないと始まらないので、面倒ではあるが貴重な休暇の時間を割いてこうして向かっているのである。

 

「ヴァンってめんどくさがりなのに良く分かんないとこで几帳面だよね。装備の手入れだってちゃんとしてるし。」

 

「そりゃあ、仮にも自分の命を預ける武器に関しちゃ任せられる人もいないし、自分でメンテしないと安心できませんよ。」

 

「そういうのが几帳面だって言ってるのよ。」

 

「そうなんですかねぇ……。」

 

 まあ、確かに自分でも考えてることとやってることが矛盾している気はするが、村の猟師のおっちゃんに狩りの極意を叩き込まれてからは装備の点検がもはや習慣と化しているためむしろ一日おきにやらないと気が済まないのだ。

 おっちゃん、今頃どうしてるかな。

 そもそも生きてるかすら怪しいなぁ。

 

「ねえねえ、私もついて行っていい?」

 

「……一応、聞きますが他のファミリアの男と二人っきりで出歩くことにファミリアの団長として何か思う所はないんですか。」

 

 ぶっちゃけ今の状況、周りに誤解してくださいと言っている様なもので、ファミリア同士で仲がいいとはいえファミリアの顔である団長が率先してこんなことをしていて大丈夫なのか若干心配に思ったのだ。

 ……まあ、本音はただ単にこの人に付き纏われたくないだけなのだが。

 

「じゃあ、逆に聞くけどヴァンは私のことをそういう目で見てるの?」

 

 人によっては答えにくいであろう質問に俺は全く考えることなくいつも通りの態度で答える。

 

「確かにアリーゼさんは魅力的な女性とは思いますけど、異性としては別にどうでもいいかなぁ、と。」

 

「ええ、どうでもいいって。私どう反応すればいいの?……。」

 

「それを俺に聞きます?」

 

 どうやら予想外の反応だったらしく、若干反応に困っていた。

 別に異性に興味がないわけでは無いのだが、実家にいた弟が滅茶苦茶モテていた所為で客観的に見るとああいうのも大変なんだなと感じるようになり、率先してそういった関係を築きたいとは思わなくなってしまったのだ。

 だから、アリーゼさんに限ったことではなく俺は特に女性に対してある程度関心自体はあるのだが、一線を越えた後のことを考えると面倒なため、今のところ誰かと交際しようという気はさらさらないだけなのである。

 

「まあ、ヴァンのそういう所が気に入ったんだよね、私。君、他の男と比べてそういったことに対する興味が薄いから変なことで関係が壊れない安心感があるんだよ。」

 

「否定はしませんけど、アリーゼさんの言い分も対外酷いと思いますよ。」

 

「アハハ、確かにね。」

 

 お互い様だね、と言わんばかりに笑いかけてくるアリーゼさん。

 ここまでの会話で彼女と俺が二人っきりで出歩くことへの問題解決に結びつく要素は0である。

 

「で、最初の質問の答えはどうなんですか?」

 

「それはさっきの私達のやり取りが答えだよ。別にお互いそんな気もないのに気にするだけ無駄。周りは何かしら思うだろうけど一々そんなの気にしてたら前に進めないでしょ?だから、私は踏み込んでいくの。もちろん、相手が本気で嫌がったらやめるけどね。」

 

 凛とした表情でそう語るアリーゼさんを見て、彼女の人となりを改めて知ったと同時に「俺の意思はどうなのよ」と心の中でツッコミを入れる。

 まあ、防具や武器に関してベテラン冒険者の意見が聞けると助かるので、彼女の同行を許可することにした。

 

 道行く人に愛想笑いを振りまくアリーゼさんの横を歩く俺なのだが周りからの視線が非常に痛く、時折彼女とは無関係であると言わんばかりに隙を見て歩みを速めたりするのだが、流石第二級冒険者と言うべきなのかよそ見をしていても全く距離が離れることなく付いて来ていた。

 もはや周りから変な勘ぐりを入れられることについては諦めた俺は途中から気になってたことを隣を歩く美少女に質問する。

 

「そう言えば、リオンさんは今日一緒じゃないんですか。」

 

「ん?今日、リオンはホームでお留守番だけど……。ああ、そっか。そう言えばいつもヴァンが来るときはリオンがそばにいたし、勘違いしててもおかしくないか。別に私とリオンはいつも一緒ってわけじゃないんだよ。」

 

 一瞬、怪訝な表情を向けられたがすぐに納得し、アリーゼさんは笑顔を顔に浮かべながら話を続けた。

 

「確かにウチのファミリアの中だと私が一番リオンと仲がいいと思うけど、他のメンバーともちゃんとやってるんだよ。最初はギクシャクしてたけど、みんな根はいい子達だからね。わだかまりは時間が解決してくれたんだ。」

 

 仲間との過去を懐かしそうに語るアリーゼさん。

 ふと、彼女は俺の方へと視線を移し、話題を振ってくる。

 

「そうそう、仲間といえばヴァンのとこは勧誘してないの?」

 

「ええ、今のところ積極的にはやってないですね。今のホームだと現実的に見て団員を増やすのは厳しいし。」

 

 すでに二人の男が生活するだけで手狭になったホームではこれ以上団員を増やすにしても女性は絶対に無理だし、男であっても諸事情で人を選ぶことはまず間違いないだろう。

 ……あと、今新しい団員が入られると俺の立場が危うくなる可能性があるので、現状維持が個人的にベストな状況である。

 

「まあ、聞いた通りの物件なら確かに勧誘するのは難しそうだよね……。あ、そうだ!うちの伝手でいい物件紹介してあげようかーーー」

 

「いえ丁重に断らせていただきます。」

 

「な、なんでそんなに食い気味なの。」

 

 ハッ、いかん。

 ヤバそうな流れになりそうだったから、つい圧を掛けてしまった。

 俺の態度が急激に変化したことに疑念を抱いたのか、ただ単に引いただけなのかは分からないが何やら微妙な表情でこちらを見つめてくるアリーゼさんをうまくごまかすためにいつも通りの口調でそれっぽい理由を述べた。

 

「ホームの引っ越しはもう少し貯蓄が溜まってからと前々からゲブ様と相談していますし今のところ俺一人で何とかダンジョン探索はどうにかなってますから下手に団員は増やさなくてもいいという結論になっているんですよ、今は。」

 

「……こんなに早口でヴァンがしゃべるなんて、怪しぃ。」

 

 どうやら誤魔化しは失敗したらしい。

 これ以上俺のことをジト目で見つめてくる彼女の疑念が深まる前に速く何とかせなあかん。

 

「あー、バベルがもう目の前にー。ここまで来たらサッサと用事を済ませちゃいましょー。」

 

「何故ここで棒読み!?ちょ、なんでいきなり走り出したの?。怪しすぎるよぉ~~。」

 

 自分の想像よりも俺は追いつめられていたらしく、明らかに怪しい言動を連発してやらかしてしまう。

 最早よからぬことを考えていたのがアリーゼさんに筒抜けではあるが、そんなこととは関係なく俺はノリと勢いのままにバベルへと駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 






登場人物に話をさせるのムズイ。




次回、専属鍛冶師()、登場。



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