怠け者の迷宮ライフ   作:水上竜華

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今回の話では武器の話がありますが作者は武器に関しては全くの無知ですので、色々と誤ったことを書いているかもしれません。
何か意見がありましたら指摘していただけると幸いです。




第七話 怠け者、翻訳に努める

 

 

 

 数分後、俺達は魔石によって動く昇降機を乗り継いでバベルの上の階へと向かっていき、気まずい空気になりながらも目的地へと到着する。

 バベルに入ってからは何も言わず、ずっとジト目でこちらを見続けていたアリーゼさんだったが昇降機を降りると様々な武具が並ぶ通路へと視線を移していた。

 

「……ここに来るのも久し振りだなぁ~。」

 

 彼女も通って来た道なのか、フロアに入ると感慨深そうな雰囲気を出していた。

 まあ、オラリオの冒険者にとって鍛冶師とつながりを持つことは下の階層に行けば行くほど生き残るために必要なことでもあるため、むしろ持っていない方が珍しいだろう。

 そのまま俺達は多くの武器が陳列する通路を眺めながら進んでいき、フルプレートがある店に入ると俺は受付をしているお兄さんに人を呼ぶように頼んだ。

 

「いらっしゃいませ、何か御用でしょうか。」

 

「すみません。ジュリ・ブラナイドを呼んでもらえませんか。」

 

「え"ぇッ。」

 

 相手の名前を言った瞬間、お兄さんはあからさまに嫌そうな顔をしていたが仕事であると割り切ったのか、「少々お待ちください」と言い残いしてカウンターを離れる。

 受付さんがその場を離れてからしばらくすると、カウンターの裏にある天幕から受付さんと共に一人の男が姿を現した。

 口元が隠れるようにして立てられた丈の長い黒のコートに、背中の真ん中あたりまで届く灰色の長髪を三つ編みで一束に結った無駄に顔の造詣がいいこの男こそが俺の待ち人であるジュリ・ブラナイドである。

 ジュリは依頼した装備が入っていると思われる木箱を受付の台に置くと急に左手を腰にあて、右手で顔を覆い隠すとそのポージングのまま話を始めた。

 

「クックック。ようやく来たか我が契約者、ヴァァンよ。よもや貴様の記憶から我との盟約が消え去ったのではないかと我が魂を震わせていたぞ。」

 

「……ああ、遅れてすまん。ちょっと用事があってな。」

 

「なぁに、我は寛大ゆえそんな些末なことなど当に気にしておらぬわ。」

 

 現れた男は大仰な言い振る舞いとポージングを交えて話し、俺の隣にいるアリーゼさんはそんな彼を見てポカンとしていた。

 彼女がこうなるのも仕方がないだろう。

 ジュリ・ブラナイドを最初に見た人間は大体似たような反応をする。

 ちなみに俺がコイツに抱いた第一印象は「めんどくさそうな奴」である。

 

「あの、もしかしてこの人が……。」

 

「はい、コイツが俺の専属鍛冶師、ジュリ・ブラナイドです。」

 

「おい、ヴァァンよ。その情熱の炎を纏いし乙女はいっったい何者だぁ。」

 

 俺がアリーゼさんにジュリの紹介をすると、ジュリは相変わらずな口調と言語でアリーゼさんについて聞いてきた。

 

「ああ、この人は【アストレア・ファミリア】の団長をしているアリーゼ・ローヴェルさんだ。上級冒険者の意見が聞きたくて連れてきたんだが構わないか?」

 

「フ、我は一向に構わんぞぉ。クックック……。ついに我が眷属達が天上に近づきし者どもの目に付くことになろうとはなぁ……。」

 

「えーっと?」

 

 アリーゼさんは

 どうやら後半部分が良く分からなかったのだろう。

 安心しろ。俺も時々わからん。

 

「……つまり、彼は『オラリオでも有数の上級冒険者であるアリーゼさんに自分の作品を見てもらえるなんて感謝感激で言葉もでない』と言っています。」

 

「あ、そういうこと。」

 

 良く分からん言語を繰り出した当の本人は目を閉じて口元に笑み浮かべながら首を二回、縦に振り肯定の意を示す。

 いい加減普通に話せ、と思うのだがこの男、いかんせん極度の恥ずかしがりやなためこの口調でないとまともな会話すらできず、余計に時間がかかるので特に矯正はしていない。

 

 まあ、何はともあれジュリと合流した俺達はフロア内にある広場へと移動し、肝心の品を拝見することに。

 ジュリには俺がダンジョンにて運よく短期間で大量にドロップしたウォーシャドウの爪とキラーアントの甲殻を使った新しい武器と防具の試作を頼んでいて、どちらも今日までにしっかりと完成させてきていた。

 

 まず、防具はキラーアントの甲殻とを共に使って炉で鍛えたライトアーマーで、真っ黒なプロテクターが間接部分と胸部に付けられている。

 シンプルながら上層のモンスター相手であれば最低でも一撃は凌げるくらいの強度を持った一品である。

 村にいた時から使っていた皮鎧は既にボロボロになっていて、ジュリと契約してからはこいつが製作したモノを使用している。

 こいつが俺のために作る防具なのだが性能だけは一級品とまではいかないが優秀なためいつも大きな変更点は無いのだが、金属の種類やデザインの変更などを度々行っている。

 

 これと言って売りに出す要素はないが、敢えて言うなら職人の丁寧な仕事のお陰でほとんどプロテクターの所為で俺の動きが鈍るようなことがないといった所だろうか。

 あと、分かりやすい特徴は布も含めて全体的に真っ黒であることだ。

 

 次に武器なのだが、これは三種類用意してもらった。

 今回の俺がジュリの元に来た主題が実はこれで、これから10階層以降のモンスターにはオークを筆頭とする大型の個体が出てくるようになるため、ナイフ以外で間合いの広い武器が必要になるのだが実際に使うとなるとどんなものがいいか分からなかった。

 そこで取り敢えず持ち込み以外の材料の費用は半々で持つとして有力そうな武器を一つずつ試してみようということになったのだ。

 

 基本的に俺は高機動での戦闘を主観にしており、その持ち味を殺すような重そうな装備は遠慮したいとオーダーしたところレイピアと、ブロードソード、バスタードソードの三種が作られてきた。

 これらの素材にはウォーシャドウの爪がふんだんに使われており、レイピアなどはその薄さから強度に若干の心配はあるものの切れ味は元の素材の特性を継いでかなりよい。

 ビジュアルは真っ黒である。

 

 レイピアは突きを主体とした軽量特化、バスタードソードは重量は増すものの突きや斬撃、殴打など取りうる手段が多い万能性特化、ブロードソードはこの2つの中間といった感じのコンセプトで製作してもらった。

 取り敢えず、一通りその場で周りに迷惑が掛からない程度に試し振りをしたところ品質はどれもよく、使い勝手も悪くなさそうなのだが今一しっくりと来るものは見つからなかった。

 アリーゼさんの見立てでもどの武器も初心者が振っているとは思えないほど動きに違和感がなく、助言することがないくらいとのことである。

 ふむ、無駄に器用な自分が憎い。

 

「で、アリーゼさん。冒険者の先輩的にはお奨めとかありますかね?」

 

「ここで私に振るのね。」

 

「はい。そのために連れてきたわけですし。」

 

 というか、自分で考えるのがめんどいし。

 まあ、実物の大型モンスターを知っている人間の意見を聞きたいというのは本当である。

 鍛冶師のジュリも一応ステータスを伸ばすためダンジョンに潜ってるが一年かけて未だに到達階層は9階層までらしく、大型モンスターが最初に出てくる10階層には足を踏み入れていないのだ。

 ちなみにソロではなく同じファミリアの同期と潜った時の記録である。

 

「そうねぇ……。こう言ったらなんだけどこればっかりは個人に合うモノを選べばいいとしか言いようがないのよね。」

 

「そこを何とかしてください。じゃないとわざわざアリーゼさんを連れてきた意味がないじゃないですか。」

 

「んー、そう言われても武器自体に大きな性能差もないし、ヴァンの腕前的にどれを扱っても戦えると思うからダンジョンで試しに全部使ってみたらとしか言えないわね。」

 

「ま、やっぱ、そうなりますよね。」

 

 こうなってくると面倒だがやはり数日かけて5、6階層辺りでモンスター相手に一通り武器の試し振りをしてメインの武装を決めるしかないだろう。

 他の2つは常用じゃなくても問題なく使えたらスペアとして手元に残せばいいわけだし。

 

「……クックック。貴様ら、戯れを終えたなら我が眷属達に慈悲無き裁定を下すがよい。無論、我もそれ相応の報復をくれてやるがなぁ。」

 

「えーと、……ヴァン?」

 

「……『話が終わったのなら作品に忌憚のない評価をお願いします。次に会う時までに改善しますから』と、言っています。」

 

 翻訳し終えてから念のためジュリに確認がてら視線を移すとものすごい勢いで首を縦に振っていた。

 ……コイツ、本ッ当にめんどくせえなぁ。

 

「……ヴァン、良く分かるわね。」

 

「まあ、慣れですよ、慣れ。」

 

 俺が何でもないようにそう言うとアリーゼさんは何故か哀れなモノを見たかのような視線を向けてきたが、目をつむり一つため息を吐いてから改めてジュリの作品へと視線を落とす。

 一本、一本。手に取りながら丁寧に見られていることに緊張しているのか、ジュリの足は小刻みに震えていた。

 ジュリは普段の言動からは想像できないが内面はとても繊細な男であるため、上級冒険者に自分の作品を見られてどんなことを言われるのか内心かなりビビっているのだ。

 全ての武具を見終えたアリーゼさんはレイピアを鞘に戻すと、講評を始めた。

 

「……うん、どれも飛びぬけてすごい作品ってわけじゃないけどジュリさんが一生懸命になって鍛えた上げてきたのは良く分かるよ。ライトアーマーは装飾にこだわってるけどちゃんと実用性も考えられてるし、それぞれの剣の特徴を潰さないようにできてるし、使い手が使いやすいように握りにも手を加えてるでしょ?そういう武器や使い手を気遣う配慮とかも感じられるいい作品だよ。少なくとも私が今のヴァンと同じくらいのステイタスの時に使ってた装備と同等以上の性能だと思う。」

 

 うん、無難な評価だな。

 ジュリの作品は良くも悪くも一般の常識から突き抜けない普通の武具だ。

 費用の関係上、高級な素材を使った装備は売りに出してないが今のままでも上層では十分に成果を出せる性能ではあるため、ジュリが手がけた装備は下級冒険者の間では評判はいいらしく店で出品している作品は売れ筋が良いと前に本人から聞いたことがある。

 

 ただ製作者自身の癖が強すぎた所為で専属契約を結んだ冒険者は俺以外いないとも言っていた。

 同じ理由でファミリア内でも交友関係が広くなく、俺と出会うまでは真っ当に話し合える人間はほとんどいなかったようだ。

 そのため自分の作品に評価を付けてくれる人間は非常に少なく、上級冒険者の意見なんてあるはずがなかった。

 そして今、これまで求めていた他者からの評価を得たジュリの反応は、

 

 

 

 口元を手で隠しながらポージングを決めていた。

 

 

 

 うん。あれ、絶対笑ってるわ。

 メッチャ喜んでるな、コイツ。

 ジュリはそのままの体勢を維持しながら評価に対し賛辞を述べる。

 

「フ、神に近づきし戦乙女の一人にそう給われるとは、我が眷属共々天に召されるかと思うたわ。」

 

「……『アリーゼさん、あざーっす』って言ってます。」

 

「おい、ヴァァンよ!?貴様、我が真言を捻じ曲げるでないわ!」

 

 いや、だってもうダルいし。

 少しはコイツに自信を持たせればちゃんと話せるようになる第一歩になるかもとチョイとばかし思ってアリーゼさんを連れてきたが、予想以上に翻訳がめんどくさかった。 

 まあ、これを機にコイツとの会話が楽になれば儲け物と考えればいいか。

 

「アハハ!君達、本当に仲がいいんだね。」

 

「フ、我とヴァァンは古より定められた運命にてーー。」

 

「まあ、知り合い以上の関係であることは認めますが。」

 

「ヴァァンよ!?我の言葉を遮るでないわ!」

 

「アハハ、面白いの!」

 

 もはや翻訳する手間すら増やさないために台詞を被せた俺と、それに激昂するジュリを見てアリーゼさんは笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 あれからすぐに装備を受け取り、ジュリと別れた俺達はバベルを出て再び街中を歩いていた。

 

「中々面白い子だったね、君の専属鍛冶師くんは。」

 

「そんなこと言うのアリーゼさんくらいですよ。」

 

「えぇー、そうかなぁ?」

 

「そうですよ。」

 

 鍛冶の腕はいいし、外見も悪くなくはないのだがあの性格で全てを台無しにしている本当に残念な男なのだ、アイツは。

 縁がなかったら絶対に関わってないタイプであることは間違いない。

 

「そういえば、本人の前だと聞けなかったけどどうして彼と専属契約を結んだの?確かに彼、腕は良いけどヴァンが一番面倒だと感じるタイプでしょ?」

 

 相変わらず鋭いなこの人。

 流石は【アストレア・ファミリア】団長と言ったところか。

 まあ、ジュリに口止めされてるわけでもないし、というかむしろ宣伝して欲しいとまで言われてるし話してしまおう。

 俺とあいつの馴れ初めを。

 

「……単純に利害が一致したからですよ。」

 

「利害、て。何の?」

 

「アリーゼさんは俺がダンジョンに行くときの装備、知ってますよね。」

 

「ええ、そりゃああんなに真っ黒な格好そうそう忘れられないわよ。」

 

 以前、ダンジョン帰りにたまたま都市を巡回中のアリーゼさん達と遭遇したときに見られたのだ。

 普段と装いが違う所為で一瞬判別されずにいたが、隠していない顔を見られて普通にばれた。

 ちなみにアリーゼさんには魔法のことについては教えていないし、最初に出会って以降見せてもいない。

 バレたら後々めんどくさいし、このまま自分の情報を伏せながら俺は話を続ける。

 

「あれ、俺のスキルの関係上必要だから真っ黒なんですよ。」

 

「へぇ、そうなんだ。まあ、なんとなくそういった事情なんだろうとは思ってたけど。ヴァンが悪目立ちしそうな装備着けてるの違和感あったし。」

 

 「そういう年頃なのかな、とも思ってたけどね」と、笑いながら余計な一言を添えてきた。

 あの色付けは俺の趣味ではない。

 

「まあ、なんにせよ俺は黒い装備が欲しかったわけで、金銭的に手を出せる範囲で探した結果、アイツの作品を見つけたんですよ。」

 

「確かに彼の作った武器、全部真っ黒だったもんね。」

 

 そう、奴が作る武具は異様なまでに黒い。

 しかも、材料を聞くと「なぜその色になった」と、言ってしまうくらい不自然なまでに黒いのだ。

 

「あの色付け、アイツのスキルで付けてるんですよ。」

 

「え、そうなの!?でも、魔法が掛けられた武器って高いんじゃ……。」

 

「本人曰く、色付けすることしかできない魔法だし、武器の性能も全く上がらないから手間賃はほとんど付けてないそうです。」

 

 普通、属性を付与する魔法が掛けられた装備はそりゃあもうべらぼうに高い。

 一通り装備一式を魔法が掛けられた武具で統一したら、二階建ての立派な一軒家を数件余裕で買えるくらいにはべらぼうに高い。

 しかし、ジュリは鍛冶師の矜持なのか、色付けは一律で千ヴァリスで通しているのだ。

 

 どんな素材を使っても真っ黒な装備に仕上げられるジュリの能力は俺が求めていたもので、制作者に多少問題があっても目をつぶれるくらいの魅力があったため専属契約を結んだのだ。

 

「なるほどね。大体事情は分かったけど、彼の能力って意外と需要があるんじゃないかな?冒険者って目立つために装備にペイント入れてる人とかもいるし。」

 

「…まあ、そう思いますよね。」

 

 確かに冒険者は往々にして目立ちたがりなところがあり、自分を周囲に印象づけさせるために装備や自分の体にペイントを付けていることがままある。

 ジュリの魔法は一度掛ければ半永久的に装備に宿り、ペイントの様に返り血や汚れを落とすときに滲まないという所を見るとかなり都合が良いと思うだろう。

 しかし、奴の能力は顧客の要望を幅広く叶えるには少々問題があった。

 

「アイツ、黒か元の色にしか染められないんですよ。」

 

「…ああ、それじゃキツいかもね。」

 

 付け加えると割りと大雑把なカラーリングしか出来ないため、デザイン通りにと頼まれてもそもそも出来ないのだ。

 

「全身が黒だと人を選びますからね。俺としては好都合だったわけですが。」

 

「そっかぁ。じゃあ二人は出会うべくして出会ったってことだね。」

 

「…そうともいいます。」

 

 不本意ながら肯定する。

 他の鍛冶師でも問題ないとも言えるがなんだかんだで現状が一番良いと俺は思う。

 

「そんじゃ、俺は装備をホームまで持って帰らないとなんで、ここでお暇します。」

 

「うん、分かった。今日は私のワガママに付き合ってくれてありがと。じゃあ、またね。」

 

「はい、また今度。」

 

 こうして俺はアリーゼさんと別れ、ホームへの帰路についたのであった。

 

 

 

 

 







鍛冶師(熊本弁)です、はい。

一応ジュリさんの魔法の概要を載せときます

【オルタナティブ・ダーク】
・付与魔法
・自身が手掛けた武具にのみ付与が可能
・詠唱【闇より深き混沌よ。我が眷属に漆黒の輝きを灯せ】
・解除詠唱【漆黒よ。闇へと返り、在るべき姿を顕せ】

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