「はっ、はっ、はっ……。くそがっ!?」
男は追いつめられていた。戦って勝てる相手ではなく、無様に逃げている。
「おやおや、どこにいくのかね?」
しかし、相手が悪すぎた。逃げきることすら不可能だった。そんな絶体絶命な男をあざ笑う少女。
「くそっ、化物が!」
やけくそで少女に殴りかかる。男はがっちりした体格に筋肉がモリモリしていて、どこのボディービルダー?と聞きたくなるような身体だった。
しかし、そんなものは一見すると華奢な少女には通用しない。信じられないことに、少女はそれを容易く受け止める。まるでそんなもの効かないとばかりに。
「能力が<筋肉>ならば、もう少し歯ごたえがあるかと思ったけど、こんなものかな? もういいや」
飽きたとばりに投げやりな言葉と共に解放される”気”。
「ちょっと待て! 何だ! このふざけた氣は!?」
少女から放たれるとんでもない氣に男が慌てる。道(タオ)の力を得た男は、間近で感じる少女の気がとんでもないものであること感じ取れた。そう、例え道使い(タオつかい)として満足に修行すらもしていない、未熟な三流道使いであっても。それは男と少女との力の差を嫌がおうにも示していた。
そして、その場で一方的な殺戮が繰り広げられた。
時間を少し巻き戻す。今日は原作第二巻の日で、姫神秋沙(ひめがみあいさ)の一件で、当麻が錬金術師と戦うことになっているが、令子は一切干渉していなかった。
前回は当麻の記憶喪失フラグを潰すために動いたが、今回はほっといても当麻とステイルが解決する問題に過ぎないからだ。
これには学園都市というかアレイスターの思惑もあった。原作でアレイスターは何故かこの一件に学園都市の学生である当麻にステイルの協力者として関わらせていた。
これはプランを進める上でのイベントの一つに過ぎないのだろうが。
そんな令子は、喫茶店で待ち合わせ中に、御坂御琴や白井黒子ばったり会ってそのまま話をすることになった。
「連続殺人事件?」
「そうですの。最近また能力者による事件が起きていまして、犯人逮捕に向かった警備員(アンチスキル)の部隊が返り討ちになりましたの」
「へえ、そいつなかなかやるね。となると犯人は大能力者(レベル4)あたりかな?」
対能力者用の訓練を受けている警備員の部隊を、たった一人で倒すのは異能力者(レベル2)や強能力者(レベル3)では少々厳しい。
「いえ、書庫(バンク)によると犯人はスキルアウトですの」
「スキルアウト?」
スキルアウトとは、無能力者であるが故に不良となった者達だ。
それは、ヤクザやマフィアのように特定の名称ではなく、あくまで分類の様な物で、この学園都市はスキルアウトの集団が多くあるが、みんな一纏めでスキルアウトとして扱っていた。当然ながら彼等は無能力者であり、学園都市でも最弱の存在にすぎない。
普通は不良といえば恐れられる存在であるが、この学園都市では不良とは文字通り出来が悪い存在にすぎず、本当に恐ろしいのは出来の良い優等生たる高位能力者なのだ。だからスキルアウトは、学校では役に立たないくせに厄介事ばかりおこす奴らと思われている。
「それがどういうわけか、そのスキルアウトが身体強化系だと思われる能力を発揮して、警備員を倒していますの」
「急激にレベルアップしたってワケ。そいつ幻想御手でも使っているの?」
「いえ、お姉さま。確かに最初は幻想御手がらみかと思っていたのですが、あれが解決しても起きていることから別件だと思いますの」
「で、連続殺人事件ということは、そいつ無差別攻撃でもしているの?」
「その通りですの。特に女子供を標的にしていますわ」
呆れたようにいう令子に、白井が答える。
ついこの間も幻想御手によって大幅にパワーアップした能力者たちによる事件が続出していたのだ。正直またかという思いだ。
「実はここ最近、スキルアウトの中で学園都市の能力とは別の方式の能力者が現れており、彼等は『星の使徒』と名乗り、集団で何人もの能力者を血祭りにしているらしいですわ。警備員では今回も『星の使徒』が関わっていると思っていますの」
「それは違う」
不意に否定の声が聞こえた。
「あら駒場来ていたの。でも話に割り込むのは良くないわよ」
令子は笑みを浮かべる。
その場にいたのは三人の男。第七学区のスキルアウトを束ねる駒場利徳(こまば りとく)、浜面仕上(はまづら しあげ)、服部半蔵(はっとり はんぞう)の三人。いずれも件の『星の使徒』の中心的な人物達だ。
白井が表情を強張らせる。どうやら駒場の情報ぐらいは持っていたらしい。
「それはすまなかったな。しかし少々聞き捨てならない話だったからな」
「まあ、それはそうでしょうね」
無差別襲撃犯扱いなんかされたら私でも嫌だし。確かに彼等は能力者たちを襲撃した。
しかし、標的ぐらい選んでいるし、襲撃にしても標的の方に問題があったのだ。
「あ、これは例の物ね」
バックから瓶を取り出して駒場に渡した。
「確かに」
それを受け取る駒場。
「ところで駒場、あなたこれを与える人選を間違えたわね」
断言口調でいう。くだんのスキルアウト。あれは、どう考えても道使い(タオつかい)としか思えない。つまり駒場から神氣湯(しんきとう)を与えられた人間が暴走したということだ。
「あれはお前のリスト通りに……」
「あれは才能がある者を記載しているだけよ。貴方達が人選を間違えたことには違いはないわ」
「……」
「まあ、いずれにしてもそいつは少々目に余る。後で私が片づけておくわ」
「そうか、わかった」
駒場はあっさりと了承した。片づけておく。その言葉で令子に始末される男は駒場と同じスキルアウトであったが、あの男の暴走には駒場は怒りを感じていた。自分たちと交わした約束を破り、無関係の女子供を殺傷したのだ。だからこそ庇い立てもしなかった。