爆発の輝き、轟く発射音、人の声が飛び交う通信、戦闘は激戦へと昇華して戦場を彩っていた。
その最中、圧倒的な力を持つ存在――ネクストが現れる。その中身の実力が低くとも、もはや戦場は虐殺の場。地獄の始まりは誰にも抑えられない。
≪ネクストだと!? くそ、くそ、う……うわぁぁぁ――≫
慌て、焦る敵の通信が途切れる。そうして敵の飛行型ノーマルは無残にも木端微塵となる。
その原因を作り出すのはチャンピオン・チャンプスの搭乗する機体――キルドーザーの攻撃だ。
≪だっしゃぁぁぁっ!≫
≪うおわぁ――≫
カラードランク最下位でもネクストの攻撃はネクストの攻撃である。重量二脚型の重たい見た目とは裏腹に、飛行型ノーマルに容易に追い付くほどの亜音速機動をしては敵を一機ずつ木端微塵に解体していく。もはや猪突猛進。被弾を気にする素振りなど一切ない。
まさしくチャンピオン・チャンプスの戦闘スタイルには敵の攻撃に対しての恐れがないのだ。まるで猪突猛進のブルドーザーである。
「なんて戦い方だ。やっぱりネクストってのは凄いな……!」
飛行型ノーマルを一機ずつ確実に撃破していくキルドーザーを見つめ、トーマスは味方としての視点から改めてネクストの圧倒的な力を知る。
ネクスト一機の存在だけでもこれほどまでに頼もしい。トーマスはキルドーザーに飛行型ノーマルを任せ、自爆兵器の迎撃に専念し始める。
≪どいやぁぁぁぁっ!≫
またも弁えることのない通信が響くと、次の瞬間には爆発音が轟いた。
その爆発音はキルドーザーのグレネードキャノンのものだ。対ネクスト、対アームズフォート、対施設攻撃に使用される極大火力のグレネードキャノンである。
ノーマル相手には過剰な火力なのは一目瞭然。当てられた飛行型ノーマルは木端微塵に吹き飛び、搭乗者は機体と一緒にバラバラになって地上へと落ちていく。
≪こんな火力、ノーマルにぶつけるもんじゃな――≫
また一つ、キルドーザーによって敵の通信が途絶えた。同時に複数の爆発音が鳴り響く。その正体はミサイルの爆発。
そして背部に搭載されたグレネードキャノンとミサイルは距離の離れた飛行型ノーマルへと発射されていく。その姿こそ、キルドーザーがドーザーを持っただけの解体屋ではないことの証。ネクストの力が従来の兵器を圧倒出来ることの証だ。
「猪突猛進、対象の解体に最適化されたネクストってところか」
自爆兵器の爆発に巻き込まれようとも猪突猛進を繰り返しているキルドーザー。トーマスはそんなキルドーザーを見つめて、客観的な視点からリンクスの操縦技術とネクストの圧倒的な性能を評価していく。
そうしてトーマスの出す評価はノーマル乗りとして、時代遅れの若いレイヴンとして「ネクストってのは敵に回したくないな」の一つだ。
≪だぁぁりゃぁぁぁっ!≫
弁えない通信は味方のみならず、敵にも届く。
味方にとっては必要な通信のやり取りを邪魔する通信だが、敵にとっては声がした瞬間に死の恐怖を煽る通信だ。味方の通信の邪魔でありながら敵に恐怖を煽り、気合の入った大きい声量で通信の邪魔をするのである。
≪どすこいぃぃぃぃ!≫
「くっ、うるせっ!」
声だけで耳がいっぱいになるほどのチャンピオン・チャンプスの叫びが、またもコックピット全体に響き渡る。こうも立て続けに叫ばれてはあらゆることに我慢が出来るトーマスでも限界が来る。
≪どぉらぁぁぁっ!≫
「何度も何度も叫んで……頼もしい味方だけど、うるさいな」
トーマスの口から文句が出た。チャンピオン・チャンプスに手練れの三機の攻撃から助けてもらった身でも、この弁えない叫び声には我慢の限界であった。
それでも戦力として重要なキルドーザーの置かれた状況と機体の状態を気に掛けながら自爆兵器を迎撃していく。
≪自爆兵器の数は残り五十! もう僅かで自爆兵器を全滅出来ます!≫
状況進む戦場の中、マザーウィルのオペレーターが味方に状況を伝えた。
今の数的不利の状況で自爆兵器による被害を受けないで、その数を確実に減らしている。更にキルドーザーが増援に来たおかげで目立った被害は今のところ出ていない。
戦いはマザーウィル側の優勢で進んでいる。
≪自爆兵器はもうダメだ! ランドクラブを多少なりとも囮に出来ている内に、我々のノーマルだけで砲台を狙うぞ!≫
≪その砲台が弱点なのはもうバレてるんだよ。後は砲台が弱点であることの証明をするだけで十分なんだ! さっさと壊れて損害を出しているところを見せろよぉ!≫
敵の動きが変わる。敵の間で飛び交う通信の内容通りに自爆兵器による攻撃は諦め、飛行型ノーマルはマザーウィルの砲台へと集中攻撃を始めた。これまで小雨程度の攻撃が本格的な雨となってハイレーザーライフルによる攻撃が砲台に降り注ぐ。
「敵ノーマルの攻勢が強くなった? 敵は砲台を撃っているな。こちらの攻撃力を削るつもりか?」
トーマスはキルドーザーを見つつ、敵の動きも見て戦況をその目で確認していく。戦場にいる以上は状況の動きを把握しなければ唐突に死と出会う危険性が高まる。
それと同時にトーマス機が自爆兵器の最後の一機を撃破。自爆兵器は全滅である。
≪自爆兵器全滅! 残りの敵戦力は飛行型ノーマルとランドクラブだけです!≫
≪主砲の攻撃目標はそのままランドクラブへ! 他の全砲台は攻撃目標を飛行型ノーマルに設定、砲台を一つも破壊させるな!≫
自爆兵器の全滅をオペレーターが味方に伝え、その後の指示を司令官が下す。これで味方の矛先はランドクラブを狙う主砲を除いて、全て飛行型ノーマルへと向く。
機関砲が作る弾幕の大雨、吹き荒れる風の如くミサイルは飛び、カタパルト下の砲台から発射された砲弾は雷のように突き抜けていく。
飛行型ノーマルたちがハイレーザーによる高熱の雨を降らせるのならマザーウィルは死の嵐を作り出す。
「こちら側の攻撃が激しくなって来やがった。だが、相手も必死だ。このまま被害なくやれるか……?」
動いていく戦況を見つめ、トーマスは死の嵐の中を飛ぶ飛行型ノーマルへと向けて操縦桿のトリガーを引く。小型ミサイルがトーマス機から発射されて死の嵐の一部となる。
≪マザーウィルの攻撃が全部こっちに! こんなの避けられる訳な――≫
攻撃が何重にも重なった死の嵐は、敵の数を一瞬にして減らしていく。
地獄。
チャンピオン・チャンプスの乗るキルドーザーが来てから既に戦場は地獄へと塗り変わったのだ。もはやこの戦場は敵対する生者を死者に変えるための場所、生存は許されない。
≪チクショー! 死なば諸共ぉぉぉ!≫
しかしマザーウィルの攻撃は確かに敵に死の絶望を押し付けるものとなれど、死ぬのであればと、飛行型ノーマルのパイロットたちはその思考を狂わせ、マザーウィルに対して特攻をし始めた。
≪死ぃねぇぇぇぇ!≫
もう十機もいない飛行型ノーマルは、その全てが半壊している。しかしこんな地獄で一度狂えばそこから止まることはない。
半壊になりながらも残った飛行型ノーマルはマザーウィルの砲台に特攻を仕掛ける。
≪おぉうらぁぁぁ!≫
「特攻か!? やらせる訳には!」
キルドーザーが特攻を仕掛ける飛行型ノーマルにドーザーをぶつけ、木端微塵に解体する。トーマス機は小型ミサイルで飛行型ノーマルを迎撃、半壊なのもあって特攻を仕掛けられる前に爆発四散させた。
しかし解体しようとも迎撃しようとも敵の特攻は止まらない。
≪ぬわぁぁぁぁぁぁ!≫
敵の雄叫び。
キルドーザーが飛行型ノーマルの一体一体に集中し、トーマス機は一体ずつ確実に迎撃している中、一機の飛行型ノーマルが垂直ミサイルのハッチへと特攻を成功させる。
特攻、自爆した飛行型ノーマルの爆発はハッチ内に格納されたミサイルに誘爆、爆発の連鎖を引き起こして第六カタパルトのミサイルハッチが派手に吹き飛んだ。
≪第六カタパルトに被害!≫
≪第六カタパルト内で火災が発生しています。先ほどの敵の自爆で弾薬に引火、ハッチ内でミサイルが誘爆したようです。各ブロックにも被害が出ています≫
適切な状況がオペレーターから告げられる。
司令官はというと、溜め息を吐いて軍帽を深く被った。まるでマザーウィルの弱点がバレてしまったかのように。
≪さいごぉぉぉぉぉっ!≫
マザーウィルから被害が出ていると同時に、キルドーザーが最後の飛行型ノーマルをドーザーで解体。飛行型ノーマルを半壊から木端微塵へと姿を変えさせる。
「こっちは終わったか、後はあっちのアームズフォートだけど……」
キルドーザーが最後の一機を撃破。それを確認し、トーマスは距離の遠いランドクラブに目をやる。
次々発射される主砲の轟き。ランドクラブに主砲による攻撃が直撃していく。
そして――
≪ランドクラブ沈黙しました。周りに敵の反応はありません。我々の勝利です≫
マザーウィルの主砲によってランドクラブを撃墜。その形を崩させていき、ランドクラブの動きは完全に止まる。
戦況から見るにマザーウィル側の勝利となる。
≪これで勝利か。ホワイトグリントとの戦闘時の被害は機関砲ばかりで大した被害はなかったが、この被害ではバレたも同然か。いや、あの迷いのない特攻では……こちらの弱点はもう露呈しているのかもな。だが勝つには勝った。今はそれで良い。ネクスト並びにハイエンドノーマルはマザーウィルに帰還せよ。各砲台は臨戦態勢で待機。手の空いた者は火災の対処を優先させろ≫
戦闘が終わり、司令官は告げる。
勝利と呼べない勝利。マザーウィルの得た勝利は死の敗北を予感させる勝利であった。
「マザーウィルに本当に被害が出ている。そんな弱点があったのか……」
司令官の言い様、それでマザーウィルに被害が出ていたことに気付いたトーマスは、その目で被害箇所である第六カタパルトを見つめる。
トーマスの見つめる先には弱点の露呈がいかなる結果を出すかが現実にある。
そして次第に違うものも見えてくる。それは司令官と同じもの。
今日の勝利の先にある死の敗北である。