例外としての運命は進む。トーマスに拒否権はない。
「トーマス=フェイス、次の君の配属先が決まった」
そう告げるのはNSS計画の技術者。
トーマスは技術者の身なりを見るや「教えてくれるのは兵士じゃないんだな」と返し、技術者の顔を見る。
「配属先を教えるのが兵士じゃなく、この私で不満かい?」
「不満はない。ただ次の配属先が戦場じゃないのは見れば分かる。それで、俺はモルモットにでもなれば良いのか?」
トーマスの勘の良い口に答えるように、技術者はNSS計画の外部者向け資料をトーマスに手渡す。
「まずはこれに目を通したまえ。勘の良い君なら少し目を通せば分かるはずだ」
技術者の言われるままトーマスは手渡された資料に目を通し始めた。
その資料の内容を要約すれば、AMS適性が低くてもリンクスになれるということ。トーマスは資料に目を通している内にこの資料を手渡された意味を知る。
「なるほど、レイヴンからリンクスに転職ってことか」
「ご名答。これから君はNSS計画のリンクスとなる。もちろん君の適性値が高ければNSS計画以上の、もっと待遇の良いリンクスとして迎え入れる用意もあるよ」
これからリンクスになることを知ったトーマスは資料を閉じる。
「これで俺もネクストっていう化け物に乗れるんだな」
そして言葉と共にトーマスは思い出す。地獄を見たその目に焼き付く化け物たちの姿。ホワイトグリントとストレイド、幼い頃に見たかつてのホワイトグリントを。
「とりあえず異動の支度をしたまえ。君の支度が終わり次第、すぐにNSS計画の施設へ向かう」
「了解」
化け物たちと同じ力を手にすることが出来るチャンスが巡ってきた。力を得れば、もう無力なまま地獄を見ることもない。その期待がトーマスを行く支度へと駆り立てる。
しばらくの後、支度を終えたトーマスは技術者と共に施設へ向かった。そこに待っているのは新たな地獄。新たな苦しみ。
※
トーマスの配属がNSS計画に決まってから数日が過ぎた。
この数日の間に戦場から離れたNSS計画関連施設にて、トーマスのAMS適性検査が行われた。
化け物の力を得られるまで後少し。しかし行われる適性検査は力を得る云々を超えて、トーマスにとって想像を絶する苦しみとなる。
「ぐっ! うぁぁぁ……っ!」
脳に重たくのしかかる凄まじい負担。押し寄せる気持ちの悪さに耐え、検査を再開する度に精神をすり減らす。
もはや苦しみに耐える叫びは連日施設に響いていた。
「期待しただけ無駄ということか。それでも今は我慢するしかないか」
そうして適性検査を終えて、技術者は告げる。その言葉が示すように、数日掛かったトーマスのAMS適性検査の結果は見事に最低値だった。
「はぁ……」
かつて粗製と呼ばれた者たちよりもトーマスの適性値は下回っている事実。これまでのリンクスたちよりも安定してネクストを動かせないことなどの懸念が、技術者にため息を吐かせる。
「これではなり損ないですね。欠陥品とでも呼ぶべきでしょうか」
「欠陥品でもネクストを動かせるなら、それで十分だ。後の足りないところは彼自身の実力でどうにかしてもらおう」
リンクスのなり損ない、粗製を下回る欠陥品。
技術者たちはトーマスのAMS適性に対する評価を底辺以下に位置づける。それでもトーマスをリンクスにさせる方針は変わらない。例え欠陥品でもネクストの戦力が必要なのだから。
※
トーマスのAMS適性検査が終わってから後日。
技術者は予定通りローディーにAMS適性検査の結果を送り、そのまた後日に彼らは話し合いの席へと座った。
「ローディー、検査の結果には目を通しましたか?」
「しっかり見させてもらったよ」
両者の間に置かれたテーブルに資料が置かれる。
技術者は不安の目で、ローディーは古強者らしい厳しい表情でお互い資料を見つめる。
「協力を頂ける判断材料には?」
「率直に言おう。判断材料にはなったが、私がこの計画に協力することはない」
「それは……なぜ?」
ローディーの協力を得られない。目の前のチャンスを失う訳にはいかない技術者は、ローディーに理由を尋ねる。
「理由は簡単だ。彼は使い捨てのリンクスになる可能性が極めて高いからだ。資料で見た彼の実力はともかく、このAMS適性では使い捨てが妥当だろう。それは彼の適性を検査した君たちも良く分かるはずだ」
「それは可能性だけであって、トーマスが最高クラスの戦力になることもまた、否定は出来ません」
「これ以上彼を交渉のカードにするな」
粘り続ける技術者に、ローディーが告げる。その古強者の表情には哀れみが一つ浮かび、技術者に向ける目は諦観に満ちていく。
「使い捨てとなる者に能力以上のものを期待し過ぎるのは酷だろうに。彼のためにも、使い捨てとして役目を終わらせてやる方が良い」
ローディーは一人のリンクスとして、後進となるトーマスを哀れんだ。もはや古強者の表情はなく、諦観に満ちた精一杯の優しさで言葉を発していた。
「では……」
GAが誇る最高クラスのリンクス、得られるはずだったローディーの協力が計画から離れていった。
技術者の様子は落胆を見せる。
「そういうことだ。計画は私抜きで君たちの好きにしたまえ。私はただ、老兵として後進を見守っている」
その言葉を最後に、ローディーはその場を去る。落胆する技術者は去っていくローディーの背中を見つめることしか出来なかった。
※
NSS計画関連施設、会議室にて。
「それで、協力は得られないと?」
「はい。理由は有力な候補者のAMS適性です」
技術者たちなどの関係者が、計画にローディーの協力がないことを知る。
「確か欠陥品だったな。他の候補者を交渉に使うのは?」
「他はまだ適性のある者を発見出来ておらず、今のところ交渉のカードに使えるのは彼一人だけです」
そして彼らの会議は計画の凍結とアームズフォートの優位性に傾いていった。
計画は前へ進むしかなくなる。それはトーマスとて同じ。使い捨てしてのリンクス、進むしかない道の先には再来が待っている。
かつてのレイヴンの再来。ちっぽけなレイヴンは、やがて化け物となるであろう。