「突然だけど上条さんに依頼があります」
「えっ」
放課後に唐突にあった佐天のいきなりの言葉に当麻は一瞬戸惑った。四月十二日。それは高校に入学してすぐの日だった。
「絶対能力進化計画?」
「ええ、第一位の超能力者『一方通行』を私と同じ絶対能力者にするための計画だけど、ちょっと問題があってね」
佐天はそう言って当麻に複数の書類を渡した。
「こ、これは…」
当麻はその書類を読んで愕然とする。
御坂美琴のDNAを使った二万人もの量産異能者。二万人もの御坂のクローンが様々な状況で戦って殺されていくシナリオ。残虐なことに時間、場所、戦い方など逐一書かれている。余りのことに常人なら呆然としただろう。
しかし当麻はこれまで三千世界で散々修羅場をくぐってきた身だ。この程度のことはこれまでにもあった。
「……ふざけやがって」
だが、それが納得できるかといえば答えはNOだ。
「頼みたいことはこの計画を潰して欲しいの。具体的には今日の22:00に始まる第一回の実験に乱入して一方通行をぶちのめしてくれればいい。ちなみに今回は私は関与できないから裏方に回るけどね」
「どういうことだ?」
佐天は僅かに表情を崩す。
「この実験は一方通行を絶対能力(レベル6)にするものだから、実験を潰すには一方通行が実は対して強くないと研究者達に認識させないといけない。故に格上の私が一方通行を倒しても意味がないけど、最弱の筈の無能力者(レベル0)とケンカしてあっさり負けしたらどうかしら?」
当麻の右手の幻想殺しはあらゆる異能や魔術をうち消すが、それは学園都市の機材では一切証明できない。だから学園都市が総力をあげて当麻を調べても結果は無能力者(レベル0)としかでない。
そんな最弱に負ければ、一方通行の強さに疑念が出て実験は中止に追い込まれるだろう。
「わかった」
当麻は佐天の依頼を受けて行動の詳細を打ち合わせていった。
四月十二日 21:55
夜間の人気のない場所で、二人の少年少女がそこにいた。
「それにしてもよォ~、わざわざ俺にぶっ殺される為に二万体も生まれるなンてご苦労なことだよなァ~」
白い髪に赤い瞳の少年は、対峙する少女を嘲るように言う。
この少年こそが学園都市第二位『一方通行(アクセラレータ)』。現存する超能力者(レベル5)の中でも最強の存在であり、絶対能力者(レベル6)の『支配領域』を除けば学園都市最強の存在。
「問題ありません。ミサカはその為に作られましたから。とミサカは答えます」
少女は無表情に淡々と少年に答える。その声には何の感情も感じ取れない。見るものがその少女を見ればあの『超電磁砲』御坂美琴と間違えるだろう。少女は顔、体格、服装に至るまで御坂美琴と同じだったからだ。
違うのは、少女の目の焦点があっていない事と少女の頭にはまるで軍で使うようなゴーグルがかけられている事だろう。
少女は御坂美琴のDNAマップから作り出された量産異能者の一人だ。
「おい、お前のオリジナルでさえ俺に歯が立たないってのに、オリジナルの一%にもみたねェ、できそこないのお前ごときが俺に勝てるわけねぇだろうがァ」
なおも一方通行はミサカを罵る。だが一方通行本人も気付いていないが、彼は他人を無闇に傷つけるのは望んでいない。ハッキリいってこんな狂気じみた実験などやりたくないと思っていて、だからミサカを怯えさせ実験を止めさせようとしていた。
「実験開始から後四分です。準備は宜しいですか。とミサカは問いかけます」
「くッ!いいぜ。そンなに死にてェならぶッ殺してやる」
しかし、ミサカは実験を止めようとしない。元よりミサカは自分の価値を見いだしていない。単価18万円と少し高いパソコン程度の価格で、僅か14日で作れる乱造品。それがミサカだからこの時点で彼女たちは自分の価値を認めていなかった。
一方通行はここでミサカを殺す決意をする。自分がレベル6になるために。
「では、第一次実験の準備をします。所定の位置に着いて下さい」
その言葉に一方通行が移動する。この実験では場所だけでなく実験開始の二人の立ち位置まで指定されている。
そして時間が迫り実験が開始されるようとする時。
「待ちなさい!」
その場に第三者の声が響いた。
「おいおい、どういうことだよ。こりャ、あれかい目撃者は消すってやつかよ?」
勘弁してくれよ、と呆れたように一方通行がぼやく。そこには二人の少年少女。高校生ぐらいのツンツン頭の少年と常盤台の制服を着た少女。
「貴方が一方通行(アクセラレータ)ですね。私は佐天令子。『支配領域(テリトリー)』と名乗れば分かるかしら?」
「何ッ!?」
その言葉に一方通行が顔色を変える。
それは自分を差し置いて絶対能力者(レベル6)になり、学園都市最高の能力者と称されている存在の名前だ。一方通行は佐天の事を詳しく知らなかったが、研究所の連中はしきりに佐天を研究したがっていたのは噂では聞いていた。
超能力を研究している学園都市でも大能力者(レベル4)以上の者は数少ない。超能力者(レベル5)となると専用の研究所を作られかねないほど貴重な存在であるため、絶対能力者(レベル6)の佐天の価値は計り知れなかった。それだけに研究に一切協力しない佐天を研究者は残念がっていた。
この手の研究は建前上強制できないので、佐天は通常のカリキュラムしか受けておらず、システムスキャンなどの最低限の検査しか受けていない。
「ほう、おもしれェ噂の絶対能力者(レベル6)が何のようだ? まさかこの実験を止めようというのかァ?」
「私はだだの見届け人。実験を止めるのはこちらの上条さんです」
佐天が上条にチラリと視線を向ける。
「はァ? まさかその男が俺と戦うっていうのかァ?」
一方通行が呆れる。
一方通行は運動量、熱量、電気量などありとあらゆるベクトルを皮膚上に触れただけで操るという能力がある。それ故あらゆる攻撃を反射し、あらゆる敵を一撃で倒してきた。色々と規格外な佐天を除けば誰も勝てない筈だ。
実は研究者達は佐天と一方通行が交戦すれば一方通行が負けるだろう考えていた。確かに自分は自分の周りのベクトルを操るものに対して、あちらは地球規模で大規模な干渉ができる。規模という点に置いてはあちらの方が圧倒しているから佐天ならば一方通行に勝てるだろう。
しかし、実際に戦うのは別の少年。一方通行が知っている他の超能力者(レベル5)のデータとは一致しないから、大能力者(レベル4)以下の能力者と思われる少年が一方通行と戦った場合は、どう考えても一方通行が勝つ。
「無茶苦茶です。彼は最強の超能力者(レベル5)ですよ。貴方がどのような能力を持っているかは知りませんが、勝てるはずがありません。それにミサカはお姉様の乱造品のクローンにすぎません。替えの効かない貴方が命をかける事はありません。とミサカは訴えます」
「お前簡単に命を投げ出すんじゃねぇ!お前が死んだりしたら御坂だって悲しむ。クローンだから殺して構わないなんてふざけた理屈(幻想)は俺が殺してやる!」
そう言い切る上条を一方通行は凝視する。
「……おもしれェ。そこまでいうンなら相手になってやらァ!」
足下のベクトルを操作して一気に加速して上条に襲いかかる一方通行。上条はそれを容易く避け、右手で一方通行を殴りつける。勿論本気ではなく、ある程度は手加減していたとはいえ常人とは桁違いに強い上条の拳。それをまともにくらった一方通行は殴り飛ばされた。
「い、痛い!」
能力に目覚めてから受けたことのない痛みという感覚。慣れていない感覚故に一方通行には免疫が無くとてつもなく痛く感じる。
「き、きまッたぜ。最高にきまッたぞ。お前はッ!?」
起きあがった一方通行がまたしても加速して襲いかかるがやはり避けられて、右手で殴りつけられる。
「畜生!何だ!何であたらねェ!」
一方通行の足下のベクトルを変化させての加速は確かに加速力という点では優れていたが、瞬動と同じで動きが直線的すぎて容易く読まれてしまう。ましてや気を扱い武術の修行をしている当麻の身体能力は、現存する身体強化系の能力者でも歯が立たないほどだ。そして一方通行はあまりにも動きがデタラメだった。
彼はあまりにも強力すぎる能力の為にケンカのやり方をまともに修得していないので、攻撃の回避などしなくてはならないと思ってもできない。それ故肝心の反射が破れると一気に不利になった。
「グハッ」
一方通行は上条に殴りつけられ、追いつめられて焦った。その時ふと思いつく。自分はあらゆるベクトルを触れただけで操れる。ならばこの身に触れる風のベクトルも自在に操れる。
「ギガガガアアガガッ!!」
一方通行の周りに風が集まって、それは上条に放たれた。
「はあっ!!」
しかし、それは上条の気合いで消し飛んだ。
「なッ!」
一方通行が愕然とした。先程の風は思いつきに過ぎなかったが、それなりの威力があったのに上条はそれを苦もなく消し飛ばしたのだ。
「ふふっ、一方通行彼には中途半端な風など効かないわ。どうせなら徹底的に強力な風を使う事ね」
「くッ、風を圧縮、圧縮して」
一方通行は自分の上空に風を集めていく。その風は圧縮されてプラズマになる。いくら一方通行でも世界中の風を集めることは出来ないので、これは学園都市の風を操ったのだろう。
当麻はそれを黙って見ていた。そして一方通行が放ったプラズマを右手で受け止める。幻想殺しはあらゆる異能をうち消す。それは神様のシステムですら例外ではない。
プラズマが幻想殺しに接触してうち消される。すかさず接近した当麻は一方通行を殴り飛ばした。