ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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お久しぶりの更新です!
私はまだ生存しております!


CHAPTER8

 夕日が沈み行く夕方の時刻。

 ネクスト二機を載せた大型輸送機がカブラカン撃破のために飛び立ってから実に九時間が経った。

 現在のマザーウィルは戦力の見直しをしており、VOB搭載型ネクストに対抗してマザーウィル本来の火力を発揮するために護衛部隊の大幅な縮小と護衛部隊の縮小に伴って各カタパルトの補給所の撤去を検討していた。

 事実ホワイトグリントがVOBによって一気に懐に飛び込んできたことによって、対ネクスト戦における護衛部隊の脆さとマザーウィルの超火力が護衛部隊に被害を出してしまう可能性を露呈させてしまったのだ。この露呈させてしまった弱点はすぐにでも他企業に伝わるのは確実。これからのマザーウィル攻略には必ずと言って良いほどVOBが使用されるだろう。

 

「夕日が地平線に沈んでいく」

 

 マザーウィルが戦力の見直しをしているのを余所に、トーマスは開いた格納庫から地平線に沈んでいく夕日を見て独り言を呟く。

 戦力を見直している間はなるべく交戦を避けている現状、護衛部隊の一人であるトーマスは暇なのだ。

 

「機体の残骸も使える機体パーツも全部集めろ!」

 

 トーマスは暇でも格納庫内の作業員は暇ではなく、補給所にいた人間と一丸となってハイエンドノーマルを組み上げていた。

 戦死したトップランカーのハイエンドノーマルのパーツはまだ再利用出来る状態なのだ。ハイエンドノーマルは通常のノーマルよりも戦術の幅を広げることが出来る上に性能自体も強力、しかも高値を払わずに機体を組み上げることが出来る。まさに一石二鳥である。

 

「トーマス! こっちに来てくれ!」

「ん? はーい!」

 

 作業員の呼び声に反応し、トーマスは組み上げられている最中のハイエンドノーマルの方へと向かった。

 そして機体の核となるコアが置かれた場所、そこで作業員とトーマスは話し始める。

 

「早速な要件で悪いが、このハイエンドノーマルをお前専用の機体にしようと検討している。それで、お前専用にチューンするためにはお前の意見や癖が必要って訳なんだ」

「なんだって俺専用に? 本来こういう機体はGAの正規パイロットに優先的に回されるはずだと思うんだけど。なんか訳でもあるのか?」

 

 格納庫でハイエンドノーマルを組み上げていると思えば、唐突なパイロット任命をされたことにトーマスは疑問をぶつける。

 そんな真っ当な疑問に作業員は顔を難しくさせる。

 

「はぁ、ホワイトグリントとの戦闘で生き残った正規パイロットは全員明確にPTSDを患っちまったんだよ。おまけに非正規パイロットのほとんどもPTSDだし、そうでない奴は大体が負傷してやがるんだ。今唯一まともに動けているのはトーマス、お前ぐらいなんだよ」

 

 作業員の口から芳しくない現状を説明される。

 悲鳴と共に消えていく通信の数々。

 出来上がった肉塊と鉄塊があちらこちらに転がっている光景。

 ホワイトグリントという名の死の存在に襲われる恐怖。

 トーマスは「なるほどな」と地獄の如く凄惨な戦場を思い出して、作業員の説明に納得した。こんな恐ろしくおぞましいものを見て体験すれば、精神に異常をきたすのは当たり前のことである。

 

「分かった。ハイエンドノーマルのパイロットには喜んでなろう。レイヴンとしてハイエンドノーマルに乗れるのは十代くらいの時以来で、懐かしくもあるからな」

「へー、随分と若くして乗っていたじゃないか。まぁそういう昔話は置いといてまずはコックピットに乗ってみてくれ」

 

 作業員はそう告げてトーマスを組み上げ途中のハイエンドノーマル、その中量コアのコックピットに乗せる。

 

「あれ? このコックピット……」

 

 乗ってすぐに、トーマスはコックピット内部の違和感に気付く。

 その違和感とはまさしく、コックピット内部の大部分がハイエンドノーマル特有の複雑なものからノーマルの簡素なものに変わっていたことだった。

 

「お、元ハイエンドノーマル乗りなら気付けたか。実はコックピットに何発も直撃をもらっていてな、元通りに修復が出来なかったんだよ。だからGA製ノーマルのコックピットから使える部品を拝借して付け替えたのさ」

 

 作業員は自分たちの腕前を披露するように告げる。対してトーマスはハイエンドノーマルに乗っていた頃を思い出し、操作系に関する疑問を抱く。

 

「もう長いこと乗ってないけど、ハイエンドノーマルはコックピットも操縦も複雑だったはずだ。性能も仕様も違う機体の部品を付けて正常に動かせるのか?」

「それが大丈夫なんだな!」

 

 トーマスの疑問に胸を張って作業員は答える。ここまで胸を張って答えられるにはなにかあると思ったトーマスは「なんで大丈夫なんだ?」と更に疑問を抱く。

 そんな疑問に対して作業員は「教えてやろう!」と自慢げに説明を始める。

 

「ハイエンドノーマルとノーマルのシステムってのはな、今でこそそれぞれ違うけど元々は同じなのさ。ハイエンドのシステムを旧式のものにダウングレードさせてやれば今のノーマルとほぼ同じに出来るって訳だ。つまりだ、複数の操作と複数武装の使用を同時に出来る複雑な現行のシステムからノーマルとほとんど同じ仕様の旧式のシステムになるってことだよ」

 

 トーマスは「ほへぇー」とその全部を理解出来ず、ノーマルと同じになるということだけ理解して作業員の説明を聞き入れる。

 

「まぁとりあえずは理解した。ノーマルと同じように操作出来るなら嬉しい限りだ」

「おう! じゃあ操縦慣れも兼ねてお前の癖を把握しようか。シミュレーターで機体を動かしてみてくれ」

「了解」

 

 シミュレーターが起動される。コックピットモニターには仮想空間が表示されていき、同時に仮想敵のMTも表示される。

 馴染みのある操縦系統とシステムを以て懐かしのハイエンドノーマルを動かす。

 

「まずは動かしてみるか」

 

 多少の歩行からブースターを吹かし、トーマスのハイエンドノーマルは仮想空間の中を駆ける。

 まずは慣らし運転でただの直進。ハイエンドノーマルの叩き出す速度はネクストに及ばなくてもGA製ノーマルより遥かに速く、久しぶりに乗る以上その速度に慣れなくてはならない。

 

「よし、次は……!」

 

 しばらくの直進でハイエンドノーマルの速度に慣れてきたトーマスは仮想敵であるMTの方へと向かう。

 MTの射程距離、その間合いにトーマスのハイエンドノーマルが入るとたちまちMTの攻撃が始まった。

 

「タイマンなら」

 

 MTの放った攻撃、迫る弾幕を前にトーマスは咄嗟に回避行動に入る。そこから繰り出される機動は小刻みにジャンプを挟んで敵の攻撃を避ける奇妙な機動であった。その奇妙な機動は直線的な回避よりも優れて、一発二発ほとんど攻撃力のない被弾をもらっただけで済んでしまった。

 

「射撃は……やっぱりダメか」

 

 トーマスは奇妙な回避行動を駆使し、試しにとMTにライフルとミサイルを向ける。しかし旧式のシステムのため、FCSはライフルにだけ適応されてミサイルには適応されない。先ほどの作業員の説明の通りにノーマルと同じで複数武装は使えず、一つ一つ武装を切り替えて使用するしか出来ない。

 

「だったら」

 

 ミサイルとライフルの同時使用を諦め、ライフルだけを使用。発砲しながらMTに接近していく。

 MTの移動手段は歩行のみ、もちろん回避行動も歩行のみであって機動力なんてものはほとんどない。ハイエンドノーマルと比べればまさしく雲泥の差である。

 MTはトーマス機の接近を容易に許し、ライフルから放たれた弾に何発も直撃する。それでも装甲はそれなりにあることからライフルの直撃には耐えてみせた。

 

「これならどうだ」

 

 ライフルの直撃に耐えたとしてもMTはトーマス機の接近を許した。接近戦、有利なのはハイエンドノーマルだ。

 トーマス機の左腕のレーザーブレードから熱の塊とも言える刃が伸びる。そしてレーザーブレードは振られ、MTは焼き斬られる。

 

「撃破した。シミュレーターは、終わりか」

 

 撃破目標の撃破完了。真っ二つになったMTの残骸が仮想空間内に転がり、シミュレーター終了と同時にモニターからその姿を消していく。

 

「どうだ? 使い心地は?」

「悪くない。これまで通りに操縦出来るのは楽だよ。だけど、まだ慣れが必要ってところだ」

「そうかそうか、そういうことなら操縦系にはもう大きな手を加えなくて良さそうだな。んじゃ、ここから先のシミュレーターの戦闘データ採取はこっちでやっておくからお前は休んでおけ」

「分かった。お言葉に甘えて休ませてもらうよ」

 

 最後に「お疲れ」と言い合い、トーマスはコックピットから離れていく。トーマスの行く先は休憩所。寝る場所を求めて廊下を歩き行く。

 そしてトーマスは休憩所へとたどり着き、早速机に上半身を伏せて寝る態勢へと移る。その時、ふと砲術士たちの会話が耳に入る。

 

「ここの元司令官の配属先、知っているか?」

「確かBFF第八艦隊のギガベースだろう? それがどうかしたのかよ」

「実はさっき手に入れた情報なんだが、一週間ぐらい前に新顔のネクストにギガベースが撃沈されたらしいぜ」

「いい気味だ。俺たちが引き金を引くっていうのに、味方を撃たせるような指示を飛ばす司令官なんて死んじまえば良い」

「同感だ」

 

 そうして砲術士たちは休憩所から出て行った。

 偶然にも砲術士たちの会話を聞いていたトーマスは「またネクストか」とだけ呟き、特に思うところもなく眠りにつく。

 

 新顔のネクスト――首輪付きと呼ばれるその存在が現れてから、世界は新たな局面へと向かおうとしていた。

 




今はちょっと一次創作で忙しいのでこちらの更新はゆっくりさせてもらいます。

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