≪ミッションを説明しましょう≫
どこか知らない場所。
大人しげな少年の姿をした獣は、厳しい顔付きをした美人の女性と共に始まったばかりのブリーフィングを眺めていた。
≪依頼主はオーメル・サイエンス社。目的はBFF社の主力アームズフォート『スピリット・オブ・マザーウィル』の排除となります≫
画面に大きく表示されたオーメル・サイエンス社のロゴ。その横にはBFF社のロゴが表示される。オーメルのロゴと仲介人の言葉が示す通り、依頼はオーメル・サイエンス社からのもの。今回首輪付きが敵対する企業はGA傘下のBFF社だ。
≪敵アームズフォートの主兵装は大口径の長距離実弾兵器です。図体ばかり大きな時代遅れの老兵ではありますが……その威力と射程距離は、それなり以上の脅威です≫
画面は切り替わり、画面内にマザーウィルの姿が映し出された。
説明に沿ってマザーウィルの主砲に注目し、仲介人からは〝それなり以上〟の言葉を付け加えて〝脅威〟という言葉が出てくる。
≪そのため、依頼主からはVOBの使用をご提案頂いてます。確かにVOBの超スピードがあれば容易く敵の懐に入り込むことが出来るでしょう≫
画面はまたしても切り替わる。
ネクストに取り付けられるVOBの姿。マザーウィルを撃墜するための一つの答え。そのまま仲介人の話しに合わせて、VOBを使用したネクストがマザーウィルに接近してみせる様子が映し出される。
≪懐に入った後は各所に配置された砲台を狙ってください。砲台の破壊から内部に損害が伝播しやすい構造上の欠陥が報告されています≫
画面は再びマザーウィルを映した。仲介人の話に沿って、大きく弱点となる垂直ミサイルランチャーや超大口径の主砲を表示。続けて、マザーウィルとの交戦から得た報告を元に、データ化した情報が画面に映った。
≪随分と杜撰な設計ですが、艦船にご執心な彼らなど所詮そんなものです≫
説明の最後に内通者から得たマザーウィルの設計図が映される。用意は周到である。
≪説明は以上です≫
真っ白となった画面の中央に浮かび上がる、オーメル・サイエンス社のロゴ。
≪オーメル・サイエンス社はこのミッションに注目しています。くれぐれも、よろしくお願いしますね≫
ブリーフィングは終わる。
女性は大人しくしている獣の方を見つめ、獣は女性に向かって頷く。そうしてオーメル・サイエンス社の依頼は受諾される。
「今回の相手は大物だぞ。後悔はないな?」
女性――セレン=ヘイズは告げる。対して首輪付きは頷くだけで、後悔がないことを態度で示した。
「分かった」
セレンはそれだけ言い、首輪付きと共に出撃準備へと取り掛かっていく。
※
出撃準備からしばらくの時間が経ち、出撃の時がやって来た。
既にセレンはオペレーター席に座り、首輪付きはローゼンタール社の新標準機『TYPE-LANCEL』をベースにしたネクスト――ストレイドへと乗り込んでいる。
≪VOB取り付け完了!≫
≪よし、出撃だ≫
オペレーターのセレンが出撃を促す。
首輪付きは無言のままで頷き、出撃を開始。初期加速としてストレイドのブースターを使い、まずは滑走路から飛び立つ。
≪VOB点火開始!≫
通信から入ってきた声と同時にストレイドに取り付けられたVOBが点火。超音速の加速によって、ストレイドは一瞬にして滑走路から離れていった。
獣は空を駆ける。その幼い目に純粋な破壊衝動を宿しながら。
≪ほう……これは利用出来そうだ≫
なにかに気付き、色気の混ざる声でセレンは告げる。直後、首輪付きに指示されていた目標への進行ルートが更新された。
≪聞こえているか? 進行ルートの変更だ。障害物の多い進行ルートとなっているが、お前ならやれるだろう?≫
進行ルートの変更。首輪付きは頷き、小さく声を出してセレンに返事を返した。
≪信じているからな≫
VOBで加速し続けるストレイドは進行ルートを変更、そのまま旧ピースシティの廃墟群へ隠れるようにマザーウィルとの距離を縮めいていく。
そうして彼我の距離は200kmを下回った。既にこの距離はマザーウィルの射程圏内。捕捉されてしまえば計六門の主砲による攻撃が飛んでくるのは間違いない。
≪そうだ、そのままだ≫
ストレイドが廃墟群へと入った。彼我の距離は100kmを下回る。まだ捕捉はされていないが、VOBの超スピードで障害物を避けるのは困難だ。
だとしても首輪付きは目の前に障害物が迫っても臆することはない。VOBによって超音速で加速していようと、回避困難な障害物を淡々と避け続けて進んでいく。
≪抜けたな≫
セレンの言葉通り、廃墟群からVOBで加速したままのストレイドが出てくる。彼我の距離は50kmを下回った。ここから先は廃墟群のような身を隠すところなどない。当然、マザーウィルに捕捉される。
≪ミッション開始。BFFのアームズフォート、スピリット・オブ・マザーウィルを撃破する≫
戦闘開始を示すセレンの声。同時に遠方からマザーウィルの攻撃が飛んでくる。計六門の主砲による攻撃。大地を抉り、建物を一瞬で消し飛ばすほどの攻撃力だ。実弾兵器であろうと直撃は危険である。
≪まずはVOBで一気に彼我の距離を詰める。超高速戦だ、目を回すなよ≫
セレンの通信に耳を傾けながら、マザーウィルからの攻撃を避けつつ彼我の距離を詰めていく。
首輪付きは近付く。地獄と共に、マザーウィルへと、逃げようのない大物を狩るために。
次回はいよいよ首輪付き戦