太陽に照らされて、マザーウィルが落とす大きな影。
マザーウィルの真下、太陽の光が当たらない中に三つの目が輝く。それはフロウヴェイン、キルドーザー、ストレイド、それぞれのメインカメラの輝き。
砲台の攻撃が届かない場所。影と陰の中で一つの輝きが走る。
≪どぅりゃぁぁぁ!≫
チャンピオン・チャンプスの声と共にキルドーザーが目の輝きを走らせた。OBとQBによる爆発的な加速でストレイドに一気に接近、加速と重量を乗せて勢いのあるままドーザーで殴りつける。しかし殴ったところには既にストレイドの姿はない。攻撃は当たらず、空振りとなる。
「チャンプス、左!」
≪なんだとぉぉぉぉっ!≫
勢いよく空振り、隙だらけのキルドーザー。そのすぐ左でストレイドがレーザーブレードの刃を見せている。
その光景を目の当たりにしたトーマスは通信越しに知らせつつ、操縦桿のトリガーを引く。一つの轟きと共にストレイド目掛けてグレネードキャノンの砲弾が飛んだ。
「当たらなくても……!」
フロウヴェインの攻撃は当たらず、キルドーザーとストレイドの間を砲弾が飛んでいく。だがこれで、キルドーザーとストレイドの距離は離れた。離さなければレーザーブレードの刃がキルドーザーを溶かし斬っていたところだ。
「味方を生かして活かせば、まだ可能性はある」
死そのものを予感させるストレイドを見ながら、トーマスは抵抗する意志のままに告げる。
そして敵と味方の距離は再び離れた。これで死の訪れを先延ばしに出来たかというと、そうではない。
≪だっしゃぁぁぁ!≫
またもうるさい声。それと同時に射撃戦が始まった。
ストレイドに直進しながらキルドーザーはグレネードキャノンと高速ミサイルを発射。対してストレイドは一定の距離を保ちながらキルドーザーの攻撃を回避し、ライフルとチェーンガンの同時発射をキルドーザーに当てていく。
≪キルドーザーァァァ……!≫
通信に入ってくるチャンピオン・チャンプスの声が弱気になる。
それもそのはず、ストレイドにはPAにミサイルの一発二発が当たる程度なのに対して、キルドーザーの装甲はPAと共に確実に削られているのだ。
射撃戦が始まってから一瞬にしてキルドーザーは追い詰められる。このままキルドーザーがやられてしまえば、次はトーマスの乗るフロウヴェインの番だ。その意味で死は確実に近付いている。
「クソ、どっちも速い! 援護を入れられない!」
全て一瞬のこと。敵と味方が凄まじいスピードで射線に重なっては離れていく状況に、トーマスは援護を入れようと苦戦。その間にこの戦いで頼みの綱であるキルドーザーが追い詰められていたのだ。
もはや軽量寄り中量二脚だとしても重武装だとしても、ハイエンドノーマルの時点でネクスト同士の戦闘にまともに付いていけない。その現実がトーマスを焦らせる。
「だったら……」
そんな焦りの中でも出来ることを捻り出し、フロウヴェインを動かす。生き残るのならば焦りの末に絶望している暇はない。
≪どすこいぃぃっ!≫
キルドーザーとストレイドの戦闘は続いている。状況は変わらない。追っているのはキルドーザーだが、ストレイドの引き撃ちによって中破にまで追い詰められている。まさしくキルドーザーが一方的に削られているままだ。
「守りは捨てる!」
キルドーザーを守ろうとしても援護が入れられないのでは意味がない。
もはやチャンピオン・チャンプスの犠牲も止む無しとして、トーマスはストレイド撃破のために思考を動かす。ここでキルドーザーが撃墜されても敵を倒しさえすればマザーウィルの乗員と自らは生き残れるのだから。
≪だぁらぁぁぁぁっ!≫
中破し、追い詰められてもキルドーザーの勢いは止まらない。尚もストレイドに直進し続け、回避されようとも攻撃を続ける。
「そうだ、そのまま……」
交戦は続くが、もう長くはない。キルドーザーの撃墜は近い。
故にトーマスは撃墜寸前のキルドーザーを囮にして、ゆっくりとストレイドに狙いをつけた。
「避けるなよ!」
直進し続けるキルドーザーが次第に横にずれていくと、その背後から腕部グレネードキャノンを構えたフロウヴェインが現れる。
瞬間、右腕部のグレネードキャノンから一つの轟きが放たれた。轟きと一緒に出てきた砲弾はPAのなくなったキルドーザーのすぐ横を通り、反応の遅れたストレイドのPAに直撃。直に当てられた爆発の衝撃でストレイドは態勢を崩した。
≪だっっっしゃぁぁぁぁ!≫
最大のチャンスが到来した。態勢の崩れたストレイドに、キルドーザーの残り少ないグレネードキャノンと高速ミサイルが当てられていく。
爆発に次ぐ爆発。
ストレイドのPAは減衰し、前面の装甲が吹き飛ぶ。この一瞬にして中破近くに持ち込む。
「これで中破なのか、ネクストってのはしぶとい!」
しかし裏を返せば中破近くで止まっただけということ。ストレイドは態勢を戻し、再び動き始める。
「ならばもう一度全火力を――」
トーマスが言いかけ、動きながら右腕部のグレネードキャノンで再びストレイドを捉え、キルドーザーの武装がドーザーのみとなった、その時であった。
≪やっぱりかぁぁぁ……!!≫
その声を最期に、チャンピオン・チャンプスとの通信は途切れた。
コックピットモニターを通してトーマスの目に映るのは、砂埃の中でキルドーザーを真っ二つに溶かし裂くストレイドの姿。目で追うことが出来ないほどの一瞬。なにが起こったのかまるで分からない。
「なんだ? チャンプス!?」
トーマスが反応する頃にはキルドーザーの上半身は地に落ちていた。
それは瞬間移動を見ているのに等しい。実際に瞬間移動の如く凄まじい機動と斬撃を繰り出しているのが現実である。
「次は、俺の番か……?」
鉄塊と化したキルドーザー、死を与えられたチャンピオン・チャンプス。
トーマスは自らの死を確信する。それほどに死というものがトーマスの心臓を触っている。
「まだ俺は人生を辞めるつもりはないぞ! 最期まで、やってやる!」
苦しく、肌に伝わらない冷たい感触と悪寒の走り、トーマスは死に浸っている。それでも生き抜くことを覚悟する。
持てる力を解き放った獣を前にして。首輪付きという名の死を前にして。
死に向かう戦いは続く。
次で決着