「問います。あなたが私のマスターですか?」
袖のない着物に誠の文字が書かれただんだら羽織を羽織ったその女の子の足元には、真っ二つになった弾丸が転がっていた。
「君は……」
「私はセイバー。自己紹介は後にしましょう。まずは目の前の男を何とかしなければ」
セイバーは鋭い目で嗣堂を睨みつけた。対する嗣堂は不愉快そうに再び銃を構えなおしながら、足元にいる女の子の長い髪を掴んで引きずり上げる。
「お前はセイバーか。となるとこいつのサーヴァントはアサシンだな。真名は予想がついた。土佐弁を喋り、刀を操るアサシンなど、一人しかいない」
女の子は辛うじて意識があるようだったが、その瞳は朦朧として視線が合わない。早く。早く助けなければ。
「セイバー、お願いがある」
あの子は言っていた。”この状況を打破できる力”。それがセイバーと名乗るこの子の事ならば金髪の男や着物の男のような力を持っていると考えていいだろう。
ちらり、と足元の弾丸に目を配る。弾丸があたかもナッツか何かのようにきれいに二つに割れている。嗣堂は間違いなく僕に向かって発砲した。だとするならば。……現実ではありえないことが次々起きて、頭がショートしそうだ。それでも、今はこの可能性にかけるしかない。
「あの捕まっている女の子を、助けてくれ」
左手の痣が一瞬輝いた。その輝きに目を奪われ慌てて前を振り向いた時には、セイバーはすでに嗣堂の目前へと間合いを詰めていた。やっぱりこんなこと、人間に出来るわけがない。
次の瞬きの後には新たな血しぶきが見えていた。銃を構えていた嗣堂の右腕が血しぶきのなか宙を舞い、やがてぼとりと地に落ちる。と同時に女の子の髪を掴んでいた左手は離れ、彼女が倒れ込みそうになったところをセイバーの細い腕がしっかりと抱えた。
「令呪を以って命じる!俺の身を守れ、ランサー!」
嗣堂は女の子のことは諦めたのか左手でもうその先を失ってしまった右の二の腕をかばいながら叫んだ。よく見ると僕の痣によく似た痣が嗣堂の左手の甲にも刻まれている。嗣堂の痣は先ほどの僕の痣と同様に一瞬光り、一部が消えた。
「マスター、彼女を連れて離れてください。ランサーが来ます」
いつの間にか僕の元へ戻っていたセイバーが血塗れの女の子を僕へ差し出す。僕は頷いて彼女を抱えた。軽い。こんな華奢な体で、銃を持つ嗣堂と相手取ったのか。
離れる間もなく金属音が聞こえた。金髪の男の槍とセイバーの刀がかち合った音だ。金髪の男は確かに屋内にいたはずなのに。瞬間移動のようだ。
「ランサー!立木はセイバーを召喚した!もう奴を生かしておく理由はない、殺せ!」
ランサーと呼ばれた金髪の男のは驚いたように嗣堂の方を振り返った。
「待ちたまえマスター!立木由基人には手を出さない話だったではないか!」
「それはそいつが召喚をする前の話だ。しかもエルクトルの用意した聖遺物で召喚したサーヴァントなど底が知れん。殺すのが最適策だ」
ランサーは苦虫を嚙み潰したような顔でセイバーと再び向かいあう。そんな中、セイバーはランサーに切りかかりながらも声をかけた。
「ランサー、貴方は私のマスターを殺したくないようですね。なぜですか」
「……っ、騎士として無用な殺生は避けるべきだと考えているだけだ」
「本当に、それだけですか?」
セイバーの問いかけにますますランサーは苦しそうな顔をした。なんだ?当然僕はランサーも嗣堂も知らない。しかしランサーは僕のことを気にかけているようだ。そもそも最初からランサーからは殺意は感じられなかった。否応なしに戦っているような、そんな気さえした。
だが僕の考えを遮るように、真後ろから男の声が聞こえた。
「おーおー、こりゃ手酷くやられたのう。マスター」
心臓が跳び跳ねた。何も気配を感じられなかった。室内に居たときと同じように、着物の男は突然現れたのだった。驚いて固まっている僕を無視して、着物の男は僕に抱えられている血塗れの女の子に話しかけ続ける。
「じゃが安心せい。死ぬほど痛かろうが、死ぬ怪我じゃないきに。それよりちくっと面倒なことになったぜよ」
「面倒なこと……?」
答えられる状況にない彼女の代わりに、思わず僕が聞き返してしまった。着物の男は「まぁ、おまんとも関係ある話じゃが」と億劫そうに僕に目を向けた。
「おまんの妹が消えた。あいつらの方が一枚上手じゃった」
「は?」
一瞬頭の中がフリーズするのを感じた。確かに今ランサーの傍に沙耶はいない。そうだ。じゃあいったい、沙耶はどこに。
支えていた女の子の体がピクリと動くのを感じた。血の気は文字通り失せて、冷たくなった彼女の手が僕の肩から離れようとしている。視線を向けると、長い髪の隙間から殺気と怒気を帯びた瞳が垣間見えた。意識を取り戻したようだが、どうやら僕から離れようとしているらしい。
「無茶だ。そんな体で!」
慌てて抱えなおす。彼女はおとなしく僕に体重を預けたまま強い意志が感じられる瞳で着物の男をにらみつけた。
「セイバー……、いえ、アサシン。……みすみす、彼女を、逃したと……いうのですか……」
血が乾き始めた口の周りから、ぽろぽろと赤いかけらを地面にこぼしながら彼女は男に尋ねた。”アサシン”。どうやらそれがこの着物の男の肩書らしい。
「逃すも何もおまんらは勘違いしちょる。そもそもこの建物のなかに、立木沙耶っちゅう人間はおらんかった」
「!?」
いったいどういうことだ。沙耶が……初めから施設の中にいない……?
「でも僕は確かに捕まった沙耶を見て……!」
「そいつは魔術による幻覚か何かじゃ。なめ腐ったマネをしちょるき。まっこと腹立たしいのぅ。のう、マスター?」
アサシンはにやにやと下卑た笑いで女の子を覗き込んだ。彼女は少し考え込んだ後、僕に目を配り、未だ見事な剣舞をし合うセイバーとランサー、そして嗣堂を見つめた。
嗣堂の右腕からはぼたぼたと血がしたたり落ちている。左手でかばっているものの、その指の隙間からぬるりとした液体がお構いなしに地面へ赤い水たまりを作りつつあった。
彼女はそんな嗣堂が作り出している水たまりと、物のように転がっている右腕を見つめていた。
瞬きもせず。
ただ見つめ、言った。
「アサシン、宝具を以て、嗣堂を殺しなさい」
「おん」
まるで何事もない、ただ頼まれごとを受け取ったかのようにアサシンは軽く答えると再び姿を消した。
そして次の瞬間にはあの赤い水たまりを踏みしめて嗣堂の前に立っていた。
異変を察知したランサーが金の髪を振り乱し、嗣堂のもとへ駆け出す。しかしアサシンはおかまいなしに嗣堂へ、こともあろうに丁寧に"あいさつ"をした。
「お初にお目にかかりますぅ。……じゃあ、死ね」
アサシンが鞘から引き抜いた刀の刃紋が日の光に反射して瞬いた。と、同時にランサーの悲痛な叫び声があたりに響きわたる。
「マスター!!」
嗣堂の体を銀色の刀が貫く。アサシンの口角はにやりとあがっていた。だがすぐさまその顔が青ざめたのが、ここからでも分かった。
「なんじゃ!?はなさんか!!!」
自分の体を貫いている刀を、嗣堂は左手でがっしりと抑え込んでいたのだ。そのまま地獄の底から響くような低い声でアサシンの真後ろに居る自らの配下に命じる。
「やれ、ランサー。首を狙え」
ランサーはその命を忠実に実行した。
アサシンの首元を目掛け槍が迫る。しかしセイバーが背中を見せたランサーを追撃したことによって軌道がずれ、首元はかすれただけに収まった。
「ちぃっ!」
大きな舌打ちとともにようやく刀は嗣堂の体から引き抜かれた。ランサーはセイバーの猛攻を躱しながら嗣堂に駆け寄る。
「マスター、君が何と言おうとここは撤退する。騎士団長を務めた私の判断だ。従ってくれたまえ」
「騎士と名乗ったくせに逃げる気ですか。笑わせますね」
セイバーがランサーに挑発をする。しかしランサーは一瞥をくれただけで動じない。
「追ってこないでくれたまえ。さもなくば……君のマスターの妹君はどうなってもかまわない、という宣言ととらせてもらう」
「っ!」
「それに君こそ、自分のマスターの心配をした方がいいのではないのかね?」
セイバーが僕に視線をやる。そのままランサーは嗣堂を連れ、どこかへ去っていった。
僕の心配?セイバーの気をそらすための方便だろうか。そう思った。しかしそれが方便なんてものではないことはすぐに分かった。
「あ……れ……?」
視界が暗転する。マスター!と叫ぶセイバーの声。抱えていた女の子もろともバランスが崩れる感覚。そして今日二度目の地面のざらつき。それらを味わいながら僕は意識を手放した。
***
朝のやわらかい陽ざしが僕に起きろとささやく。なんだかふかふかとした物に包まれて、どことなく花のようないい匂いがする。僕がそのふかふかを味わおうと体重をかければかけるほど、体は沈み込んでいく。目を開けたくない。今までの大変だったことすべてが夢のようだ。大変だったこと……?自問自答する。僕は何か殺し合いみたいなのに巻き込まれて、そして……。
がばっと体を起こす。そうだ。沙耶がさらわれたのだ。早く助けに行かなければならない。でも、ここはどこだ?
さっきまで僕が沈み込んでその感触を味わっていたのは、高級そうな大きなベッドに羽毛布団。辺りを見渡してみると病院などではなく誰かの部屋のようだ。机や椅子、クローゼットなど一通りの家具がそろっているが、整理がされすぎていて今ひとつ生活感は無い。だが他の調度品もベッドと同じくシンプルだが高級感のあるものだ。ひときわ目立つのは大きめの机に置いてあるガラスケース。見に行こうとベッドから抜け出すと頭痛と全身に倦怠感を感じる。なんだこれは。昔かかったインフルエンザのときのように体が重い。ずるずると自分の体を引きずるように歩き出し、ガラスケースを覗き込む。そこにはきらきらと輝く沢山のメダルやトロフィーが飾られていた。しかしそこに刻まれているのは日本語だけではなく、英語やおそらくフランス語、ドイツ語、スペイン語など多種多様な言語で何かしらの賞をほめたたえている。日本語のものにはこう刻まれていた。
【最優秀賞 ヒルト・エルクトル殿】
ヒルト?なんだか聞き覚えのある名前だが今一つ思い出せない。
ガラスケースを後にして扉に手をかける。鍵はかかっておらず、なんてことはなく扉は開いた。目の前に広がるのは広い廊下。随分と大きな家、いや屋敷のようだ。左側には下り階段があり、階段の先の一階の部屋からかすかにテレビの音が聞こえる。おそらくリビングだろう。誰かいるようだ。
階段を一歩降りるたびに頭に鈍痛が響く。僕は胃は弱いけれど、頭痛はめったに起こさない。風邪でも引いたのだろうか。
一階へたどり着きリビングへの扉のドアノブに手をかける。ごくり、と生唾を飲んで扉を開けた。
「マスター!起きられたんですね!」
僕に浴びせられたのは、昨日の着物姿ではなく今風のワンピースに身を包んだセイバーの嬉しそうな声だった。こうして見ると僕と大して年も変わらない、華奢で可憐な女の子だ。次に見えたのはソファに座って紅茶を飲みながらテレビを見ていた、あの綺麗な女の子。そしてそのすぐ近くにはジャージを着たアサシンもいる。三人の視線が一斉に僕に集まっている。少し気恥しい。
「あなたは魔力切れで倒れたんですよ。まぁセイバーを召喚してすぐ戦闘に出したのですから、仕方ありませんね」
女の子が僕の前に立った。昨日の血まみれの姿とは一転して平静然としている。しかし一日でここまで回復するものだろうか?
『あの世界的モデル、ヒルト・エルクトルが日本に凱旋!まもなく空港に到着です!』
僕の思考はテレビのけたたましい女性アナウンサーの声でかき消された。そして先ほどのトロフィーの名前を思い出す。そうだ、ヒルトってモデルのヒルトだ!クラスの女子が騒いでいた気がする。「ああ」と女の子はテレビを一瞥した。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私はミサ・エルクトル。ヒルトは私の兄です」
「えっ、お兄さん!?」
ふふ、とミサさんは軽やかに笑った。
「似てないでしょう?」
確かに。テレビで今カメラに爽やかな笑顔で手を振っているヒルトは金髪碧眼のいかにも西洋人という外見だ。一方ミサさんは黒髪で、瞳に少し青が混じっていることに気づかなければ完璧にアジア系の顔立ちだ。どちらも綺麗な顔立ちで美男美女なんだけれど、兄妹といわれてもいまいちピンとこない。
「父がフランス人で母が日本人なんです。兄は父に似て、私は母似。あと兄は魔術師じゃありませんよ。ご覧の通り芸能活動が忙しそうなので」
「相変わらずへらへらしおって。いけ好かんやつじゃのう」
アサシンがテレビに映るヒルトさんにむかって毒づく。会ったことがあるのだろうか。いや、それにしても、だ。
「その、魔術師って一体なんなんですか?サーヴァントとか聖杯とか……。それに、沙耶は……僕の妹は!」
セイバーとアサシンの表情が凍り付くのが分かった。
「マスター、その、マスターは魔術師じゃないのですか?」
セイバーはおそるおそる尋ねた。僕の代わりにミサさんが口を開く。
「ええ、セイバー。あなたのマスターは魔術師として育てられていません。魔力回路は随分すさまじいものを持っているみたいだけれど、魔術を使うことはできない……そう、桐生神父からうかがっています」
「桐生さんから?」
なんでここで桐生さんの名前が出てくるんだ。考えようとして頭痛がますますひどくなるのを感じる。
「ええ。私は桐生神父からあなた達兄妹を守るように頼まれました。……本当に、申し訳ありません」
ミサさんは深々と頭を下げた。
「『私を信じてください』と言ったのに、沙耶さんを助けることが出来ませんでした」
お辞儀をしたことでミサさんの服の隙間から、肌を包む包帯がちらりと見えた。この人は、本当に命をかけて僕らを助けようとしてくれたのだ。それは分かる。でも沙耶はどこへ行ったのか、無事なのか、魔術師?サーヴァント?いろんな分からないことだらけで頭がぐるぐるして何と返答していいのかわからない。
おろおろしているとアサシンがミサさんの頭をむんずとつかんで持ち上げた。
「何を謝るんことがあるんじゃマスター。おまんがおらんかったら、この小僧はとっくにあの嗣堂っちゅう魔術師に殺されとったぞ」
ミサさんはかなりバツの悪そうな顔をしていたが、アサシンの言うことも正しいのだと思った。ランサーは何故か僕のことを気にかけていたようだけれど、嗣堂は僕を完全に殺す気でいた。
「まずはお礼を言わせてください、ミサさん。助けてくれてありがとうございます」
ミサさんは「ですが……」と言いかけて一度口をつぐんだあと、僕を見つめた。
「……嗣堂さんは人質を殺したりいたぶったりなんて無駄なことはしません。沙耶さんの命は保障されているでしょう」
「ミサさんは嗣堂と知り合いなんですか?」
「ええ、小さい頃から。沙耶さんの居場所も検討がついています」
「それはどこですか!」
「落ち着け小僧」
思わず身を乗り出す僕の襟首をアサシンがつかまえる。「やめなさい、アサシン」とミサさんはアサシンを御してくれたけれど。
「……それらを説明する前に、貴方が一体何に巻き込まれたのか、そこから説明しなくてはいけません。それには私より適任がいます。着替えたら出かけましょう」
「どこにですか?」
ミサさんは紅茶を台所に片しながら「決まっているでしょう?」と事も無げに言った。
「聖堂教会の桐生神父のところですよ」
***
昨日施設の中に放置した僕のカバンをセイバーが持ってきてくれた。中のスマホを取り出してみると桐生さんから何回か着信が入っていた。そうだ、本当は昨日は桐生さんの所へ沙耶と尋ねに行く予定だったのだ。
風邪をひいたいうことにして学校には欠席連絡をいれた。「一般人に余計な詮索を入れられない方がいい」というミサさんの判断だ。人目につかないよう通勤通学時間が過ぎるのを待ってから、セイバー、ミサさん、僕の三人で町はずれの教会に向かう。アサシンは昨日と同じように僕の目の前から霧のように消え失せ、どこかへ行ってしまった。こういった現象を見ていると、魔術なんてファンタジーとしか思えなかった現象が自分の身に起こっていることを痛感する。
道すがら、気になっていたことをミサさんに尋ねた。
「昨日はすごい出血でしたけど、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、エルクトルは生体に関する魔術を極めようとした家柄なんです。だから使い魔とか治癒とか……そういうことに特化してるんですね。まだ正直折られたあばら骨は完治していなくて痛みますけれど、こうして歩いたりすることぐらいは出来るようになってるのでご心配なく」
「そうなんですか、魔術って万能なんですね」
「そうでもありません。無から有は生み出せませんし、基本は術者の魔力を消費する等価交換です」
ミサさんは僕とセイバーの顔を交互に見た。
「由基人さん、貴方がもし魔術師として教育を受けていたら私など遠く及ばない魔術師になっていたでしょう。触媒があったとはいえ最良のサーヴァント、セイバーを召喚し今もこうして現界させられている。セイバー、貴女も由基人さんの魔力を感じているのではないですか?」
セイバーは頷いた。
「はい。私の霊基は完全な形で契約されています。だからこそマスターが魔術師でないというのは、本当に驚きで……」
二人の話を聞いていても本当に自分のことなのか実感が沸かない。魔術師としての才能、なんて言われても戸惑ってしまう。僕は母さんにごくごく普通に育てられたのだから。学校に行って、勉強して、放課後は友達とあそんだり、家の手伝いをして……。それが僕の”普通”だ。
母さんが殺されて、妹が誘拐された。”普通”とはかけ離れた状況で、この子たちは僕そのものが魔術師という”普通”とはかけ離れた存在なのだという。
ずきりと胸の隅っこの辺りが痛んだ。恐ろしい考えが浮かんでしまったのだ。僕はその考えを見て見ぬふりをする。今は桐生さんに話を聞いて、僕の状況を整理する。沙耶を助けるためにもそうするほか道はない。ミサさんにもセイバーにも、僕の手のひらの冷や汗など見えるはずがない。顔面に”普通”を貼り付けて、僕は教会へ歩いて行った。
聖堂教会は立派な教会だった。荘厳な建物、という表現がよく似合う。しかし中からは男性の怒鳴り声が漏れ、その荘厳さをぶち壊していた。僕たち三人は中をこっそり覗き込む。そこには桐生さんと桐生さんに怒鳴り散らす痩せぎすの男、そして痩せぎすの男の傍にはセーラー服に身を包んだ女の子の姿が見えた。その制服には見覚えがあった。そして怒鳴り散らす男を無表情に眺める横顔も。
「あれは……杏野さん?」
「知合いですか?マスター」
「うん、中学の時の後輩。でもなんでこんなところに?しかも平日の午前中に」
学校はどうしたのだろうか。いや僕が言えた身分ではないのだけれど。それにあの男も父親、という感じではない。
ミサさんが僕にささやく。
「由基人さんの後輩さんは分かりませんが、あの男には見覚えがあります。名前は入間昭人(いるまあきひと)、魔術師です。といってもいわゆる”はぐれ者”。魔術師としての腕は並以下です」
「随分けなしますね……。それにしてもなんで杏野さんとそんな男が一緒に?」
「それはこの会話を聞いていれば分かるかもしれません。しかし入間のことですから、禄でもないことは確かですけど」
ミサさんの態度は冷ややかだ。
「入間って人と何かあったんですか?」
「入間は昔おじい様に弟子入りしてたことがあったんです。でもすぐ破門になって……。逆恨みで呪いの類をうちにかけてきましてね」
「呪い……ですか」
魔術があれば呪いもあるだろう。
「まぁ全部おじい様が跳ね返したんですけれど、それ以来逆恨みされているんです。困ったことです」
「なかなかサイテーな野郎ですね!もし私がそこにいたら斬ってましたよー」
セイバーがどことなく楽しそうな口調で物騒なことを言う。そういえばこの子、セイバーが何者なのかも僕は分かっていない。”サーヴァント”というやつらしいけれど……。
一方、入間は桐生さんに怒鳴り続けている。内容は「何故私が認められないんだ!!」とか「こんな小娘に何ができる!!」とか……。ミサさんはその会話を聞きながらため息をついた。
「なるほど、そういうことですか。入間らしい……やっぱり禄でもなかったですね」
ミサさんは立ち上がると教会の中へ入っていく。僕らは慌てて後について行った。
「お久しぶりですね、入間。おじい様に言われたことを忘れたのですか?」
「お前はエルクトルの……!なんの用だ、今の私には力がある!今更お前に何か言われる筋合いはない!」
つばでも飛ばしそうな勢いで入間はミサさんに食って掛かった。対するミサさんは冷ややかな態度を改める様子はない。
「貴方の魔術回路ではサーヴァントなんて最上級の使い魔を召喚することは出来ない。借りたサーヴァントではマスターとして認められません」
ミサさんは杏野さんの方を見て言った。
「貴女が本来のマスターですね?どうして入間の言うことなんてきいて……」
杏野さんはミサさんのことを意に介さず、僕に驚いたように、そしてどこかおびえたように見つめていた。
「せん、ぱい……」
小さく発せられた声は昔と変わらない。
「杏野さん、なんで……」
なんで、杏野さんの左手にも痣があるんだ。
ほどなくして入間は杏野さんの腕を乱暴につかむと引きずるように教会を出て行った。ぎぃ、という重い扉の音が響き渡る。
「見苦しいところを見せてしまったね、由基人君」
入間達が出て行ったのを確認すると桐生さんが僕たちに向かい合った。
「そうか、君はサーヴァントを召喚したのか……」
「桐生さん、沙耶が嗣堂というやつにさらわれて……!」
「ああ、わかっているよ。エルクトル嬢に話は聞いてある。一般人に手を出すなど、言語道断だ。監督役としてもね」
桐生さんは僕に聖杯戦争について語った。7人の魔術師が7騎の英霊、サーヴァントを召喚して最後の1騎になるまで殺しあう……。そして最後の一組だけが願いを叶える聖杯を手にする。そんな血なまぐさい儀式の話を。この左手の痣は令呪という三回限りのサーヴァントへの命令権。すでに昨日僕は一画使ってしまって残り二回というわけだ。
「できれば君たち兄妹は魔術師とは無縁の世界で生きていてほしかった。それが私と楓花さん共通の願いであった」
「母さんの?」
「ああ。こうなってしまっては隠していても仕方あるまい。由基人君、君の母君である楓花さんは魔術師だ。そして……前回この上枝の地で行われた聖杯戦争の唯一の生き残りだ」
某セイバー「私と!」
某アーチャー「儂による!」
二人「ぐだぐだ次回予告~!!」
某アーチャー「ぐだぐだって言ってる時点で真名もろばれなんじゃが?」
某セイバー「ノッブは今回の聖杯戦争に召喚されてないみたいですよ?まぁ、私は~主役なんですけどねぇ~??」
某アーチャー改めノッブ「むかつくわー。ていうか儂の肩書すでにアーチャーじゃないんじゃが!!是非もないよネ!!」
某セイバー「次回こそは私の真名が明かされると信じて!え?もうばれたも同然??」
ノッブ「次回!『セイバー』。というか儂召喚されてないってどういうこと!?」
某セイバー「いやー、ノッブじゃないアーチャーって誰なんでしょうねぇ」