今回は戦闘二本立て
粗製を下回るAMS適性。欠陥品と称されたトーマスの運命は新たな段階へと入る。
「トーマス」
施設の一室、トーマスが休息を取っているところに技術者の呼び声が響いた。
トーマスは反応して顔を上げる。その顔はAMS適性の検査で気分と機嫌が悪く、酷く疲れていた。
「なにか?」
疲れと機嫌の悪さ故にトゲのある言いようで、トーマスは告げる。
「君に合格通知だ。これから君には様々な過程を踏んでもらい、リンクスとなってもらう。励むことだ」
技術者の口にする言葉に心配や慈悲はない。欠陥品たるトーマスなど、輩出したという実績作りと計画の凍結を避けるための使い捨てでしかないのだから。
「では、また来る。それまでは待機だ」
「了解……」
こうしてしばらくの後、トーマスは使い捨てとして、リンクスのなり損ないとして、正式にネクストと繋がる者となった。
しかしトーマスの存在は公にされることはない。カラードに名を連ねない使い捨てとして、隠匿された戦力になり行くのである。
※
トーマスが正式にリンクスとなってから数日。かなり短い期間でネクストの操縦訓練を終え、戦闘訓練へと移行する。
今日はその戦闘訓練の初日。AMSで実機のネクストと繋がり、戦闘シミュレーターの仮想空間内で戦闘訓練が開始されようとしていた。
「彼の調子は?」
「いつも通り悪いですよ。それで、この計画は上層部の方でどうなっているんです?」
「上層部からのNSS計画の評価は我々が思うよりも上々だったよ。つまり上のお望みは良質なリンクスよりもリンクスの数ってことさ」
初の戦闘訓練が始まろうとしている中、技術者たちは大して期待もない表情で話し合っていた。欠陥品の訓練など興味もない様子である。
「仮想空間及び仮想敵、設定完了しました。これより戦闘訓練を行います。リンクスはネクストの操縦を開始してください」
「くっ……了解!」
オペレーターの指示に従い、トーマスは脳に負担を受け入れながらネクストの操縦を開始。
GA新企業標準機たる中量二脚型の自機が仮想空間内に映し出される頃には、仮想空間内は砂漠となって、三十機を超えるノーマルとMTの混成部隊が仮想敵として現れる。
「始まるな」
ローディーもこの場におり、老兵らしく後進であるトーマスの初訓練を見守っている。その目はトーマスの初訓練に対して冷え切った様子の技術者たちとは違い、トーマスの力と可能性を見ようとしていた。
「訓練開始。戦闘を開始してください」
戦闘訓練の始まり。それをオペレーターが告げる。
始まりと同時にトーマス機はメインブースターの光を輝かせながら砂漠を駆けた。その内に敵部隊の姿を視認し、トーマス機も敵もお互いに武装を向け始める。
「くぅ……っ!」
負担の少ないNSS計画のネクストでも欠陥品たるトーマスには負担が大きい。故にトーマスは精神を削りつつも頭を動かし、敵部隊の一斉攻撃を避けながら一気に敵陣の中へ入り込む。
「ぶっ殺す!!」
AMSの負担がトーマスの精神を削り続けた末、地獄の戦場で培ってきた怒りと戦う思考だけが残る。怒りは敵への殺意を生み、戦う思考は敵を確実に殺す手段を作り、心身を蝕む。
そうしてトーマスの殺意のままに敵陣の中で発砲と爆発が繰り返されていく。
「すごいな、欠陥品だとは思えん」
技術者たちの目に映るは一方的に仮想敵が次々と撃破されていく光景。もはや仮想空間内は虐殺の場。蹂躙するだけの一方的な戦いが行われている。
「どうしてレイヴンというのは。似るものだな、彼は」
欠陥品の初訓練とは思えないほどの殲滅力をローディーもその目に映し、かつての伝説的なレイヴン――アナトリアの傭兵と姿を重なる。初めて見た時から感じた例外の存在。トーマスからもその存在を感じ取っていた。
「敵部隊全滅。目標クリア、訓練を終了します。AMSの接続を終了させてください」
数分と経たない内に仮想敵の全ては鉄塊となって全滅。訓練の終わりをオペレーターが告げる。同時に鉄塊となった仮想敵と仮想空間は消えていき、トーマスのネクストもそこから消えていく。
「ちぃ……!」
訓練の終わりにAMSの接続を切ったトーマスは、負担を掛けてくる機体とその負担に耐えられない自分に向けてイラつきを見せた。
「初の戦闘訓練ご苦労。この後は一度身体検査を挟み、再び戦闘訓練を行う」
そんなトーマスの感情など無視して技術者は告げる。
こうして例外として再来の片鱗を見せた初訓練は終わりを迎え、技術者たちは欠陥品たるトーマスの力に期待を抱いた。それ故に、この先トーマスは更に苦しみを強いられていく。
※
初訓練が終わってから後日。
技術者たちの期待は日が経つごとに膨らみ、トーマスを早期にネクスト戦力とするべく戦闘訓練は日に日に増えていった。同時に強いられる苦しみも増えていく。もはやトーマスに掛かる負担などお構いなしに戦闘訓練は続く。
「おはよう、トーマス。今回の訓練は初の対ネクスト戦となる。君の実力が通常戦力以外にどう通用するか、試させてもらおう」
再びの訓練の始まり。技術者からの通信を、トーマスはコックピット内で聞き取る。
「この機体で初のネクスト戦……やれるのか……」
AMS接続に抵抗を覚えてきたトーマスは、自らの命に危機感を感じ取って独り言を告げる。もちろん誰にも聞こえることはない。
「仮想空間及び仮想敵、設定完了。これより戦闘訓練を行います。リンクスはAMS接続を開始してください」
「はぁ、了解」
いつも通りオペレーターの指示の指示に従い、トーマスはAMSを通して実機のネクストと繋がる。
そうしてコックピットモニターには仮想空間の砂漠が表示され、そこに仮想敵であるネクストが現れる。
「今回の戦闘訓練は実戦を意識して、相手のネクストをインテリオルの企業標準機にしている。見事打ち倒してくれたまえ」
技術者が言うように仮想敵のネクストの姿はインテリオル・ユニオンの企業標準機『Y01-TELLUS』となっており、武装はレーザーやプラズマなどのエネルギー兵器で固められている。
「訓練開始。戦闘を開始してください」
オペレーターが訓練の始まりを告げて戦闘が始まった。
開始早々にトーマス機と敵ネクストは戦闘状態となり、トーマス機はバズーカとミサイルを、敵ネクストはレーザーライフルとプラズマライフルをお互いに向ける。
「こっちの攻撃は良く効くみたいだが!」
敵ネクストに攻撃が命中し、その効果は敵ネクストの装甲が軽々と吹っ飛ぶ光景として一目瞭然で現れる。
トーマスは気付く。敵ネクストは実弾に対して比較的脆いということを。
「ちぃぃ……そういうことか!」
そして敵ネクストのエネルギー兵器に被弾した時、もう一つのことに気付く。自機の堅牢な装甲がエネルギー兵器に対して酷く脆いことに。
「クソ、連続での被弾は出来ないぞ」
しかし回避は難しい。重装甲重武装の自機の重量と底辺以下の適性の低さ、それに加えて敵ネクストの命中精度と容易に追い付いてくる戦闘機動が簡単に回避を許してくれないのだ。
「なんなら、どっちが先に倒れるか我慢比べだ」
トーマスの頭から回避という文字が消える。被弾する回避行動で攻撃が消極的になれば、敗北という結果が現れる。
それならばと、トーマスは回避を忘れて攻撃を全力で行うことに思考を切り替えた。
「くぅぅぅ……!」
トーマス機も敵ネクストも向き合い、どちらも正面から被弾して撃ち合う。トーマス機は回避せず、敵ネクストは追うだけ。そしてただお互いに撃ち合うのみ。
そんなシンプルな戦い方でさえ、トーマスに掛かる負担は重くなっていく。
「戦闘開始から一分経過」
オペレーターが告げる。この時点で既に、お互いの機体は稼働限界の半分まで来ている状態である。
そして状態の変化はもう一つ。トーマスの身体と精神に現れ始める。
「機動力も火力も、防御手段さえ足りねぇ!」
AMSの押し寄せる負担は激しい頭痛と嘔吐感を及ぼし、トーマスの精神を削っていく。その末に残るのは怒りと戦う思考のみ。
そうやってトーマスは怒りのままに、今のままでは足りないものを文句のように口から垂れ流す。
「そんなよぉ、こんなよぉ、中途半端な機体でよぉ! 生き残れる訳ないだろうがぁぁ!」
装甲を破壊し、装甲を溶かされる。
トーマス機と敵ネクストの削り合いは互角。お互いの機体は既に限界に近い状態であり、後少しの攻撃で両機のどちらかが倒れる。
「戦闘開始から一分三十秒が経過」
戦闘時間の経過をオペレーターが再び告げる。
「きっ、鉄の味がしやがるな」
この時点でAMSの負担の許容は限界を超えた。頭を揺さぶられるほどの激しい頭痛は戦い以外の思考を掻き消し、嘔吐感を通り越して飢餓感と共に鼻血が出てくる。
「リンクス、AMS負荷限界突破しています」
「訓練を中止した方が良いのでは!?」
それでも戦いは続く。限界を超えていようが、異常に気付いた技術者たちが騒がしくなろうが、トーマスの殺意と闘争心はまだ消えていないのだから。
「だが……まだだ!」
決着の瞬間。両機共に後一撃で撃墜される状態で、相手を撃墜へと導く一撃を撃ち放つ。
その寸前にトーマスは自機の不要な武装をパージ。軽くなった重量によるQBは速く、敵ネクストの一撃を辛うじて回避した。
対する敵ネクストはそのままトーマス機からの一撃をもらい、撃墜となる。
「倒したぞ。やっとだ、やっと……」
訓練の終わり。
AMS負荷の限界を超え続けて意識が閉じられていく中、最後に目に映すのは仮想空間内に倒れる敵ネクストの姿。記憶から蘇ってくるネクストたちと姿を重ね、自らの手で倒したことを実感する。
「これで俺も……」
勝利した事実と共にトーマスの意識は閉じられ、己の中へ沈んでいく。
また目と意識が開く時まで、それまでトーマスは地獄を目にしない。
今はただ沈んでいくだけ。