マザーウィルの撃破からその後のこと。
戦いを終えたヴァーチュースとフリストスは拠点へと帰還、適切な手順を踏んで専用ガレージに収容されていた。
「機体の初陣でよく損傷を軽微で抑えたな、トーマス」
収容後、ヴァーチュースのコックピットから降りるトーマスのところへ、ヴェインがいつも通りにやって来る。
「ヴァーチュースが俺の動きに応えてくれたからな。良い機体だよ」
トーマスもいつも通りにヴェインへ言葉を返した。そしていつものようにトーマスとヴェインはクオレの機体の具合も見るのに向かった。
少しの時間を要し、損傷の激しいフリストスが二人の視界に入る。しかし、そこにクオレはいない。
「クオレは?」
「さぁ……? コックピットを降りているのは見たけど、そこから先は分からない」
ヴェインが言うように、開いたコックピットの中に誰もいないことから降りていることだけは分かる。行方は分からないままであるが。
「まぁその内戻ってくるだろう。仲の良いお前と自分の機体を置いていくとは考えにくいし」
「確かに、そうだな……」
クオレが戻ってくるという確信はない。ヴェインの楽観視した言葉は信頼に足るものがあっても、オールドキングがクオレになにを言ったか、不安が残る。
「やっぱり俺、クオレを探してくる!」
過激派の反体制組織――リリアナ。そのリーダーであるオールドキングのところへクオレが行った。その理由は母親のことだと察せるが、ネクスト戦力を引き入れる様はトーマスの不安を煽る。
「探す当ては?」
「オールドキングのいる場所、そこを探せばいるはず!」
トーマスはヴェインを置いて走り出した。そして予感した。
オールドキングがORCA旅団を離れ、クオレを使って良からぬ行動を起こす。
このまま不安を残しておけば予感が現実となる。
それを阻止するためにも、トーマスの足は拠点の中を走り回ってクオレを必死に探した。
「どこなんだ、クオレ……」
走り回ってもクオレの姿は中々見当たらない。既にどこか遠くへ行ってしまったのか、思い当たる場所から普段行かない場所まで探しても、その姿は一向に見つからない。
もはや諦めて、トーマスの足はヴェインのところへと戻っていく。
「お、戻ってきた。お探しのクオレはあっちだよ」
トーマスが戻ってくるとヴェインは指差しながら告げた。
ヴェインが指差す方向。そこを見れば、トーマスの目はクオレをようやく見つけた。
「良かった……!」
クオレを見つけたことで不安とそこから来る予感は杞憂に終わり、ホッと安心する。トーマスはクオレに寄って「どこに行ってたの?」と念のために尋ねた。
「トイレ」
いつもの薄い表情でクオレは答える。そこに噓偽りはなく、正直な目をしていた。
トイレであるなら早く戻りたいはず。トーマスはそうやって納得し、オールドキングのことも杞憂であると願った。
「よし、みんな揃ったことだから機体の調整でもやるか」
そうしてヴェインの言葉を皮切りに機体調整と最適化が始まる。
なんでもない普通のひと時。それが崩れる時は今まさに迫る。
※
ヴァーチュースとフリストスの調整と修理が始まってから数時間後。調整と修理が終わり、各自が次のミッションを待っている時のこと。
それは突然に起きた。
「なんだ!? 誰が乗っているんだ!」
ネクスト――フリストスが突然に起動した。その途端、専用ガレージを無理やりに抜け出して、その場にいた作業員は慌てて逃げ出す。
「どうなっている!?」
「分からない!」
突然のフリストスの起動に作業員たちの間で怒号が飛び交い、フリストスは拠点の中を進み続ける。
誰も予定していない非常事態。訓練ではなく、拠点内に警報が鳴らされる。
「まさか……」
警報を聞き付けて、トーマスは状況を確認しにやって来る。そして無断で起動されたフリストスの動く姿をその目に映す。
クオレの機体。最悪の予感。
「違うよな、クオレ!」
搭乗しているのは、クオレではないかもしれない。
トーマスは自身の中にある最悪の予感から目を逸らし、全て杞憂で終わってくれと願った。
≪お兄ちゃん。僕、ようやく見つけたの。ママの居場所≫
しかし返ってきた言葉は確かにクオレのものであった。
トーマスは悟る。
杞憂であると納得するのは間違いであったと。杞憂で終わりはしなかったと。
≪だから僕……ママのところに行ってくる。オールドキングのおじさんに言われたように、みんなをたくさん殺して≫
母親を探す幼い子は己の胸中から〝答え〟を吐き出す。
もはや止める術はなく、フリストスは拠点から空へ飛び去っていった。
「ORCA旅団はクオレの母親の居場所を知っていた。それを知ったオールドキングが耳打ちで教えて、クオレを私兵にしたのか! あのド畜生が!」
友達であり、同じ親のいない者として助けて上げたいと思ったクオレを私兵にされた。
トーマスはその自らの理解と怒りを口に出した。それはホワイトグリントに復讐心を抱いた時と同じくらいの怒り。大切な人を奪われる怒りだ。
「トーマス、緊急ミッションだ! ブリーフィング後はすぐ出撃になるぞ!」
ヴェインが急ぐ声を上げ、情報端末を片手に大急ぎでやって来る。
トーマスは怒りに満ちた表情でヴェインの持ってきた端末を受け取り、そこに映るORCA旅団の旗と共にブリーフィングが始まった。
≪緊急のミッションを君に伝える≫
いつものようにテルミドールの声が流れる。しかし、いつもの挨拶はない。
≪ミッション内容はクレイドル06に侵攻中のフリストスの撃破だ≫
端末の画面に映される、フリストスとクオレの画像。そして戦場となるクレイドル06の光景。
一度友達となってまた敵となった。運命があるとすれば、これが運命なのである。
≪残念ながら、君のよく知るクオレは、ORCA旅団の名を穢すオールドキングに触発されてしまったようだ。このままクレイドルの破壊を見過ごせば、あの子はいずれにしても帰ってこないだろう≫
テルミドールの言葉巧みな口が、続けて告げる。クレイドルを破壊することでのORCA旅団や企業連の影響は口に出されない。
≪あの子の隣にいた君だから頼みたい。君の手で、あの子を止めてくれ≫
そしてその言葉を最後に、ブリーフィングは終わった。
「言われなくても絶対に止めるさ」
トーマスは口に出した決意と共に端末を手近な場所に置き、出撃へ急ぐ。
ヴァーチュースのある専用ガレージ。ヴェインが手早く起動後にすぐ出撃出来るように進めており、トーマスはすぐにヴァーチュースのコックピットに乗り込む。
「うっ……!」
AMS接続と機体の起動。マザーウィルとの戦闘を終えてからすぐの出撃である、AMSの負荷は凄まじい。
トーマスがそのような状態でもヴァーチュースは目覚める。そのまま機体の足を進ませて拠点の外へ向かった。
≪トーマス……クオレを止めろということだが、最後はお前自身で決めろ。俺はお前の決定に文句は言わない。自らに従え、傭兵らしく≫
今まさに出撃をしようとしている時、ヴェインの言葉が通信に入る。そこにはクオレを殺させるにはあまりにも酷という想いがあった。故にクオレを殺さなくても良いと、クオレと一緒にオールドキング側に行っても良いと、そういう意味合いがあった。
「分かっているとも……」
トーマスはレイヴンらしく言葉を返す。自らが傭兵であることを改めて自覚しながら。
機体の足は進み、拠点の外へ。向かう先は汚れた空。クレイドル06の飛ぶ空。
ヴァーチュースは見上げて飛ぶ。フリストスを、クオレを止めるために。
トーマスも己の〝答え〟を出す時が来る。