ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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本作は初期に決めていたところまで話を進めて完結しましたが、ここからは追加で考えた本来の結末までを書いていきます。


EX CHAPTER 例外

 死臭と硝煙の漂う鉄塊の山。鉄塊には仄かに熱と燻りが残ったまま放置され、その鉄塊と共に人であった肉塊が倒れている。

 死が訪れた跡。首輪付きが過ぎ去った跡。その光景は鉄塊の山と化したマザーウィルの姿。死がこの場を埋め尽くしている。

 だが、それら例となる死から外れた者がいる。この光景の中に。

 

「う……っ!」

 

 例から外れた者は目を覚ます。その者の視界に入るのは機能を失った暗いコックピット。

 

「ここは?」

 

 なにが起こっているか分からず、自身が生きていることにも疑問を抱く。そして暗いコックピット内を見渡す。なにかが分かる訳ではないとしても。

 

「俺は生きて……くっ!」

 

 コックピット内を見渡してもなにも分からない。それを自覚して、外を確認しに身体を動かそうとしたその時、彼の額に痛みが走った。

 

「なんだ?」

 

 彼は反射的に痛みの走った額を手で押さえた。その手には濡れた感触と生温かさがある。手にそんな違和感を感じ取る彼は、自らの手を見る。

 

「血……俺のか」

 

 目に映るのは血の付いた自らの手。その血は紛れもなく彼自身の血。

 

「死んでないんだな」

 

 彼は自らの血を見て死んでないことを感じ取るが、それでも自分の姿がどうなっているかは分からない。彼は恐る恐るコックピットモニターに反射する自分の顔を見つめる。

 反射して映るのは少女のような顔。額から血を流す例外の一人――トーマス=フェイスの血を流す顔がコックピットモニターに反射して映った。

 

「俺は、本当に生きているんだな」

 

 血の感触と生温かさ、額に走る痛み、コックピットモニターに反射している自分の生きた姿。感じる全てと目に見える全てが生きている証拠を示す。

 トーマスはこの死で埋め尽くされた場所で、自らが生きていることを実感することとなる。

 

「とりあえず外に出るか」

 

 そうしてトーマスは周りの確認のためにコックピットハッチを開く。生きて、外を見る。

 そこにあるのはいつもの光景。肉塊と鉄塊が転がり、死で埋め尽くされたこの世の地獄。ある者は焼かれ、ある者は形を残さず、ある者は落下してきた残骸の下敷きに。

 

「またこの光景か」

 

 目の前に広がる埋め尽くされた死の中、生きているのが奇跡的なぐらいに、トーマスは今こうして生きている。

 

「この有り様じゃあ、ここで生きている奴はいなさそうだ」

 

 目の前の地獄に生きている人間の気配はない。ただ死者がそこにいるだけ。救いを求めるようにどこかへと手を伸ばしているだけだ。

 

「なんだ?」

 

 地獄の中で救いを求める死者たち。いくつかの死者たちが手を伸ばす先、その遠方から複数の飛行音が近付いてくる。トーマスの目が飛行音の方を見れば、BFFのロゴが入った複数の輸送ヘリと護衛機がこの場に来るのが見えてくる。

 

「回収部隊か、そうでなくてもこれでまた生きられるな」

 

 それは運命か、トーマスが意識を取り戻したと同時に回収部隊は来た。

 しばらくして回収部隊は周辺の調査を行い、マザーウィルの残骸から戦闘データと必要機材を回収。そのついでに生存者であるトーマスを回収していく。

 

「あんた、運が良いな。マザーウィルから脱出した連中の要請が遅ければ、俺たちに回収されてなかったかもしれないぜ?」

「そうだな、相変わらずこういう時の運だけは良いみたいだ。要請してくれた連中には感謝しかないよ」

 

 隊員との軽い会話の中でマザーウィルから脱出した者がいることを知らされ、トーマスは感謝の気持ちを持って告げた。

 そうして回収部隊はトーマスを乗せて飛び立っていく。

 トーマスは生存した。運命や偶然であろうと、これは変わらない事実だ。

 

 

  ※

 

 

 トーマスが回収された日から一か月が経つ。

 この期間にトーマスは怪我の治療と報酬の受け取りを済ませ、雇い主のGAから頼まれた自身のプロフィール作成を完了させていた。現在は機体の受領もないままGA社所有のコロニーで次の配属を持っている。

 

「ふむ、この若者が次の候補者か?」

 

 そんな待機状態のトーマスのプロフィールと報告書を含めた資料に、スーツ姿の老いた古強者は目を通していた。

 

「はい、この資料によれば彼はマザーウィル防衛の一角を担い、更に三度のネクスト戦を生き抜いていることになっています。しかも幼少期から戦っているとも記載されているので、ここまで生き抜いていることにも納得出来るかと」

 

 老いた古強者の横でトーマスの資料提供者の技術者が告げる。

 

「となればこの候補者も実戦上がりということか、ワンダフルボディ同様に『NEW-SUNSHINE計画(NSS計画)』の汚点になるのかが不安なのかね?」

「ドン・カーネルの輩出は計画の汚点ではなく功績です、ローディー」

 

 ローディーと呼ばれた古強者は資料に目を通しながら告げる。思惑も面子も見透かされた言葉に、技術者は意地になるしかない。

 

「汚点か功績かはともかく、私はこの資料から戦闘に関する彼の素養を見出せば良いのだろう?」

「察しが早くて助かります」

「ふん……彼も計画の汚点になれば、私の面子も道連れにする気であろうに。まぁ良い。私に似た者でも欲しいと焦る気持ちは分からんでもないからな」

 

 NSS計画に絡みつく人の思惑、それをローディーは口に出していく。横にいる技術者の感情など無視した率直な言葉だ。

 

「しかしこれでは判断材料が足らんな。先に彼のAMS適性の方を進めたまえ」

「本格的にお引き受けして頂けるので?」

「アームズフォートがあれど、後進のリンクスは必要だ。もちろん私の面子もある。だが、それ以上に彼の力が見てみたくなった」

「では後日、彼のAMS適性データを送りますので、よろしくお願いします」

 

 その言葉を最後に、ローディーと技術者は解散する。

 

 トーマスの運命は進み行く。本人が望もうと望まないと、歩く先は地獄に変わりはない。それが例外であるトーマスの宿命。その宿命こそが例外である証明となるのだから。

 




本作の完結がネクストとハイエンドノーマルの差、リンクスとレイヴンの差、原作の主人公たちの圧倒的な力をトーマスの視点から見るのが中心のお話ならば……ここから先はトーマスのお話が中心となります。

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