まぁプロローグみたいなものですね。
2021/05/24 追記
※主人公の背負う背景と描写に少しばかり修正を入れました
一機のノーマルが砂漠化した街を歩いている。
その機体は信頼性の高いGA製のノーマル『GA03‐SOLARWIND』である。その機体は塗装も武装も一般機とどこも変わらない。
そんな如何にも量産型なノーマルはひたすらに歩を進める。
その時だ。歩くノーマルの足元に、今にも力尽きそうな子供がいた。目的地まで自動操縦で動いていたノーマルは子供の生命反応を探知して自動で足を止める。
「一体誰だ?」
足を止めたノーマル。そのコックピットにいる、顔に大きな傷跡を持った二十代の若きレイヴン――トーマス=フェイスは探知した生命反応の確認を始める。そうしてコックピットモニターに映るのは今にも力尽きそうな子供。砂の上を這いつくばって、なにかを追っているように前に進んでいる。
「ママ……」
集音器が子供の声を拾った。
「クソ……!」
砂の上を這いつくばったまま母親を探す子供。そんな子供の姿を見れば、トーマスは助けたい気持ちでいっぱいになる。しかし救う手段はなく、子供を見捨てる他なかった。
ここはもはや汚れた大地。地球全体が汚されていると言っても良い。しかもここは戦場の跡地。汚染は深刻であり、ここを生身で数分歩くだけでも汚染防護マスクが必要だ。
それに対してトーマスが視界に入れた子供は汚染防護マスクを着用していない。今にも力尽きそうになっていることから、助けたとしても死んでしまうのは目に見えている。
「ごめんよ、俺では助けられない。せめて天国へ行けるように祈るよ」
トーマスは言う。そしてあの子供が天国へ行けるよう祈る。
ノーマルの目となるメインカメラが空に向いた。
向いた先の空には人が安全に住める場所がある。しかし理不尽にも置いて行かれた地上の人間からしてみれば、空に住む人間は憎しみの矛先を向ける対象でしかない。
その憎しみで引き起こされるのは戦い。
その憎しみを利益に返るために戦いを生み出し続ける企業連。
卑怯者と罵られる空に逃げた人間、汚物と蔑まされる地上に置いて行かれた人間。
憎しみと利益、そしてなにより企業の野望に塗れた発展のために戦いは永遠に続く。
「……行くか」
少しの沈黙からトーマスは操縦桿を握り、今から永遠の眠りにつくであろう子供を踏まないように、手動による進路変更をする。
そうして進路変更を終えたノーマルは自動操縦に戻り、再び足を進める。
トーマスの目的地はGAの基地。その基地でトーマスはGA専属のレイヴンになろうとしていた。
今のGAは人を欲しがっている。特にネクストに代わる主力、アームズフォートに乗せる人員を最も欲しがっているのだ。それがレイヴンでも、ただのMT乗りでもだ。
もちろんレイヴンの目から見れば幾分安い契約になるだろうが、食っていけない独立レイヴンよりは幾分マシだった。
「どんな仕事させられるんだろうな」
トーマスはこの先のことをぼんやり考える。
「リンクス戦争中はずっとこの機体に籠って逃げてばかりだったからなぁ……とりあえず仕事はどうあれ、稼がないと」
親が独立したレイヴンだったこともあり、その子供のトーマスもまた独立したレイヴンであった。
母親は既におらず、最年少のレイヴンとして戦っていた頃に父親は死んだ。
もはや頼る当てはなく、あらゆる請求で家からなにまで売り、安く買ったGA製のノーマル『GA03‐SOLARWIND』を家代わりにしてきた。
そうしてリンクス戦争の戦火からずっと逃げ回り、細々とした稼ぎと貯金で今日も生きてきた。
だが遂に貯金は底を尽いた。専属の契約になるとしても稼がねばならないのだ。
「とりあえず着くまでのんびりしているか」
トーマスはコックピットモニターから汚れた大地を見つめ、目的地に着くまで休む。
※
時間は過ぎて、GA基地に到着。昼。
トーマスの機体は長旅を終えた。
基地の防衛部隊が出迎えに来てくれたところでトーマスは「俺はレイヴンだ、今からGA専属のレイヴンになりたい」と要件を手短に話した。
その話しを理解した防衛部隊はトーマスを基地内に誘導、格納庫に移動させる。
「これで一段落か、後はささっとやって早く仕事をもらおう」
防衛部隊の誘導に従い、トーマスは格納庫内にある空いた場所に機体を止めた。
「出て来い! 今から登録してやるぞ!」
防衛部隊の隊長が大きな声で告げる。
そんな急かすような声に対して、トーマス「言われなくてもさっさと出るって」と軽い愚痴をこぼしながら機体のコックピットハッチが開いた。
汚染防護マスクとして機能するガスマスクと防弾チョッキ込みの戦闘服を着込んだトーマスの姿がコックピットから現れる。しかしどこか優しく口の悪い若々しい声に反して、全身は真っ黒。強い印象が残るその姿はまさしくレイヴンだ。
「言われた通り出てきた、さっさと登録済ませてくれよ?」
「ふん、一人では食っていけないレイヴン風情が……早く来い!」
「はいはい」
防衛部隊の兵士に銃口を向けられる。
下手な動きを見せれば撃たれるだろう。だが、トーマスにそんなつもりはない。トーマスはそのまま機体を降りて防衛部隊の兵士に従う。もちろん周りの兵士からは銃口を向けられたままだ。
「下手な動きはするなよ? こっちだ」
「はーいよ」
「チッ」
トーマスの軽口が余程気に入らなかったのか、防衛部隊の隊長は舌打ちを打った。それでも仕事は仕事だ。
防衛部隊の隊長はトーマスをGA専属のレイヴンにするため、登録書と契約書を用意した。
「おっし、これで俺も専属レイヴンだ」
トーマスは登録書と契約書に情報とサインを書き込んでいく。
「これで良い。GAは最近人集めに熱心だからすぐに仕事が来る。配属先が決まれば誰かが教えてくれるだろう。それまでコックピットで待機していろ」
「分かった」
登録書と契約書を書き終え、トーマスは自機のコックピットに戻っていく。
そこでしばらく待つこととなった。
そうして一時間ほどが経ち、防衛部隊の隊長がトーマスのところへとやってくる。
「おい新人!」
「なんだ?」
トーマスがコックピットから出てくる。
コックピットから出てくる様子を見た隊長は、配属先の情報が入った書類をトーマスに差し向けた。
「早速決まったのか」
機体から降りて、隊長から書類を受け取る。
トーマスは受け取った書類を早速確認し始めた。
書類には個人情報から契約内容までたくさんのことが書かれている。そして肝心なトーマスの配属先はGA傘下であるBFFのアームズフォート――スピリット・オブ・マザーウィルだ。
「運が悪いな、新人」
「は? どういうことだよ」
「お前は地獄行きってことだよ」
「いやいや、嘘だろ……」
「ともかく輸送トラックが外で待機している。マザーウィル行きの機体を全て搭載次第、配属先に出発することになっている。早く機体を移動させろ」
「分かったよ」
トーマスは書類を持って仕方なくといった様子でコックピットに戻っていき、機体を格納庫から出した。
格納庫の外、出てすぐ目の前に丁度輸送トラックがある。トーマスはすぐさま輸送トラックに自機を搭載して待機した。
「お、後からぞろぞろ来た来た」
トーマスの後に続き、次々と輸送トラックにノーマルが乗せられていく。
そうして計五機が搭載されたところで輸送トラックは出発する。
向かう先は地獄の戦場を作り出すスピリット・オブ・マザーウィルだ。
※
GAの防衛基地からスピリット・オブ・マザーウィルまでの移動には一日を要する。
襲撃などのトラブルはなく、トーマスはぐっすり寝ていた。
≪到着したぞ!≫
通信越しから響く大きい第一声がトーマスの眠気を覚ました。
起きてすぐに目を擦り、視界が開けて一番に見えて来るものは山のように大きい兵器――スピリット・オブ・マザーウィルだった。
「マジでデカいな……」
その巨大さ、その存在感、カタパルト上には無数の兵器、そこら中に付けられた無数の砲台。
それは何者にも負けない圧倒的威圧感と暴力を巨大化させた兵器、そしてトーマス自らがちっぽけと悟らせるほどの殺意の塊。
一人のちっぽけなレイヴンであるトーマスは圧倒されっぱなしだ。
≪これからリフトでマザーウィルのカタパルトに上がる。多少の衝撃に注意しろ≫
スピリット・オブ・マザーウィルのカタパルトの一部がリフトになって降りてくる。五機のノーマルを搭載している輸送トラックはそのリフトに乗り、カタパルトに上がった。
≪到着した、機体を降ろしてくれ。各機体の整備と武装の換装はマザーウィルで頼む。こちらは燃料を補給して速やかに基地に戻る、以上≫
輸送トラックのオペレーターがそれだけ言うと、それぞれのパイロットは機体を輸送トラックから降ろした。
これで任務を終えた輸送トラックは燃料補給のため、補給所まで移動していく。
「地獄だかなんだか知らないが、稼ぐためにもなんとかやってみせるか!」
トーマスは地獄に着いてしまった。
それでも心は前を向いている。
「死ぬ気はない」と、トーマスの目が言っている。
彼が地獄を走る運命はここから始まる。
久しぶりにこういうの書けて楽しい