ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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この下地獄


CHAPTER6

 太陽が照り付け、黒煙が昇る。

 最初に攻撃を受けた第三カタパルトは動くことのない鉄塊と肉塊だらけ。ホワイトグリントに対して唯一まともに奮戦出来ていた切り札のトップランカーたちもその鉄塊と肉塊の仲間となってしまった。

 もはやまともに抵抗出来る戦力はアームズフォートであるマザーウィルのみだが、味方を巻き込む以上は迂闊に手出しが出来ない。

 

≪ホワイトグリント、第二カタパルトに攻撃開始!≫

≪各カタパルトから迎撃が開始されました。弾幕張れています≫

 

 オペレーターたちの焦りと冷静さが混ざった的確な報告を受け取るものの、恐怖で思考と判断が追い付かない司令官は戦場を静観していることしか出来なかった。

 

≪PAを減衰出来れば勝機はある≫

≪出来るかよ! うわ――≫

 

 士気が落ちている中でも第二カタパルトの護衛部隊は必死に迎撃を続けている。しかし高火力の武装のほとんどは軽々と避けられてしまう。しかもマシンガンなどの当てやすい武装はネクストであるホワイトグリントにとって豆鉄砲のようなものだ。

 その逆にホワイトグリントのライフルと突撃ライフルは護衛部隊の機体を次々と貫き、分裂ミサイルを雨のように第二カタパルトに降り注がせる。

 まさに虚しい抵抗、第二カタパルトも一方的に蹂躙される。

 

≪ちくしょ――≫

≪機体が見え――≫

 

 第二カタパルトで引き起こる爆音の重なり合いは人の声を掻き消し、途切れた通信をも掻き消し、それら命さえ掻き消していく。

 そしてその爆音が絶えることはない。第二カタパルトに存在する命は消耗品のように消費される。

 

「第二カタパルトの反応が消える! 速すぎる!!」

 

 弾幕形成のためにトリガーを引きっぱなしのトーマスが叫んだ。レーダーを見れば、一分と経たずに第二カタパルトの護衛部隊は全滅寸前になっているのがよく分かる。これでは各カタパルトの護衛機体が全滅するのも時間の問題。もちろん全滅すれば例外なく死人の中にトーマスも含まれるだろう。

 

「死ねない、まだ死ねないぞ!」

 

 臆したら死ぬ。その死はホワイトグリントの形となって現れている。だからトーマスはトリガーを引き続けた。

 弾幕を張る護衛機体の中に混ざって、トーマス機からも垂直ミサイルが放たれる。

 

≪第二カタパルトの損害率80%≫

 

 オペレーターが告げる。

 どれだけ弾幕を作って足掻いてもホワイトグリントに損傷を与えられず、足さえ止められない。

 銃口が追い付かないほど速く、護衛機体を押し潰す火力。圧倒的なまでにホワイトグリントはその力を発揮している。

 

≪第二カタパルトの護衛部隊全滅!≫

≪ホワイトグリント、第一カタパルトに攻撃開始!≫

 

 オペレーターが告げると同時に第二カタパルトの護衛機体は全滅し、ホワイトグリントの容赦ない攻撃が第一カタパルトを襲う。

 再び爆音が絶えず訪れ、命が消費される。

 

「あの時と一緒だ、父さんを失ったあの時と……!」

 

 目に見える一方的な殺戮と圧倒的な力の差による無力感が、トーマスに父を失った時のことを思い出させる。

 父のほとんど原形のない死体。唯一の居所を失った悲しみ。吐き続ける涙と嘔吐。

 記憶のあらゆるものがトーマスの意識と視界を邪魔する。

 

「次はなにが奪われる……俺の命か?」

 

 トリガーを引き続ける手に力が入り、恐れと怒りから来る疑問がトーマスの感情を昂らせていく。

 

「奪えるなら奪ってみろよ、その白い装甲を黒焦げにしてやる!」

 

 そしてトーマスは本能に身を委ねた。思い出される記憶を振り切って戦場に意識を集中。邪魔な記憶を消し飛ばし、その目に戦場の名を借りた地獄を映す。

 

≪第一カタパルトの護衛部隊全滅!≫

 

 一分と保たず全滅。第一カタパルトには焦げて鉄塊と化した護衛機が積み重なっており、いくつもの黒煙を上げていた。

 その黒煙をホワイトグリントが超音速で横切る。向かう先は第六カタパルトだ。

 

≪ホワイトグリント、第六カタパルトに攻撃開始!≫

≪そんな報告は不要だ! 全砲台に伝達。攻撃目標をホワイトグリントに設定。全砲台攻撃開始!≫

 

 オペレーターの状況報告と今の状況に痺れを切らした司令官は味方への被害を無視し、全砲台に攻撃命令を下す。

 圧倒的大きさの三連キャノンが動き出し、カタパルト下の大型砲台がホワイトグリントを捉えるのに動き始める。各カタパルトのミサイルハッチも攻撃態勢へと移った。

 

≪攻撃開始、攻撃開始≫

 

 次の瞬間、ミサイルの雨を超えるミサイルの嵐が飛んだ。護衛機体だけでは作れない圧倒的なミサイルの弾幕である。

 

「巻き添え覚悟で撃つのか!? だけどマザーウィルが攻撃するならば!」

 

 トーマスは戦況を読んで思考を切り替える。

 マザーウィルが護衛機体以上の弾幕を作ってくれる今の状況を利用し、トーマスは弾幕の手を止めてゆっくりとホワイトグリントを狙った。

 狙撃である。

 既に他の護衛機体の中にも狙撃に移っている機体がおり、狙いを澄ませた一撃がいくつかホワイトグリントのPAに直撃していた。しかしそれでもホワイトグリントの勢いは止まらず、第六カタパルトの損害は増える一方である。

 

「俺もそれに続く!」

 

 狙いを定めたまま、ホワイトグリントの動きが遅くなった一瞬を狙ってトリガーを引く。

 トーマス機の腕部グレネードキャノンが放たれる。砲弾は真っ直ぐホワイトグリントへと向かい、PAに直撃した。

 

「よし、これで動きを止めてくれれば!」

 

 グレネードの爆発がホワイトグリントの動きを止めさせるものの、隙を見せないほど早く立て直して再び超音速機動を始める。

 ホワイトグリントの攻撃は絶えず続く。

 

「本当に英雄だ。当てたとしても隙が作れない」

 

 撃っても当たらず、当てても足を止めることさえ出来ない。その動きは目に見える力ともなる。

 トーマスはその力を目にして、ホワイトグリントの圧倒的な力を感じ取っていた。

 

≪第六カタパルトの損害率90%≫

≪護衛部隊の損害率の報告などどうでも良い! 今は護衛部隊を犠牲にしてでもホワイトグリントを仕留めねばならんのだよ! 各砲台に通達。護衛部隊を巻き込んで構わん。攻撃を続けろ!≫

 

 オペレーターの報告と司令官の怒声が悲鳴で溢れた通信の中に飛び込む。

 地獄の最中、護衛部隊を犠牲にするような司令官の言い様にトーマスもその他の護衛機体も呆れる。これで護衛部隊の面々は司令官の言葉に耳を傾けなくなった。

 あちこちから寄せ集めた集団なのもあって、それまであった統率は簡単に崩れる。いよいよ護衛部隊は護衛部隊として機能しなくなってきた。

 カタパルト上で戦う護衛機体たちは己の判断だけで行動し始める。

 

≪こんな戦場、命がいくつあっても足りないぜ! 俺は逃げる!≫

 

 護衛部隊の中には逃亡する者もいた。しかし逃げようとも地獄は離してくれない。

 逃げようとする逃亡者には流れ弾の直撃もしくはマザーウィルの巨大な足に踏まれて爆発四散する。

 逃亡者も現れ、カタパルト上の戦闘は混乱を極める。そうして第六カタパルトの護衛部隊はホワイトグリントが攻撃せずともマザーウィルのミサイルで全滅した。

 

「本当に俺たちのことを犠牲にするつもりか、あの司令官!」

 

 トーマスはレーダーに第六カタパルトの護衛機体の反応がなくなったことに気付き、怒りを更に沸き立たせた。

 

「逃げたところで巻き添えになるだけだ! 生き残るにはどの道戦うしかない!」

 

 逃げた連中が死に行く姿をその目で見つめ、トーマスは生存本能に身を委ねて戦い続ける。

 弾幕は嵐の如くあちこちを飛んでいる。

 その弾幕の中をホワイトグリントは白い閃光の名の如く駆け抜け、第五カタパルトに攻撃を仕掛ける。

 次々と消費される命。爆発音が鳴る度に通信には悲鳴が鳴り響く。

 

≪こちら第五カタパルト、護衛部隊隊長だ! 至急援護を! 助けてく――≫

 

 ホワイトグリントを追ってカタパルトに降り注ぐマザーウィルのミサイルによってこの通信も途切れる。

 

「こんなんじゃ援護もクソもないぞ!」

 

 レーダー上に表示された味方が消えていくのを見つめ、トーマスは悔やみの怒りを出しながら告げる。

 照準はホワイトグリントに向けたままだ。死が段々と自らに近付いて来ていようが、トーマスは恐怖に呑まれないで狙撃するタイミングを見計らう。

 

「くたばれ……どっか行っちまえ!」

 

 そしてトーマス機から腕部グレネードキャノンが放たれる。狙いを澄ました一撃だが、ホワイトグリントには当たらない。

 厚いミサイルの弾幕を回避され、その厚い弾幕の中から飛んでくる狙撃をも回避されている。

 ホワイトグリントの動きが戦場の変化に順応してきているのだ。

 

≪第五カタパルトの護衛機全滅! ホワイトグリントがこっちに来ます!≫

 

 第五カタパルトの全滅を伝える女性の若く澄んだ声。声の主はエリーゼだ。

 トーマスはその通信に即座に反応し、レーダーを見る。レーダーには既に第五カタパルトの護衛機体はいない。

 通信の通りに第五カタパルトの護衛部隊は全滅していた。

 

「遂にこっちに来るのか!? 死んでたまるか!」

 

 黒煙上がる第五カタパルト、そこからホワイトグリントがトーマスのいる第四カタパルトに向かって来る。

 死がトーマスに近付く。

 

≪上空にホワイトグリント! マザーウィルは躊躇なく誤射してくる、注意しろ!≫

 

 超音速以上で瞬く間に第四カタパルト上空に来るホワイトグリントを一機の護衛機が捉え、通信を送ってくる。

「上か!」と、トーマスは通信に反応して上空を見る。

 

「ホワイトグリント……!」

 

 トーマスの瞳にホワイトグリントの姿が映る。その姿はトーマスの記憶にあるホワイトグリントの姿形とは違うが、白一色の機体カラーとエンブレムはホワイトグリントそのものだ。

 

「見れば見るほどあの時より顔が怖くなっているな!」

 

 青く輝く複眼のようなカメラアイを持ち合わせ、鳥類のくちばしを思わせる威圧的な大きい頭部がトーマスに恐怖感を与える。

 そしてホワイトグリントのカメラアイが動き、トーマス機も含めた最後の護衛部隊を見つめる。その一瞬後、両手に持つ武装の銃口が第四カタパルトの護衛部隊に向く。

 

≪攻撃だ! 気を付けろ!≫

 

 通信の最中にホワイトグリントの攻撃が始まった。護衛部隊の抵抗は続く。

 発砲音と爆発音が幾重にも重なる。

 

≪止められな――≫

≪やめてくれ、こんな――≫

 

 爆発音が重なる度に次々と通信が途切れ、高速で動くホワイトグリントを示す赤い光点とミサイルを示す大量のピンクの光点が行き交うレーダー上から味方の反応が消えていく。

 レーダー上に残る護衛機体はトーマス機を含めて後三機。

 十機以上いた味方は必死の抵抗の末、一分もしない内に消えていった。

 

「攻撃を止められないと終わる……そうだ、ホワイトグリントの攻撃を相殺させることが出来れば!」

 

 トーマスの目はレーダーとコックピットモニターの両方を行き来し、生き残るために思考が加速する。そうしてトーマスは答えに行き着く。

 

≪ロックオンされた……死ぬ……≫

 

 超音速で動くホワイトグリントが護衛機体の一機に分裂ミサイルを発射。その瞬間をトーマスは狙っていた。腕部グレネードキャノンを放ち、分裂ミサイルの発射と同時にホワイトグリントの近くで爆発させたのだ。これによって分裂ミサイルは爆発に揺られ、カタパルト上にぶつかって無効化される。

 

「やらせるか!」

 

 分裂ミサイルを無効化したのもつかの間、ホワイトグリントのカメラアイがトーマス機に向く。

 

「今度は俺か!?」

 

 ホワイトグリントのライフルから火が噴く。放たれた弾はトーマス機の右腕部に当たるが、損傷は軽微で済む。

「来い! 来やがれ!」と、緊張と恐怖の乗った声を出しながらカタパルト上をブーストで滑って黒煙の中に逃げていく。

 

≪ホワイトグリントがそっちに行――≫

≪トーマス逃げて――≫

 

 注意を促す通信とエリーゼの声が破壊音の交わる瞬間に途切れる。

 これでトーマスは最後の一機となった。

 

「片手間に味方を……俺一人でホワイトグリントとタイマンか、怖いな。いつ死んでもおかしくない」

 

 恐怖心は隠し切れず、臆する気持ちが前に出て来る。

 それでも戦いは止めない。黒煙の中にある味方の残骸を盾にして、レーダーの赤い光点を見続ける。

 

「くっ!」

 

 黒煙でなにも見えない状況下、ライフルと突撃ライフルによる攻撃が盾にしている味方の残骸に刺さる。その攻撃の重みは残骸を通し、装甲を通してトーマスの身体に伝わってくる。

 その攻撃の重みが伝えてくるのは、明確な死。盾もなく直撃すれば死が訪れることを意味している。

 

「ミサイル!」

 

 レーダーの光点にピンクが追加される。トーマスは瞬時に分裂ミサイルだと判断、分裂した子ミサイルが一定まで近付いたところを狙ってカタパルトに腕部グレネードキャノンを放った。

 カタパルトに直撃したグレネードは爆発。その爆発はいわゆる疑似的なバリアフィールドとなり、子ミサイルを誘爆させた。

 

「防げた、クソ!」

 

 しかし尚も容赦のない攻撃は続き、盾にしていた味方の残骸が破壊される。

 今のトーマス機は丸裸も同然。ライフルと突撃ライフルがトーマス機の装甲に直撃する。

 

「殺されるか、殺されるか、殺されるか」

 

 念仏のようにトーマスは告げ、機体の腕を使ってコックピットを必死に守る。

 装甲から伝わってくる攻撃の重みは更に増していくばかり。コックピット内は振動し、揺れて、震えた。

 直撃され続け、コックピットモニターが死んでいく。

 死はトーマスをあの世へと引きずり込もうとしている。トーマスは死に怖がって操縦桿を一生懸命握ることしか出来ない。

 攻撃の重みと死の迫る最中、最後の発砲音が鳴り響く。トーマスは自らの死を感じないように目を力いっぱい閉じた。

 

 そして――トーマス機のコックピット周辺に直撃。それまでホワイトグリントの攻撃に耐えていたトーマス機は崩れ、抵抗虚しく倒れる。

 

 しかしそれが最期の姿ではない。最後は最期とはならず、死はトーマスから離れていく。

 

≪ホワイトグリント、撤退します!≫

≪目立った損傷もなく撤退だと……弾切れで撤退したとでも言うか! 追撃だ、急げ!≫

≪司令官≫

≪後にしろ!≫

≪あなたの行いは司令官として相応しくありません。企業の人間としてあなたを称賛すべき点はありますが、たった一機のネクストに対抗出来ない今回の失態はとても頂けない。よって、私が新しい司令官となり、マザーウィルの指揮権を受け継ぐ。今回の戦果は企業に報告します。私が司令官になる件はすぐに承諾を得られるでしょう≫

≪貴様!!≫

 

 通信がトーマス機のコックピット内に響いた。

 トーマスは通信に耳を傾ける暇もなく、力いっぱい閉じていた目をゆっくりと開けた。

 目に見えるものをこの世かあの世か把握出来ない。既に地獄は去ったというのに、トーマスの中にはまだ地獄が残っていた。

 通信を埋め尽くした悲鳴、爆発音の度に消費される命、視界に浮かぶ鉄塊と肉塊、身体を走る死の感覚。

 

「父さん……くぅ!」

 

 涙と鼻水で汚れる顔を前に向け、握り拳が震えるほどに力を入れる。

 悔やんでも、怖がっても、トーマスは地獄を生き残った。それが今ある事実だ。

 




次の地獄は首輪付き
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