四月二十五日。一方通行(アクセラレータ)は天井と打ち止め(ラストオーダー)を探すために町中を走っていた。そんな中で彼は考える。あの実験の時の事を。
俺は弱くなったのか? いや、あの実験に乱入してきた最弱(レベル0)の少年に破れたとはいえ、一方通行の能力はなんら代わりない。あらゆるベクトルを触れただけで変換できる最強の超能力者(レベル5)に間違いない。
アイツが反射を破ったネタは何となく分かった。アイツは俺に対して”右手だけで”攻撃していた。消して左手や足を使わなかった。更にプラズマをうち消した時も右手を突き出していた。
つまりアイツはなんらかの方法で能力をうち消せるが、それは右手でなければ無理なのだろう。
どういう訳か俺が無能力者(レベル0)のアイツに負けた事が学園都市で噂となって広がっているらしく、馬鹿共が俺を襲撃するようになった。まあ、そういった者達はすべて反射で自滅していった。
そんな状況で俺はミサカの一人と出会った。『検体番号20001、打ち止め(ラストオーダー)』
それが少女の名前。実験の中止によって培養槽から放り出されたという彼女の話を聞き、取り敢えず打ち止めを寮に連れて帰った。
翌日、連れていったファミレスで体調を崩した打ち止めを残して、俺は研究所に行った。打ち止めを連れていくと研究者達が何をするかいまいち分からなかったからだが、これが失敗だった。そこにいた芳川 桔梗に天井 亜雄が打ち止めにウイルスコードを仕掛けた事を聞いた。『人間への無差別攻撃』それがコードの内容だった。
妹達の上位個体の打ち止めからウイルスコードが発信されると世界各地にある学園都市の協力機関にいる二万人もの妹達が感染して、一斉に暴走する。それは学園都市の崩壊、そして軍事バランスの崩壊に伴う世界大戦に結びつく。最悪の場合は世界が滅亡する。
そこで芳川に提示された二つの手段。一つは、打ち止めを殺す事。もう一つは、天井を捕らえてコードの解除法を聞き出す事。
言うまでもなく打ち止めを殺す方が簡単だ。もとより一方通行は守ることよりも殺す方に長けている。能力の特性だけでなく、その有り様が。だが一方通行は打ち止めとの会話が過ぎる。
「…………」
一瞬の躊躇い。
「へッ、そンなの決まってんだろ!」
そして一方通行はあえて困難な後者を選んだ。人生で最初の助ける為に。
先程のファミレスに急いで戻って打ち止めを探したが、既に天井に連れていかれていた。天井と打ち止めを探し回る羽目になってしまう。
数少ない救いは、一方通行が打ち止めと別れる少し前に学園都市に侵入者が現れたことだ。そのため学園都市の警戒ランクが跳ね上がり、天井が街の外に逃げ出せなくなった。どこの誰かは知らないが好都合だ。
人気のない区画で、ようやく天井の車を見つけた。足下のベクトルを変更して加速して一気に距離を詰める。車に足をつけてベクトルを変換しただけで車が壊れた。
「よう久しぶりだな、天井さんよォ」
「うあああ!」
天井は破壊された車から降りて逃げ出そうとするが、そうはいくか! 足下のベクトルを変換して石を高速で天井に叩き付ける。
「ぐはっ!」
情報を吐かせないといけないので死なないように手加減をしたが、余りの痛みに天井は意識を失って倒れた。
意識のない打ち止めを確認して、芳川に電話をかける。
「芳川、ガキを取り戻したぞ!」
『そう、なら後はウイルスコードを解除するだけね』
「ここのパソコンで解除できないのか? ここからお前の研究所までだと結構距離があるぞ」
『無理よ。ウイルスコードの解除には専用の機材と学習装置がないと』
「ちッ!」
車を壊したのは失敗だったか。めんどくせぇ。
『問題ないわ。今私が車でそっちに向かっているわ。そろそろつく頃よ』
「コードの解析はどうなっているんだ?」
『9割方終わっているわ。後二時間もあれば完了するわ』
タイムリミットが後5時間だから十分に間に合うな。一方通行は安堵の溜息を吐く。
しかし打ち止めは突如奇声を発し始めた。それは人間の言語というよりもコンピュータ言語のようだ。
「なっ、なンだ」
『……ウイルスコードが機動準備に入ったわ』
「馬鹿な! 後五時間ある筈だろォ」
『偽情報よ。ダミーに騙されたわ!』
芳川が怒りに染まった声を上げる。ウイルスコードにダミーが含まれていたのか。
今から芳川がここに来て解析しても時間が足りない。いや、解析自体がダミーで誤魔化されているから信用自体できない。
まずい、このままでは世界中の妹達にウイルスが送られてしまう。
「おい芳川なンか方法はねえのかァ!」
『打ち止めが妹達(シスターズ)に上位命令文を発信するには約10分かかる筈。それが発信されてしまったら終わりよ』
それは、つまり…。
『だから、今すぐ打ち止めを始末しなさい。もう彼女を殺すしかないわ!』
「くそッ、それしかないってのか!」
結局俺には誰かを助けることなど無理なんだ。一方通行の脳裏にあの時二万人の妹達を守るために動いた絶対能力者(レベル6)の姿がよぎる。
『支配領域』あらゆる素粒子に干渉できる為に、あらゆる科学反応が再現可能という応用の幅はほぼ無限の能力。理論上不可能とされた多重能力者のような物で、地球環境そのものすら改造することが可能というトンデモな能力。
学園都市最高と呼ばれ、唯一自分よりも評価されている至高の能力者。あれだけの能力があれば、この少女を守ることは容易く出来ただろう。
「くそ、あいつがいれば…」
あの時は妹達を守るために動いたのに、今回はいない。一方通行は分かっていた。そんな都合の良い正義の味方などいないという事は。それでも佐天がたった一人の少女を守っていない事に苛立つ。
俺の『一方通行』はあんな応用などきかない。最強の超能力者と言われながらも、血液や生体電気を逆流させて体を爆砕させる事しか思いつかない。所詮自分の身だけを守り他者を殺すだけの力…。
「待てよ。生体電気の逆流……」
そう、あの時は反射だけでなく、風のベクトルを操作して風を操った。ならば打ち止めの脳波を操作することも…。そうだ! 芳川から打ち止めの感染前の人格データを預かっていた。
「おい、脳内の生体電流を操作すれば学習装置と同じ働きができるンじゃねぇのか?」
『無理よ。確かに君の能力はあらゆるベクトルを自在に操る事ができるわ。でも人間の脳の信号を操るだなんて……ッ!』
「できねェってことは無ェだろうよ。反射はできるンだ。ならその先の操作だってできるはずだろォが」
「仮に脳内電流を操作できたとしても、ウイルスを完全に除去するなんて不可能よ。なにせ肝心の対ウイルス用のワクチンがまだ完成してないんだから」
「そンなもん自分でやってやる!」
そう言うと携帯電話を放置して作業にかかる。このデータを元にそれ以外のデータをまとめて削除してしまいばいい。いちいちデータを解析する必要がないからこれなら可能だ。感染前のデータを覚えて、打ち止めの頭に手で触れる。
感染前のデータと比較するして対象コードを出す。コード数357081。これをまとめて削除すればウイルスもまとめて消せる。一方通行は削除を進めていく。生体電流の操作は上手くいっている。
本来ならば学習装置を使う方がいいのだが、今はそんな贅沢を言ってられない。現在削除しているデータの中には一方通行と過ごした記憶も含まれることに一抹の寂しさを感じたが削除を続けた。
よし、もう少しだ。これなら十分間に合う、と考えた時、ガチャと金属音が聞こえた。嫌な予感を感じて其方を見ると天井が起きていて拳銃をこちらに向けていた。
「邪魔…をするな…」
くそ、もう起きやがったのか! まずい、今は精密作業をしているんだ。反射もできねぇ。現在の俺はこの作業を終わらせるか中断しないかぎり反射の為の演算もできない。時間がない。かといって脳の操作している精密な作業を中断なんてしたら、打ち止めの脳が確実に壊れてしまう。
天井がこちらに向けている拳銃の引き金を引こうとしている。畜生、後もう少しだってのに…。
その時、天井が不自然に横に吹っ飛ばされた。
「なンだと!」
いきなり天井が吹っ飛ばされた事に驚く。
「ぐっ、なんだ!?」
「天井だね。見つけたわ」
「お、お前は!?」
そこにいたのは絶対能力者(レベル6)の佐天令子。
「これでいろいろと小細工をした甲斐があるというものね」
「なんだと、どういうことだ!」
天井がヒステリックに怒鳴り散らす。
「ふっ、おかしいと思わなかったの? どうしてよりにもよってこんな時に警戒ランクが跳ね上がったのか」
「まさか!」
「そう、獲物を檻から放すと面倒でしょう?だから檻をキッチリ締めたのよ」
「そういうことか。お前は私達の実験を邪魔して、またしても私の邪魔するのか!」
起きあがった天井が怒りを露わに佐天に向けて拳銃を発砲するが、佐天は弾丸を片手で無造作に掴み取る。
「……これで、攻撃のつもり?」
佐天は、まるで戦時中にいたB29を竹槍で打ち落とそうとする人を見るかのように呆れ果てた顔をする。
「つまらない。例え無駄でもこの私を攻撃するなら、そんなちゃちな玩具じゃなくて陽電子砲でも持ってくることね」
学園都市第一位の絶対能力者をたかが拳銃でどうこうできるわけがないが、それを考慮しても佐天には能力以前に何か絶対的な自信でもあるのか、拳銃を撃ち込まれても揺るぎもしない。
次の瞬間天井の持っていた拳銃が消えた。空間移動? いや、違う! 素粒子レベルで拳銃に干渉をして、拳銃その物を消したのか。
「それと、これは返すわ」
「ぎゃあ!」
佐天が手で掴んでいた弾丸を指先で軽く弾くと、天井の足に命中して天井が悲鳴を上げて倒れる。
「話しにならないね。まあいいわ。天井さん年貢の納め時ですよ。という訳で皆さん連行して」
佐天の言葉にどこからともなく黒服の男達が現れて、天井を拘束して連行していく。
「てめェ、なンでここに…」
既にデータの削除は終了している。先程の危機から急転直下の状況変化に一方通行は戸惑う。
「実は先日絶対能力者進化計画の邪魔してしまったので、その穴埋めに統括理事長に一つ貸しを作ろうと天井の捜索に協力していたんだよ」
あれで上層部に睨まれてしまったというわけか。まあ、当然だな。
「それじゃ今回の一件は…」
すでにこの場に来ていた芳川が口を出す。
「ええ、上層部には知られています。でも上の方には私がOHANASHIしましたので、今回の事で打ち止めを含めた妹達への待遇は一切変更しないそうです。ただ芳川さんに関しては研究者としての復帰は難しいと思いますね」
「仕方ないわ。それは覚悟していたしね」
芳川が諦めた表情で言った。計画の失敗だけでなく、今回の一件もある。統括理事会もそこまで甘くないだろう。
一方通行はもう一つの言葉が気になっていた。”打ち止めや妹達への待遇が変わらない”。一方通行は、今回のことが学園都市の上層部に伝われば、妹達を危険視して始末してしまうのではないか、と内心恐れていた。だが佐天がそれを抑えたらしい。
何だ、あいつ等をキッチリ守っているじゃねぇか。
「おい、この前風のベクトル操作の練習に付き合うって言っていたな」
「はい」
「なら練習につき合え!」
「そうですか、分かりました」
そう、俺は強くなる。そして人を守ることが出来るような力を手に入れるさ。
後書き
一方通行救済イベント。このSSでは一方通行はミサカを殺していないし、負傷もしていません。だから一方通行は強めになります。
解説
佐天令子
身長157㎝、体重45㎏、スリーサイズ80/55/82(14歳の時に外見年齢が固定して、それ以来変化なし)監察軍に所属する転生型トリッパー。
当SSにおける学園都市第一位にして絶対能力者。
黒髪黒目で、髪を腰の少し前当たりまで伸ばしている。
ファティマとしての特徴を持つため全体的に細身で知能身体能力が並はずれている。
学園都市の序列 能力者 能力名
第一位 佐天令子 「支配領域(テリトリー)」
第二位 一方通行 「一方通行(アクセラレータ)」
第三位 垣根帝督 「未元物質(ダークマター)」
第四位 御坂美琴 「超電磁砲(レールガン)」
第五位 麦野沈利 「原子崩し(メルトダウナー)」
第六位 常盤台中学の一生徒 「心理掌握(メンタルアウト)」
第七位 未登場 不明
第八位 削板軍覇 名称不明
強度(レベル) 段階 程度
絶対能力(レベル6) 神の領域の能力
超能力者(レベル5) 単独で軍隊と戦える程の力
大能力者(レベル4) 軍隊において戦術的価値を得られる程の力
強能力者(レベル3) 日常生活において活用可能で、便利と感じられる力
異能力者(レベル2) レベル1とほとんど変わらない程度の力
低能力者(レベル1) スプーンを曲げる程度の日常では役に立たない力
無能力者(レベル0) 測定不能や効果の薄い力