ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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お久しぶりの更新です。
久しぶりなので6000文字超です。少々長いので気長に読んでください。


EX CHAPTER ORCA

 最適化された世界。ラインアークの弱体によって成し得た、この世界は一つの兆しを迎えていた。

 その兆しを示すものは正体不明機による各地での襲撃。次々と起こる襲撃は最初こそ脅威ではなかったが、アルテリア施設までに及ぶ襲撃はまさに脅威と言わざるを得ない。

 迎えた兆しは世界の変容を見せている。掲げられた黒い旗と共に。

 

「各地のアルテリア施設でも同様に正体不明のネクストの襲撃が起きているとは……」

 

 ウルナ防衛失敗後、トーマスを含めた人員は即時撤収。

 今まさにトーマスは自らの所属する施設にて情報端末から各企業が公開している報告書を目にしていた。

 そこにヴェインが「まるでテロだよな」の言葉と一緒に、トーマスの独り言を聞きつけて寄ってくる。

 

「ヴェインか。アルテリア施設の襲撃、報告書を見たのか?」

「報告書を見ずとも襲撃の話で持ち切りだ。自然と耳に入ってくるよ」

「そうか。アルテリア施設の襲撃は大事件だもんな」

「歴史の教科書に載るレベル。いや、歴史の教科書がこの世から消えるレベルかもしれないな」

 

 歴史の教科書が消える。下手をすれば歴史そのものが消える。

 今の人類の命を支えるクレイドル。その生命線たるアルテリア施設を断たれてしまえばクレイドルは次々と墜ちて大半の人類は消える。今でさえ世紀末に近いというのに、そうなれば無法の世紀末が完全に訪れるだろう。

 ヴェインの言葉から連想される最悪の結末。トーマスの思考に過る。

 

「まぁ教科書が消えても歴史はなくならない。誰かが引き継いで後世にまで語り継ぐ。どんなに歪曲した歴史だとしても」

「ヴェイン、意味深な言い方はやめろよ。正体不明機の仲間と勘違いされるぞ?」

「違いないな。余計な口は閉じているよ」

 

 有言実行の如くヴェインは口を閉じた。トーマスからはこれ以上話すこともなく、二人の間に沈黙が訪れる。

 ヴェインは薄っすら笑みを浮かべて床を見つめ、トーマスは危惧を表情に浮かべて天井を見上げる。沈黙の中にある正反対の視線。

 そんな時、沈黙を破るように一人の作業員が走ってやって来る。

 

「ヤタガラスのリンクスとアーキテクト! お偉いさんからの呼び出しだ、すぐにクレイドルに行ってくれ!」

 

 沈黙は破られた。ヴェインとトーマスは互いに視線を作業員に向ける。

 

「行こう、トーマス。クレイドルへ」

「あぁ……行こう」

 

 ヴェインとトーマスは視線を互いに向け合った。ヴェインはその目に望みを宿し、トーマスはその目に疑いと危惧を宿している。

 同じ場所を見つめて同じ場所へ行かねばならないが、向こうとしている方向と目に映している場所は違っていた。

 

 そうして時間の進みと共に事は進められ、二人はクレイドルへ向かった。

 

 

  ※

 

 

 クレイドル――高度7000mを飛ぶ居住用の航空プラットフォーム。

 人の新たな住処。地上のような汚染がなく、安心して暮らせる、みんなのゆりかご。

 そこに汚染のある地上から飛び立った輸送機がやって来る。乗せているのはトーマスとヴェインだ。

 

「これがクレイドルか……」

 

 輸送機の窓から見える、空に巨大な航空機が何機も飛ぶ光景。

 トーマスとてクレイドルの存在は知っていたが、自らの目で蒼き空を飛ぶクレイドルを見たのは初めてであった。

 

「初めて見るのか?」

 

 ヴェインは慣れた目でクレイドルを目に映し、トーマスの反応から察して告げる。

 

「ヴェインは何回かここに来ているのか?」

「あぁ、アーキテクトになるためにも行ったり来たりしていたから」

「なるほど。見慣れた目をしている訳だ」

 

 彼らが話している間にも輸送機はクレイドルを形成する一機の巨大航空機へと近付く。

 空の都市。戦場で固められた地上にはない平和の場所へと、二人を乗せた輸送機が入っていく。

 

≪予定の機に到着しました。降りる際にはお忘れ物がないようにお願いします≫

 

 機内放送が到着を示す。しばらくして出入り口の扉が開かれ、トーマスとヴェインは輸送機を降りてクレイドルへ足を踏み入れる。

 

「行き先は俺が知っているから案内するよ」

「なら案内は任せた」

 

 行き先を知るヴェインを先頭に、二人は目的地へと歩いていく。

 

「地上とは大違いだな」

 

 トーマスの口から無意識に独り言が出る。

 今まで目にしてきた地上での光景。砂漠化とコジマ汚染の拡大による汚れた空気感、引き金を引いて血に汚れる戦場がここにはない。

 戦場から程遠い、平和な場所。平和という言葉をその身で感じ取れるほどの場所だ。

 

「そうだろう? なんてったって安全安心だからな、クレイドルってのはさ」

 

 トーマスの独り言を耳に入れ、ヴェインは告げる。

 そのまま二人は平和な場所を進み続ける。次第に人の行き交いは多くなり、通路を抜けていくとメインストリートへ出た。

 

「そうだ、確か連絡を一つと……少し待っていてくれ、トーマス」

「はいよ。ここはヴェインの方が詳しいし、終わるまで大人しく待ってるよ」

 

 どこへのか分からない連絡を取るのに、ヴェインはトーマスとの距離を離す。そうして携帯端末をポケットから取り出して知らない誰かと連絡を取り始めた。

 トーマスはそんなヴェインの姿を目にしつつ、視線を人が行き交う場へと移す。

 目に映る人々。遊ぶ子供たちに、仕事に勤しむ大人、ベビーカーに赤子を乗せて歩く母親、かつての地上での暮らしがここにはあった。

 

「平和だな」

 

 天井を仰ぎ見る。兵器はなにも飛んでいない。耳を澄ませても銃声は聞こえない。

 トーマスはこんな場所を知らなかった。上を見れば兵器が飛び、耳を澄ませば遠くから戦闘音が聞こえてくるのが常だった地上とは違い過ぎる。

 

「もっと早くにここにいれば……」

 

 あまりの違いように自らの記憶を辿り、思い出すのをやめていた父親との記憶を思い出す。

 そしてこのクレイドルがリンクス戦争当時にあったらと、殺された父親と自らを産んですぐに亡くなった母親と一緒にここで暮らせていたらと後悔にも似た願望を漏らす。

 

「まぁ、今更だよな」

 

 もしものひと時を想像するほどに願望はありつつも、今ある現実に頭を戻す。過ぎた時間は戻らないのだから。

 

「はぁ……」

 

 目に見える現実と思い描く願望のあまりの違いにバカバカしさを覚えて、ため息を一つ。正気さを取り戻して視線を人の行き交う姿に向け直す。

 平和な様子は変わらない。大人が、子供が、親子が誰からの暴力に襲われることもなく行き交う。

 

「ん? あれ、あの子!」

 

 しかし平和の中に罪が形を成してトーマスの目に映る。人の行き交う人混みの中、そこに子供の姿をした罪が現れた。

 

「まさか、なんでここに……」

 

 目に映る子供の姿はまさしくこの前敵対したネクスト――黒とオレンジの中量二脚型のネクストに乗っていた子供、自らが結果的に見捨ててしまった子供の姿だ。

 トーマスは思わず近付いて話を聞こうとするが、人混みの中にその姿は消えていった。

 

「あ……見失った」

 

 同じ場所に子供の姿はなく、トーマスの視界から完全に消えてしまった。

 

「トーマス! 連絡付いたぞ、目的地に行こうぜ!」

 

 ヴェインが連絡を取り終えて戻ってくる。これからGA社の幹部のところへ行かねばならず、気が掛かりだとしても子供を探している場合ではない。

 

「分かった、行こう」

 

 今は子供のことを忘れ、トーマスはヴェインの後ろを付いていく。

 二人はメインストリートを道なりに進み、その内にGA社のロゴマークが付いた建物が視界に入ってくる。

 

「見えてきた。トーマス、あそこだよ」

 

 既に二人の視界に入っているGA社のロゴマークが付いた建物、ヴェインは目的地のその場所に指差す。

 

「案内っても、そんな迷う場所じゃなかったな」

「でも土地勘のある人間がいる方が良いってことさ」

 

 GA社のロゴに、一際大きい建物ということとメインストリートを進めばあることも加えて、身構えるほど迷う場所ではなかった。

 そんな迷うほどのない場所へと、しばらく歩いた二人は到着してエントランスへ入っていく。

 

「来たようだな。待っていたよ」

 

 二人がエントランスに入って早々、白髪の混ざるスーツ姿の中年男性がトーマスとヴェインの到着を待っていたような口振りを見せる。

 それに対して、ヴェインは慣れた口で「予定通りです。リンクスも一緒ですよ」と告げた。

 

「ご苦労だ。では早速取り掛かろう、来たまえ」

 

 細かい事情の知らないトーマスをそっちのけに話は進み、幹部は応接室へと二人を招く。ヴェインはなんら迷わず応接室へ足を運び、トーマスはなにも分からないままヴェインの後を追って応接室へ入った。

 

「リンクスに話は?」

「まだなにも言ってません。予定通りです」

「よろしい。繋げた後は彼らに一任しよう」

 

 幹部とヴェインの会話。トーマスはなにも分からないまま聞いているが、その内容がどこか意味深であることは察せてくる。

 

「掛けたまえ」

 

 幹部の言葉の後にヴェインとトーマスはソファへと腰掛け、幹部はテーブルを挟んで二人と対面するようにソファへ座る。

 そうしてテーブルにはトーマスへ向けてタブレット端末が置かれた。

 

「ヤタガラスのリンクス。これから君には新しい世界を築く者たちの話しに耳を傾けてもらう。話を聞いた後、これからの判断は君に任せる」

 

 幹部がそう告げると、タブレット端末の通話が繋がった。

 意味深なものの正体、潜むものを知る時が来た。

 

≪初めましてだな、トーマス=フェイス。私はORCA旅団のメルツェルだ≫

 

 トーマスにとって聞いたことのない組織の名と個人の名。それがなんであるか分からず、今のトーマスは口を閉じたままメルツェルの渋い声に耳を傾ける。

 

≪君の話は聞いている。AMS適性が低いながらも大役を任される、実戦上がりの実力者だとな。確かにウルナの時は、あの子も危なかったよ≫

「なるほど。最近の不明機はORCA旅団って訳かい」

 

 アルテリア施設のウルナと〝あの子〟という言葉。

 メルツェルが言うことに反応して、トーマスはORCA旅団がこれまでアルテリア施設を襲っていた不明機の正体であると理解する。

 

「それで? 今のこれはスカウトか?」

≪察しがいい。初対面の目上に敬意を払わないのも含めて、若さだな≫

 

 不明機の正体であるORCA旅団が己をスカウトしに来たこと。そこから更に事の理解は早まり、前から疑っていたヴェインの存在とその横にいる幹部はまさに企業という身体に潜む獅子身中の虫であることを確信する。

 

「礼儀を学んでなくとも、企業の一部がORCAを肯定したのは今しがた理解した」

≪勘も働くようだ。ならば、手短に話そう≫

 

 メルツェルの渋い声が言葉を紡ぐのを一度止め、少ししてまた渋い声を通話越しに送る。

 

≪君が今いる場所、クレイドルはアルテリア施設からのエネルギー供給によって動いている。しかしそのエネルギーにはコジマ粒子が用いられている≫

「汚染を避けるのに空へ逃げておきながら、その空をも汚染させている……と?」

≪そういうことだ。頭の回る君なら、理解出来るはずだ≫

 

 クレイドルとアルテリア施設。汚染なき空に逃げるはずの手段が、空を汚染させている。

 それまで考えもしなかったことを理解したトーマスの頭は、すぐに平和な場所たるクレイドルの矛盾に気付いた。

 そしてORCA旅団のこれまでの行いが、クレイドルの矛盾に結び付いてくる。

 

「お前たちORCA旅団のアルテリア施設の襲撃は、矛盾を抱えたクレイドルを墜落させるものに聞こえるが……ネクストを引っ張り出してまでやる活動が空を汚染から解放させることだけ、な訳ないよな? 他に何を隠している?」

 

 疑問が浮かぶ。空の環境汚染を無くすだけの環境団体がなぜネクストを持ってくるのかと。ただ過激な組織だとしても、何機もネクストを保有していることには違和感を覚える。

 そのようなネクストの保有数がどうにも不可解であり、トーマスは隠されているであろう真意を求めた。

 

≪クレイドルという存在が今を生きる人間をゆっくり殺していく事実に怒りを持ってほしかったが、君は利口でもあるようだ≫

 

 メルツェルの渋い声がそう告げる。

 対して、トーマスはすぐさま「それで?」と隠されているものの説明を求めた。

 

≪アサルト・セル≫

 

 知らない言葉が出てくる。それが何なのか、トーマスはメルツェルの言葉を待った。

 

≪クレイドルの飛行高度を超えた先、衛星軌道上に存在する自律兵器だ。言葉を借りるなら、企業の罪だな≫

「どういうことだ?」

≪国家解体戦争以前のことだ。企業は宇宙開発に手を伸ばしていた。だが新たな開拓地ともなれば開発における競争は激化する。それぞれの企業は、他社を宇宙へ出すことを嫌って衛星軌道上にアサルト・セルを配置した≫

 

 メルツェルの紡ぐ言葉は続いた。

 

≪その結果、アサルト・セルは地球全体を覆った。宇宙へ出ようとすれば、アサルト・セルによって討たれる。もはや宇宙へ出ることは出来ない。企業は人類全体を地球という檻に閉じ込めたのだ≫

 

 トーマスは隠されたものと真意に耳を傾け続ける。

 

≪だから企業は地球を覆うアサルト・セルの存在を隠し、そのために国家解体戦争とリンクス戦争を勃発させた。我々ORCA旅団はこれまで隠匿してきた企業の罪を清算するためにあるのだよ≫

「それとアルテリア施設を襲うことに何の関係がある?」

≪端的に説明しよう。アルテリア施設からクレイドルに送られるエネルギーを、アサルト・セルの破壊手段に使う。これが各地のアルテリア施設を襲う理由だ≫

 

 全ての話が結び付く。

 アルテリア施設を襲う理由とアサルト・セルの破壊。企業の罪とクレイドルの存在。

 ORCA旅団は環境団体などではない。罪を重ねる企業連相手にまともに敵対する、まさしく最悪の反動勢力だ。

 

「ふん、聞けば聞くほど嫌な世界だな……だけどお前たちに与するほどの大義は、一介の傭兵である俺にはまだ……」

≪では〝あの子〟を放っておくのか? そこにいる仲間とも敵対するのか?≫

 

 自らの境遇に似た、あの子供のことを放っておくか否か。今まで一緒にやってきたヴェインと敵対するか否か。

 このままカラードのリンクスとして存在していれば、組織の敵対からあの子供とヴェインを敵に回すことになる。敵であれば同情の余地もない。二人を殺すという選択肢だけが残る。

 選択を迫られる。

 

「そんなこと出来る訳……!」

≪大義はなくても良い。理由があるなら、我々は君の手を取るだけだ。後は、君があの子と手を繋げばいい≫

 

 迫られた選択は与えられるものへと変わり、メルツェルは悩めるトーマスに絞られた選択と理由を与えた。

 トーマスに今更それらを否定する理由はない。

 

「……分かった。お前たちに与しよう。あの子とヴェインのためにも」

 

 そうして意を決した。ヴェインもORCA旅団側であり、今更GAに戻る理由もない。

 

≪ようこそ、ORCA旅団へ。君を歓迎しよう≫

 

 メルツェルの渋い声がトーマスを歓迎する。直後、この部屋を開ける音が一つ鳴り響いた。

 全員がその音を辿って子供の姿を視界に映す。

 表情の薄い子供。トーマスが結果的に見捨て、ネクストに乗っていた子供。

 

「よろしく、お兄ちゃん」

 

 表情の薄い印象に違わない、大人しく幼い声も歓迎を示した。

 これでトーマスもORCA旅団の一人。企業の罪を清算する者の一人。

 こうして例外たる存在は、罪を物語る人類のゆりかごでORCA旅団という異物に生まれ変わった。

 

 最適化された世界は変容を迎えるだろう。

 アルテリア・カーパルスの一件と共にORCA旅団が星の輝く黒い旗を掲げ、名乗りを上げることによって。

 

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