ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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お久しぶりの更新!


CHAPTER13

「起き……トー……マス」

 

 眠るトーマスの耳に老いた声が聞こえてくる。その声に反応し、トーマスの目は意識が薄いまま僅かに開かれ、視線は声の元へと辿っていく。

 床が見えて、壁が見えて、天井が見えると年老いた医者も見えてくる。

 

「いつまで寝ているのだね。眠り姫でもないだろうに、早く起きたまえ」

 

 年老いた医者はその口から口達者な悪態を吐き、靴のつま先でトーマスの身体を小突いた。

 小突かれ、身体を揺さぶられ、トーマスの意識と身体は目覚めていく。

 

「なん……だよ……!」

 

 トーマスは目覚めて目を見開き、すぐに上半身を起こす。起きて視界に入るのは休憩所の室内とチャンピオン・チャンプスとの腕相撲でぐったりしていた連中、そしてトーマスの目の前で立っている年老いた医者だ。

 トーマス共々ただの腕相撲如きで幾人もぐったりさせた張本人である、チャンピオン・チャンプスはこの場にいない。

 

「起きたのは君で最後だ。全く、私の仕事を増やさないでもらいたいね」

 

 たった今起きたトーマスと先ほど起こされた連中を診た年老いた医者は、またも悪態を吐き、全員が起きたのを確認してからさっさと自らの持ち場に戻っていった。

 目覚めてすぐに悪態を耳にしたトーマスにとって、気持ちの良い目覚めではない。

 

≪各作業員に通達。まもなく補給部隊が到着する。各作業員は受け入れ作業の準備に入れ≫

 

 そんなトーマスの目覚めなど世界が気にしてくれることもなく、年老いた医者が休憩所を出てってすぐに艦内放送が流れた。

 仕事がまた一つ。休憩所にいた作業員はカタパルトへと向かって行った。

 トーマスはその様子を見つめた後、自身の乗機であるハイエンドノーマルを見に行こうと休憩所を出て格納庫へ向かう。

 

「人員を入れ替えるって話を聞いたが、どうなんだ?」

「補給部隊が持ってくる連中と入れ替わるらしいぞ。聞いた話にしちゃあな」

 

 格納庫へと繋がる廊下を歩いていけば、会話と共に作業員が何人もトーマスの横を走って通って行った。もはや見慣れた作業員の忙しさを目にして、トーマスは「また忙しそうにしているな」と告げる。

 そうして歩いていく内にトーマスの足は廊下の床から格納庫の床へと来ていた。

 

「おはよう、トーマス。よく眠れたか?」

 

 トーマスが格納庫に来て早々、ハイエンドノーマルを担当する作業員からの挨拶がやって来る。トーマスは作業員の方へと歩いて「おはよう。俺はよく眠れなかった。それで、そっちは寝たのかよ?」と質問に答えながら質問を返し、挨拶を交わした。

 

「寝てない。人員入れ替えで、今日でここをおさらばするってのにハイエンドノーマルを完成させないまま眠れるかよ」

「なんでそんなにハイエンドノーマルに(こだわ)る? 完成は後の奴に任せても良いじゃないか」

「なんで拘るかって……拘って当たり前だろう。今までノーマルしか触って来なかったんだ。ハイエンドノーマルなんてレア物、好きに触れて好きに改造出来る機会なんて滅多にないのに他の奴に任せられるか」

 

 作業員は熱弁し、トーマスは「完成は自分がいる内にさせたいんだな」と作業員の言い様を納得して告げる。

 

「あぁ、おもちゃを取られたくない子供と言われようともハイエンドノーマルの完成は俺のいる内にさせたいんだ。まぁ後少しで完成するけどな」

 

 そう告げて、作業員は顔を上げる。トーマスも顔を上げ、二人揃って完成間近のハイエンドノーマルを見上げた。

 武装が取り外された細身の軽量寄り中量二脚型ハイエンドノーマル。昨日のマザーウィル防衛戦が終わってから作業員の徹夜の甲斐あって、中途半端な装甲やブースターは強化され、より安定した高機動戦闘型に調整を施されている。

 既に内装から外装までが仕上がっていた。これでおおよそは完成しているが、まだ細部のチューンは終わっていない。

 

≪補給部隊が到着。受け入れ作業を開始せよ≫

 

 格納庫内に指示が響く。

 受け入れ作業後、補給と同時に人員入れ替えが始まる。時間はない。

 

「さぁて、トーマス。人員入れ替えが始まる前に俺はこの機体を完成させる」

「なら、こうして話していると邪魔になるな。俺は離れたところで完成を見守っているよ」

「そうしてくれ」

 

 マザーウィルのカタパルトに補給部隊の輸送機が着艦した頃合い。

 トーマスはハイエンドノーマルと作業員から離れて、邪魔にならない場所からハイエンドノーマルが完成されていく様を見つめる。

 

「今補給が始まったが、人員入れ替えは補給の後だそうだ! それまで全部終わらせておけ!」

「了解です!」

 

 作業員たちの会話は格納庫内に響いた。

 ハイエンドノーマルの完成が急がれる中、補給が始まったのだ。輸送機から降ろされた補給物資は必要とされるマザーウィル各所に次々運び込まれ、そして格納庫にはGA製ノーマル『GA03-SOLARWIND』とBFF製ノーマル『044AC』のたった数機がAC用の武装と共に運び込まれた。

 マザーウィルがアームズフォート故の大規模な補給である。ここまでで既に三十分が経った。

 トーマスが見守る先のハイエンドノーマルの完成は近い。

 

「後少しだぞ……あんなに熱弁しているお前なら完成まで持っていけるはずだ」

 

 完成が中途半端で終わらないようにと、トーマスはハイエンドノーマルの完成を祈る。その内心にある優しさで完成されていく様を見守り続ける。

 そしてその時は来た。

 

「完成したぞぉ!」

 

 ハイエンドノーマル完成の声が上がった。作業員は疲れた身体で喜びを表し、トーマスはその様子を目にして作業員と完成したハイエンドノーマルの方へ近付いていく。

 

「終わったのか?」

「あぁ、バッチリな!」

 

 トーマスが尋ねると作業員はハイエンドノーマル完成の達成感を示すほどに笑顔を向けた。完成したことを祝うようにトーマスも笑顔を向けて、完成したハイエンドノーマルを見上げる。

 完成したハイエンドノーマルに外見的に大きな変更はないが、所々にチューンの際の細かな差異はあった。まさしく完成である。

 

「これから人員入れ替えを始める! 作業途中の者は急ぎ作業を終わらせ、輸送機に乗ってくれ!」

 

 ハイエンドノーマル完成と同時に丁度良く補給が終わったのか、格納庫内に人員入れ替えの連絡が入った。

 その連絡を耳に入れたトーマスは「完成を祝う暇はなさそうだ」と告げ、作業員は眠たげにあくびを一つして「タイムリミットってところか」と話を続けた。

 

「まぁこっちの作業はもう終わったし、ここら辺の機材を片付けて早々に輸送機に乗れるけど、稼働テストが出来ないのは残念だ。本当は稼働テストの結果からその都度改良を加えていきたいんだけどな」

「そこは後の連中に任せるしかないだろうよ」

「そうだな」

 

 話していく内に二人の目線はハイエンドノーマルから格納庫の外へと向く。

 作業を終えた作業員から格納庫を去り、補給部隊の輸送機へと乗り込んでいく。そして去った者たちの代わりが格納庫に入ってくる。しかしその人数は少ない。去る者が何百人に対して、やって来る者は去る者の半数以下でたったの数十人である。

 

「これでおさらばだ、トーマス。ハイエンドノーマルを触れて楽しかったよ」

「元気でな。あ……そういえば名前は?」

「どうせもう去る者の名前だけど?」

「去る者の名を言えなくてどうするよ」

 

 トーマスの言い様に、まだ自らの名を告げていない作業員は笑みを浮かべて――

 

「ヴェイン=フローレス、俺の名だ。ハイエンドノーマルの機体名の参考にでもするんだな」

 

 ハイエンドノーマルを担当した作業員――ヴェインは自らの名を告げる。

 

「そうさせてもらうよ。それじゃあ、ヴェイン、またどこかで」

「あぁ、トーマス。生き残れよ」

 

 二人は別れを告げて離れていく。ヴェインは輸送機へと乗り込み、トーマスはマザーウィルの格納庫へと残る。

 そうして仕事を終えた補給部隊は輸送機にヴェインを含む作業員たちを乗せて飛び立って行った。

 トーマスは格納庫の外へと出て、輸送機の飛び立っていく姿を見送る。カブラカン撃破の任を受けたネクストの時と同じく。

 生き地獄のような戦場に残されても優しさは忘れず。その眼差しで見送る。




マザーウィルでの戦いは徐々に終わりに近付いていきます。首輪付きとの邂逅は後少しなのだから
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