地獄は再びやって来る。死を思わせる存在と共に。
無論、地獄が再び来ようと甘んじて受けるマザーウィルではない。攻撃を重ねて分厚い弾幕を作り上げ、その中に護衛部隊とキルドーザーの強力な攻撃が加わる。まさに一つの攻撃でもストレイドには痛手になり得る抵抗。今この時、戦いは続いている。
≪どすこいぃぃぃぃ!≫
敵味方の通信によく響くチャンピオン・チャンプスの声。
ようやくという程度で当たる一発二発の少しをPAで受け止められ、肝心なストレイドの装甲には届かない。もはやチャンピオン・チャンプスのうるさい声と共に繰り出されるキルドーザーの音速を超えた突撃でさえ、飛び交う他の攻撃と同様にストレイドに届くことはない。
「攻撃を一点に集中させるように動いて、こちらの攻撃をまとめて避けてやがる。クソ、そうでなくとも中々当たらないというのに。動きは速くとも分かりやすいのによ」
ストレイドへ集中する攻撃の数々。どれだけの量の攻撃でも容易く避けられる光景がトーマスの目に映った。自身の乗機であるフロウヴェインの攻撃も小型ミサイルと垂直ミサイルの一つ二つが運良く当たる程度。このままでは弾を切らしたところを撃破されるだけである。
「こちらの攻撃、どうにか当てられないか!」
攻撃の止む気配のない最中、トーマスは思考する。
しかしトーマスの思考が答えを導き出す前にストレイドは動いた。弾幕をすり抜ける超音速で主砲に接近、右翼の主砲へQBによる一瞬の加速の後、レーザーブレードの刃が右翼の主砲を一つずつ切り裂く。
そうして弾薬へ引火する。右翼の砲台は派手な爆発を引き起こし、その残骸は戦場に降り注いだ。
≪右翼の主砲大破! 各ブロックに被害が出ています!≫
≪第三ブロックにて火災発生!≫
右翼の主砲を破壊された。たったそれだけで深刻な被害報告が飛んでくる。その事実こそ、確かにストレイドが容赦なくマザーウィルの弱点を攻撃していることに他ならない。
「今ので被害が出たのか! このままではまずい、どうにか敵のネクストを砲台から遠ざけないとな」
口に出しながら思考しても攻撃の手は止めず、フロウヴェインはカタパルトの上を滑りながら垂直ミサイルを発射し続ける。無駄弾になろうともストレイドの積極的な攻撃を許さないために撃たねばならない。素直に攻撃を許せば死があるのみなのだから。
「敵ネクストの気を引いて砲台から引き離すか? 死ぬのは勘弁だが……!」
今の状況を少しでも脱するための策が浮かんだトーマスは、実行に伴うリスクを自らに投げかけ、大きすぎる死を前にして策の実行を迷った。
その間、時間は残酷にも止まらない。こうしている内にストレイドは左翼の主砲の方にも一瞬にして向かい、繰り出されるレーザーブレードの刃が主砲を切り裂いている。
≪左翼の主砲もやられました!≫
≪第五ブロックにも火災が発生! 被害が拡大しています!≫
左翼の主砲も爆発して散る。これで脅威的な主兵装が消え、マザーウィルは大きなダメージを受けた。このまま砲台の破壊を続けられてしまえばマザーウィルは簡単に崩壊するだろう。
「もう迷ってる場合じゃない、やるしかない!」
トーマスは迷いを捨てるように決意する。
ストレイドの気を引く、マザーウィルと共に全力で攻撃を続ける、どの選択をしてもストレイドがこの戦場にいる限り死は近付いてくる。
どれを選択しても変わらない死が近付くのならと、トーマスは〝ストレイドの気を引く〟という選択をしたのだ。
「こっから先は実力と運だな。簡単に死ぬなよ、俺」
第三カタパルトへと降りたストレイドに向かってフロウヴェインが動き出す。
≪第三カタパルトに被害発生! ハッチ内でミサイルが誘爆した模様!≫
通信の内容はまさにストレイドが第三カタパルトで暴れていることを示している。そんな中、フロウヴェインが第三カタパルトへと降りる。
二つ目のミサイルハッチの爆発。それと共にストレイドとフロウヴェインは目を合わせた。
「逃げてぇ……逃げてどうする? 逃げた先に良い場所があるのか?」
ストレイドと目が合い、トーマスは死を前にして本音を漏らす。そして自らの本音に問う。逃げてもそこにはまた地獄が待っている。ただ死ぬのを遅くするだけのことだ。
「まぁ、ある訳ないよなぁ!」
トーマスの言葉と共にフロウヴェインはストレイドと見合った状態から、右腕部のグレネードキャノンを放った。しかしストレイドがグレネードキャノンによる攻撃を甘んじて受けてくれることなどなく、フロウヴェインの攻撃はQBによって避けられる。
「そりゃ避けるよな。だが、それでも良い!」
ストレイドの反撃、三十発以上の拡散ミサイルがフロウヴェイン目掛けて飛んでくる。ハイエンドノーマルでは避けきれない量と飛翔速度。まともに被弾すれば致命的だ。
「そうだ……俺を狙え」
だがトーマスは拡散ミサイルが接近する瞬間を狙い、右腕部のグレネードキャノンを足元に撃ち、迫ってくる拡散ミサイルの全てを爆風によって迎撃した。
フロウヴェインとトーマスはまだ生きている。
≪おい、無茶だ! ハイエンドでネクストに勝てっこねぇ!≫
護衛部隊のノーマルから通信が入り込む。
ストレイドの目は完全にフロウヴェインの方へ向いている。
「勝てないのは承知の上だ。生き残れさえすりゃ良いんだからな」
再びグレネードキャノンを鳴り響かせ、ストレイドの前でチョロチョロと動きながらマザーウィルの真下へと誘う。
小ジャンプ移動によるハエのような鬱陶しい動きと繰り出してくる無視出来ない攻撃に、まんまと首輪付きはトーマスの挑発に乗った。ストレイドはフロウヴェインを追ってマザーウィルの真下へと向かう。
「来たな?」
マザーウィルの真下にて、ストレイドとフロウヴェインの両者は睨み合う。
ここに砲台はない。いるのはストレイドとフロウヴェイン、そして――
≪だっしゃぁぁぁぁっ!≫
チャンピオン・チャンプスの乗るキルドーザーがストレイドへと迫る。同時にキルドーザーから発射された高速ミサイル、背部グレネードキャノンもストレイドに迫った。
それら迫る攻撃をストレイドは距離を離しながら回避し、キルドーザーとフロウヴェインの二機を死の眼差しで見つめる。
「まだまだ死ぬつもりはないぜ、戦いはこっからだ」
定めれた運命は彼らに敗北を与えるだろう。だが、まだ死は決定されていない。
誰も知らぬ生はここでこうして戦いを続けていく。
再来した地獄の第一幕